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3st脱出

3st脱出ーその5-

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 目を覚ましたアリアは今日もまたこの地獄で目が覚めてしまった事実に落胆する。
 必死に抵抗したが、昨日もレインの良い様にされてしまった事にギリギリと奥歯を鳴らした。
 昨日も試したみたけれどもやはり精霊術は使えなかった。
 ならばと腕力で抵抗したがそれもいとも容易く押さえつけられた。
 次こそは勝つ、とアリアは闘争心を燃やす。
 例え、レインに力で敵わなくとも抵抗する姿勢は大事だ。
 抵抗したら抵抗したでそれに興奮を覚えているような気がしないでもないが、抵抗しなければアリアの事を都合の良い様に考えるレインの事だ、同意したとみなされてしまう。
 合意したと勘違いされたら、と想像しただけで虫唾が走る。
 結局はアリアが必死に反抗しようがしまいがレインの思う通りにされてしまうのに腹が立つ。
 臓腑が焼けるような感覚を抱く程の激しい怒りのままに自分の内にいる魂に声をかける。

 『レインは貴女が自分の思うままの反応をして笑っていたわ!』『人を、貴女を傷付けておきながら何の感情も抱いていない!』『貴女を助ける事も、あんなのに抵抗も反撃も出来ない自分に腹がたつわ!!』『悔しい!』『貴女はあいつに目に物を見せてやりたくはないの?』『私はやりたいわ!』『その為にも貴女の協力が必要なの』『このまま消えて、あいつの思う通りになっても何も思わないの?』


 アリアの怒りの叫びが縮こまっている魂を打つ。


 『ああ!悔しい!』『腹が立つ!』『人の命を何だと思っているのよ!』『命はあいつのおもちゃじゃない』『誰もが持つ、尊ぶべき素晴らしものなのよ』『それを己の欲望のままに弄んで』『大切なものを奪って、傷付けて』『あいつも同じ目に合わせてやりたいわ!』『貴女はそうは思わないの?』


 今にも散り散りになりそうだった魂がアリアの怒りに呼応するかのように少しずつ形を整えていく。


 『何故?何故たった一人の人間の欲望のためにいくつもの命を犠牲にされなければならないの?』『それを止めなかった周囲の者達にも腹が立つ!』『何故こんな目に合わなければならないの?』『私は、私はただ、愛する人と共に生きたかっただけなのに!!』『幸せな未来で生きていたかったのに!!』『私の宝物を返して!!』


 怒り、悔しさ、悲しみ、やるせなさ、あらゆる感情を抱え、慟哭する。


 【わたしも】
 『!?』
 【わたしも悔しい】

 初日よりも薄れ、朧気だった魂は弱々しくも確かに光を放ち、声を上げる。

 【ただ、生きていただけなのに】【なんの罪も犯していないのに】【いきなり自由を、尊厳を!】【意思を、土足で踏みにじられた!!】【わたしが奪われたものを全てあいつから奪ってやりたい!】【このわたしが受けた痛みの全て!!!】【あいつに必ず清算させてやりたい!!!!】
 『ええ、ええ!』『そうよ!』『犯した罪は必ず清算させる!』『その意気よ!!』
 【悔しい、悔しい悔しい悔しい!!】【あいつに目に物を見せてやりたい!】【この酬いを受けさせてやりたい!】【でもわたしにはもうそんな時間が無いのが本当に、本当に悔しい!!】
 『いいえ、まだ間に合うわ』


 慟哭する魂がアリアの両手の平へと移動する。


 【慰めは結構よ】【他ならぬ自分の事だもの良く分かる】【もうわたしが貴女をこの身体から追い出そうとしても】【力を込めたらその瞬間にわたしは霧散してしまう】
 『そんな……』
 【わたしはもう、戻る事はできない】【けど】【最後まであの男の思い通りになってそのまま消えてしまうなんて悔しい……!!】【悔しくて仕方がないっ……!!!】


 心底悔しそうに、声を震わせる魂に、彼女の苦しみが、重いが痛い程にアリアに伝わってくる。


 【だからお願い!】【わたしの命を、体を、名誉も何もかも全て貴女にあげる!】【だからわたしの代わりにあいつを】【あいつに最大の罰を!!】【苦しみを!!】【死んだ方がマシだと思えるものを与えて欲しい!!!!】

 魂の底からあの男が憎いと最後の力を引き絞る様に叫ぶ魂にアリアは強く頷く。


 『ええ、必ずあの男に自分が今まで散らしてきた命に値する後悔をさせてやるわ!』


 両手の平の上で弱弱しく輝く魂に誓う。
 アリアの力強い返答に魂は安心したかの様に急速に光を失っていく。


 【ありがとう】【じゃあ、頼んだわよ】【わたしにできる事はもうないけど】【一つだけできる事がある】【だから】【貴女に最後に贈り物をあげるわ】【頑張って】【あなたの幸福を祈っている】


 魂がアリアの胸元へと飛び込み、アリアが声を上げるよりも早く溶け込んだ。
 彼女の魂が完全に消えた事を感じたアリアは瞼を開く。
 ベッドから起き上がると、昨日まで感じていた体の倦怠感が驚くほど軽減されていた。
 ツッチーの言っていた通り、少しだけだるさを感じるが行動を制限する程のものではない。
 それに付随して、昨日までは使おうとしても身体の中でグルグルと回るだけだった魔力の正常な流れとその操作のやり方が唐突に分かる様になった。
 これが彼女の言っていた贈り物なのだと理解したアリアは、ただ静かに彼女の魂へと黙祷を捧げる。
 最後の瞬間でも他者の幸せを祈れるような心優しい彼女が、どうか安らかに眠れるように。
そして、次の生では幸せになれるようにと。

 (貴女のくれたこの贈り物で必ず復讐を遂げてみせるわ)

 固く、固くそう誓った。
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