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2st監禁
2st監禁ーその2-
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『落ち着いたかしら?』
「……すみませんでした」
微笑んだアリアにレインは頬を染める。
いくら安心したからとは言え、アリアの前で泣いたのに羞恥心が込み上げてくるが、アリアは恥ずかしがるレインの顔を上げさせ、泣いた事により腫れ上がったその目元を心配そうに透ける指で撫でる仕草をした。
『あんなに泣いては貴方の綺麗な紫色の瞳が溶けてしまうわよ』
決して触れる事はできないのにくすぐったさを覚えたレインは思わず笑顔になる。
「ふふ、可笑しな事を言いますね。泣いても目は溶けないですよ」
『そうそう、笑って頂戴』
微笑むアリアにふと今は無き母親の姿が重なった。
「……母上が生きていた頃、アリアと同じように僕の瞳を綺麗だとよく褒めて下さったんです。この瞳の色は王族にしか現れない色なんだって、母上の一番好きな色なんだって」
『そうなの。それは良かったわね』
「アリアの一番好きな色は何ですか?」
『私は榛色が好きよ』
「榛色、ですか?」
『そう、ヴァンの目の色なの。初めて会った時にその色に目を奪われたわ』
そう言ってヴァンを思い浮かべたのか幸せそうに微笑むアリアにレインの心にどろりと妬ましい気持ちが湧いた。
羨ましい、僕も貴女の目を奪う色になりたい。
あいつの目を奪ってしまえば彼女は僕を見てくれるのだろうか。
そんな物騒な事を考えているとアリアが訝し気に殿下を見る。
『どうかした?』
「え、いえ、なんでもないです」
少し前まで自分が考えていた恐ろしい行動に愕然とし、首を振る事でその考えを振り払った。
そんなレインをいざ知らず、レインも落ち着いた事だしとアリアは当初の目的であった話をする事にした。
『レイン、貴方精霊と契約してみない?』
「!! アリア!ついに僕と契約してくれるんですか!?」
『ふふ、お馬鹿さんねぇ。私ではなく他の精霊と契約してみないかって事よ』
「……アリア以外の精霊と契約するつもりはありません」
『……あのね、レイン。前にも伝えたけれども霊眼を持つ人は何人もの精霊と』『契約はできるけれど契約者がいる精霊とは契約はできないのよ』『それに貴方の周りもそろそろ少し落ち着く頃だから今が良い機会なの』『これから霊眼持ちである貴方は今までよりも身の危険が増える可能性が高いの』『私もいつまでも貴方の傍に居られるとは限らないのだから今の内に貴方の』『身の安全を確保したいの。だから分かって頂戴』
頬を膨らませ、不貞腐れるレインの頭を撫でるアリアの困った様な表情を見てレインはしばらく思慮し、やがてこくりと頷いた。
「わかりました。精霊と契約します」
『良かった! じゃあその為にも早速、精霊について勉強しましょう』
ぱあっと輝かんばかりの笑顔を浮かべるアリアを複雑そうな面持ちで見つめるレインに一切気付かず、アリアは善は急げとばかりにいそいそと紙とペンを出し勉強の支度を始める。
その様子にレインは首を傾げた。
「今日もアリアが講師をしてくれるのですか?」
『いいえ、講師はこれから来るわ。そろそろ来る頃合いだとおもうのだけれど……』
二人の話を聞いていたかの様に侍女により来客を告げる声が外からかけられた。
「初めましてレイン様、儂はアバ。宮廷精霊術師の一人お勤めておりまする」
「アバ様って国に五人しかいない宮廷精霊術師の中でも最高峰と言われているあのアバ様ですか?」
「そのアバじゃ。最高峰とは照れるのう」
「本当にアバ様なのですか? 御年八十を超えていらっしゃると聞いていたのですが……」
頬に手を当て照れた様に微笑むのはアバと名乗る妙齢の女性だ。
とてもではないが八十代には見えない。
『アバは時空の精霊と契約しているから老化が遅いのよ』
「時空の精霊ですか? 初めて聞きました」
「滅多に人の前に姿を現す精霊ではないからのう、知らぬのも仕方がない。 ノーア、姿をお見せしてあげなさい」
空間が歪むとそこから豊かな黒髪を持った美丈夫が現れる。
アリアと同じく薄い布を何枚も重ねた様な服を身に纏った彼は片手を胸に当て、レインへと礼をとった。
〔こんにちはノーア、久しぶりね〕
〔やあ、アリア。息災そうで何より、最近の君とヴァン君の活躍は耳にしているよ〕
〔ふふん、私の契約者だもの。ヴァンは凄いのよ!〕
親し気に話す精霊二人だが、レインには声が聞こえない為ただ口を開閉しているだけにしか見えない。
暫く二人を交互に見た後、頬を膨らませるレインにアバは笑い声をあげる。
「ほっほっほ、殿下は本当にアリアさんを慕っておるのですねぇ。大好きな人に自分よりも親しい人がいたら妬いてしまうのは分かりますよ」
「アバ様も嫉妬することがあるのですか?」
「ええ、こんなナリですが儂も人ですから殿下と同じ様に怒りもすれば泣きも致しますわい。もちろん、嫉妬もね」
悪戯な笑みを浮かべながらそう話すアバにレインも警戒を緩める。
「では緊張も解れた様じゃし、席に着くとしようかのう」
「はい」
机の上にノーアがどこからか取り出した数冊の本を置くのを見てレインは目を丸くした。
「ノーア様は物に触れる事ができるのですか!?」
アリアが風を操りノーアの言葉を空中に代筆する。
『? 何を驚いているんだい?』
「だってアリアは物体をすり抜けるから風で物を浮かして運ぶんですよ。同じ精霊なのにどうしてノーア様は触れる事ができるのですか?」
『ああ、そう言う事か』『俺は時空の精霊だから物の時間に自在に干渉できるんだ』『だからアバに手渡して貰えれば』『物体の時間に干渉して落下させないで運ぶ事ができる』『ただし、あくまでも運ぶだけでアリアみたいな』『自由度はない。だから彼女にこうやって言葉を』『代筆して貰っているんだよ』
「この文字はノーア様が出していたのではないのですね。
落下に干渉、それなら上下にしか移動できないのでは?
それに何もない所から物を取り出すのはその理屈では説明できないです。
時空と言うと空間にも干渉できるのですか?」
〔おっとそこに気が付くのか〕
感心した様にそうにノーアは呟いた。
『勿論、時空の精霊なのだから空間にも干渉できる』『移動に関しても普通は上下にしかできないが』『少し工夫を加えれば横移動もできるようになる』
「工夫? どうするのですか?」
「それをお教えするのが儂の存在じゃよ。本日から儂がレイン殿下に精霊術についてお教え致しますのでな、どうぞ良しなに」
「はい! よろしくお願い致します!」
元気よくレインが挨拶する様子を後ろで嬉しそうに見守るアリア。
レインがアバの講義に集中しているのを見たノーアがアリアの声をかける。
〔なあ、アリア。殿下はお前にとってどんな存在だ?〕
〔あら、いきなり何かしら?〕
〔どうなんだ?〕
〔そうねぇ、レインは私にとっては慈しみ、守るべき存在ね。あの子の母親にも頼まれたし、勿論頼まれていなくてもそのつもりだったわよ〕
〔じゃあ聞くが、ヴァンとレインこの二人の内でどちらが一番大切だ?〕
〔随分と意地の悪い事を聞くのね〕
〔いいから、どっちだ?〕
〔……ヴァンよ。確かにレインは大切な存在ではあるけれどもヴァンと比べ物にならないわ〕
〔そうか、なら俺から一つ忠告だ〕
ノーアは真剣な表情でアリアの目をひたりと見据える。
〔優劣を間違えるな。他の何を置いてでも大切で特別な存在から決して目を離してはならない〕
〔それは一体?〕
〔俺から言える事はここまでだ、後は自分で考えるんだな〕
それっきり口を噤んでしまったノーアに不穏な物を感じるが本人がこれ以上は語らないと言うのであれば聞き出すのは難しいと知っているアリアは首を傾げた。
時空の精霊であるノーアが忠告を告げるのはほとんどない。
それは彼の忠告が未来を変える事に繋がる事があるからだ。
時の流れを尊ぶ時の精霊は確定した未来や過去を変えるのを何よりも嫌がる。
そんな彼が態々忠告だと宣言してアリアに言葉を贈った。
それが一体どういうことなのか。
至る未来への一抹の不安はアリアの胸中にこびりつく事となる。
「……すみませんでした」
微笑んだアリアにレインは頬を染める。
いくら安心したからとは言え、アリアの前で泣いたのに羞恥心が込み上げてくるが、アリアは恥ずかしがるレインの顔を上げさせ、泣いた事により腫れ上がったその目元を心配そうに透ける指で撫でる仕草をした。
『あんなに泣いては貴方の綺麗な紫色の瞳が溶けてしまうわよ』
決して触れる事はできないのにくすぐったさを覚えたレインは思わず笑顔になる。
「ふふ、可笑しな事を言いますね。泣いても目は溶けないですよ」
『そうそう、笑って頂戴』
微笑むアリアにふと今は無き母親の姿が重なった。
「……母上が生きていた頃、アリアと同じように僕の瞳を綺麗だとよく褒めて下さったんです。この瞳の色は王族にしか現れない色なんだって、母上の一番好きな色なんだって」
『そうなの。それは良かったわね』
「アリアの一番好きな色は何ですか?」
『私は榛色が好きよ』
「榛色、ですか?」
『そう、ヴァンの目の色なの。初めて会った時にその色に目を奪われたわ』
そう言ってヴァンを思い浮かべたのか幸せそうに微笑むアリアにレインの心にどろりと妬ましい気持ちが湧いた。
羨ましい、僕も貴女の目を奪う色になりたい。
あいつの目を奪ってしまえば彼女は僕を見てくれるのだろうか。
そんな物騒な事を考えているとアリアが訝し気に殿下を見る。
『どうかした?』
「え、いえ、なんでもないです」
少し前まで自分が考えていた恐ろしい行動に愕然とし、首を振る事でその考えを振り払った。
そんなレインをいざ知らず、レインも落ち着いた事だしとアリアは当初の目的であった話をする事にした。
『レイン、貴方精霊と契約してみない?』
「!! アリア!ついに僕と契約してくれるんですか!?」
『ふふ、お馬鹿さんねぇ。私ではなく他の精霊と契約してみないかって事よ』
「……アリア以外の精霊と契約するつもりはありません」
『……あのね、レイン。前にも伝えたけれども霊眼を持つ人は何人もの精霊と』『契約はできるけれど契約者がいる精霊とは契約はできないのよ』『それに貴方の周りもそろそろ少し落ち着く頃だから今が良い機会なの』『これから霊眼持ちである貴方は今までよりも身の危険が増える可能性が高いの』『私もいつまでも貴方の傍に居られるとは限らないのだから今の内に貴方の』『身の安全を確保したいの。だから分かって頂戴』
頬を膨らませ、不貞腐れるレインの頭を撫でるアリアの困った様な表情を見てレインはしばらく思慮し、やがてこくりと頷いた。
「わかりました。精霊と契約します」
『良かった! じゃあその為にも早速、精霊について勉強しましょう』
ぱあっと輝かんばかりの笑顔を浮かべるアリアを複雑そうな面持ちで見つめるレインに一切気付かず、アリアは善は急げとばかりにいそいそと紙とペンを出し勉強の支度を始める。
その様子にレインは首を傾げた。
「今日もアリアが講師をしてくれるのですか?」
『いいえ、講師はこれから来るわ。そろそろ来る頃合いだとおもうのだけれど……』
二人の話を聞いていたかの様に侍女により来客を告げる声が外からかけられた。
「初めましてレイン様、儂はアバ。宮廷精霊術師の一人お勤めておりまする」
「アバ様って国に五人しかいない宮廷精霊術師の中でも最高峰と言われているあのアバ様ですか?」
「そのアバじゃ。最高峰とは照れるのう」
「本当にアバ様なのですか? 御年八十を超えていらっしゃると聞いていたのですが……」
頬に手を当て照れた様に微笑むのはアバと名乗る妙齢の女性だ。
とてもではないが八十代には見えない。
『アバは時空の精霊と契約しているから老化が遅いのよ』
「時空の精霊ですか? 初めて聞きました」
「滅多に人の前に姿を現す精霊ではないからのう、知らぬのも仕方がない。 ノーア、姿をお見せしてあげなさい」
空間が歪むとそこから豊かな黒髪を持った美丈夫が現れる。
アリアと同じく薄い布を何枚も重ねた様な服を身に纏った彼は片手を胸に当て、レインへと礼をとった。
〔こんにちはノーア、久しぶりね〕
〔やあ、アリア。息災そうで何より、最近の君とヴァン君の活躍は耳にしているよ〕
〔ふふん、私の契約者だもの。ヴァンは凄いのよ!〕
親し気に話す精霊二人だが、レインには声が聞こえない為ただ口を開閉しているだけにしか見えない。
暫く二人を交互に見た後、頬を膨らませるレインにアバは笑い声をあげる。
「ほっほっほ、殿下は本当にアリアさんを慕っておるのですねぇ。大好きな人に自分よりも親しい人がいたら妬いてしまうのは分かりますよ」
「アバ様も嫉妬することがあるのですか?」
「ええ、こんなナリですが儂も人ですから殿下と同じ様に怒りもすれば泣きも致しますわい。もちろん、嫉妬もね」
悪戯な笑みを浮かべながらそう話すアバにレインも警戒を緩める。
「では緊張も解れた様じゃし、席に着くとしようかのう」
「はい」
机の上にノーアがどこからか取り出した数冊の本を置くのを見てレインは目を丸くした。
「ノーア様は物に触れる事ができるのですか!?」
アリアが風を操りノーアの言葉を空中に代筆する。
『? 何を驚いているんだい?』
「だってアリアは物体をすり抜けるから風で物を浮かして運ぶんですよ。同じ精霊なのにどうしてノーア様は触れる事ができるのですか?」
『ああ、そう言う事か』『俺は時空の精霊だから物の時間に自在に干渉できるんだ』『だからアバに手渡して貰えれば』『物体の時間に干渉して落下させないで運ぶ事ができる』『ただし、あくまでも運ぶだけでアリアみたいな』『自由度はない。だから彼女にこうやって言葉を』『代筆して貰っているんだよ』
「この文字はノーア様が出していたのではないのですね。
落下に干渉、それなら上下にしか移動できないのでは?
それに何もない所から物を取り出すのはその理屈では説明できないです。
時空と言うと空間にも干渉できるのですか?」
〔おっとそこに気が付くのか〕
感心した様にそうにノーアは呟いた。
『勿論、時空の精霊なのだから空間にも干渉できる』『移動に関しても普通は上下にしかできないが』『少し工夫を加えれば横移動もできるようになる』
「工夫? どうするのですか?」
「それをお教えするのが儂の存在じゃよ。本日から儂がレイン殿下に精霊術についてお教え致しますのでな、どうぞ良しなに」
「はい! よろしくお願い致します!」
元気よくレインが挨拶する様子を後ろで嬉しそうに見守るアリア。
レインがアバの講義に集中しているのを見たノーアがアリアの声をかける。
〔なあ、アリア。殿下はお前にとってどんな存在だ?〕
〔あら、いきなり何かしら?〕
〔どうなんだ?〕
〔そうねぇ、レインは私にとっては慈しみ、守るべき存在ね。あの子の母親にも頼まれたし、勿論頼まれていなくてもそのつもりだったわよ〕
〔じゃあ聞くが、ヴァンとレインこの二人の内でどちらが一番大切だ?〕
〔随分と意地の悪い事を聞くのね〕
〔いいから、どっちだ?〕
〔……ヴァンよ。確かにレインは大切な存在ではあるけれどもヴァンと比べ物にならないわ〕
〔そうか、なら俺から一つ忠告だ〕
ノーアは真剣な表情でアリアの目をひたりと見据える。
〔優劣を間違えるな。他の何を置いてでも大切で特別な存在から決して目を離してはならない〕
〔それは一体?〕
〔俺から言える事はここまでだ、後は自分で考えるんだな〕
それっきり口を噤んでしまったノーアに不穏な物を感じるが本人がこれ以上は語らないと言うのであれば聞き出すのは難しいと知っているアリアは首を傾げた。
時空の精霊であるノーアが忠告を告げるのはほとんどない。
それは彼の忠告が未来を変える事に繋がる事があるからだ。
時の流れを尊ぶ時の精霊は確定した未来や過去を変えるのを何よりも嫌がる。
そんな彼が態々忠告だと宣言してアリアに言葉を贈った。
それが一体どういうことなのか。
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