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第8話

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転移した先は、懐かしい家から近い時空の狭間の森の中だ。転移の際に酔ってしまい、私は草むらに蹲り吐いていた。私は昔から乗り物や転移魔術で酔いやすいのだ...。まあ、何日もまともに食べていないから出てくるものも無いんだけど。


「.....うっ...気持ち悪い......。」


「転移の際にあれだけギャーギャー騒げば、気持ち悪くもなるわ。回復魔術をかけたとはいえ、よくあんなに騒げる体力が残っていたものよ....。」



魔神様は呆れたような顔をして私の横で私の背中をさすってくれている。私の背中をさすりつつ、回復魔術をかけてくれているのか、少し気持ち悪さがましになってきた。



「......申し訳ありません。もう大丈夫です...うっ。」


「うーん、少し良くなってきたようじゃな。....少し不安じゃが、早くお主の家に行って休もう。もう日が暮れるからの。」



魔神様は私の背を擦る手を止めて、すっと立ち上がる。私が立ち上がろうとすると、魔神様が私の手を引いて立ち上がらせてくれた。


その後、私達は魔神様の後ろについてヨロヨロ歩く私のペースに合わせてゆっくり森を進んでいたが、時間が経つにつれ気持ち悪さが徐々に治まってきたこともあり、少し歩くペースを上げた。ただ、歩くペースを上げてもあまり疲れない。魔神様に回復魔術をかけて貰い少し体力は回復しているとは言え、拷問を長期間受けていたので完全回復には程遠いのだが、魔神様が傍にいると魔物だけでなく、草木・石の方から避けていくのでかなりスムーズに歩ける。


私もこのあたりは小さい頃から良く知っているが、森の地面は木の根や石でデコボコし、背の高い雑草が生い茂っているので大変歩きにくい。その上、魔物もいるからこの森を歩くときは常に気を配っていないといけない。


始め草木・石、魔物の方から私達を避けていく光景を見た時はビックリしてしまったが、「妾が支配する空間なんだから当たり前じゃ。」と、呆れたように言われてしまった。



転移酔いの気持ち悪さが完全に無くなった私は、いつの間にか周りの景色が良く知るものとなっていることに気が付いた。ちょうど今歩いている場所は.....



「.....マリア?いきなり立ち止まってどうした?」



私が急に立ち止まったことに気付いた魔神様が、私を振り返り心配そうに私を見ていた。



「このあたりでアイツに出会ったんです......。」



私は今歩いている辺りで伯父にあったことを思い出したと同時に天族達にされたことがいきなりフラッシュバックしてきて恐怖や不安のあまり身体が震えてきた。



「安心しろ、天族の奴らはもうおらぬ。もう冬が過ぎて妾の力が戻った時点で、妾の信者でない奴らは結界の外に追い出されておる。とりあえず、今は大丈夫じゃ。」




魔神様は微笑むと私の手を優しくそっと包むように握ってくれた。魔神様の手はとても暖かく、緊張で冷たくなっていた私の手も魔神様の手の温かさが浸透していくかのように、だんだん温まっていく。それと同時に私の不安や恐怖も少しずつ和らいでいき、また歩けるようになった。

「すみません、お手数をお掛けしてしまって。」



「構わんよ。さあ、あと少しじゃ。」



その後も何だかんだ魔神様は私の手を放さなかったので、そのままの状態で森の中を歩いていると、すぐ広い広場の様な場所にたどり着いた。遠目に私の家も見える。


「ほら!お主の家に着いたぞ....ん?」



魔神様は私の家を見るなり、駆け足で家の方に走っていった。


私が慌てて魔神様の後を追うと、魔神様は私の家の扉を開け立ち止まり、怒りで顔が真っ赤になり身体も震えていた。


「.......許さぬ.....決して許さぬぞ.....!!」



「魔神様?どうされたのですか?....え?な、なんですかこれは.....」



私は目の前に広がる家の中の光景に頭が真っ白になった。



――家の中には血だまりがあちこちで出来ており、ハーフの人を始めとした多くの人々の惨殺された死体が投げ込まれていた。
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