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第7話

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 とうとう炎が消えた瞬間、紫色に輝いていた魔力も霧散し、祭壇の上には両親の遺灰だけが残った。両親は毒にも侵されていたのか、骨の形は全く残っていなかった。私は祭壇に駆け寄り、両親の遺灰を一か所にまとめる。



「魔神様....何か入れ物はありますか?両親をきちんとしたところで弔ってあげたいので、それまで遺灰を何か容器に入れたくて。」



「少し待て.......よし、これくらいがいいんじゃないか?」



 魔神様は着ていたワンピースのポケットから手のひらサイズくらいの小瓶を取り出し、渡してくれた。



「ありがとうございます。」



 私は魔神様にお礼を述べると、両親の遺灰を瓶に移した。魔神様も遺灰を瓶に入れる作業を手伝ってくれたおかげで時間はそんなにかからなかった。



 作業が終わった後、私は両親の遺灰がつまった瓶を服のポケットに入れようとしたが、魔神様がなくしてはいけない大切なものだからと異次元空間に入れて預かってくれた。



 魔神様曰く、異次元収納は小さいものであれば、あまり魔力を消費しなくても使用出来るらしいが、大きい物になればなるほど、また異次元に物を詰めれば詰めるほど、異次元空間の維持が大変であり、その上、私が住んでいた時空の狭間の維持で魔力の半分以上使用しているので、あまり収納用の異次元空間に魔力を使いたくないらしい。



「よし、これで良いな。」



「預かって頂きありがとうございます。ところで……今から何処へ向かうのですか?」



「まずは時空の狭間のあの家へ向かおうと思う。リンクスとラミア…お主の両親を弔ってやりたいからな。それにはあそこが一番良いじゃろ。」



「魔神様……ありがとうございます。」



 私は魔神様の心遣いに涙を流しながら御礼を言った。家族の思い出が詰まったあの場所程、両親を弔うのに適した場所はないだろう。



「こらこら、泣くでない。妾とて、お主の両親やお主がいたからこそあの空間の管理が楽に行えていたのだ。」



「どういう事ですか…?」



私や両親は魔神様に対して何かをした覚えはない。私に至ってはあの場所に魔神様が眠っていること自体、夢物語のような話だと思っていたのだ。



「お主とお主の両親は毎日私に祈ってくれていただろう?私のような神にとって信仰心というものは力になるんじゃよ。祈りが真剣で質が良い祈り程、妾の力になるでな。お主ら家族の祈りはとりわけ質が良かった。礼を言う。」



 そう言いながら魔神様はにっこりと微笑む。私みたいな子供でも毎日祈りを捧げていた魔神様の力になっていたかと思うと、ちょっと嬉しかった。



「……さて、だいぶ時間が経ってしまったな。そろそろ行こうではないか。向こうでお主に話したい事もあるでな。」



 魔神様はそう言うと、いきなり私の右手を自身の左手でギュッと握った。その瞬間、足元に真っ暗の沼のような物が現れ、足から順に沈んでいく。



「……えっ!?ま、魔神様!?足元から真っ暗な所に沈んでいくんですけど!?きゃーーー!!!何かヌメヌメする!!気持ち悪い!!!!」


 私は咄嗟に魔神様の腕にギュッとしがみつき、魔神様に助けを求める。きっとはたから見たら私が必死になって幼女にしがみついているように見えだろう。



「これ、落ち着けマリア!あの場所に移動するだけじゃ。転移魔法陣や魔術を使うと魔力の痕跡が残ってしまうから追跡されかねんが、魔力とは違う、妾自身の力を使うこの方法なら魔力を使わずいけるのじゃ。」



「うわぁーーーー!!!!!た、助けて魔神様ーーー!!!」



 魔神様は何か言っていたが、私はそれどころではなかった。



「……駄目じゃ、聞いとらんな。」



 魔神様は呆れた口調で何か呟くと、目を瞑り私をスルーし始めた。



「ま、魔神様!?無視しないで下さい!!私、ヌメヌメした物は無理なんですよーー!!」



「………はぁ。」



 そうして、騒がしい天族と悪魔族のハーフの娘と呆れた顔の魔神の二人は魔物の森をあとにしたのだった。
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