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勇者との2人旅

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 憂鬱なままその日の朝を迎えた。

 我が王国の北の果てに住む魔王が、王国の第二王女を誘拐したらしい。
 彼女を救出するために、各地で名のある勇者や武道家、魔術師などが選出され、勅令が発せられたのだった。

 教会にも優秀な魔術師を差し出すよう命令が下り、エレミアが選ばれたのだった。

 いや、選ばれたのは光栄なことだ。
 しかし、一緒に旅する相手が悪すぎる。

 神よ、やはりあの日、森で盛大に野外放尿をしたことをお怒りなのですね。
 あの木は御神木だったか。

 重い身体を無理に起こしながら、エレミアは旅のためのショルダーバッグを肩にかけた。



********


 村の人々はアイザックとエレミアを盛大に見送ってくれた。
 その優しさに、自分は旅など行きたくないのだとは、とても言えなかった。




 街を出て、森の小道を2人黙って歩いていた。
 
「・・・あの日は、ごめん」

 沈黙に耐えきれず、アイザックが口を開いた。

「いきなり・・・するとか、どうかしてた」

 エレミアは、許すべきか、どうするか悩んでいた。

「俺といるのが嫌だったら、ここから俺1人でいく。だからエレミア神父は、好きなところに行っていい」

 アイザックは突然立ち止まって行った。その真っ直ぐな目に、エレミアは嫌悪感を抱いた。

「勅令を無視して、好きなところに行けるとでも?あなたは私を国家反逆罪にしたいのですか?」

 これまでで一番冷たい声を出す。
 あなたは優しさのつもりかもしれないが、全く考えが足りていない。
 いつもそう、あなたは自分勝手だった。
 さすがにここまで口に出すのはやめにした。

「・・・回復魔法師としての仕事はちゃんとこなしますから、安心してください。ただ、ビジネスライクにいきましょう。恋人にはなれません」

 返事も待たずに、エレミアは先を急いだ。
 1人で歩きながら、不意に泣きたくなってくる。

 教会から優秀な魔術師として選出されたのは、表向きは名誉なことだ。
 しかし、実際は体のいい厄介払いだ。
 教会内の人間関係も上手く行かず、田舎村の関連施設に飛ばされて、その村からも今、追い出された。
 唯一、好意を向けてくれた人も、今、自分から縁を切ってしまった。

 寂しくて、どうしようもない。
 魔王との戦いでは、自分には回復魔法を使わずにいようか。


 涙が溢れ、エレミアは道の真ん中でしゃがみ込んだ。

 アイザックはすぐ後ろから、追いつき、彼が泣いているのに気付いた。
 何と声をかけたら良いのだろう。彼に嫌われている自分が。


「あ!あれさー、初めて会ったとき、お前が小便した木じゃないか?!」

 アイザックが近くの木を指差す。
 幹のあたりから、その下の地面まで草花が生い茂る1本の大樹があった。

 エレミアは、黙ってその木を見る。そのような気もするし、そうでもないような気もする。

「やっぱ聖水の力で植物も元気になるのかな。あー、なんか俺も小便したくなってきた!上書きしてプラマイゼロにしてやろうぜ!」

 アイザックは指差した木に近付き、ズボンと下着を下ろして放尿を始めた。
 ピチャピチャと軽快な水音が響く。
 アイザックは鼻歌を歌い始めた。

 水音に釣られて、エレミアも尿意を感じてきた。街を出てから4時間弱、まだ一度も用を足していなかった。

 エレミアは、アイザックの隣に並び、自らもズボンと下着を下ろした。

 綺麗な放物線を描いて、木の幹を濡らしていく。

「お、クロス小便する?」

 エレミアのを覗き込みながら、アイザックは笑う。

「なんですかそれ。しませんよ。・・・と言うか見ないでください」

 エレミアは、フイと視線を逸らす。

「え~、隣に来たくせに」

 出し終わり、先端の雫を振り落としたアイザックは、先にズボンを上げた。
 
 徐々に放物線が弱くなるのを見ながら、エレミアは何かが吹っ切れたような気がした。
 神に見られていたとしても、どうでも良いと思えた。














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