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回復アイテム<聖水>

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「神父様、またねー!」

 街の子ども達がエレミアに手を振る。
 エレミアは優しく微笑んで、ひらひらと手を振り返した。

 街にある託児所での仕事を終え、事務室でホッとひと息をつく。
 来る前に色々とあり、内心穏やかな気分ではなかったが、街の人には気づかれなかったようだ。

 道中で会った彼は、この街の住民だろうか。
 ふと昼間の醜態を思い出し、顔が熱くなる。同時に軽い尿意も感じ、エレミアは託児所の隣にある宿に向かった。

 宿の自室に入り、しっかりと鍵をかける。
 ベッドの下には、琺瑯製のおまるが置いてあるが、エレミアはそれには触れず、棚から空の魔法ポーション瓶を取り出した。
 
 祭服キャソックの前を開け、ズボンと下着を膝まで下ろし、肩幅ほどに足を開く。
 シルバーの蓋をあけて瓶の口を亀頭に当てがった。瓶は冷たく、ゾクリと背筋が震える。

 ふう、と息を吐くと、エレミアは瓶の中に排尿を始めた。
 瓶の側面に当たり高い音を立てていたのが、やがてジョボジョボと鈍い水音に変わっていく。

 瓶の8分目まで注ぎ込んだ後、蓋をしめた。瓶を持ち上げ透かして見ると、薄い黄金色の液体がチャプチャプと揺れる。
 その中心が、ぼんやりと蛍光色に光り、星が散らばったようにキラキラと輝いた。
 今回も<聖水>の生成に問題は無さそうだ。


 
「エレミア神父、いらっしゃいますか!」

 不意に自室のドアをノックされ、ビクッとする。宿屋の主人の声だった。
 鍵がかかっており、誰も入れないもののエレミアは慌てて下着とズボンを履いた。

「は、はい!どうかなさいましたか」

 祭服キャソックのボタンを留めながら、エレミアは答える。

「怪我人が!はやく診てやって欲しいのです」
 その切迫した声に、只事では無いと感じながら、エレミアは出来たばかりの<聖水>を手に、急いで部屋を後にした。




*******


 宿屋の主人とエレミアが外に出ると、辺りはすっかり夜になっていた。
 ランプを持ちながら大通りには大勢の人集りが出来ている。

「はい、通して!回復魔法が使える神父様をお連れしたから!どいてどいて!」

 人を掻き分けて抜けると、その中央では、血まみれの男が担架の上で横たわっていた。

「これは・・・」

 酷い怪我だ。男の横にしゃがみ込みながら、エレミアは呟いた。
 男は頭から血を流し、ぐったりとしていて意識が無い。口元に耳を近づけると、微かに息はあるようだった。

 倒れた男を囲みながら、人々は心配そうにざわめいていた。どこからか女たちの啜り泣く声も聞こえる。この男は、この村で人気のある人物なんだろう。

 エレミアは袖を捲り、聖水の入った魔法ポーション瓶の蓋を開けた。
 一番大きな傷口のある額に、少しずつ垂らしていく。
 傷口にかかった聖水は、蛍光色に発光し、やがて湯気のように煙となって消えていった。
 少しずつ、傷口が塞がり、元の綺麗な肌が見えてくる。

 周りから小さく感嘆の声が上がるなか、エレミアは治療する男の顔をよく覗き込んで動揺した。
 この男は、お昼の──・・・

「アイザック様!」
 
 人々の声にハッとすると、目の前の男が目を覚ますところだった。

「ん・・・ここは」

 目を覚ましたアイザックに、人々は一斉に駆け寄った。その勢いに、押し除けられ、エレミアは尻餅をついた。
 
 人々はアイザックの回復に歓喜し騒いでいた。そんな彼らの喜びを見て、エレミアも嬉しくなる。

「エレミア神父、本当にありがとうございました。・・・・・・立てますかな?」

 宿屋の主人がエレミアに手を差し伸べた。

「ええ。ありがとうございます」
 エレミアは立ち上がり、尻についた砂埃を払った。
「それにしても、彼は随分と人気者で」
 場の中心を眺めながら、エレミアは言う。

「そうか。最近この街に赴任されたあなたには話していませんでしたな。彼は、森で暴れていたモンスターを退治してくれた英雄なのですよ。おかげで森の薬草やきのみを取りに行けるようになった」

 主人は目を細めて言う。
 なるほど、街の英雄だったのか。あの人集りも納得だ。

「あなたは、その英雄の命の恩人だ」
 主人は微笑む。

「いえいえ。私は私の仕事をしたまでですよ」
 捲った袖を戻しながら、エレミアも微笑む。
「では、明日も早いので失礼します」

 会釈をして、エレミアは自分の部屋に戻っていった。


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