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二章 残酷な真実編
愛華と優斗。
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コーヒーの独特の香りが愛華の鼻を刺激する。
ふと、それがきっかけなのか分からないが目を覚ました愛華は自分が眠っていたベッドが、保健室の硬くて軋むベッドではなく包み込むような寝心地の良いキングサイズのベッドである事に気付いて驚き、急いで辺りを見渡すと愛華の家の一階部分がこの部屋に入ってしまうのではないかという広さに更に驚いてしまう。
(何ここ?私⋯死んだの!?)
白を基調とした部屋に漆黒のカーテンが悲しいぐらい殺伐としていて、他にはベッドとソファーがあるだけだ。愛華がベッドから降りたタイミングで部屋のドアが開く。
「目が覚めましたか?」
憎たらしい程に綺麗な男、宮ノ内優斗が愛華に笑顔を向けて歩いてくる。その手にはシンプルな黒のマグカップを持ち、先程のコーヒーの匂いが目の前で漂い始める。
「ああ、コーヒー好きですよね?」
「何で知ってるの⋯ていうか何で私はここにいるの!?学校は!?」
パニックになる愛華をソファーに上手く促しつつ、持っていたコーヒーを彼女に渡す宮ノ内。
「まずは飲んで落ち着いて下さい。愛華が急に倒れたので私の家に連れてきました。」
「説明になっていないから!⋯⋯何もしてないよね!?」
愛華は自分が制服を着たままなのを見て一応安堵する。
「無防備な愛華は危険ですね、危なかったですよ。」
「⋯危なかったって⋯こわっ!近寄らないでよ!シッ!シッ!」
嫌そうに拒絶する愛華の態度に少し落ち込むが、いつもの彼女に“戻った”事に先程までの緊張が解けていく。
「シッって酷いですね。落ち着いたら何か食べますか?」
「⋯家に帰りたい」
「桜崎さんにはちゃんと言ってきましたから、用事の後にここに迎えに来るそうです」
「爺ちゃん⋯この男の危険さをわかってないのね!?」
愛華の言葉に苦笑いしつつも、自分のすぐ横に彼女がいるという現実に嬉しさが溢れてくる宮ノ内。不満はあるが、開いている窓から入る心地良い風を感じながら愛華はコーヒーをただただ飲み続けた。
「食事は軽いものを一緒に食べましょう」
そう言って立ち上がると、愛華の持っていたマグカップをさり気なく持ってあげて彼女の腰に手を回して立たせるとそのまま部屋を出て行こうとする。それに驚いた愛華が宮ノ内の手から逃れようとするが凄い力でビクともしない。
無言の攻防が続いたが、最終的に愛華が諦めた。
「セクハラで訴えるから。私は爺ちゃんを雇います」
「それは怖いな。」
長い廊下を歩くが、絵画が数点だけ飾られているだけでやはり殺伐としている。
(生活感がない家だな⋯この人本当にここに住んでるのかな?)
「何か変かな?あまり家具とかに興味がなくてね。必要最低限の物しか置いていないんだよ」
「まぁ⋯無駄遣いするよりはいいと思うよ」
愛華がそう言っただけで宮ノ内が嬉しそうに微笑む。
(破壊級の笑顔だな)
一番奥のドアを開けた宮ノ内。そこは先程の部屋など比じゃないくらいの広さで、お洒落なダイニングキッチンが目を引く。だがやはり生活感がなく、テーブルとソファーに観葉植物、時計があるくらいでここまでくると愛華も乾いた笑いが出てしまう。
「優斗様」
キッチンに人がいるとは思っていなかったので飛び上がって驚いてしまう愛華。そこにいたのは40代位の地味な女性で、こちらに向けて深々とお辞儀をしている。
「食事の準備をしてくれ」
宮ノ内は女性を見る事なく指示だけして、愛華をソファーに案内する。
「かしこまりました。」
だが、女性は気にする事なく淡々と食事の準備を始める。
「誰?お母さん?」
「世話係の⋯」
そこまで言って黙ってしまう宮ノ内。愛華は呆れながらキッチンにいる女性を見るとばっちり目が合ってしまう。
「香美矢と申します」
聞こえていたのか愛華に向けて挨拶する女性、香美矢。
「あっ⋯高島愛華です!」
急いで立ち上がり頭を下げる愛華だが、香美矢は驚いた顔をして持っていた包丁を落としてしまう。
「すみません。⋯⋯食事の準備の続きをさせて頂きます」
宮ノ内に睨まれた香美矢は何事も無かったように準備を再開する。
「ねぇ⋯テレビも無いの?」
「ああ、観ないので無いですね」
愛華は唖然としつつ、ポケットに手を伸ばすが携帯が無い事に気付く。
「私のスマホは?」
「愛華が倒れた時に落として割れてしまったんですよ。今、香坂に新しいものを手配させているからお待ち下さい。」
「ええ⋯!?いいよ!自分で買うから!」
「私がプレゼントしたいんですよ」
「後で何か見返りを寄越せって言う気でしょ!?」
「⋯⋯そんな事言いませんから大丈夫ですよ」
「うそ!今、その手があったかみたいな顔をしたよね!?」
言い合う愛華と宮ノ内をみて驚きを隠せない香美矢。いつも冷淡で他人に微塵も関心がない男にあんな表情をさせる女子高校生。見た感じは確かに美しい容姿だが、この宮ノ内の周りにはそんな女性は五万といる。他の女性とこの子は何が違うのか?それに彼女から出ている雰囲気に懐かしさを感じる。
香美矢がそんな事を考えていると、家のインターホンが鳴った。
「誰だ?」
宮ノ内に問われた香美矢がこちらにやって来て言いづらそうにこう告げた。
「皐月様がいらっしゃいました」
ふと、それがきっかけなのか分からないが目を覚ました愛華は自分が眠っていたベッドが、保健室の硬くて軋むベッドではなく包み込むような寝心地の良いキングサイズのベッドである事に気付いて驚き、急いで辺りを見渡すと愛華の家の一階部分がこの部屋に入ってしまうのではないかという広さに更に驚いてしまう。
(何ここ?私⋯死んだの!?)
白を基調とした部屋に漆黒のカーテンが悲しいぐらい殺伐としていて、他にはベッドとソファーがあるだけだ。愛華がベッドから降りたタイミングで部屋のドアが開く。
「目が覚めましたか?」
憎たらしい程に綺麗な男、宮ノ内優斗が愛華に笑顔を向けて歩いてくる。その手にはシンプルな黒のマグカップを持ち、先程のコーヒーの匂いが目の前で漂い始める。
「ああ、コーヒー好きですよね?」
「何で知ってるの⋯ていうか何で私はここにいるの!?学校は!?」
パニックになる愛華をソファーに上手く促しつつ、持っていたコーヒーを彼女に渡す宮ノ内。
「まずは飲んで落ち着いて下さい。愛華が急に倒れたので私の家に連れてきました。」
「説明になっていないから!⋯⋯何もしてないよね!?」
愛華は自分が制服を着たままなのを見て一応安堵する。
「無防備な愛華は危険ですね、危なかったですよ。」
「⋯危なかったって⋯こわっ!近寄らないでよ!シッ!シッ!」
嫌そうに拒絶する愛華の態度に少し落ち込むが、いつもの彼女に“戻った”事に先程までの緊張が解けていく。
「シッって酷いですね。落ち着いたら何か食べますか?」
「⋯家に帰りたい」
「桜崎さんにはちゃんと言ってきましたから、用事の後にここに迎えに来るそうです」
「爺ちゃん⋯この男の危険さをわかってないのね!?」
愛華の言葉に苦笑いしつつも、自分のすぐ横に彼女がいるという現実に嬉しさが溢れてくる宮ノ内。不満はあるが、開いている窓から入る心地良い風を感じながら愛華はコーヒーをただただ飲み続けた。
「食事は軽いものを一緒に食べましょう」
そう言って立ち上がると、愛華の持っていたマグカップをさり気なく持ってあげて彼女の腰に手を回して立たせるとそのまま部屋を出て行こうとする。それに驚いた愛華が宮ノ内の手から逃れようとするが凄い力でビクともしない。
無言の攻防が続いたが、最終的に愛華が諦めた。
「セクハラで訴えるから。私は爺ちゃんを雇います」
「それは怖いな。」
長い廊下を歩くが、絵画が数点だけ飾られているだけでやはり殺伐としている。
(生活感がない家だな⋯この人本当にここに住んでるのかな?)
「何か変かな?あまり家具とかに興味がなくてね。必要最低限の物しか置いていないんだよ」
「まぁ⋯無駄遣いするよりはいいと思うよ」
愛華がそう言っただけで宮ノ内が嬉しそうに微笑む。
(破壊級の笑顔だな)
一番奥のドアを開けた宮ノ内。そこは先程の部屋など比じゃないくらいの広さで、お洒落なダイニングキッチンが目を引く。だがやはり生活感がなく、テーブルとソファーに観葉植物、時計があるくらいでここまでくると愛華も乾いた笑いが出てしまう。
「優斗様」
キッチンに人がいるとは思っていなかったので飛び上がって驚いてしまう愛華。そこにいたのは40代位の地味な女性で、こちらに向けて深々とお辞儀をしている。
「食事の準備をしてくれ」
宮ノ内は女性を見る事なく指示だけして、愛華をソファーに案内する。
「かしこまりました。」
だが、女性は気にする事なく淡々と食事の準備を始める。
「誰?お母さん?」
「世話係の⋯」
そこまで言って黙ってしまう宮ノ内。愛華は呆れながらキッチンにいる女性を見るとばっちり目が合ってしまう。
「香美矢と申します」
聞こえていたのか愛華に向けて挨拶する女性、香美矢。
「あっ⋯高島愛華です!」
急いで立ち上がり頭を下げる愛華だが、香美矢は驚いた顔をして持っていた包丁を落としてしまう。
「すみません。⋯⋯食事の準備の続きをさせて頂きます」
宮ノ内に睨まれた香美矢は何事も無かったように準備を再開する。
「ねぇ⋯テレビも無いの?」
「ああ、観ないので無いですね」
愛華は唖然としつつ、ポケットに手を伸ばすが携帯が無い事に気付く。
「私のスマホは?」
「愛華が倒れた時に落として割れてしまったんですよ。今、香坂に新しいものを手配させているからお待ち下さい。」
「ええ⋯!?いいよ!自分で買うから!」
「私がプレゼントしたいんですよ」
「後で何か見返りを寄越せって言う気でしょ!?」
「⋯⋯そんな事言いませんから大丈夫ですよ」
「うそ!今、その手があったかみたいな顔をしたよね!?」
言い合う愛華と宮ノ内をみて驚きを隠せない香美矢。いつも冷淡で他人に微塵も関心がない男にあんな表情をさせる女子高校生。見た感じは確かに美しい容姿だが、この宮ノ内の周りにはそんな女性は五万といる。他の女性とこの子は何が違うのか?それに彼女から出ている雰囲気に懐かしさを感じる。
香美矢がそんな事を考えていると、家のインターホンが鳴った。
「誰だ?」
宮ノ内に問われた香美矢がこちらにやって来て言いづらそうにこう告げた。
「皐月様がいらっしゃいました」
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