転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi

文字の大きさ
上 下
119 / 155
10章 アレクシアと愉快な仲間2

獣人族とエルフ族②

しおりを挟む
エルフ族と獣人族は昔から何かとぶつかる事が多かった。

どちらの種族も好戦的ですぐに喧嘩になり、その度に仲裁をするのが各種族の長達であった。エルフ族の女王であるエルメニア、獣人族の獣王ライアード、魔国初代国王陛下デイルズ、そして竜族初代族長ミルキルズだ。

強さこそが全てという考え方の獣人族とエルフ族は、どちらが一番強い種族かを決める為にいつも争っていた。だが、自分達が一番と豪語していたエルフ族と獣人族は竜族であるミルキルズや魔国のデイルズの出会い、彼等の異常過ぎるほどの強さを目の当たりして戦慄が走ったのだった。



そして現在。
アウラード大帝国を複雑な思いで見つめている二人の男女。一人は獣人国であるアンバルト国の第ニ王子であり獣部隊総隊長ラルフレアで、父親である国王ライアードと同じ金獅子だが普段は茶色の毛並みに擬態している。本来は王の風格漂う美しい金色の毛並みをしていた。

もう一人はエルフの里で女王であるエルメニアの側近をしている一級狩人のナナーサだ。エルフは狩りをして生活している。なので狩る者達は里のエリート集団で、魔法・弓・武術全てを兼ね揃えている憧れの職なのだ。その中でもナナーサだけがエルメニアから一級という称号を与えられているのだ。

そんなラルフレアとナナーサは相性最悪で昔はいつも争っていたが、四百年前にアリアナが亡くなってからエルフ族と獣人族も次第に交流が無くなっていったのだ。なので四百年振りにナナーサに弓を向けられていたラルフレアは何故か怒りよりも懐かしさが込み上げていた。

「ハ!お前に弓を向けられるのも久しぶりだな!」

何故か嬉しそうなラルフレアにナナーサは眉を顰める。

「何笑ってるのよ!本当に不快な男ね?」

睨み合う二人だったが、こちらを窺っていたアウラード陣営の方が騒がしくなり、場違いな幼子の元気な声が聞こえてきた。ふと視線を向けると、そこには信じられない人物達がこちらに向かってくるのが見えて驚愕した。

「あれは⋯魔国のデイルズ様とポーポトス様じゃないか?⋯情報は本当だったのか?」

ラルフレアは数日前に諜報部隊から信じられない情報を聞かされたのだ。デイルズ様がエルフの里でアリアナが生きていると泣き騒いで飛び出していったというのだ。最初は遂にデイルズ様もおかしくなってしまったのかと思ったのだが、父親である国王ライアードがラルフレアに真実を確かめて来いと命じたのだ。

ライアードに対して呆れながらも数百年振りに人族が治めている国に向かったが、人族を嫌悪していたエルフ族がこのアウラード大帝国にいるのを発見して、ラルフレアももしかしたらと淡い期待をしてしまっていた。

「デイルズ様が騒いでいた時に私もそこにいたから事実を確かめに来たのよ。エルメニア様はまたデイルズ様の戯言だと相手にしてはいなかったけど、あの様子は尋常じゃなかった⋯でもまさかポーポトス様もいたとは驚いたわ」

「あの金髪のガキはなんだ?あいつがアウラードの皇族か?魔力を全然感じねーぞ?」

「さあ?取り敢えずデイルズ様に話を聞けば良いんじゃないかしら?」

ナナーサは弓を下ろして背中に仕舞うと、自分も前に歩き出した。そんなナナーサを見てラルフレアも部下と共にデイルズ達の元へ向かった。

「ポーポトス様、お久しぶりで御座います。そしてデイルズ様、話を聞きたくて貴方を追ってきました。勿論アリアナの話です」

「おお、ナナーサかい!本当に久しいのう。まさか人族を一番嫌悪するお前が人族の治める国にいるとは驚きじゃな」

穏やかに話すポーポトスだが、ナナーサとラルフレアからはかなりの緊張感が窺えた。昔、二人はポーポトスに挑み見事に完敗していた。

「ポーポトス様がいるという事は、もしかして本当なんですか?」

ラルフレアがポーポトスに問う。

「ホホ!まずはこの国の皇族と話をせんとな」

「ああ、この金髪の少年ですか?」

ナナーサとラルフレアは金髪の少年を見るが、少年は妹なのか頭に漆黒の小鳥を乗せた幼い女の子を嬉しそうに抱っこしていて此方を見ようともしない。

「⋯⋯。おい!お前が代表で来たなら挨拶ぐらいしろ!」

ラルフレアは此方に興味が無さそうな金髪の少年を叱りつけ、ナナーサはゴミを見るような目付きで睨んでいた。

「わしか?わしはこの国の者ではないぞ?」

魔力を完全に消していて、更に若返った金髪美少年姿のミルキルズにラルフレアもナナーサも全然気付かない。

「ミル爺!今は金髪少年だから気付かれないんでしゅよ!」

「おお!そうか!アレクシアは頭が良いのう~?」

そう言って頬を緩ませながら幼い女の子の頭を撫でている少年。だが、二人は幼い女の子が発した言葉に衝撃を受けた。

「おい⋯今そのガキんちょ、ミル爺って言わなかったか!?」

「ガキんちょでしゅと!?シアのどこがガキんちょなんでしゅか!!」

ラルフレアの発言に怒りを露わにするアレクシアだが、ポーポトスの含みある視線を受けグッと我慢すると、ミルキルズに下ろしてもらいナナーサとラルフレアの前に行くと優雅で綺麗な礼をする。そして⋯

「初めまちてだな!おらはアウラード大帝国第四皇女アレクシアだっぺ!!」

だっぺ!!が無駄に木霊する。そんなアレクシアの背後ではジースリーが懸命に笑いを堪えていた。

「⋯⋯あなたがこの国の皇⋯皇女なの?」

「そうだっぺ!この国はしがねぇ田舎国だ!おらも皇女とは名ばかりでいつもは狩りに出て生活してんだ!そんで、お二人はこんな田舎さ何の用だっぺ?」

アレクシアの頭の上でウロボロスが痙攣するほど爆笑していた。

「この国にアリアナがいるはずよ!会わせて頂戴!」

ナナーサがアレクシアに詰め寄る。

「アリアナ?そげなおなごは知らねぇ!」

我慢の限界そうなデイルズの足を思いっきり踏んづけるアレクシア。

「⋯⋯じゃあ何でデイルズ様やポーポトス様が人族の国にいるのよ!おかしいでしょ!!」

「この“爺様”達でしゅか?この国の前に倒れていたんだべ!おらが介護してやってんだ!!」

ドヤ顔でそう言う失礼極まりないアレクシアに思わず拳骨を喰らわしそうになるポーポトス。だがそれを聞いていたラルフレアが鋭い目線をアレクシアに向けた。

「“爺様”?この二人の何処が爺様なんだ?若々しいだろ!」

アレクシアはポーポトスとデイルズを見てハッとして顔面蒼白になっていく。そう、ポーポトスもデイルズも長らく生きているが見た目がかなり若いのだ。

「あ⋯あー⋯んー?幼いおらにとっては皆、爺様でしゅ!あんたもおらから見たら爺様手前だっぺ!」

「手前⋯!?おい!失礼なガキんちょだな!食っちまうぞ!」

「は!シアはお前に食われるほど弱くないでしゅよ!」

睨み合うアレクシアとラルフレアだが、ナナーサは何故か何も言わないで二人の言い合いを見ていた。

「生意気だな!人族はどんな教育してんだ!?」

「シアは筋肉お馬鹿なお前と違ってちゃんと勉強してましゅから!ドヤっ!!」

「何だと!?お前は昔から生意気なんだよ!!かかって来いや!!」

「馬鹿ちんラルフ!ライアードに言いつけましゅ!!」

ましゅ!!が無駄に木霊する。ポーポトスはその瞬間に頭を抱え、デイルズとミルキルズは我慢の限界を超え爆笑していた。

「⋯⋯ハ!!」

目が点になるラルフレアとやっちまった感丸出しのアレクシア。そこへずっと黙って見ていたナナーサがアレクシアの元へ近付いて来たのだった。













しおりを挟む
感想 1,260

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

21時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

《メインストーリー》掃除屋ダストンと騎士団長《完結》

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説ダブルで100位以内に入れました。 ありがとうございます! 王都には腕利きの掃除屋がいる。 掃除屋ダストン。彼女の手にかかれば、ごみ屋敷も新築のように輝きを取り戻す。 そんな掃除屋と、縁ができた騎士団長の話。 ※ヒロインは30代、パートナーは40代です。 沢山の♥、100位以内ありがとうございます!お礼になればと、おまけを山ほどかいております!メインストーリー完結しました!今後は不定期におまけが増えますので、連載中になってます。

ギルドの小さな看板娘さん~実はモンスターを完全回避できちゃいます。夢はたくさんのもふもふ幻獣と暮らすことです~

うみ
ファンタジー
「魔法のリンゴあります! いかがですか!」 探索者ギルドで満面の笑みを浮かべ、元気よく魔法のリンゴを売る幼い少女チハル。 探索者たちから可愛がられ、魔法のリンゴは毎日完売御礼! 単に彼女が愛らしいから売り切れているわけではなく、魔法のリンゴはなかなかのものなのだ。 そんな彼女には「夜」の仕事もあった。それは、迷宮で迷子になった探索者をこっそり助け出すこと。 小さな彼女には秘密があった。 彼女の奏でる「魔曲」を聞いたモンスターは借りてきた猫のように大人しくなる。 魔曲の力で彼女は安全に探索者を救い出すことができるのだ。 そんな彼女の夢は「魔晶石」を集め、幻獣を喚び一緒に暮らすこと。 たくさんのもふもふ幻獣と暮らすことを夢見て今日もチハルは「魔法のリンゴ」を売りに行く。 実は彼女は人間ではなく――その正体は。 チハルを中心としたほのぼの、柔らかなおはなしをどうぞお楽しみください。

子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな
ファンタジー
二児の子供がいるワーキングマザーの私。仕事、家事、育児に忙殺され、すっかりくたびれた中年女になり果てていた私は、ある日事故により異世界転生を果たす。 転生先は、前世とは縁遠い公爵令嬢「イザベル・フォン・アルノー」だったが……まさかの乙女ゲームの悪役令嬢!? しかも乙女ゲームの内容が全く思い出せないなんて、あんまりでしょ!! 破滅フラグ(攻略対象者)から逃げるために修道院に逃げ込んだら、子供達の扱いに慣れているからと孤児達の世話役を任命されました。 そりゃあ、前世は二児の母親だったので、育児は身に染み付いてますが、まさかそれがチートになるなんて! しかも育児知識をフル活用していたら、なんだか王太子に気に入られて婚約者に選ばれてしまいました。 攻略対象者から逃げるはずが、こんな事になるなんて……! 「貴女の心は、美しい」 「ベルは、僕だけの義妹」 「この力を、君に捧げる」 王太子や他の攻略対象者から執着されたり溺愛されながら、私は現世の運命に飲み込まれて行くーー。 ※なろう(現在非公開)とカクヨムで一部掲載中

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。