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10章 アレクシアと愉快な仲間2

獣人族とエルフ族①

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エルフ族は決して人族の前に姿を現さないので幻の種族と言われていた。煌めくような美しい金髪にエメラルドグリーンの瞳、そして尖った耳が特徴的だと歴史書には書かれているのみで魔法に関しても非常に優れているとしか書かれておらずその実力は未知数だった。

そして獣人族は屈強な体格で、毛耳と尻尾が生えているらしい。魔力も高く、獣の姿にもなるとしか歴史書に書かれていないこちらも謎の種族だった。この世界には魔族の他にエルフ族、獣人族、ドワーフ族がいるとされていたが人族との国交を断固として拒絶している。なのでその姿を見たものは少なく、今の時代では伝説とさえ言われていた。

そんな伝説上の種族と言われていた種族のうち、エルフ族と獣人族という二つの種族がアウラード大帝国に突如として現れたのだ。なので警備隊や兵士達は驚きながらも職務を放棄できずに謎の彼等を遠くから見張っていた。報告を受けたルシアード皇帝陛下の側近でアレクシアの伯父であるロインは何故か嫌な予感がしたので、アレクシアの母方の祖父でロインの父親であるローランド・キネガー公爵とアレクシアの異母兄である皇太子シェインと共にその嫌な予感を確かめようと急ぎ地下牢へ向かっていた。

すると、地下牢からもこちらに急いで向かって来るルシアード達にロインは一礼すると、至急報告をするのだが視線は可愛い姪に向けていた。

「⋯アレクシア様。今回の件、何か知っていますよね?」

「うぅ⋯伯父上、その笑顔は怖いでしゅよ!シアは何も知りましぇんーー!!この馬鹿ちん爺が悪いんでしゅ!」

アレクシアは怒り心頭で今回の原因であろう魔国初代国王デイルズを責め立てた。

「何でじゃ!わしは悪⋯⋯い、ない!」

「どっちでしゅか!!爺の声がでかいから悪いんでしゅよ!潔く認めんしゃい!!」

「わしが悪い!!!」

「認めるんでしゅかい!!」

醜い言い争いをしているアレクシアとデイルズをジト目で見ていたロインだが、今は急に彼等が現れた目的を聞くのが先だった。

「兎に角、私が兵士数人を連れて彼等の真意を確かめに行きます」

ロインがルシアードにそう伝えた。だがそんなロインも彼等が未知なる種族ゆえに恐怖の方が勝るが、国の為には仕方がない。

「む。俺も行こう。アレクシアが狙われていたら大変だからな」

「いえ、危険なので陛下はここで報告をお待ちください」

「いや、待つんじゃ。彼奴等はかなりの人族嫌いじゃから何をするか分からん。特にエルフ族は危険じゃ」

ルシアードとロインの話を聞いていたポーポトスがそう言うと、デズモンドも同意する様に深く頷いていた。

緊張感漂う状況に困惑しているプリシラを、ローランドが別室に連れて行った。プリシラはルシアードに何か言いたげであったが、この状況を見て諦めローランド達と移動を始めたのだった。

ローランド達に連れられて行った若い女性が祖母のプリシラだと聞いて驚愕する皇太子シェイン。だが、今はそこを説明している暇はない。

「ですが⋯ではどうしたら良いんでしょうか?これ以上あのような所にエルフ族と獣人族がいたら大騒ぎになります!」

実際に兵士や冒険者は騒ぎ始めていた。このまま帝国内に噂が広まって混乱が起きるのだけは避けたい。

そんな中でポーポトスの横でしゃがみ込んで何やら考え込んでいたミルキルズが何かを閃いたのか勢いよく立ち上がった。

「そうじゃ!アレクシアが行けば良いんじゃ!」

「馬鹿ちんでしゅか!?この爺は頭がおかしくなりまちた!!そこ!拍手をするんじゃないーー!」

ミルキルズの発言に呆れるアレクシアは、ミルキルズを拍手して褒めるアランカルトへもその怒りをぶつけた。

「わしもミルキルズ殿の意見に賛成じゃ。お前にしか彼奴等を任せられん」

「ポポ爺!ああ~馬鹿ちんばかりでしゅ!」

常識人であるポーポトスもミルキルズと同じ意見なので頭を抱えてしまうアレクシア。

『俺も一緒に行くから大丈夫だ!だから元気出せ!』

小鳥姿のウロボロスが半泣きのアレクシアを慰めている。その光景をまたしても皇太子シェインが口をあんぐり開けて唖然と見ていた。まだ幼い妹を凶悪な種族の元へ行かせようとする目の前の大人達に驚いたのだ。

「婚約者である俺も行くから大丈夫だ」

デズモンドが崩れ落ちていたアレクシアを優しく立ち上がらせた。

「む。父親である俺がついて行くからお前はでしゃばるな」

「俺がついて行くぞ!俺がこいつを護ればいいんだよ!」

デズモンドと睨み合うルシアードはアレクシアを取り返そうとするが、そこへゼストも参戦する。そんな睨み合う最強トリオを無視して、ロインはアレクシアの元へ行くといきなり頭を下げ始めたのだ。

「アレクシア様。姪であるあなたを危険な目に遭わせたくないですが、この国を守る事が私の仕事です。お願いします、彼等と話をして下さい」

「⋯⋯伯父上。うぅ⋯⋯分かりまちた!行きましゅよ!こうなったらもうやってやりましゅ!!ウォーーでしゅ!!」

『『『『『ウォーー!!!!!』』』』』

アレクシアの足元で一緒に雄叫びを上げる子犬従魔達は尻尾を振り嬉しそうだ。

「お前達も行きましゅか!?」

『『『『『ハイ!イエッサー!!』』』』』

五匹は横並びに整列して元気よくお返事したのであった。

「アレクシア、本当にすまんのう⋯」

申し訳なさそうにアレクシアに謝るデイルズ。そんな怒られた大型犬の様なデイルズにこれ以上は何も言えずに溜息を吐くアレクシア。

「爺!今回は爺も一緒に行くんでしゅよ!」

一緒と聞いて嬉しそうに顔を輝かすデイルズ。

「今回はシアの周りを最強の爺達で囲みましゅ!!」

アレクシアは魔国初代国王陛下デイルズ、魔国の大賢者ポーポトス、初代竜族族長ミルキルズという最強爺三人、略してジースリーを連れて行く事にした。ウロボロスと従魔達も当たり前について行く気満々だ。

そんな決まりかけていた中で最強トリオが騒ぎ出した。

「む。爺さんばかりではアレクシアが心配だ」

「⋯。この爺さん達に勝ててから文句を言って下しゃいな!!」

「⋯⋯」

父親であるルシアードは何も言えないで黙ってしまった。

「アレクシア、婚約者である俺はついて行かないとな」

「⋯。爺に勝てるんでしゅか?」

「⋯⋯」

デイルズをチラッと見たデズモンドだがアレクシアに反論出来ないまま何も言えずに黙ってしまった。

「俺はついて行くぞ!」

「⋯。せっかくミル爺も元気になってあんなに楽しそうなのに⋯!!」

眩しいくらいのキラキラした笑顔でポーポトスと話しているミルキルズを見て孫であるゼストは何も言えずに黙ってしまった。

「決まりですね。アレクシア様、早速ですがよろしくお願いします」

「あい!!」

頭を下げ続けるロインにアレクシアは元気良く返事し、イケイケの爺達と子犬五匹、そして最終兵器(ウロボロス)を連れて最強種族の元へ向かったのだった。




「何で誰も来ないのかしら?本当に滅ぼして良い?」

帝都が見えるくらいの位置にいる数人の男女。エルフ族らしい男女が二人、獣人族らしい男が二人見える。そんな彼等から数百メートル離れた場所に数十人の兵士や冒険者達がこちらを窺っていた。だが動こうとせず、どうやら何やら指示を待っているのだろう。

そんな光景を見てイライラしている絶世の美女が、部下らしい男性に声をかけた。煌めく金髪を一本にまとめ、エメラルドグリーンの瞳は宝石の様に輝いていた。尖った耳が特徴的で、服は皆が狩人の様な格好をしていた。そして背中には大きな弓を背負っている。

「良いと思います。人族は汚い手を使うので使う前に滅ぼしてしまいましょう」

部下である男性もかなり好戦的だ。


「おいおい、俺達を巻き込むなよ!」

大声を発しながらイライラしている美女を睨むのは、茶色の大きい毛耳が特徴的な身長が二メートルを優に超える大柄で屈強な男性。目は金眼で茶色の尻尾も生えているこの男性は武器らしい武器は持っていない。

「本当に耳だけは良いわね?耳だけじゃなくて頭も鍛えなきゃね?」

「ああ?魔法しか取り柄がないお前等に言われたくねーよ!」

「あら、死にたいのね?」

そう言って背負っていた弓を瞬時に構えて男性に向ける美女。お互いの殺気でピリつく中、アウラード大帝国方面から能天気な幼子の声が聞こえてきた。

「爺達!もう少し早く歩いて下しゃいな!!ハイ!ハイ!」

パンパンと手を叩きながら三人の男性を促す小さな女の子。その女の子の頭には何故か漆黒の小鳥が止まっていて、足元には子犬が五匹いて嬉しそうに駆け回っていた。

「本当に見た目詐欺師どもでしゅね!!」

「誰が詐欺師じゃ!」

ポーポトスがアレクシアを怒っていると、前方から物凄い殺気が放たれたので一気に警戒する一同。

そしてアレクシアは前方でこちらを見つめる懐かしい集団と目が合ったのだった。
















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