上 下
114 / 138
9章 アレクシアとアウラード大帝国の闇

デイルズの過去③

しおりを挟む
それから気絶したポーポトスがなんとか回復して、正座して下を向いているデイルズとミルキルズを延々と説教している。あの場では目立つと魔王宮の政務室に連れてこられたアリアナはつまらなそうに床に寝転がりゴロゴロしていて周りを唖然とさせた。

「おい、床に寝転がるなよ」

デズモンドがアリアナを起き上がらせようとするが器用に避ける。そんなアリアナを意地でも起き上がらせようと追いかけるデズモンドだが、小さなアリアナは小回りが効くので中々捕まらない。

「なかなかやるな⋯」

「いやいや、魔法で拘束したら良いんじゃない?」

アリアナの前では何故か馬鹿になるデズモンドに呆れるランゴンザレス。そんなランゴンザレスの信じられない変化にいまだに慣れないポーポトスは頭を抱えながら、ゴロゴロと転がり続けるアリアナの元へ歩いて行く。

「⋯お主が孫を変えたのか?」

幼子を厳しい目つきで見下すポーポトス。

「あんた誰でしゅか?」

その場が一気に静まり返った。近くにいた側近達は顔面蒼白で、国王であるデルタスですら顔が引き攣る。ただミルキルズの笑い声だけが執務室に響き渡った。

「ああ、すまない。私はランゴンザレスの祖父ポーポトスじゃよ」

「嘘でしゅ!!ここのちと達はみんな嘘つき!!」

ゴロゴロを止めてポーポトスに詰め寄るアリアナ。

「⋯何故嘘つきなんじゃ?」

「こんなに若いのになんで爺ちゃんなんでしゅか!!爺ちゃんってミル爺みたいな人でしゅよ!!」

そう言って正座したままのミルキルズを指差して猛抗議するアリアナ。その横で肩を震わすのはランゴンザレスとデズモンドだ。

「そんな事を言われてものう?魔力量によって寿命も変わるんじゃ。わしやデイルズはまぁそこそこ魔力があるのでのう、見た目があまり変わらないんじゃよ」

「意味不明!!あたちは3歳だからそんな事言われても意味不明でしゅよ!!」

「おい!人族のガキが我ら魔族に生意気にも意見するなど言語道断だぞ!」

自分に対して物怖じしないアリアナに興味を持つポーポトスだが、そんなアリアナに対して嫌悪感を抱く側近達が怒りを爆発させる。

「⋯何ででしゅかー?」

何故と言われた側近は生意気なアリアナに更に怒りを露わにする。

「生意気な小娘が!人族は弱いくせに威勢だけはいいのだ!弱くて無能な⋯」

「そこまでじゃ!」

デイルズが怒りを露わに側近達を睨みつけて一瞬で黙らせた。

「デズモンドを救ってくれた恩人に向かって言う事か!!お前は確かヘタレー魔男爵じゃな?デルタスよ、此奴を厳重に処分するんじゃぞ!!」

「⋯わかりました」

珍しく本気で怒る父親を見て驚くデルタス。だがデイルズの横で只々黙ってこちらの様子を見ているミルキルズの方に寒気がする恐怖を感じた。

「あたちはゼシュ⋯ゼストの娘でミル爺のひ孫でしゅ!!プンプン!!」

「ああ、そうじゃな。本当にすまんかったのう」

怒り心頭のアリアナに謝罪する初代魔国国王に周りは息を飲んだ。さすがにデルタスやデズモンドも驚いていた。

「デジュモンド、あたちはもう帰りましゅよ!」

「何でだ!もう少し魔王宮にいる約束だぞ!?」

アリアナは正座したままのミルキルズを起き上がらせて、さっさと竜の里に帰ろうとしていた。だがデズモンドは必死でアリアナの手を引っ張り行かせようとしない。

「そうじゃ!わしもお主と色々話したいからもう少し魔王宮にいておくれ!」

「デジュモンドの爺!あたちはこう見えて忙ちいんでしゅよ!」

アリアナの右腕をデズモンドが、左腕をデイルズが握っているので小さなアリアナは動けない。

「そうだ!魔国の宝を見たくないか?」

デズモンドの悪魔の囁きに一瞬で目を輝かすアリアナ。

「見たい!わーーい!!」

嬉しそうに喜ぶアリアナを見て、デズモンドも嬉しそうに笑った。

「あらら~?どうするの、お祖父様?」

背後で静かに聞いていたポーポトスにランゴンザレスが声をかける。いつもなら自分から近づいて来なかった孫の変化に戸惑いつつも、喜ばしい気持ちが上回っていた。

「わしは聞かなかった事にするわい」

そう言って笑うポーポトスにランゴンザレスは驚いていた。

「お祖父様?遂にボケたの~?」

「ボケておらんわい!全く失礼な孫じゃ!」

どこか嬉しそうなポーポトスを見て首を傾げるしかないランゴンザレスだが、そんな光景を憎々しく見ていたのは魔貴族の側近達であった。



それからのデイルズの日常はつまらないものでは無くなった。交流が途絶えていた竜族のミルキルズやゼストと再び交流が生まれて、引き篭もっていた孫のデズモンドもアリアナと出会いどんどんと逞しくなっていき、ランゴンザレスは女子力がどんどんと上がっていった。

魔国の重鎮で大賢者であるポーポトスもアリアナが気に入ったのか、彼女が魔国にやって来るといつも顔を出していた。

「何をやっているんじゃ?」

デイルズは自身の大きな背中にアリアナとデズモンドが乗せて腕立て伏せをやっていた。そんな光景を見て呆れているポーポトス。

「あー!ポポ爺も乗りましゅか?」

いつの間にかアリアナにポポ爺と呼ばれているポーポトス。畏れ多くもそんな風に呼ぶのはアリアナだけだった。

「乗らんわい!全く、アリアナよ!魔力の勉強の時間じゃぞ!」

アリアナの人族とは思えない魔法の才能を見抜いたポーポトスが自ら教えると公言した。それは魔国では異例の事だった。ポーポトスは弟子をもたない事で有名であり、教えを乞う者達を鼻で笑い一蹴して来た。そんな偉大すぎる大賢者が人族の子を気に入り弟子にしたと魔貴族の間では噂になっていた。

「えー⋯今日はデジュモンドが腹痛であたちが面倒を見ないといけないんでしゅよ!」

「⋯横で頬を染めておるこの元気そうな坊主の事か?」

ポーポトスが嬉しそうなデズモンドをジト目で見ていた。

「ああ、俺は猛烈に腹が痛い。アリアナ、看病してくれるのか?」

「魔国名物“魔国まん”が食べたいでしゅ!食べれるなら看病しまちゅ!!」

「用意させよう!」

腹を摩っているが全然病人感がない孫を見て苦笑いするデイルズだが、この幼子が現れてからの魔国は光が差したように生き生きしていた。だがこの後に直面するアリアナの寿命問題やデイルズ達を絶望させる出来事が迫っている事は、この時は思いもしなかったのだった。









しおりを挟む
感想 1,225

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

最強陛下の育児論〜5歳児の娘に振り回されているが、でもやっぱり可愛くて許してしまうのはどうしたらいいものか〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 孤児院で暮らしていた女の子リンティの元へ、とある男達が訪ねてきた。その者達が所持していたものには、この国の紋章が刻まれていた。そう、この国の皇城から来た者達だった。その者達は、この国の皇女を捜しに来ていたようで、リンティを見た瞬間間違いなく彼女が皇女だと言い出した。  言い合いになってしまったが、リンティは皇城に行く事に。だが、この国の皇帝の二つ名が〝冷血の最強皇帝〟。そして、タイミング悪く首を撥ねている瞬間を目の当たりに。  こんな無慈悲の皇帝が自分の父。そんな事実が信じられないリンティ。だけど、あれ? 皇帝が、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた?  リンティがこの城に来てから、どんどん皇帝がおかしくなっていく姿を目の当たりにする周りの者達も困惑。一体どうなっているのだろうか?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。