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9章 アレクシアとアウラード大帝国の闇

エレノアの誤算②

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「さっきから何なのよ!!うるさいわよ!!」

「うわっ!血塗れオババ⋯怖いでしゅね⋯」

鬼の形相の血塗れエレノアに睨まれてアレクシアは思わず後ずさる。

「何でシアがお前の呪術にかかっていないのか聞きたくないんでしゅか!?」

「⋯あの呪術を解くなんて絶対に無理よ!絶対に⋯あり得ないわ!」

アレクシアに反論するエレノアだが、実際にアレクシアは術にかかる事なく今自分を挑発している。

「髪の毛⋯そうよ!髪の毛は奪ったはずなのにいつ偽物とすり替えたのよ!!」

「だからそれはワシじゃよ!!」

血塗れのエレノアに自分だと手を挙げてアピールするミルキルズ。

「ミルキルズ⋯最古の竜⋯もう死んだと思っていたのに何故若返って⋯」

「ワシはアレクシアと楽しく冒険するんじゃ!生きるんじゃ!」

嬉しそうにそう話すミルキルズを忌々しそうに睨みつけるエレノア。

「あなたもゼスト様も世界を統べる力を持っていながら⋯下等な人族を育てるなんて気が狂っているとしか思えないわ!⋯魔国にも優秀な者が沢山いるのに見向きもしないでアリアナばかり⋯」

「お主はアリアナが羨ましいんじゃな」

ミルキルズの発言に目を大きく見開き、歯を剥き出しにして獣のように襲い掛かろうとするが、アランカルトの拘束魔法によって簡単に拘束された。

「羨ましいですって!!このジジイ!もう一度言ったらタダじゃおかないわよ!下等な人族を羨ましいですって!?」

「下等下等と言っていますが、あなたもその下等な人族ですよね?しかも魔力低レベルで人の魔力に“頼って”得た力も⋯こんなものですか」

怒りで暴れるエレノアに対して、遠慮なく毒を吐くアランカルト。

「お主は確かにアレクシアの髪の毛を抜いた。だがそれをわしがどさくさに紛れて無くてもすり替えたんじゃ!」

そう言いながら指を鳴らす仕草をするミルキルズを見てエレノアは血が滲むほど唇を噛んで悔しがる。

「爺様。面倒くさいからこれ以上刺激しないで下さいよ」

ゼストに止められたミルキルズはつまらなそうに後ろに下がった。

「それからはこのウロボロスが大活躍したんでしゅ!!術にかかったようにエレノアと意識を一時的に繋げてくれたり、プリシラオババの呪術を解いてくれたり!ヨッ!この万能竜!」

『止めろ!恥ずかしすぎる!!』

アレクシアの大袈裟な言い方と拍手にウロボロスは恥ずかしくなりパタパタと忙しく飛び回る。

「いくら竜族でも術は解けないはずよ!!」

アレクシアの言い分にエレノアは異議を唱えるが、この後に衝撃的な事実を知る。

「普通の竜族じゃないでしゅ!ウロボロスは何と“原初の竜”でしゅ!!」

「⋯⋯は?」

「「はあ!?」」

エレノアもそうだが、ロインとローランドも驚愕してつい大声を出してしまう。原初の竜とは神々が創り出したとされる全知全能の神竜である。

「ハッ!伯父上とじいじもいた!」

『イデデ!おい!』

二人がいる事を忘れていたアレクシアはウロボロスの尻尾を持って急いで父親であるルシアードの後ろに隠れた。

「ウロボロス⋯ここにいる最強軍団の中で一番怖いのは誰だか分かりましゅか?」

『俺の中ではある意味お前だな』

そう言ってキャッキャ笑うウロボロスだが、それはゆっくりと近づいてくる。

「うぅ⋯シアは馬鹿ちんでしゅ!父上!シアを守って下しゃいな⋯ヒイ!!」

「そんなに怯えられては私も傷つきますよ?」

アレクシアの前に立っていたのは、何故か笑顔のロインだった。しかも笑顔なのに目が一切笑っていないのだ。

「む。ロイン、アレクシアは今日はまだ何も悪いことはしてないぞ?」

「今日はって何でしゅか!一言余計でしゅよ!!」

ルシアードを後ろからパンチするアレクシアを見て、五匹の子犬従魔たちは足下で大爆笑していた。

「陛下、陛下もこんな大事な事を黙っていたんですか?他の方も知っていたんですか?」

ロインの作ったような笑顔を向けられたルシアードは固まったままだ。デズモンドとゼストは目を逸らし、ランゴンザレスはいつの間にかいなくなっていた。ポーポトスとミルキルズはボケたフリをしていて、アランカルトは我関せずだ。五匹の子犬従魔達は早々に降参の腹見せポーズをしていた。

ウロボロスはやっとアレクシアの言っている意味を理解した。

「あたしも知らなかったわよ!!⋯⋯まさか、その⋯げんしょの竜だったなんて⋯?」

「姉上は原初の竜という存在自体知りません」

「おい!知ってるわよ!!⋯神様でしょ!」

ステラをジト目で見ながらユウラが真実を暴露する。そんなユウラも興奮で震えが止まらない。先程ウロボロスとアレクシア、そしてミルキルズやポーポトスがコソコソと何やら話していたのは気付いていたが、まさか昔から知る邪竜ウロボロスが“原初の竜”だったとは思いもしなかった。

「原初の竜ですって⋯あんな御伽話を信じているの!?」

「人族はいまだに古竜を神として崇めていましゅよ?でも実際には古竜は普通に存在しましゅ!それと同じでしゅよ!」

だが納得せず、エレノアは疑い深くウロボロスを凝視する。プリシラは何のことか分からずに状況を見守っていた。

「兎に角!エレノア・ヤノース公爵!!たくさんの悪事!シアをお陀仏にしようとした罪!プリシラオババの人生を奪った罪で拘束しましゅ!!」

アランカルトに既に拘束されていたが、更にアレクシアが拘束魔法を上乗せした。

「む。こいつは俺が地下牢に連行する。聞きたい事もあるしな」

ルシアードはプリシラを一瞬だけ見るとすぐに逸らし、ロインとローランドと共にエレノアを地下に連行して行った。

プリシラはいつの間にか戻っていたランゴンザレスが支えていた。アレクシアはそんな衰弱しているプリシラに近づいて行く。

「オババ⋯大丈夫でしゅか?」

「ごめんなさい⋯私が弱いばかりにルシアードを傷付け⋯あなたにも迷惑をかけて⋯」

泣き崩れるプリシラを優しく励ましていたアレクシアは、何かを思い立ったのかいきなり立ち上がる。

「エレノアから魔力を取り戻しましゅよ!!そしてオババの人生も取り戻しましゅ!!ウオーーでしゅ!!」

『『『『『ウオーーー!!!!!』』』』』

アレクシアと五匹の子犬従魔達は気合いを入れると、ウロボロスの頭を掴み地下牢へ急ごうとする。

『イデデ!お前は何で頭や尻尾を掴むんだ!!』

「アレクシア、俺が抱っこしてやる」

デズモンドがさらりとやって来てアレクシアをヒョイと抱えた。

「おい!俺が抱っこする!!」

「ワシじゃ!!」

ゼストとミルキルズも参戦して言い争いを始めたので、アレクシアが怒ろうとした時だった。皇宮の正門の方から凄まじい魔力を感じた瞬間に小さい爆発音が聞こえた。

「おーー!悪い悪い!!ただ聞きたい事があるんじゃがーー!!」

その聞き覚えのある声に驚いたアレクシア達は急遽正門に向かったのだった。











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