転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です!

akechi

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2巻

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 第一章 アレクシアと訪問者達



 1 アレクシアのこれまでの活躍

 アウラード大帝国の第四皇女として生まれたアレクシア・フォン・アウラードは、実は四百年前に実在した大賢者アリアナの生まれ変わりだった。
 それにもかかわらず彼女は、生まれてすぐに実母であるスーザン第三側妃に森へ捨てられてしまう。
 だが、そんな逆境にもめげず、大賢者として数々の修羅場しゅらばを乗り越えてきた前世の経験や、前世から引き継がれた強大な魔力を活かし、アレクシアは赤子ながらも一人たくましく生き延びていた。
 そうして過ごしていたアレクシアが三歳になった頃、いつものように森で狩りをしていた彼女は、父親であるアウラード大帝国皇帝のルシアードと出会う。
 彼は、気に入らない者をすぐに厳罰げんばつに処する、冷酷れいこく人格破綻者じんかくはたんしゃとして有名だったが、アレクシアはおくすることなく堂々と接した。ルシアードはそんな彼女に興味を持ち始めたのだった。
 それから数ヶ月、アレクシアはルシアードと交流を深めていった。アレクシアの母方の祖父であるローランド・キネガー公爵こうしゃく伯父おじであるロインとも出会った。
 その一方で、スーザン妃、正室であるエリザベス、帝国貴族の悪事をあばくといった、忙しい毎日を過ごしていた。
 また、前世で従魔じゅうまだった、フェンリルの幼体である白玉しらたま、ガルムの幼体である黒蜜くろみつ、そしてケルベロスのみたらし、きなこ、あんこの三兄弟や、友人であった魔族のランゴンザレスとも奇跡的な再会を果たした。
 時には平穏へいおんな日々があったもののそれもつか、アレクシアは第二側妃エリーゼとその双子の娘に命を狙われてしまう。
 絶体絶命の危機かと思われたがアレクシアは持ち前の魔力を活かし、彼女達を拘束することに成功した。
 かくしてエリーゼ達は魔国まこくに追いやられ、その地で働かせられることになったのだった。
 事件はこれで収束したと思われたが、何やらその頃、魔国では不穏な動きが起きていたのだった……


 2 にぎやかなお茶会に参上!

 エリーゼが魔国に連れていかれてから、数日が経過した。
 アレクシアは伯父であるロインの地獄じごくのような説教から解放されて、今は何故なぜか皇宮の庭園で姉兄きょうだい達とお茶会をしている。
 メンバーは皇太子であるシェインと、第一皇女のジェニファー、そして第二皇子のドミニクだ。
 アレクシアと姉兄達がそのように交流することはあまりなかったが、アレクシアの次のような活躍によって、仲良くお茶会となったのである。

 †

 今から数日前のこと。
 第二皇子のドミニクは、父親の愛を受けられない嫉妬しっとからアレクシアをなぐってしまったものの、逆に彼女に攻撃されて大怪我おおけがをした。
 それにもかかわらず、ルシアードからばつとして回復魔法を使うことを禁じられていたので、ずっと寝たきりで療養りょうようすることになっていた。
 彼はその最中、母親であるエリーゼから言われ続けた言葉を思い出していた。

「陛下に似ていないわね」

 ドミニクがまだ幼かった頃、エリーゼはそう言って、ドミニクの面倒を全て女官に任せ、彼と顔を合わせようとしなかった。
 幼いドミニクは母の気を引こうと勉学と魔法の訓練にはげんだ。
 だが、会うたびに言われるのはその言葉で、められることはなかった。その言葉は、いつしかドミニクにとって呪いのようなものになった。
 そして先日、ドミニクは自身のコンプレックスを嫌という程に刺激する、父親ルシアードと瓜二つの幼い妹、アレクシアに出会う。
 しかも彼女は父親と親しげに話をしていて、抱っこまでされていた。
 それで、自分にはしてもらえなかったことをされている妹に無性むしょうに腹が立ち、まだ幼い妹を殴ってしまったのだ。
 さらに不幸は続き、療養中の彼に衝撃的な報告が届く。母と妹が魔国へ追放されたのだ。
 ドミニクの頭には、自分は何故一緒に連行されないのか、ここでも自分は無視されるのか、という思いが浮かび、涙が自然と流れた。
 そうして悲しみに暮れる中、ドアをノックする音がひびく。
 ドミニクは必死に涙をぬぐい、冷静さをよそおってから口を開いた。

「誰だ?」
「可愛い妹のシアでしゅよ!」
「え……アレクシアか?」
「ドアノブに手が届かないでしゅ、助けてくだしゃいな!」

 ドミニクはベッドから立ち上がり、部屋のドアを開けるが、そこにアレクシアを見つけることは出来なかった。
 ドミニクは思わず首をかしげる。

「いない?」
「下でしゅよ! 失礼な兄でしゅね!」

 ドミニクが下を見ると、アレクシアが五匹の子犬達を連れて立っていた。

「お前、一人で来たのか?」
「そうでしゅよ? シアは自立した幼女なんでしゅ! 取りえず部屋に入れてくだしゃいな!」

 アレクシアはそう言うと、子犬達と一緒にドミニクを押し退けてずかずかと我が物顔で部屋に入ってきた。
 ドミニクは訳が分からずに、アレクシアの後を追うように歩く。
 部屋の中央まで来たところで、アレクシアがドミニクに向き直り口を開いた。

「……怪我は大丈夫でしゅか? シア、やりすぎまちた……すみましぇん」

 アレクシアはドミニクに向かって頭を下げる。

「いや! ……俺の方こそ叩いて悪かった。お前にたりしたんだ……あまりにも父上に似てたから……何故かくやしくて」
「はぁ? 馬鹿ちんでしゅね! あんな厳しい父上に似ちゃ駄目だめでしゅよ!」
「む。失礼だな」

 背後からアレクシアの声とは対照的な落ち着いた声がする。声の主はルシアードだった。
 ドミニクは、いつの間にか気配もなく現れたルシアードに驚き、腰を抜かしてしまう。

「父上!」

 だが、すぐに我に返り、急いでひざまずこうとする。

「そのままで良い。お前に報告がある、エリーゼと娘達は魔国に追放した」
「はい、聞きました。……ですが、何故私は追放されないのですか? どうでもいいからですか?」
「お前は反省している。それに勉学も魔法も優秀だ、魔法に至ってはシェインを上回っているからな。魔国へ追放するにはしい人材だ」

 ドミニクは驚く。ルシアードからそんなことを言われるとは思っていなかったからだ。父は出来損ないの自分には興味がないと感じていた。
 嬉しくて涙がこみ上げてきた。

「うう……わーーん!」

 ドミニクはルシアードに抱きついて大泣きする。

「む。……アレクシア、助けてくれ」

 そんな息子を見て顔をひきつらせるルシアードを、アレクシアは横からパンチして怒った。

「馬鹿ちんでしゅか! 抱きしめるんでしゅよ!」

 ルシアードはぎこちなくドミニクを抱きしめる。
 しばらくするとドミニクは我に返り、急いで離れる。するとルシアードの服に鼻水がべったり付いていて、ルシアードはそれを見て固まっていた。
 そんなルシアードを無視して、アレクシアはドミニクに近寄る。

「改めてドミニク兄上、よろしくでしゅよ!」
「ああ、アレクシア。ありがとう」

 美しい兄妹愛の横で、ルシアードは固まり続けるのだった。
 そしてその後、アレクシアがお茶会の話をドミニクにすると、彼は是非ぜひ参加したいと言った。
 さらに、アレクシアによってシェインとジェニファーが招待されて今に至る。

 †

 四人は城の中庭でテーブルを囲み、なごやかに談笑していた。
 最初はドミニクを警戒していたシェインとジェニファーだったが、彼の境遇や最悪な母親を持つという共通点から次第に打ち解けていった。
 アレクシアが元気に声を響かせる。

「シア達は仲良し兄妹でしゅよ! 親は関係ありましぇん!」

 すると、ジェニファーがうなずいた。

「そうね、ドミニクも遠慮しないでこれからは定期的に交流しましょうね」

 ジェニファーがそう言ってドミニクに微笑ほほえみかけると、ドミニクも強く頷いた。

「はい、俺もこんなに楽しいのは初めてです!」
「うんうん、良かったよ……ところで後ろの圧が気になるよね」

 シェインは後ろにいる大人達に苦笑いをしている。
 アレクシアは椅子から下りて、見守っているつもりのルシアード、ロイン、ローランドの元へよちよちと歩いていった。
 そして、手を広げてしゃがんで待っているルシアードに、アレクシアはデコピンする。
 その行為を見てさすがに他の姉兄達の間に緊張感が漂うが、ルシアードは嬉しそうにしている。

「暇なんでしゅか!? 仕事をしなしゃい!」

 そう言われて我に返り、ルシアードはロイン達とともに城に戻っていった。

 †

 翌日、アレクシアは部屋にルシアードがやって来たことで目を覚ました。
 眠い目をこするアレクシアに構わず、ルシアードは無慈悲むじひに告げる。

「アレクシア、お前にはこれから勉強をしてもらう」
「勉強ですと!?」

 アレクシアは思ってもみなかった言葉を聞いて叫んでしまう。

「ああ、お前は賢いし、もうそろそろ始めても良いだろう」
「シアは三歳でしゅし、将来は冒険者になるんでしゅよ? 勉強なんてしたくありましぇん! 断固拒否しましゅ!」
「だが、今日はすでに家庭教師候補を数名呼んでいるらしいとロインが言っていてな……」
「……伯父上でしゅか? 何を言われたんでしゅか?」

 ルシアードをいぶかしげに見るアレクシア。

「……アレクシアをちゃんと教育しないと、一緒に過ごす時間を減らすスケジュールを組むと……奴は悪魔だ」

 ルシアードはこの世の終わりかのように頭を抱えてしまう。

「父上に悪魔と言われるなんて、伯父上はもはや帝国の裏ボスでしゅね!」
「……否定は出来ない」

 お互いに頷き合う似た者親子。


 それから二人は朝食を済ませ、家庭教師に会いに行く。
 ルシアードに手を引かれてよちよち歩くアレクシアを微笑ましく見つめる女官達。だが、二人の足取りは重いままだった。
 家庭教師が待っていると案内された部屋の前には、ロインとゼストが立っていた。
 ゼストは竜族の族長で、アレクシアの前世、アリアナの育ての父だ。本来の竜の姿だけでなく、人間の姿になることも出来、彼は今、帝国と竜族の友好を示すためこの城で暮らしている。
 ゼストはここ数日間、ロインから人間の常識や習慣などを学んでいたが、余程根詰めていたのか、久しぶりに姿を見せた彼は目がうつろで、ほほけ、異常な程にやつれていた。
 だが、ゼストはアレクシアを見た瞬間に目を見開き、アレクシアに近付いて抱き上げる。

「ああ~このぷにぷにほっぺにいやされる!」
「じじい! 生きてたんでしゅね! てっきりお空に……」
「生きてるわ!」

 嫌そうなルシアードと嬉しそうなゼストに挟まれて、手をつなぐアレクシア。
 二人は中腰になり、アレクシアの歩幅に合わせている。


 改めて部屋に向かいドアを開けると、そこには四人の男女が座っていた。
 彼らはルシアードを見た瞬間に立ち上がってからひざまずいた。

「この者達が、家庭教師候補に選ばれた者達です。一人ずつ面接を致します。まずはニーナ・コロニー伯爵はくしゃく令嬢、前へ出てきてください」

 ロインにそう呼ばれて立ち上がったのは、黄色いきらびやかなドレスに身を包み、金髪にあわいグリーンの瞳のとても派手で美しい女性だった。
 その立ち居振舞いは、礼儀作法のプロだとアレクシアには感じられた。

「ルシアード皇帝陛下並びにアレクシア皇女、初めまして。私はダン・コロニー伯爵の娘、ニーナと申します」

 ニーナの自己紹介を受けてアレクシアは少し前へ進み、胸を張って口を開く。

「アレクシアでしゅ。よろしくでしゅ!」

 ニーナを真似て一生懸命に礼をするアレクシアに対して、ルシアードとゼストは大袈裟おおげさ拍手喝采はくしゅかっさいする。
 皆が驚いてアレクシアに注目するので、アレクシアは無性に恥ずかしくなる。そうしてよちよちとルシアード達の元へ戻り、足元にしがみつき顔をうずめた。

「三歳とは思えない程に綺麗きれいで素晴らしいですわ!」

 ニーナ伯爵令嬢に褒められて、アレクシアは嬉しそうな表情を浮かべる。

「……本当でしゅか?」
「ええ! ですがもっと笑顔の方が可愛いですわ!」
「笑顔でしゅか~……」
「む。アレクシアの笑顔は誰にも見せないぞ」
「そうだな、変な虫が付いたら厄介やっかいだ!」
「そこの二人うるちゃい!」

 アレクシアがルシアードとゼストを怒る姿に、四人の家庭教師候補は驚く。
 ロインがその様子を見て呆れつつも、場を進行させる。

「はぁ……ニーナ令嬢、ありがとうございます。次はダージェス・クルス侯爵こうしゃく、お願い致します」

 すると、白髪しらがひげが似合う、品があり穏やかそうな老人が自己紹介を始める。

「初めまして、私はダージェスと申します。魔術の研究をして八十年のしがないじいさんです」

 彼は魔力・魔術研究をしている根っからの研究者だった。

「死なないじーさん?」

 アレクシアのつぶやきに、皆が吹き出してしまう。特に言われた本人が大笑いしていた。

「シア、魔術に興味がありましゅ! 今の時代はどのくらい発展しているのか知りたいでしゅね!」
「はて、どの時代と比べてですかな?」
「大賢者アリアナの時代でしゅ!」

 その名前に、ダージェスは大きく反応して、残念そうな顔をして口を開く。

「……悲しいことに、アリアナ様の記述や魔法書は一切残っていないのです」
「え、シアが教えた魔法……」
「皇女?」

 思わず前世のことを口走りそうになるアレクシアだったが、ロインににらまれて口をつぐむ。

「……そ、そうなんでしゅか。残念でしゅ! どんな研究をしているのでしゅか?」
「実は、私もアリアナ様の研究をしているのですよ! 皇女様も興味がおありですか?」
「興味というか自分の……」
「皇女、黙ってください」
「ヒイ!」

 ロインに笑顔で言われて、反射的にルシアードの後ろに隠れるアレクシア。

「ダージェス侯爵、ありがとうございます。次は歴史を教えてくださる、ユージン・アシュトン伯爵です」

 アレクシアを黙らせたロインが、次の候補を呼ぶ。
 ロインに呼ばれた男性は、とても歴史を教えられるようには見えない風貌ふうぼうをしていた。というのも、筋肉ムキムキで逆三角形の肉体をしており、着ている服がパツパツになっている。
 ユージン伯爵は勢いよく立ち上がり、アレクシアの方へ向かった。

「初めまして!! 私は歴史と筋肉が大好き、ユージン・アシュトンと申します!!」
「声がでかいでしゅね……つばが飛びまちた」
「はっはっは!! 皇女様は歴史が好きですか?」

 異様に声が大きいユージンに、アレクシアはすでにドン引きだ。

「シアは過去を振り返らないんでしゅ」

 静かに見守っていたルシアードとゼストだが、その言葉につい吹き出してしまった。

「ふむふむ、皇女様は筋肉を付けないといけませんな!!」

 筋肉を見せびらかすようなポージングをするユージン伯爵に、他の家庭教師候補達もドン引きしていた。

「聞いてないでしゅよ、この筋肉バカ」
「皇女様!! 歴史と筋肉は同じなのですぞ!!」
「……さっきから何言ってるんでしゅかこの人!」
「知れば知る程に愛着がくのです!!」
「全然上手くないでしゅよ! 伯父上~!」

 アレクシアはロインに猛抗議する。

「……こう見えて優秀なんですよ」

 少し目をらし気まずそうなロインを、アレクシアはジト目で見る。そしてそのまま、ユージン伯爵に質問を投げかけた。

「ユージン伯爵は、どんな授業をするんでしゅか?」
「よくぞ聞いてくれました!! まずは走り込みからスタートして腹筋と背筋をきたえ……」
「馬鹿ちんでしゅか!! 筋肉の方じゃないでしゅ!!」
「アレクシアは筋肉が付いても可愛いと思うぞ」

 ルシアードが謎のフォローをする。

「筋肉から離れてくだしゃいな! 夢に出てきそうでしゅ!」

 筋肉ムキムキのアレクシアを想像して大笑いのゼスト。このままだと筋肉自慢が始まりそうなので次に進むこととなった。

「次は芸術と音楽を教えてくださるエルマ氏です」

 ロインに呼ばれた色気漂う銀髪碧眼へきがんの美青年が優雅ゆうがに立ち上がり、スマートに歩いてくる。

「ああ、皇女よ! 芸術を愛しなさい! そうすると芸術から愛が受けられます!!」

 エルマの演技じみた話し方に、アレクシアは少し嫌悪感を覚える。

「意味不明~」

 アレクシアの言葉に皆が頷いてしまう。

「皇女、今の自分を歌で表現してみてください! 自由に! エレガントに!」

 エルマにそう言われたアレクシアは、心を無にして歌い出した。

「……ああ~私はアレクシア~でしゅ……三歳でしゅ~……お金が大好きでしゅ~……筋肉馬鹿にイライラ~……貴様にもイライラ~……エレガント!」
「アレクシア、お前は歌の才能があるな。心に響いたぞ」

 アレクシアの歌を聞いて心から感動しているルシアードに、アレクシアはドン引きする。

「皇女、エルマは感動致しました! 歌は心で歌うのです! 皇女の歌は心がこもっていました! パーフェクト!」
「ああ! 馬鹿ちんばかりでしゅ! シアはこのままだと筋肉ムキムキの音楽家になっちゃいましゅよ!」

 アレクシアはついに頭を抱えてしまった。
 ニーナ令嬢とダージェス侯爵も、ユージン伯爵とエルマのクセの強さに苦笑いしている。
 アレクシアは元凶であるロインに文句を言おうとしたが、ロインのあの笑顔が怖くて、反対方向にいるルシアードの元へ行くと、パンチをお見舞いして八つ当たりを始めた。だがルシアードはいつも通り嬉しそうだ。

「伯父上! あの二人は酷いでしゅよ!」

 ロインの顔を見ず、ルシアードを見ながら猛抗議を再開するアレクシア。
 ロインは申し訳なさそうに口を開く。

「確かにクセは多少ありますが……」
「多少でしゅと!?」

 アレクシアは我慢が出来ずに、よちよちとロインの元へ行くと思いっきりパンチをする。ロインは何も言い返さなかったが、ゼストが声を上げる。

「いい運動だ! だが、お前のそのぽっこりお腹は少し運動した方が良いぞ!」
「じじい、乙女おとめに向かって失礼でしゅよ!」
「そうだぞ、アレクシアはぽっこりお腹でも可愛いから気にするな」

 ルシアードはまたもどこか的外まとはずれな擁護ようごをする。

「ぽっこりぽっこりうるさいでしゅよ! もうこうなったら筋肉ムキムキになってやりましゅ!」

 そう言うとアレクシアはその場で寝そべり、腹筋を始めた。
 そんな彼女を嬉々として指導しようとするユージン伯爵と、今の光景を歌にして優雅に歌っているエルマに、ロインは頭を抱える。

「クセがありすぎましゅよ! 伯父上、どうしてくれるんでしゅか!」

 アレクシアはぷんすか怒りつつも腹筋を続けたが、ロインによって阻止そしされる。
 そしてその瞬間を狙っていたかのように、エルマが口を開いた。

「皇女様! 私の作品を見てくれたら納得して頂けますよ!」

 そう言ってエルマが指を鳴らすと扉が開き、エルマの弟子の男性と女性が慎重に絵を運んできた。
 アレクシアはどこで待機していたんだとげんなりする。
 その絵には赤と黒の渦巻うずまきが描かれていた。


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