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9章 アレクシアとアウラード大帝国の闇

魔国の真実

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森の奥からゆっくりとこちらに歩いてくるトリシアを見て顔色が変わる魔国魔王太子デズモンドと邪悪竜ウロボロス。そしてこちらに向かってきたのはトリシアだけではなく、反対側から現れたのは魔国の偉大な大賢者ポーポトスと孫であるランゴンザレスだった。

「あら、一足遅かったわね?アリアナはこの国を出て行ったわよ!アハハハ!!」

「テメェ!!」

我を忘れてトリシアに魔法で攻撃を仕掛けようとするランゴンザレスだが、いきなりこれまでに感じた事のないような凄まじい魔力が皆を襲う。

「ホホ⋯これがお主の本当の力なのかい?」

ポーポトスでも立っていられずに膝をついてしまった。ランゴンザレスやデズモンドは押し潰されそうな力に耐えられずその場に崩れ落ちた。

「なんなの⋯これが⋯邪悪竜の力だっていうの!?⋯⋯うぅ⋯ぎゃあああーー」

ウロボロスの魔力を一身に受けているトリシアは、口から吐血してからすぐに激しい苦痛が襲い苦しみもがいていた。

『全身の臓器を破壊してやる⋯そして死にかけたらまた回復させての繰り返しだ。お前にはそれでも足りないがな!』

そう言うと息絶え絶えのトリシアに回復魔法をかけるウロボロス。

「くっ⋯何故なの!あなたはアリアナの天敵だったはずよ!?」

「お前は本当に何も分かっていないんだな。まぁ真実を知っているのはごく一部の者達だけだから仕方がないが、ウロボロスをこの地に導いたのはアリアナだ」

デズモンドの衝撃的な発言にトリシアは驚愕する。

「何ですって!?だって邪悪竜ウロボロスはデイルズ様が召喚したのよ!?実際に見ていた者だって多数いたわ!!」

「ああ、それは私の手違いでデイルズ様には犠牲になってもらったのよ。まさか大きくなるなんて思っていなかったんだもの!!」

ランゴンザレスが皮肉を込めてウロボロスを見ると、彼はスッと目を逸らした。

「そんな⋯あの女がウロボロスを⋯何なのよ!何なのよ!」

怒りと混乱で頭を掻きむしりながら大声で叫んでいるトリシアに、冷めた目線が突き刺さる。

「お前はやり過ぎたんじゃ!アリアナをどれだけ傷つけようとしてもお前はあやつには一生勝てないわい!」

ポーポトスのいつもの穏やかな雰囲気はどこにもなく、怒りを必死に抑えているようだった。

「そうよ!今回の件は⋯絶対に許さないわ!あんたはアリアナの決心と勇気を奪い踏み躙った!」

ランゴンザレスは涙を流しながらトリシアに吐き捨てた。アリアナはデズモンドを彼と同じくらい愛していた。だがデズモンドは長命種の魔族でありアリアナは短命種の人族であった為、アリアナはデズモンドの告白を軽く受け流していた。

そんな時にデズモンドの婚姻話が出始めて、それを聞いたアリアナは上手く笑えなかった。上手く笑う練習をしたのに何故だろうとランゴンザレスの前で泣いていた。

「もう!寿命とかそんなのは何も考えないで結婚しちゃいなさいよ!デズモンド様もあんたもお互い物凄く好きなくせに!あんたが先にお婆ちゃんになってもデズモンド様は何も変わらないわ!」

「⋯⋯。でも先に私が死んだらあいつは耐えられるかな⋯。すぐに私を追って来そうだからさ⋯怖いんだよね。死んでほしくないから⋯」

そう言って下を向くアリアナだが、そんな彼女に近寄ってくる人物がいた。

「お前がそう望むなら俺は死なない。それは想像以上に苦痛だが、お前との思い出があるから耐える。耐えて見せる。だから俺が死ぬまで旅になんか行かないでちゃんと待っててくれよ?」

デズモンドの言葉にアリアナは何も言わずにただただ頷いたのだった。アリアナが決心するまでには物凄い葛藤があっただろう。それはデズモンドも同じで、愛する人が先に逝く事になる悲しみと不安は計り知れない。だが、二人は勇気を出して決心した。

なのにトリシアという欲深く傲慢な女の独りよがりの嫉妬と恨みで、二人の勇気と決心が踏み躙られてしまった。

「アリアナが偉大なる魔国の魔王太子妃になるなんて考えられないわ!!弱くて醜い人族の分際で魔国の魔王太子妃になるなんて、絶対に許さないわ!!まぁもうそれは叶わないわね!アハハハ!!馬鹿な女!!」

馬鹿にしたように笑うトリシアだったが、またあの耐え難い苦しみが身体中を襲う。

「うがああああーーー!!いだい⋯ぎゃああーーー!!」

『あいつが馬鹿ならお前は何なんだ?救いようがない醜い化け物だ!卑怯な手を使わずに正々堂々とあいつに向き合った事はあるか!?今までも逃げ隠れていたんだろう?最後のあいつの顔を見に来たのか?どうだった?悲しそうだったか!』

ウロボロスの怒りは凄まじく、周りも動けない。トリシアは瀕死だったがまたしても回復していく。

「⋯⋯悔しい!何であの女ばかり気に入られて好かれて⋯私の方が優秀なのに⋯デイルズ様もポーポトス様も私を見ないであの女を褒めてばかり!!」

地面を叩いて悔しがるトリシアだが、賛同する者など一人もいない。そんな彼女の頭にコツンと何かが当たったので顔を上げるとそれは小さな石ころだった。

「お前のせいでアリーがいなくなっちゃったじゃないか!!」

そこには小さな男の子がいて、泣きながらトリシアに石ころを投げ続けていた。

「⋯ラジか」

デズモンドがそう小さく名を呼ぶ。アリアナに連れられてお忍びで魔王都に繰り出した時にいつも二人に付き纏い、新聞を買わせようするヤンチャ坊主。

「アリーはいつも意地悪だったけど⋯本当は優しくて⋯大好きだったんだ!アリーは悪い事してない!うわーーん!!」

「そうだよ!あの子は優しい子なんだ!」

ラジ坊の後ろからたくさんの魔国民が怒りの表情でこちらに向かって来たのだった。

「⋯アリアナ⋯お前は魔国を好きだと言ってくれた。だが見てみろ⋯魔国民だって俺達だってお前の事が大好きなんだ⋯」

デズモンドはこの光景を見て涙を流した。







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