96 / 114
9章 アレクシアとアウラード大帝国の闇
閑話 ルビー側妃とアレクシア交流記②
しおりを挟む
ルビーを差し置いて、足早にコウリン・スライダー侯爵が待つ部屋に移動を始めたアレクシア。
アレクシアは母方の祖父であるローランド・キネガー公爵からコウリン・スライダー侯爵について唯一無二の親友であり、苦楽を共にした戦友でもあるという話を聞かされてからずっと会ってみたかったのだ。
追いついたルビーの専属女官であるシトラに部屋のドアを開けてもらったアレクシアは、ワクワクしながら入って行く。
そこには燃える様な赤髪を短く切り揃え、この煌めく豪華な部屋に似合わない今から戦に行く様な武装した格好の屈強な男性が仁王立ちしていた。ローランドと同じくらいの年齢であろうが、やはり若々しい見た目だ。だが彼との違い、コウリンは本当に屈強な戦士の様な野生的な風貌をしている。
「わぁー!あなたがコウリン・スレイダー侯爵でしゅね!!」
彼の射殺す様な視線と迫力のある威圧感に、一瞬にして凍りつく室内。だが、気にしていないのかアレクシアはルビーの部屋から持って来た紙とペンを取り出した。
「サインを下しゃいな!」
ニコニコと紙を渡すアレクシアだが、微動だにしないコウリンを見て冷や汗が止まらないコウエンの部下とルビーの専属女官のシトラ。ルビーもこの空気に耐えられずに、仲裁しようと動き出そうとした時だった。
「貴女はアレクシア第四皇女ですかな?」
コウリンは、アレクシアの前へ跪く。
「あ、自己紹介を忘れてまちた!アレクシアでしゅ!」
「ローランドの孫か⋯本当に生きていて良かった⋯」
強面の顔から止めどなく流れる涙に、目が点になるアレクシアと足元にいる五匹の子犬従魔達。
「孫を亡くしたと報告を受けた時のローランドはそれは酷い落ち込み様だった⋯だが今は、まぁスーザンの件もあって大変だがアレクシア様が生きているのが何よりも救いだろう⋯」
泣きながらそう話すコウリン・スレイダー侯爵を、優しく励ますルビー側妃。
コウリン・スレイダーはこの帝国の英雄であり威圧感ある風貌もあってか、近寄りがたい雰囲気を持っている。家族や部下でさえ毎回緊張するくらいだ。だが、ルビーだけは違った。ルビーの母は平民だった。帝都にある人気食堂の看板娘だったライアに一目惚れしたコウリン。その時は既に政略結婚した妻がいたが、自分に物怖じしないライアに惹かれたのだ。
愛人という立場でも、明るく振る舞うライアを見て一大決心したコウリン。傲慢で浪費家の妻との離婚を決めたのだ。子供も二人いたが、妻は愛情を注ぐ事なく社交場への通ってばかりだ。
父親は平民との再婚を反対されたが、戦や魔物討伐で英雄となっていたコウリンに逆に縁を切ると言われて渋々承諾した。ライアは体が弱く、妊娠した時に出産に耐えられないかもしれないと医者に言われたが、無事に女の子を生んだ。それがルビーだった。
ライアは産後に体調が悪化して亡くなった。彼女は平民の中でも特に魔力が少なかったのだ。
悲しむコウリンを支えたのは、ライアと同じ笑顔の似合う娘ルビーだった。娘には幸せになってもらいたかったので、あの憎たらしい小僧にも頭を下げた。そう、娘がずっと恋焦がれているらしいルシアード・フォン・アウラード皇太子だ。
皇妃は無理だったが、第一側妃の座を手にしたコウリンは嬉々としてその事を娘に報告したが、何故か鬼の様な顔で怒りボコボコにされた。あの時の娘の顔は今まで戦ったどんな相手よりも怖かった。
「回想は終わりまちたかー?」
泣きながら物思いに耽っていたら、目の前の豆粒⋯アレクシア皇女に声をかけられて我に返ったコウリン。
「ああ、豆⋯アレクシア様。申し訳ない」
「おい、今豆粒って言おうとしまちたね!?」
アレクシアは怒りのパンチをコウリンにお見舞いしたが、彼の武具が硬すぎて手を痛めてしまう。
「痛ッ!!何でそんなに硬いんでしゅか!オリハルコン製でしゅか!?」
手を摩りながらも涙目のアレクシアを心配する子犬従魔達が動いた。
まずは白玉がコウリンに飛び掛かる。
「白玉ー!遠慮なく急所を狙えでしゅーー!!」
だが、飛びかかって来た白玉をコウリンが見事にキャッチしてモフモフを始めた。その途端、白玉は気持ち良さそうに腹を見せウトウトまでしている。
「何でしゅと!?どんな手を使ったんでしゅか!?」焦るアレクシア。
「この手ですが?」憎たらしく笑うコウリン。
「ぐぬぬ!!」
「ぐぬぬって⋯アレクシア様⋯プッ!」
悔しそうなアレクシアの唸りに、つい吹き出してしまうシトラとルビー。そんな楽しそうなルビーを見て自然と笑顔になる父親であるコウリン。
「よし!次は黒蜜⋯って何してんでしゅかーー!!馬鹿ちんでしゅか!!」
何と黒蜜とみたらし、きなこにあんこはちゃっかりコウリンの元に集まりもふもふをしてもらおうと綺麗に並んでいた。
「シアがもう少し大きければ⋯」
そう言って懸命に背伸びするアレクシアだが、微笑ましいだけなのでコウリンの部下にも生温かい目で見られている。
「アハハハ!ちんちくりんで可愛いですなぁ!まぁ可愛さはルビーに負けますがな!」
「何でしゅとーー!!ぐぬぬ⋯シアの味方がいないでしゅ⋯こうなったら最強の味方を呼ぶしかないでしゅね⋯」
三歳の可憐な幼女とは思えない悪巧みする顔に、嫌な予感がするルビーとシトラはコウリンに急いで謝る様に説得する。
「父上!アレクシア様に失礼ですよ!謝ってください!」
「コウリン様!!嫌な予感がします!!あっ⋯外が曇ってきたわ⋯あんなに晴れていたのに⋯」
そう言ってガタガタと震え出すシトラ。
「どうした二人とも!何を震えているんだ?」
そう言いながら悪巧み顔のアレクシアを無理矢理に捕まえて、高い高いをするコウリンを見て青ざめていくルビー。アレクシアはポケットからキラキラ光り輝く小さな筒のようなものを取り出した。そして⋯
その筒が赤く光出したと思った瞬間に、部屋のドアが物凄い勢いで吹っ飛び進入してきた人物にアレクシア以外が凍りついた。
「む。おい、アレクシアから離れろ。今すぐにだ。」
凄まじい殺気を放ちやって来たのはアレクシアの父親であり現皇帝であるルシアード・フォン・アウラードであった。
次回、親バカ同士の戦いが始まるーー
アレクシアは母方の祖父であるローランド・キネガー公爵からコウリン・スライダー侯爵について唯一無二の親友であり、苦楽を共にした戦友でもあるという話を聞かされてからずっと会ってみたかったのだ。
追いついたルビーの専属女官であるシトラに部屋のドアを開けてもらったアレクシアは、ワクワクしながら入って行く。
そこには燃える様な赤髪を短く切り揃え、この煌めく豪華な部屋に似合わない今から戦に行く様な武装した格好の屈強な男性が仁王立ちしていた。ローランドと同じくらいの年齢であろうが、やはり若々しい見た目だ。だが彼との違い、コウリンは本当に屈強な戦士の様な野生的な風貌をしている。
「わぁー!あなたがコウリン・スレイダー侯爵でしゅね!!」
彼の射殺す様な視線と迫力のある威圧感に、一瞬にして凍りつく室内。だが、気にしていないのかアレクシアはルビーの部屋から持って来た紙とペンを取り出した。
「サインを下しゃいな!」
ニコニコと紙を渡すアレクシアだが、微動だにしないコウリンを見て冷や汗が止まらないコウエンの部下とルビーの専属女官のシトラ。ルビーもこの空気に耐えられずに、仲裁しようと動き出そうとした時だった。
「貴女はアレクシア第四皇女ですかな?」
コウリンは、アレクシアの前へ跪く。
「あ、自己紹介を忘れてまちた!アレクシアでしゅ!」
「ローランドの孫か⋯本当に生きていて良かった⋯」
強面の顔から止めどなく流れる涙に、目が点になるアレクシアと足元にいる五匹の子犬従魔達。
「孫を亡くしたと報告を受けた時のローランドはそれは酷い落ち込み様だった⋯だが今は、まぁスーザンの件もあって大変だがアレクシア様が生きているのが何よりも救いだろう⋯」
泣きながらそう話すコウリン・スレイダー侯爵を、優しく励ますルビー側妃。
コウリン・スレイダーはこの帝国の英雄であり威圧感ある風貌もあってか、近寄りがたい雰囲気を持っている。家族や部下でさえ毎回緊張するくらいだ。だが、ルビーだけは違った。ルビーの母は平民だった。帝都にある人気食堂の看板娘だったライアに一目惚れしたコウリン。その時は既に政略結婚した妻がいたが、自分に物怖じしないライアに惹かれたのだ。
愛人という立場でも、明るく振る舞うライアを見て一大決心したコウリン。傲慢で浪費家の妻との離婚を決めたのだ。子供も二人いたが、妻は愛情を注ぐ事なく社交場への通ってばかりだ。
父親は平民との再婚を反対されたが、戦や魔物討伐で英雄となっていたコウリンに逆に縁を切ると言われて渋々承諾した。ライアは体が弱く、妊娠した時に出産に耐えられないかもしれないと医者に言われたが、無事に女の子を生んだ。それがルビーだった。
ライアは産後に体調が悪化して亡くなった。彼女は平民の中でも特に魔力が少なかったのだ。
悲しむコウリンを支えたのは、ライアと同じ笑顔の似合う娘ルビーだった。娘には幸せになってもらいたかったので、あの憎たらしい小僧にも頭を下げた。そう、娘がずっと恋焦がれているらしいルシアード・フォン・アウラード皇太子だ。
皇妃は無理だったが、第一側妃の座を手にしたコウリンは嬉々としてその事を娘に報告したが、何故か鬼の様な顔で怒りボコボコにされた。あの時の娘の顔は今まで戦ったどんな相手よりも怖かった。
「回想は終わりまちたかー?」
泣きながら物思いに耽っていたら、目の前の豆粒⋯アレクシア皇女に声をかけられて我に返ったコウリン。
「ああ、豆⋯アレクシア様。申し訳ない」
「おい、今豆粒って言おうとしまちたね!?」
アレクシアは怒りのパンチをコウリンにお見舞いしたが、彼の武具が硬すぎて手を痛めてしまう。
「痛ッ!!何でそんなに硬いんでしゅか!オリハルコン製でしゅか!?」
手を摩りながらも涙目のアレクシアを心配する子犬従魔達が動いた。
まずは白玉がコウリンに飛び掛かる。
「白玉ー!遠慮なく急所を狙えでしゅーー!!」
だが、飛びかかって来た白玉をコウリンが見事にキャッチしてモフモフを始めた。その途端、白玉は気持ち良さそうに腹を見せウトウトまでしている。
「何でしゅと!?どんな手を使ったんでしゅか!?」焦るアレクシア。
「この手ですが?」憎たらしく笑うコウリン。
「ぐぬぬ!!」
「ぐぬぬって⋯アレクシア様⋯プッ!」
悔しそうなアレクシアの唸りに、つい吹き出してしまうシトラとルビー。そんな楽しそうなルビーを見て自然と笑顔になる父親であるコウリン。
「よし!次は黒蜜⋯って何してんでしゅかーー!!馬鹿ちんでしゅか!!」
何と黒蜜とみたらし、きなこにあんこはちゃっかりコウリンの元に集まりもふもふをしてもらおうと綺麗に並んでいた。
「シアがもう少し大きければ⋯」
そう言って懸命に背伸びするアレクシアだが、微笑ましいだけなのでコウリンの部下にも生温かい目で見られている。
「アハハハ!ちんちくりんで可愛いですなぁ!まぁ可愛さはルビーに負けますがな!」
「何でしゅとーー!!ぐぬぬ⋯シアの味方がいないでしゅ⋯こうなったら最強の味方を呼ぶしかないでしゅね⋯」
三歳の可憐な幼女とは思えない悪巧みする顔に、嫌な予感がするルビーとシトラはコウリンに急いで謝る様に説得する。
「父上!アレクシア様に失礼ですよ!謝ってください!」
「コウリン様!!嫌な予感がします!!あっ⋯外が曇ってきたわ⋯あんなに晴れていたのに⋯」
そう言ってガタガタと震え出すシトラ。
「どうした二人とも!何を震えているんだ?」
そう言いながら悪巧み顔のアレクシアを無理矢理に捕まえて、高い高いをするコウリンを見て青ざめていくルビー。アレクシアはポケットからキラキラ光り輝く小さな筒のようなものを取り出した。そして⋯
その筒が赤く光出したと思った瞬間に、部屋のドアが物凄い勢いで吹っ飛び進入してきた人物にアレクシア以外が凍りついた。
「む。おい、アレクシアから離れろ。今すぐにだ。」
凄まじい殺気を放ちやって来たのはアレクシアの父親であり現皇帝であるルシアード・フォン・アウラードであった。
次回、親バカ同士の戦いが始まるーー
応援ありがとうございます!
60
お気に入りに追加
6,887
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。