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9章 アレクシアとアウラード大帝国の闇

閑話 ルビー側妃とアレクシア交流記

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幼い頃から内向的で部屋に引き篭もりがちであった。

スライダー侯爵家は武功で出世してきた筋金入りの戦闘一族であった。私の父親であるコウリン・スライダー侯爵は歴代の当主達を超える凄まじい強さで魔物討伐や戦では負け知らず、先々代の皇帝陛下やルシアード皇帝陛下から数え切れない程の勲章を授与され、他国にも名を馳せる英雄であった。

そんな戦闘一族から生まれてしまった唯一の失敗作。それが私、ルビー・スライダーであった。剣も魔法も才能が無く、先代当主である祖父からは僅か四歳で見限られた。でも父親であるコウリンはそんな出来損ないの娘を可愛がり、引きこもりがちな私を外へ連れ出してくれた。

私には兄が二人いるが、祖父に見限られてから存在が無いものとされ話した記憶は数えるほどしか無い。母親は体が弱く、私を産んですぐに亡くなってしまった。メイドや執事はそんな私を不憫に思っていたのか蔑ろにされる事なく優しく面倒を見てくれた。

ある日、父親を尋ねて皇宮を訪れたルビーは、この世の者とは思えない美丈夫を見て雷が落ちた様な衝撃を受けた。そう、ルシアード・フォン・アウラード皇太子だった。彼を見てから何故か謎の創作意欲が湧き、あらゆる妄想に耽る日々が続いた。だがルシアード皇太子の父親であった当時の皇帝陛下は悪政を重ね、それを咎めたキネガー筆頭公爵は隠居に追いやられて、キネガー公爵派であった私の父親コウリンも邪魔だと軍のトップから引き摺り下ろされたのだった。

だが、父は何故か嬉しそうにキネガー公爵と共に冒険者登録をすると、一部の部下達と冒険者としてのやり方で国の治安を守っていた。その間、私はというと相変わらず部屋に篭り、創作小説を書いたり、絵姿を描いて過ごしていた。一度、父親にルシアード皇太子の絵姿を見せたら腹を抱えて笑い、危うく呼吸困難になりかけていた。

「ルビー!何でこんなに目がキラキラしてるんだ!?」

「私にはこう見えるのですが⋯違うのですか?」

娘の発言にまたしても笑いが止まらない父親のコウリンであった。



そして運命の日。ルシアード皇太子が悪政を行っていた父親である皇帝陛下や第二王子、そしてその一派を討ったという一報が帝国中を駆け巡った。ルシアード皇太子側にはキネガー公爵や私の父親であるコウリン侯爵がいたという。

それからたった数ヶ月でアウラード大帝国は他国に恐れられる強国として君臨する。帝国内も次第に安定していき、不正を働いていた貴族や商人は問答無用で処刑された。そんな中でルビーにも大きな転機が訪れる事になる。それは久しぶりに帰ってきた父親からの衝撃的な一言からだった。

「ルビー!お前が愛するルシアード皇帝陛下に嫁げるぞ!!」

「⋯⋯は?」

「ん?だからお前が愛してやまない皇帝陛下へ嫁げるんだ!!まぁ皇后ではないがそこは⋯ぶっ!!」

次の瞬間、コウリンは非力なはずの愛娘に物凄い力で投げ飛ばされていた。

「何しとんじゃ!誰が結婚したいって言った!!」

執事に発見されるまでコウリンはルビーに投げ飛ばされ続けたのだった。



そして現在。
第一側妃として正式に入内したが、ルシアード皇帝陛下を目の前にした瞬間、緊張のあまり気絶してしまった。憧れとして遠くで見ていたかったルビーは、具合が悪いと嘘を言い部屋に篭っていた。女官達は部屋に篭り何やらブツブツと言いながら、ひたすら机に向かい何やら書いている不気味なルビーについていけなくなりすぐに辞めていく。

唯一残っているのがシトラだった。シトラは伯爵家出身で父親同士が仲が良く、彼女とは昔からの幼馴染であった為に抜擢されたのだ。

二人で気ままにこのまま過ごしていこうと思っていた矢先、私は衝撃的な出会いをする事になった。そう、ルシアード皇帝陛下に瓜二つの幼女であった。彼女の名前はアレクシア、キネガー公爵の長女であるスーザン妃とルシアード皇帝陛下の娘で第四皇女である。

詳しくは知らないが、何故か死んだ事にされていた悲劇の皇女らしい。あの気の強いスーザン妃にどんな酷い仕打ちをされたのか、考えただけで寒気がする。幼い皇女の心の傷は計り知れないだろうと思っていたが⋯。

「この部屋は何でしゅか!!それにくしゃいでしゅよ!!」

プンスカ怒りながら堂々と部屋に入ってくるアレクシアに驚きつつも、その皇帝陛下に瓜二つの顔に釘付けになってしまう。私が風呂に入れば、自分の絵姿を描いていいと言ってくれた優しい皇女に感動していたら、遠慮がないシトラに引き摺られていた。

そしてウキウキしながら戻って行くと、そこには更に美貌に磨きがかかったルシアード皇帝陛下がいるではないか!!じゅる⋯。はっ!!

会話までしてしまったこの日を私は一生忘れないだろう。


それからもアレクシア皇女は度々やって来た。
ペットの子犬ちゃんと共にふらりとやって来ては、私が書いた小説を腹を抱え笑いながらも楽しそうに読んでいた。

「あっ、お茶は渋く濃いめでお願いしましゅ!」

「はい、喜んで!!」

ソファーに寝転びながら、図々しくもそう言うアレクシアに対して何故か嬉しそうに返事をするシトラ。そして子犬ちゃん達はルシアード皇帝陛下の絵姿を見て尻尾を振りながら転げ回っていた。笑っている様にも見えるが気のせいだろうか?

その日も突然現れて、いつもの様にソファーに寝転びながら小説を読み始めたアレクシア皇女と今後の展開について熱く語り合っていた。

「ライバルは貴族の令嬢が良いでしゅよ!シアの母上みたいな意地悪で我儘な感じが良いでしゅよ!」

「答えずらいですわ⋯」

お茶を啜りながらルシアードの絵姿に落書きを始めたアレクシア。綺麗に整った眉をこれでもかと太くして、綺麗な鼻の下にリアルな髭を描いていく。それを必死に止めるルビー。

「アレクシア様!!ああっ!?何て事を⋯」絵姿を見てガタガタ震えるルビー。

「凛々しくなりまちた!この方は父上っぽいでしゅよ?」

「どこがじゃ!ああっ⋯せっかくの綺麗な顔が髭ゴリラみたいに⋯」

ルビーの嘆きに腹を抱えて笑っていたアレクシアだが、そこへルビーの専属女官シトラが急いでやって来た。

「ルビー様、コウリン様がいらっしゃいました」

「分かったわ。アレクシア様、申し訳ありませんが⋯「コウリン・スライダー侯爵でしゅね!!帝国の英雄に挨拶しましゅ!!」

アレクシアはそう言うと、ルビーよりも先に子犬ちゃん達と客間に歩いて行くのだった。



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