転生皇女は冷酷皇帝陛下に溺愛されるが夢は冒険者です！

８章 アレクシアと竜の谷の人々

凶悪な男を教育します！！

「⋯⋯今、何と言いましたか？」

衝撃的過ぎて一瞬だけだが呆気にとられるアランカルト。

「牢屋に入って耳が悪くなったんでしゅか？だから！シアの専じょくひちゅ⋯ひ⋯ひちゅじにしましゅ！」

「む。アレクシア、ひちゅじじゃない執事だ。それに俺はまだ反対だぞ？」

空気の読めないルシアードがアレクシアに指摘をして鉄拳を喰らっているがそれを彼は何故か嬉しそうに受け入れている。

「ふー！⋯頑丈な父上でしゅね！」息を切らしながら悔しそうに諦めるアレクシア。

目の前で憎き人族が、信じられない事を言っている。先程まで死を覚悟していたアランカルトだったが、またやって来たアレクシアが自分を専属の執事にすると言い出したのだ。

「冗談はやめて下さい！人族の執事だと？そんな事になるならいっそ今すぐに殺せ！！」

もの凄い形相でアレクシアとルシアードを睨み付けるアランカルトの前に音もなく気配もなくやって来た金髪の美少年。

「わしも流石に反対じゃったよ？だがある条件をアレクシアに出して渋々だがその件に許可を出したのじゃ！！」

厳しい顔でアランカルトを見るミルキルズだが、何故か口の端がニヤけている。



時間を少し遡る。
アレクシアの信じられない発言に皆が呆気にとられる。父親であるルシアードも流石に驚いて愛娘を見る。

「おいおい！お前は何を言ってるんだよ！殺されそうになったんだぞ！？それに根っからの人族差別主義の奴を人族の国に入れるのは危険すぎる！」

「これは決定しまちた！シアがアランカルトを教育しましゅ！」

ゼストはアレクシアの突拍子のない考えに猛反対する。

「アレクシアよ！お前に教育の何がわかるんだ！？」

ロウゴイヤも驚きを隠せずアレクシアを説得する。

「失礼でしゅね！あんな弱い奴にアウラード大帝国がやられるというんでしゅか！？」

「む。それは聞き捨てならないな」

アレクシアの発言に父親でアウラード大帝国の皇帝陛下でもあるルシアードも反応する。

「父上！アウラード大帝国の力を見せつけましゅか？」

「そうだな。あれを見せしめにするか？」

ルシアードは鋭い目線をアランカルトの両親に向ける。彼は恐ろしい程の魔力と威圧を放ち始めたが、その威力に竜族も驚いてしまう。ミルキルズやロウゴイヤ、ゼストは興味深そうにルシアードを見ているが、リリノイスやウリドは一瞬だけルシアードに恐怖を感じてしまった。

「もう見せしめになってましゅよ」

子犬従魔達のオシッコにまみれて放心状態のアランカルトの両親を指差して呆れるアレクシア。

「ああ、お前達もよくやったな」

珍しくルシアードが子犬従魔達を褒めている。それには白玉達も驚いて固まったままコテンと倒れてしまった。

「兎に角！！シアは決めまちた！アランカルトをどこに出しても恥ずかちくない立派な男にしましゅ！！ドヤッ！！」

「お前は娘を嫁に出す父親か！！」

ゼストのツッコミについ吹き出してしまったミルキルズやポーポトス、ロウゴイヤなどの老人組だが頭を抱えるリリノイスやゼストに睨まれたので咳払いをして誤魔化していた。

「お前は昔から突拍子もない事を言うが、流石にこれは許可できない」

リリノイスも厳しい顔でアレクシアに告げる。

「リリーしゃん⋯シアはアランカルトにも人生を楽しんで欲しいんでしゅよ。どんな親の元に生まれても自分が変われば人生も変わるんでしゅ！シアがそれを教えてあげるんでしゅよ！！」

昔のアリアナも人族である親に殺されかかったが奇跡的に竜族の族長ゼストに助けられて人生が変わった。その光景は赤子だったのに鮮明に覚えている。親を恨む事も、復讐する事もできただろうがそんな事で折角助けられた命を時間を無駄にしたくなかった。ゼストを始めとしてミルキルズやオウメ、そして竜の里の人々が愛情深く育ててくれたから言えることかもしれないが、アランカルトもあの両親に縛られていなかったら、仲の良い友人がいたなら変わっていたかもしれない。


アレクシアの真剣な言葉に静まり返る中、反対派の代表であるアランルドが立ち上がるとアレクシアの元へ歩いてくる。そしていきなり頭を下げて周りを驚かせた。

「アリ⋯いやアレクシアよ。アランカルトがあんなに歪んでしまったのはわしのせいでもある。すまないが宜しく頼む！彼奴に生きる楽しみを教えてやってくれ⋯」

「おい！あんたも分かっているだろ！？彼奴が人族の国に行くのは危険すぎる！！」

ゼストが猛反対するのも分かる。昔からアリアナに攻撃的な一派の中心にいた人物をわざわざ自分から近くに置いておくのは危険すぎるのだ。

「ジジイが心配するのも分かりましゅがシアの我儘を聞いて下しゃい！いつも良い子だったんでしゅ！初めての我儘くらい聞いてくれても良いじゃないでしゅか！！」

「⋯お前⋯それ本気で言っているのか？」

アレクシアの信じられない言葉に愕然とするゼスト。

「おお！！やはり自覚がないからああも振る舞えるんじゃな！？」

アレクシアの発言に何故か感動すら覚えているポーポトス。

「おいおい世も末だな⋯プッ！」

呆れ過ぎて笑ってしまうウリド。

「我儘の意味を知らんのか！？」

ロウゴイヤは驚いて椅子からずり落ちた。

『こいつ⋯』

化け物を見る様な目でアレクシアを見ているウロボロス。

皆が騒つく中、ルシアードとデズモンドは愛おしそうにアレクシアを見つめ、ランゴンザレスは腹を抱え爆笑していて笑い死にしそうだ。プニやピピデデ兄弟はアレクシアを庇う事なく視線を合わせずに黙ったままだ。リリノイスは馬鹿娘が！！と怒り心頭だ。

『主～！嘘はダメでしゅよ～！！』白玉はアレクシアに猛抗議している。

『恥ずかちい事でしゅよ！！』黒蜜もお説教モードだ。

『『あははは！！』』みたらしときなこは笑い転げている。

あんこは言われ放題のアレクシアを心配してチラチラと様子を伺っている。

そんなカオスの状態の中でずっと黙っていたミルキルズが勢い良く立ち上がったのだった。