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8章 アレクシアと竜の谷の人々

反アリアナ派との一触即発①

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「これ!落ち着くんじゃ!今は此奴の処遇を決めるんじゃろう?」

冷静になったポーポトスが牢の中に視線を向ける。そこには無視され続けて怒りに満ちたアランカルトが憎しみを込めてこちらを睨みつけていた。

「何なんですか?騒ぐなら他所でやってもらって良いですか?」

「む。うちのアレクシアがお前の様子を見たいとわざわざこんな所に足を運んだのに結構な言い草だな?」

アレクシアを守るように自分の背後に隠して怒りを露わにする父親であるルシアード。

「そうだな。こいつの処遇もそうだが、まずはゼスト様がこいつの両親を含めた反アリアナ派を集会所に集めているからそちらに向かおう」

アランカルトを見ようともせずに皆を集会所へ促そうとするデズモンドに賛同して洞窟から出て行こうとする一同。アレクシアは下を向いたままのアランカルトから最後まで目が離せなかった。

洞窟から暫く歩くと、里の中心にある大きな集会所が見えてきた。集会所の入口には先程まで一緒だった筈のゼストがリリノイスと共に立っていた。そんなリリノイスの一歩後ろには可憐な女性が立っていた。

「あっ!メルシーしゃんでしゅ!!昨日はあまり話せましぇんでしたから会えて嬉しいでしゅ!」

「ふふっ!相変わらず可愛いわね~!改めてトトを助けてくれてありがとうございます。そしてトトに友達まで与えてくれたわ!」

そう言って涙ぐむ可憐な女性。薄緑色の瞳に琥珀色の髪の竜族には珍しい小柄で可愛らしいメルシーと呼ばれたこの女性は、リリノイスの妻でありトトの母親だ。

「トトは良い子でしゅ!メルシーしゃんに似たんでしゅね!」

メルシーと仲睦まじく話すアレクシアに厳しい視線を向けるリリノイス。

「遅かったな。もう“皆”が集まってるぞ」

「ジジイ、いないと思ったらいちゅのまに⋯」

含んだようなゼストの言葉に頭を傾げるアレクシア。

不思議に思いながらも開けられた入口に足を踏み入れると、何故か室内が異常に騒がしい。

「おい!何でお前はそうなんだ!?あいつがお前らに何かしたのか!?」

「お前こそ何であんな人族の味方をするんだ!?畑だって荒らされて迷惑していただろ!?」

「お主もいい加減にその思想を止めんか?」

「うるさいわい!最強の戦士があんな人族の小娘に良い様に利用されおって⋯恥ずかしくないのか!?」

集会所の中には想像以上の竜族が集まっていた。ロウゴイヤやロウリヤそしてウリドなどの戦士や側近を始め、平民も参加しているが皆見知った顔だ。

「うわぁ~!爺や婆がいっぱいいましゅね!!」

よちよちと室内に入ってきたアレクシアを見てあからさまに顔を歪める者達が隅の方に肩身が狭そうに座っていた。そう、大半がアレクシアに会いたくて集まった者達で室内が満席で立っている者もいるくらいだ。そして窓の外にはプニやピピデデ兄弟、ロウやトトなどの子供達が見守っている。それに気付いたアレクシアが手を振るとキャッキャと外で大騒ぎしているが、事情を知っているプニやピピデデ兄弟は反対派を睨みつけて威嚇している。

「よぉ!アレクシア!朝ご飯はちゃんと食べたか?」

「よぉ!ゴイ爺!ご飯三杯おかわりちまちた!!」

「ホホっ!相変わらずの食いっぷりよのう~!」

お茶を出されて和気あいあいと話しだすロウゴイヤ率いる引退した老人戦士達とアレクシア。

「肩たたきならシアの右に出るものはいないでしゅよ!!」

「おお、見返りなしで自ら肩たたきしてくれるとは⋯成長したのぅ」

そう言って椅子の上に立ち上がるとロウゴイヤの肩を叩き始めるアレクシアだったが、感動する老人達の言葉にあからさまに目を泳がせる。そんなアレクシアをジト目で見ているゼストやウリド、そしてリリノイス。

「む。俺も最近肩が異常に凝っているんだが⋯」

肩に手を置きアレクシアをチラチラと見ながら様子を伺うルシアード。

「⋯色んな人に恨まれているから何かが憑いているんでしゅよ!悪霊退しゃん!!」

そう言って愛娘に軽くあしらわれる父親ルシアード。

「ハイハイ!!わしも肩が凝ってる!!」

苦しそうに肩をさするミルキルズ。だが⋯

「そんなに若返って何言ってるんでしゅか!!金髪美ちょうにぇん!!」

怒られてしまい落ち込んでいるミルキルズを慰めてあげるアレクシアの五匹の従魔達。彼らはただ暇で遊んで欲しいだけだったがミルキルズは喜んでいる。

「おい!何だこの生温い空気は!?ここに集まったのはこの人族の悪魔をどうするか話し合う為だろう!」

そんな光景を唖然と見ていた反対派が怒りに震えて猛抗議する。

「ああ、すまない。皆静かにして下さい。お前も大人しく座れ」

リリノイスが冷静に進行を始める。注意されたアレクシアは静かに椅子に座る。

「では、貴方達に聞きたいがこのアレクシアをどうしたいんだ?」

「言わなくても分かるだろう!竜の里への立ち入り禁止、いや⋯まぁ一番良いのはこの世からまた消えてくれれば⋯うぐっ!!」

一人の竜族がアレクシアを見ながらこの場で一番言ってはいけない禁句を口にしてしまう。皆が殺気を放ち一触即発の事態になった瞬間にいち早く動いたのは“原初の竜”である黒竜ウロボロスであった。






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