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8章 アレクシアと竜の谷の人々

アランカルトの野望

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竜の里の外れにある大きな洞窟には罪人を拘束する牢がある。竜の里の長い歴史の中でこの牢に入った者は多少なりといたが、こんな大罪を犯して牢に入れられた者はいないだろう。普通の牢屋では強すぎる竜族を拘束できないので、ミルキルズの強力な結界魔法を付加させた特殊な牢をアリアナが開発した。その牢に入れられている大罪の首謀者アランカルトとその仲間達。

項垂れる仲間達を冷めた目で見ながら、アランカルトは昔の事を思い出していた。
竜族の戦士であった両親の元に生まれたアランカルトは、初代族長であるミルキルズ様に憧れていた。だが、厳格で真面目な両親の前ではミルキルズ様に気安く話しかける事は出来なかった。

ミルキルズ様と遊ぶ子竜達を羨ましく思って、仲間に入れてもらいたくて勇気を出して声をかけようと一歩前に歩き出した。だが、感じるのは両親の視線と威圧感。ミルキルズ様を神のように崇み、異常な忠誠心を持つアランカルトの両親はミルキルズ様に馴れ馴れしい子供達との付き合いを決して許さなかった。

そんな抑圧された環境で育った孤独なアランカルトの思想は歪んだ方向へと向かってしまう事になる。

その最大の原因は突然やって来た。
ある日ミルキルズ様の孫で現族長であるゼストが、赤ん坊を連れて戻って来たのだ。“それ”は下等な人間で、無邪気にゼスト様の腕の中で笑っていた。当時側近だったリリノイス様を始め多くの竜族は人間を里に入れるのに反対したが、何故かオウメ殿やロウゴイヤ様といった里の重鎮達が許可を出したのだ。納得いかないアランカルトは両親と共にゼスト様に何度も抗議したが聞き入れてくれなかった。

そして更に納得いかない事は、隠居して洞窟に閉じこもっていたミルキルズ様があの下等な人間と一緒にいた事だ。誰とも会おうとしなかったのに下等な人間ごときに自ら魔法を教えていた。

許せない!憎い!

頭の中であの下等な人族を何回殺したか。それからも仲間をけしかけて襲わせた事があったが、下等な人族は竜族並みの魔力を持っていたので幾度と無く失敗に終わる。何故あんな人族が偉大なるミルキルズ様の側にいるのか、何故ゼスト様はあの下等な人族を拾ってきたのか、何故オウメ殿やロウゴイヤ様は下等な人族を認めているのか。自分の方が優秀でこんなにも里を思っているのに何故私を見てそんな顔をするのですか!!

憎い!憎い!憎い!

そして次第にこう考えるようになった。自分が世界中にうじゃうじゃ湧いている下等な人族を一掃しようと。この世界は竜族だけで良い。人族の次は獣人族、エルフ族、それに魔族も一掃してしまおう。考えている時だけは沸々と湧いていた怒りが鎮まっていく。アランカルトは同じ考えを持つ仲間と少しずつ少しずつ計画を立てていた。

その計画に必要なもの。それは“原初の竜”だ。皆は御伽噺だと信じていないが偶々族長の家に行った時、ミルキルズ様が話しているのを聞いてしまったのだ。この家の地下に封印されていると⋯。

時が経ち、あの下等な人族アリアナが死んだ。旅に出て行ったと思ったらすぐにヨボヨボの婆さんになり里に帰ってきたのだ。歩くのもやっとな状態なのに色んなところに出没しては悪態を突いていた。今思えばアリアナなりの最後の挨拶だったのだろう。

アリアナの死。今まで生きていてあんな愉快な事はなかった。だが、里は思った以上に悲しみに包まれていた。最愛の者の死でミルキルズ様やオウメ殿は日に日に弱っていくのが分かり、ゼスト様は絶望のあまり眠りについてしまった。

腑抜け共が!

そして今が絶好のチャンスだと思い、仲間と共に計画を実行に移す事にした。最強の戦士であるロウゴイヤ様やロウジ様もアリアナのお陰で戦士になった農民も悲しみに暮れていて相手にもならない。煩い実力者の子供達を時期を見て人質にしたりと、順調に進んでいた筈だった。が、ゼスト様が急に目覚めて全てが狂い始めた。

「まさか⋯アリアナが⋯くそ!いや、まだだ⋯まだ終わらせない!」

「何が終わらせないんでしゅか?」

アランカルトの悍ましい呟きに、答える幼子の声。洞窟の暗闇をよちよちと歩いてこちらに向かって来る憎しみの根源。




遡る事、数時間前。

故意(多分)ではなく寝ぼけて枕にしてしまったウロボロスに叩き起こされたアレクシア。

「痛いでしゅね!」

『俺は重かったんだよ!何を食ったらそんなに重い頭になるんだ!?』

「脳みちょがいっぱい詰まってるんでしゅよ!」

ウロボロスはアレクシアの頬をつねり、アレクシアはウロボロスの鱗をペチペチ叩きながら喧嘩をしていた。

「良いのぅ~!こんなに幸せな朝は久しぶりじゃよ!!」

「⋯ミル爺⋯。ふんどし一丁で何ちてるんでしゅか?」

『見た目が若いから尚更変態じゃねーか!』

ふんどし姿で体操をするミルキルズにドン引きのアレクシアとウロボロス。昔は気にも留めなかったミルキルズの習慣だが、若返った少年の姿でのふんどし姿に違和感が半端ない。そこへ起こしに来たオウメはミル爺を見るなり無言で引きずっていった。

「オウメは怖いでしゅ。絶対怒らせたらダメでしゅよ!」

『それはお前もな?』

呆れるウロボロスを頭に乗せて、朝ごはんのいい匂いがする広間へよちよちと歩いていたら、父親であるアウラード大帝国皇帝陛下ルシアードが稀少な笑顔で迎えてくれた。

「アレクシア、よく眠れたか?」

愛娘を抱っこして意気揚々に歩き出す。

「ん~⋯枕が硬くてあまり⋯」

『おい!ぐうすか寝てたぞ!!それにお前、夜中に変態魔王がやって来たのを知らないだろ!!俺が追い出してやったんだ!!』

「あいつ、今すぐ殺す」

ウロボロスの衝撃発言に怒り心頭のルシアード。

「おはよう、アレクシア⋯とその他。」

そこへやって来たのは噂の変態魔王デズモンドであった。




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