71 / 142
8章 アレクシアと竜の谷の人々
アランカルトの野望
しおりを挟む
竜の里の外れにある大きな洞窟には罪人を拘束する牢がある。竜の里の長い歴史の中でこの牢に入った者は多少なりといたが、こんな大罪を犯して牢に入れられた者はいないだろう。普通の牢屋では強すぎる竜族を拘束できないので、ミルキルズの強力な結界魔法を付加させた特殊な牢をアリアナが開発した。その牢に入れられている大罪の首謀者アランカルトとその仲間達。
項垂れる仲間達を冷めた目で見ながら、アランカルトは昔の事を思い出していた。
竜族の戦士であった両親の元に生まれたアランカルトは、初代族長であるミルキルズ様に憧れていた。だが、厳格で真面目な両親の前ではミルキルズ様に気安く話しかける事は出来なかった。
ミルキルズ様と遊ぶ子竜達を羨ましく思って、仲間に入れてもらいたくて勇気を出して声をかけようと一歩前に歩き出した。だが、感じるのは両親の視線と威圧感。ミルキルズ様を神のように崇み、異常な忠誠心を持つアランカルトの両親はミルキルズ様に馴れ馴れしい子供達との付き合いを決して許さなかった。
そんな抑圧された環境で育った孤独なアランカルトの思想は歪んだ方向へと向かってしまう事になる。
その最大の原因は突然やって来た。
ある日ミルキルズ様の孫で現族長であるゼストが、赤ん坊を連れて戻って来たのだ。“それ”は下等な人間で、無邪気にゼスト様の腕の中で笑っていた。当時側近だったリリノイス様を始め多くの竜族は人間を里に入れるのに反対したが、何故かオウメ殿やロウゴイヤ様といった里の重鎮達が許可を出したのだ。納得いかないアランカルトは両親と共にゼスト様に何度も抗議したが聞き入れてくれなかった。
そして更に納得いかない事は、隠居して洞窟に閉じこもっていたミルキルズ様があの下等な人間と一緒にいた事だ。誰とも会おうとしなかったのに下等な人間ごときに自ら魔法を教えていた。
許せない!憎い!
頭の中であの下等な人族を何回殺したか。それからも仲間をけしかけて襲わせた事があったが、下等な人族は竜族並みの魔力を持っていたので幾度と無く失敗に終わる。何故あんな人族が偉大なるミルキルズ様の側にいるのか、何故ゼスト様はあの下等な人族を拾ってきたのか、何故オウメ殿やロウゴイヤ様は下等な人族を認めているのか。自分の方が優秀でこんなにも里を思っているのに何故私を見てそんな顔をするのですか!!
憎い!憎い!憎い!
そして次第にこう考えるようになった。自分が世界中にうじゃうじゃ湧いている下等な人族を一掃しようと。この世界は竜族だけで良い。人族の次は獣人族、エルフ族、それに魔族も一掃してしまおう。考えている時だけは沸々と湧いていた怒りが鎮まっていく。アランカルトは同じ考えを持つ仲間と少しずつ少しずつ計画を立てていた。
その計画に必要なもの。それは“原初の竜”だ。皆は御伽噺だと信じていないが偶々族長の家に行った時、ミルキルズ様が話しているのを聞いてしまったのだ。この家の地下に封印されていると⋯。
時が経ち、あの下等な人族アリアナが死んだ。旅に出て行ったと思ったらすぐにヨボヨボの婆さんになり里に帰ってきたのだ。歩くのもやっとな状態なのに色んなところに出没しては悪態を突いていた。今思えばアリアナなりの最後の挨拶だったのだろう。
アリアナの死。今まで生きていてあんな愉快な事はなかった。だが、里は思った以上に悲しみに包まれていた。最愛の者の死でミルキルズ様やオウメ殿は日に日に弱っていくのが分かり、ゼスト様は絶望のあまり眠りについてしまった。
腑抜け共が!
そして今が絶好のチャンスだと思い、仲間と共に計画を実行に移す事にした。最強の戦士であるロウゴイヤ様やロウジ様もアリアナのお陰で戦士になった農民も悲しみに暮れていて相手にもならない。煩い実力者の子供達を時期を見て人質にしたりと、順調に進んでいた筈だった。が、ゼスト様が急に目覚めて全てが狂い始めた。
「まさか⋯アリアナが⋯くそ!いや、まだだ⋯まだ終わらせない!」
「何が終わらせないんでしゅか?」
アランカルトの悍ましい呟きに、答える幼子の声。洞窟の暗闇をよちよちと歩いてこちらに向かって来る憎しみの根源。
遡る事、数時間前。
故意(多分)ではなく寝ぼけて枕にしてしまったウロボロスに叩き起こされたアレクシア。
「痛いでしゅね!」
『俺は重かったんだよ!何を食ったらそんなに重い頭になるんだ!?』
「脳みちょがいっぱい詰まってるんでしゅよ!」
ウロボロスはアレクシアの頬をつねり、アレクシアはウロボロスの鱗をペチペチ叩きながら喧嘩をしていた。
「良いのぅ~!こんなに幸せな朝は久しぶりじゃよ!!」
「⋯ミル爺⋯。ふんどし一丁で何ちてるんでしゅか?」
『見た目が若いから尚更変態じゃねーか!』
ふんどし姿で体操をするミルキルズにドン引きのアレクシアとウロボロス。昔は気にも留めなかったミルキルズの習慣だが、若返った少年の姿でのふんどし姿に違和感が半端ない。そこへ起こしに来たオウメはミル爺を見るなり無言で引きずっていった。
「オウメは怖いでしゅ。絶対怒らせたらダメでしゅよ!」
『それはお前もな?』
呆れるウロボロスを頭に乗せて、朝ごはんのいい匂いがする広間へよちよちと歩いていたら、父親であるアウラード大帝国皇帝陛下ルシアードが稀少な笑顔で迎えてくれた。
「アレクシア、よく眠れたか?」
愛娘を抱っこして意気揚々に歩き出す。
「ん~⋯枕が硬くてあまり⋯」
『おい!ぐうすか寝てたぞ!!それにお前、夜中に変態魔王がやって来たのを知らないだろ!!俺が追い出してやったんだ!!』
「あいつ、今すぐ殺す」
ウロボロスの衝撃発言に怒り心頭のルシアード。
「おはよう、アレクシア⋯とその他。」
そこへやって来たのは噂の変態魔王デズモンドであった。
項垂れる仲間達を冷めた目で見ながら、アランカルトは昔の事を思い出していた。
竜族の戦士であった両親の元に生まれたアランカルトは、初代族長であるミルキルズ様に憧れていた。だが、厳格で真面目な両親の前ではミルキルズ様に気安く話しかける事は出来なかった。
ミルキルズ様と遊ぶ子竜達を羨ましく思って、仲間に入れてもらいたくて勇気を出して声をかけようと一歩前に歩き出した。だが、感じるのは両親の視線と威圧感。ミルキルズ様を神のように崇み、異常な忠誠心を持つアランカルトの両親はミルキルズ様に馴れ馴れしい子供達との付き合いを決して許さなかった。
そんな抑圧された環境で育った孤独なアランカルトの思想は歪んだ方向へと向かってしまう事になる。
その最大の原因は突然やって来た。
ある日ミルキルズ様の孫で現族長であるゼストが、赤ん坊を連れて戻って来たのだ。“それ”は下等な人間で、無邪気にゼスト様の腕の中で笑っていた。当時側近だったリリノイス様を始め多くの竜族は人間を里に入れるのに反対したが、何故かオウメ殿やロウゴイヤ様といった里の重鎮達が許可を出したのだ。納得いかないアランカルトは両親と共にゼスト様に何度も抗議したが聞き入れてくれなかった。
そして更に納得いかない事は、隠居して洞窟に閉じこもっていたミルキルズ様があの下等な人間と一緒にいた事だ。誰とも会おうとしなかったのに下等な人間ごときに自ら魔法を教えていた。
許せない!憎い!
頭の中であの下等な人族を何回殺したか。それからも仲間をけしかけて襲わせた事があったが、下等な人族は竜族並みの魔力を持っていたので幾度と無く失敗に終わる。何故あんな人族が偉大なるミルキルズ様の側にいるのか、何故ゼスト様はあの下等な人族を拾ってきたのか、何故オウメ殿やロウゴイヤ様は下等な人族を認めているのか。自分の方が優秀でこんなにも里を思っているのに何故私を見てそんな顔をするのですか!!
憎い!憎い!憎い!
そして次第にこう考えるようになった。自分が世界中にうじゃうじゃ湧いている下等な人族を一掃しようと。この世界は竜族だけで良い。人族の次は獣人族、エルフ族、それに魔族も一掃してしまおう。考えている時だけは沸々と湧いていた怒りが鎮まっていく。アランカルトは同じ考えを持つ仲間と少しずつ少しずつ計画を立てていた。
その計画に必要なもの。それは“原初の竜”だ。皆は御伽噺だと信じていないが偶々族長の家に行った時、ミルキルズ様が話しているのを聞いてしまったのだ。この家の地下に封印されていると⋯。
時が経ち、あの下等な人族アリアナが死んだ。旅に出て行ったと思ったらすぐにヨボヨボの婆さんになり里に帰ってきたのだ。歩くのもやっとな状態なのに色んなところに出没しては悪態を突いていた。今思えばアリアナなりの最後の挨拶だったのだろう。
アリアナの死。今まで生きていてあんな愉快な事はなかった。だが、里は思った以上に悲しみに包まれていた。最愛の者の死でミルキルズ様やオウメ殿は日に日に弱っていくのが分かり、ゼスト様は絶望のあまり眠りについてしまった。
腑抜け共が!
そして今が絶好のチャンスだと思い、仲間と共に計画を実行に移す事にした。最強の戦士であるロウゴイヤ様やロウジ様もアリアナのお陰で戦士になった農民も悲しみに暮れていて相手にもならない。煩い実力者の子供達を時期を見て人質にしたりと、順調に進んでいた筈だった。が、ゼスト様が急に目覚めて全てが狂い始めた。
「まさか⋯アリアナが⋯くそ!いや、まだだ⋯まだ終わらせない!」
「何が終わらせないんでしゅか?」
アランカルトの悍ましい呟きに、答える幼子の声。洞窟の暗闇をよちよちと歩いてこちらに向かって来る憎しみの根源。
遡る事、数時間前。
故意(多分)ではなく寝ぼけて枕にしてしまったウロボロスに叩き起こされたアレクシア。
「痛いでしゅね!」
『俺は重かったんだよ!何を食ったらそんなに重い頭になるんだ!?』
「脳みちょがいっぱい詰まってるんでしゅよ!」
ウロボロスはアレクシアの頬をつねり、アレクシアはウロボロスの鱗をペチペチ叩きながら喧嘩をしていた。
「良いのぅ~!こんなに幸せな朝は久しぶりじゃよ!!」
「⋯ミル爺⋯。ふんどし一丁で何ちてるんでしゅか?」
『見た目が若いから尚更変態じゃねーか!』
ふんどし姿で体操をするミルキルズにドン引きのアレクシアとウロボロス。昔は気にも留めなかったミルキルズの習慣だが、若返った少年の姿でのふんどし姿に違和感が半端ない。そこへ起こしに来たオウメはミル爺を見るなり無言で引きずっていった。
「オウメは怖いでしゅ。絶対怒らせたらダメでしゅよ!」
『それはお前もな?』
呆れるウロボロスを頭に乗せて、朝ごはんのいい匂いがする広間へよちよちと歩いていたら、父親であるアウラード大帝国皇帝陛下ルシアードが稀少な笑顔で迎えてくれた。
「アレクシア、よく眠れたか?」
愛娘を抱っこして意気揚々に歩き出す。
「ん~⋯枕が硬くてあまり⋯」
『おい!ぐうすか寝てたぞ!!それにお前、夜中に変態魔王がやって来たのを知らないだろ!!俺が追い出してやったんだ!!』
「あいつ、今すぐ殺す」
ウロボロスの衝撃発言に怒り心頭のルシアード。
「おはよう、アレクシア⋯とその他。」
そこへやって来たのは噂の変態魔王デズモンドであった。
131
お気に入りに追加
6,786
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?
和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」
腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。
マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。
婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。