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8章 アレクシアと竜の谷の人々

竜族の力

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ルシアードとデズモンドは何が起こったのか分からないまま中庭に吹っ飛んでいた。ただ見えたのは、ミルキルズが軽く人差し指を二人の前に出して弾く仕草をしただけだった。

「何じゃ!お前達はこんなもんか!?そんなんじゃあ、アレクシアを任せられんぞ!?」

ミルキルズは縁側にゆったりと座りながら二人を煽っている。起き上がったルシアードは己に付いた土埃を払いながらも、全身から魔力を溢れさせてそれを愛剣に集中させ、デズモンドも同じく全身から魔力を自身に溢れさせてミルキルズを睨み付けていた。

「おお!!中々の魔力じゃな!」

その騒ぎに急いで駆けつけたランゴンザレスと大賢者ポーポトスは事態が飲み込めずにミルキルズの横で呆れているゼストに説明を求める。

「これは何の騒ぎよ!!」

「はぁ⋯騒ぎはあの子だけで十分なのにのぅ⋯」

「すまない⋯こうなった爺様を止めるのは俺にも難しい。」

「まさかあの子と誰が一緒に寝るかでこの騒ぎじゃないわよね!?」

鋭いランゴンザレスの言葉に、スッと視線を逸らすゼスト。

「もう!ミルキルズ様!!いい加減にして下さいよ!こんな事ぐらいで騒がないで⋯」

ランゴンザレスは話終わる前に二人と同じように吹っ飛んでいた。すぐに起き上がり信じられない思いでミルキルズを見た。だが、そこには怒りに満ちたドス黒いオーラを隠さずに放つミルキルズがいた。

「こんな事ぐらいじゃと?アレクシアはわしの大事なひ孫じゃぞ!奇跡が起こってまた⋯また帰って来てくれたんじゃ!!」

ドス黒いオーラに包まれたミルキルズを見たポーポトスは急いでどこかに消えていく。ゼストはミルキルズの変化に驚きつつも攻撃態勢のルシアード達とミルキルズの間に入り説得を試みる。

「爺様!落ち着いて下さい!!」

「何じゃ!?孫よ!お前もわしの邪魔をするのか!?」

狂気に満ちたミルキルズは孫であるゼストも吹き飛ばそうとしたが、彼は間一髪で防御壁を出して回避する。その隙にルシアードが攻撃を仕掛け、炎を纏った剣でミルキルズの首元を狙うが彼の全力をもってしても弾き返されてしまう。デズモンドも負けじと究極光魔法『ホーリースター』を放とうとするが、ランゴンザレスとゼストに止められる。

「それは流石に駄目ですよ!!」

「おい!竜の谷を破壊するつもりか!?」

デズモンドの事はランゴンザレスが必死で抑えているが限界がある。ルシアードはそんな外野を気にする事なくミルキルズに攻撃を仕掛けるが、ミルキルズの防御壁を破ることすら出来ない。いくらルシアードが最強でも、竜族の生きる伝説であり更に若返ったミルキルズには到底勝てるわけがないのだ。

これ以上戦ったら被害が甚大になる恐れがあるので、ゼストはミルキルズを抑える為に力を解放する事にした。

次の瞬間には天が割れ黄金の光が辺りを照らし、ミルキルズに引けを取らない莫大な魔力を纏ったゼストがいた。だが、恐ろしいのはミルキルズが全力を出していない事だ。しかしゼストは死ぬ覚悟でミルキルズを抑えるしかない理由があった。

(爺様⋯邪竜化してきている。)

そう、今まで我慢してきたアリアナ(アレクシア)への思いから邪竜化しそうになっていた。目の前で年老いていき、目の前で亡くなっていった愛しいひ孫アリアナ。その後、孫であるゼストや他の竜族が悲しんでいる間も気丈に振る舞っていたミルキルズだが、酷い悲しみと何もしてあげられなかった自分への怒りで少しずつ身体がドス黒い感情に蝕まれていった。

だが自らを弱らせる事によって邪竜化する前に死ぬはずだった。だが奇跡が起こったのだ!愛しのひ孫が帰って来たのだ!嬉しさでいっぱいだったが、自分が若返り力も戻った今、ドス黒いオーラを抑える事が出来ずにアレクシアを独占したい感情に歯止めが効かなくなっていた。

睨み合う孫ゼストと祖父ミルキルズ。

「何やってんでしゅかーーーー!!!」

そこへポーポトスに抱えられたアレクシアが怒りの形相でやって来た。

「いいジジイ達が何やってんでしゅか!!おちび達が怖がってましゅよ!!」

恐ろしい力を感じ、オウメに抱えられて震えていたロウやトトを思い出すアレクシア。プニやピピデデ兄弟もガタガタ震えていて白玉達が一生懸命に慰めていた。

ミルキルズはそんなアレクシアを見ると、今まで放っていたドス黒いオーラが少しずつ消えていく。それを見たゼストも力を抑え始めたが、まだ警戒していた。

「ミル爺!!何で⋯何で邪竜になろうとしてるんでしゅか!!」

「アレクシアよ⋯すまないのぅ⋯わしは自分の弱さに負けたんじゃ⋯あの時のお前が頭から離れんのじゃ⋯もうあんな光景は見たくない」

そう言いながら崩れ落ちるミルキルズを見たアレクシアは溢れ出す涙を拭うことなく思いっきり抱きしめる。

「ごめんなしゃいミル爺!!先に死んじゃって⋯ミル爺やジジイ⋯オウメやみんなを置いて死んじゃって⋯うわぁーーーん!」

「うぅ⋯アレクシア⋯もう先にいなくならんでくれ⋯」

ミルキルズも涙を流しながらアレクシアを強く抱き締める。それを見ていたゼストやポーポトスも辛い記憶が蘇り涙を流している。デズモンドも下を向き涙を必死で堪えていた。ランゴンザレスもアリアナがいなくなる辛さを知っているので心が痛い。

そんな光景を見ていたルシアードも愛娘アレクシアがいなくなるなんて考えたくないが、ミルキルズ達を見ていると現実感が湧き心が騒つく。こんな気持ちは初めてなので戸惑うが、今は考えるのをやめてこの状況を見守る事にした。

この大騒ぎにロウゴイヤ率いる竜族最強戦士達がすぐに駆けつけたが、禍々しい魔力は既に収まっていて泣きながら抱き合うアレクシアとミルキルズと、それを見守る者達がいたのだった。

それからゼストがロウゴイヤ達に事情を説明してこの場は一応は収まった。ロウゴイヤやウリドはミルキルズの気持ちが痛い程に分かるので敢えて何も言わなかった。そして泣き疲れて眠ってしまったアレクシアを愛おしそうに抱き抱えると、敷いた布団に寝かせてあげるミルキルズは何処となくスッキリした顔をしていた。スヤスヤ眠るアレクシアを優しく見つめ、頭を撫でて出て行こうとしたミルキルズだがいきなりアレクシアに袖を掴まれて驚く。

「ミル爺⋯いっちょに⋯ねま⋯しゅよ」

寝ぼけているのか、またスヤスヤ眠り始めたアレクシアだがミルキルズを離そうとしない為、結局一緒に寝る事になった。ゼストが不服そうなルシアードとデズモンドを宥めていたが、二人も今回は何も言わなかった。

気になって見に来たウロボロスは、嬉しそうにアレクシアと眠るミルキルズから邪悪なオーラが消えているのを感じてホッとしていた。

「良かった。お前を殺めたく無かったから⋯」

そう言って二人の間に潜り眠り始めたウロボロスだったが、次の朝には何故かアレクシアの枕になっていたのだった。





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