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8章 アレクシアと竜の谷の人々

閑話 あの事件の真相!?〜アレクシア幼女の事件簿〜

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これは世界随一の守備を誇るアウラード大帝国の城で起こってしまったボヤ騒ぎ事件の真相に迫るお話です。

「暇でしゅ!!」

アウラード大帝国の帝都にある城の執務室から聞こえるはずのない幼い子供の声。執務室に入って一番奥にある重厚な執務机にはこの大帝国の皇帝であるルシアードが座っている筈だが、何故か今座っているのは三歳になったばかりのアレクシア第四皇女だった。

この日もいつも通りに父親であるルシアードに連れられて執務室にやって来たアレクシア。定位置であるルシアードの膝の上に座りながら、昼ご飯の事を考えつつも奇襲してきた眠気と戦っていた時、アレクシアの叔父でもある有能過ぎる側近ロインが入ってきた。

「ルシアード皇帝陛下、定例報告会議の時間ですので謁見の間へ向かいましょう。」

「む。アレクシアも連れて⋯「ダメです。」

食い気味に却下したロインを睨み付けるルシアードだが、顔色一つ変えないロイン。

「陛下、可愛らしい皇女様を欲望渦巻く貴族連中の前に連れて行くというのは如何なものでしょうか?」

「⋯⋯。」

「中には変態⋯「アレクシア、すぐに戻って来るからここで待っていてくれ」

ロインが悍しい事を言う前に立ち上がったルシアードはアレクシアを抱き締め⋯そして抱き締め続けるので痺れを切らしたロインが引きずる様に連れ出した。その後に女官が沢山のお菓子を持って来てくれたが、約二分で飽きたアレクシアは椅子から降りるとポケットから笛を取り出して思いっきり吹く。だが、肝心の音が聞こえない。

するとすぐに執務室のドアが開き、困り果てた護衛の兵士が顔を覗かせる。

「皇女様、その⋯この子犬達がいきなりやって来て⋯っておい!勝手に入るな!」

兵士の隙を突いてドアの隙間からよちよちと入って来た五匹の子犬たち。

「大丈夫でしゅよ。この犬笛でシアが呼んだんでしゅ!集合~!!」

『白玉来まちたよ~!!』

『黒蜜もでしゅ!!』

『みたらし参上ー!!』

『きなこでしゅよ~』

『⋯あんこ!』

綺麗に横並びして座る五匹の従魔達は大好きな主に呼ばれて嬉しいのか盛大に尻尾を振っている。

アレクシアは昨日狩りに出かけた時に釣った魚を亜空間から取り出し、父親であるルシアードと出会う前の自給自足時代から愛用している魚焼きセットを取り出す。

「お腹が空きまちたが、お菓子というより今は魚を食べたい気分なので⋯焼きましゅ!!」

『『『『『わぁーーーい!!』』』』』

アレクシアの提案に小躍りして喜ぶ五匹。

「ふふふ⋯今日は小うるさいランしゃんも魔国に行ってていないでしゅし、ジジイはロイン叔父上に拉致監禁されていましゅ⋯プッ」

そう、いつも一緒にいるランゴンザレスは魔国に用事があり出かけていて不在だ。見かけや態度があんな感じで誤解されやすいが、一番常識人でアレクシアを上手く制御してくれている希少な存在なのだ。そして前世アリアナ時代の育ての親であるゼストは竜族であるがゆえに人族の常識に疎く、それに危機感を抱いたロインが自ら手本となり教えているらしい。それが過酷極まりないと風の噂で聞いたアレクシアだが、姿が見えないゼストの居場所は分かっているし、関わると大火傷しそうなのであえて触れないでいた。

「生きてるかな、ジジイ⋯」

そう言いながら器用に魚の下処理をしつつ、お手製七輪に炭火を入れて火をつけた。良い具合になったところで魚やイカなどの海産物を並べていくアレクシア。次第にいい匂いと共に煙が上がってきたので子犬達がこれまた器用に窓を開けた。

「特製タレをかける子犬~!!手を上げて下しゃいな!!」

『『『『『ハァーーーイ!!』』』』』全員右足をピッとあげる。

とても楽しそうなアレクシアと五匹だが、執務室から出始めた煙に城内外は騒然となっていく。

「おい!いきなり執務室から煙が上がってるぞ!?」

「陛下は今どこにいる!?」「謁見の間だが、これは敵襲か!?あり得ないが⋯急いで報告して来い!!」

「⋯でも何か魚臭くないか?」

この騒動はすぐに謁見の間にいるルシアードとロインの耳に入り、急いで執務室に駆け付けた。が、ドアは開いていて護衛兵士が唖然と立ち尽くしていた。

「どうしました?報告しなさい!アレクシア皇女は⋯「ゲッ!この声はロイン叔父上でしゅ!早く食べて逃げましゅよ!!」

『『『『『やばいでしゅ!!⋯もぐもぐ⋯』』』』』

聞こえてきた声と漂う魚臭に嫌な予感がしながらも、部屋に入ったロインが見た異様な光景に唖然としてしまう。執務机の横で煙が出ている丸いモノを囲んでいる幼女と子犬達。そしてそれぞれの口が忙しく動いている。

「⋯皇女。⋯⋯美味しいですか?」

ロインは自分でも間抜けな質問だと思ったが、自然と出てしまった。

「もぐもぐ⋯おいちいでしゅ⋯。」

ロインや兵士達の視線がルシアードに集中する。アレクシアを見つめて微動だにしないので、流石に怒っていると思ったのだが⋯。

「む。アレクシア、俺も入れてくれ。これはあのタレだろう?」

そう言ってアレクシアと共に床に座る皇帝陛下に開いた口が塞がらない一同。

「父上、シアが食べさせてあげる券を買いましゅか?」

「良い値を払おう」

アレクシアの問いに即答するルシアードだが、悪魔の微笑みを浮かべたロインがそこに立ちはだかった。

「いい加減にしなさい、地獄を見たいですか?」

焼いていた魚が一瞬で凍り付き、危険を察知した五匹はすぐにでも逃げようとしたが悪魔からは逃げられずにお腹を見せて降伏した。ルシアードは即謁見の間に戻されて、アレクシアは笑顔のロインに引きずられ闇に消えたのだった。

暫くしてピンクの派手なスーツを着たランゴンザレスが帰って来た。

「ん?んん!!やだ⋯なにこの城!?魚に攻め入られたの!?」

主犯 アレクシア(三歳) 魚という字を一万回書く刑
共犯 白玉・黒蜜・みたらし・きなこ・あんこ(犯人の従魔)  一週間野菜生活の刑で幕を閉じた。


*これから定期的にアレクシア幼女の事件簿を書こうかな(笑)















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