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8章 アレクシアと竜の谷の人々
閑話 ウリド奮闘記①
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これはアリアナ率いる悪ガキ集団に立ち向かった竜族ウリドの奮闘記である。
「おーい、ウリド!悪いけどうちの畑を耕すの手伝ってくれ!」
「ああ、分かった!ちょっと待っててくれ!」
竜族の中でも一際大柄な青年。青紫色の瞳で赤髪を短く切り揃えた好青年で屈強な体格に反して、内向的な性格で大人しく人が良い為か何かと雑用や力仕事を押しつけられる。それにも気付かずに快く引き受けて朝から夜遅くまで働き詰めだ。
だが、元々畑仕事が好きで全然苦にならないウリドはこのままごく平凡に生きていくはずだった。あの悪魔が現れるまでは⋯
ある日、ウリドの畑に小さな影が迫っていた。
「良いでしゅか!ここのオレンは甘くておいちいんでしゅよ!でもジジイが一日一個しか食べさせてくれないんでしゅ⋯だから思いっきり食べたいと思いましゅ!」
小さな影の主で悪ガキ集団のボスであるアリアナが堂々と宣言した。
「あら、何で私まで犯罪の片棒を担がないといけないのよ!」
優等生から悪ガキオネェに生まれ変わったランゴンザレスがアリアナの発言に呆れていた。
「いいから!これが袋でしゅ!ここに入れて下しゃいな!」
有無を言わさずにランゴンザレスに袋を渡して畑に入って行くアリアナ。しょうがなく幼子の後を追うランゴンザレスだが何処となく好奇心を刺激されているようだ。今まで我慢を強いられてきた反動だろうか。
「キシシ⋯美味しそうでしゅね!」
「キシシって⋯早く取って行くわよ!」
ランゴンザレスに急かされながら一個、また一個と袋に入れていくアリアナだったがその後ろから大きな影が迫っていた。
「おい!そこで何やってる!」
ウリドは自分の畑に入って行く小さな影に気付いた。ここは竜族の里だ、小動物は決して近づくことはない。彼が見たのは黒髪の小さな幼子と紫色の髪の綺麗な少年だった。
「げっ!見つかりまちた!」
アリアナは袋を担ぐとそそくさと逃げようとしたが、簡単に首根っこを掴まれてしまう。ランゴンザレスは諦めて降参のポーズをとっていた。
「ランしゃん、助けて下しゃいな!」
「あら、この屈強な竜族に立ち向かえって言うの~?無理よ~!」
「魔公爵が何言ってんでしゅか!もう、おじしゃん降ろちて!」
アリアナが足をバタつかせて抗議する。
「お前達は何処の子だ!?親の所に案内しろ!」
「⋯親はいましぇん⋯。スン⋯お腹がしゅいて⋯スン」
畑を荒らされて物凄い勢いで怒っていたウリドだが、幼子の涙の告白に心を痛めて急いで降ろしてあげる。
「腹が空いてんのか?じゃあ今回は多めに見てやる。これからはちゃんと俺に声をかけて⋯「おーい、アリアナ!ここにおったのか!」
畑の入り口でこちらに手を振る人物を見たウリドは驚愕し、急いでその人物の前に駆けつけると平伏した。
「あ⋯あのミルキルズ様、どうしてこんな所にいらっしゃるのですか!!」
そこには初代竜族族長であるミルキルズが立っていた。竜族にとってミルキルズやゼストは雲の上の偉大な存在で滅多に会える事はないはずだが、何故か今目の前でこちらに向かい手を振っていた。
「ああ、ひ孫の気配を追って来たんじゃが、お主は?」
「ウリドと申します!ここでオレンを育てています!」
「おお!オレンはアリアナの大好物でな!」
そう言うミルキルズの視線の先にはあの幼子がいた。
「⋯あの、ひ孫というのはそこにいる幼子ですか?」
「ああ、可愛いじゃろ?アリアナよ、こっちにおいで!」
嬉しそうに手を振るミルキルズの横でアリアナをジト目で見つめるウリド。そこへ気まずそうにやって来たアリアナとランゴンザレス。
「ミルキルズ様のひ孫なのか?」
ウリドは噂でゼスト様が人間の子を連れてきたと聞いたことがあった。それがもし本当なら竜族の気配が全くしないこの幼子の事だろう。
「⋯誰でしゅか、この爺しゃん!わたちは知りましぇん!」
「ガーーン!ミル爺ショック!!」
アリアナの爆弾発言にショックを隠しきれないミルキルズはその場に崩れ落ちた。
「ミルキルズ様!?おい、この方は偉大なる初代竜族族長だぞ!」
ウリドは幼子に抗議する。その横でランゴンザレスがミルキルズの背中を摩りながら慰めていた。
「爺よりオレンを下しゃいな!」全く動じないアリアナ。
「小娘!ミルキルズ様に向かって爺だと!?」
ウリドは幼子を捕まえようと追いかけるが、袋を担ぎながら器用に逃げ回るので中々捕まえられない。そのうちに騒ぎを聞きつけた野次馬が集まり始め、そこにミルキルズがいる事で更に大騒ぎになってしまう。
睨み合うアリアナとウリド。息を呑み二人を見守る野次馬達。そんな二人に呆れ返っているランゴンザレス。落ち込んだままのミルキルズ。
「俺のオレンを返せ」
「えっ、ダジャレでしゅか?⋯嫌でしゅ!代金はゼストというジジイに付けといて下しゃい!」
「俺に何だって?」
鼻息荒く宣言したアリアナの後ろからやって来たのは、報告を受け騒ぎを収めにきたゼストだった。現族長の登場にウリドや野次馬達はまたしても急いで平伏した。
「お前という奴は!また騒ぎを起こしたのか!?」
ゼストに拳骨を落とされて目の前に星が飛び始めてフラフラするアリアナをランゴンザレスが支える。この日はゼストがウリドに謝罪して事を収めたが、アリアナとウリドの争いは始まったばかりだった。
「おーい、ウリド!悪いけどうちの畑を耕すの手伝ってくれ!」
「ああ、分かった!ちょっと待っててくれ!」
竜族の中でも一際大柄な青年。青紫色の瞳で赤髪を短く切り揃えた好青年で屈強な体格に反して、内向的な性格で大人しく人が良い為か何かと雑用や力仕事を押しつけられる。それにも気付かずに快く引き受けて朝から夜遅くまで働き詰めだ。
だが、元々畑仕事が好きで全然苦にならないウリドはこのままごく平凡に生きていくはずだった。あの悪魔が現れるまでは⋯
ある日、ウリドの畑に小さな影が迫っていた。
「良いでしゅか!ここのオレンは甘くておいちいんでしゅよ!でもジジイが一日一個しか食べさせてくれないんでしゅ⋯だから思いっきり食べたいと思いましゅ!」
小さな影の主で悪ガキ集団のボスであるアリアナが堂々と宣言した。
「あら、何で私まで犯罪の片棒を担がないといけないのよ!」
優等生から悪ガキオネェに生まれ変わったランゴンザレスがアリアナの発言に呆れていた。
「いいから!これが袋でしゅ!ここに入れて下しゃいな!」
有無を言わさずにランゴンザレスに袋を渡して畑に入って行くアリアナ。しょうがなく幼子の後を追うランゴンザレスだが何処となく好奇心を刺激されているようだ。今まで我慢を強いられてきた反動だろうか。
「キシシ⋯美味しそうでしゅね!」
「キシシって⋯早く取って行くわよ!」
ランゴンザレスに急かされながら一個、また一個と袋に入れていくアリアナだったがその後ろから大きな影が迫っていた。
「おい!そこで何やってる!」
ウリドは自分の畑に入って行く小さな影に気付いた。ここは竜族の里だ、小動物は決して近づくことはない。彼が見たのは黒髪の小さな幼子と紫色の髪の綺麗な少年だった。
「げっ!見つかりまちた!」
アリアナは袋を担ぐとそそくさと逃げようとしたが、簡単に首根っこを掴まれてしまう。ランゴンザレスは諦めて降参のポーズをとっていた。
「ランしゃん、助けて下しゃいな!」
「あら、この屈強な竜族に立ち向かえって言うの~?無理よ~!」
「魔公爵が何言ってんでしゅか!もう、おじしゃん降ろちて!」
アリアナが足をバタつかせて抗議する。
「お前達は何処の子だ!?親の所に案内しろ!」
「⋯親はいましぇん⋯。スン⋯お腹がしゅいて⋯スン」
畑を荒らされて物凄い勢いで怒っていたウリドだが、幼子の涙の告白に心を痛めて急いで降ろしてあげる。
「腹が空いてんのか?じゃあ今回は多めに見てやる。これからはちゃんと俺に声をかけて⋯「おーい、アリアナ!ここにおったのか!」
畑の入り口でこちらに手を振る人物を見たウリドは驚愕し、急いでその人物の前に駆けつけると平伏した。
「あ⋯あのミルキルズ様、どうしてこんな所にいらっしゃるのですか!!」
そこには初代竜族族長であるミルキルズが立っていた。竜族にとってミルキルズやゼストは雲の上の偉大な存在で滅多に会える事はないはずだが、何故か今目の前でこちらに向かい手を振っていた。
「ああ、ひ孫の気配を追って来たんじゃが、お主は?」
「ウリドと申します!ここでオレンを育てています!」
「おお!オレンはアリアナの大好物でな!」
そう言うミルキルズの視線の先にはあの幼子がいた。
「⋯あの、ひ孫というのはそこにいる幼子ですか?」
「ああ、可愛いじゃろ?アリアナよ、こっちにおいで!」
嬉しそうに手を振るミルキルズの横でアリアナをジト目で見つめるウリド。そこへ気まずそうにやって来たアリアナとランゴンザレス。
「ミルキルズ様のひ孫なのか?」
ウリドは噂でゼスト様が人間の子を連れてきたと聞いたことがあった。それがもし本当なら竜族の気配が全くしないこの幼子の事だろう。
「⋯誰でしゅか、この爺しゃん!わたちは知りましぇん!」
「ガーーン!ミル爺ショック!!」
アリアナの爆弾発言にショックを隠しきれないミルキルズはその場に崩れ落ちた。
「ミルキルズ様!?おい、この方は偉大なる初代竜族族長だぞ!」
ウリドは幼子に抗議する。その横でランゴンザレスがミルキルズの背中を摩りながら慰めていた。
「爺よりオレンを下しゃいな!」全く動じないアリアナ。
「小娘!ミルキルズ様に向かって爺だと!?」
ウリドは幼子を捕まえようと追いかけるが、袋を担ぎながら器用に逃げ回るので中々捕まえられない。そのうちに騒ぎを聞きつけた野次馬が集まり始め、そこにミルキルズがいる事で更に大騒ぎになってしまう。
睨み合うアリアナとウリド。息を呑み二人を見守る野次馬達。そんな二人に呆れ返っているランゴンザレス。落ち込んだままのミルキルズ。
「俺のオレンを返せ」
「えっ、ダジャレでしゅか?⋯嫌でしゅ!代金はゼストというジジイに付けといて下しゃい!」
「俺に何だって?」
鼻息荒く宣言したアリアナの後ろからやって来たのは、報告を受け騒ぎを収めにきたゼストだった。現族長の登場にウリドや野次馬達はまたしても急いで平伏した。
「お前という奴は!また騒ぎを起こしたのか!?」
ゼストに拳骨を落とされて目の前に星が飛び始めてフラフラするアリアナをランゴンザレスが支える。この日はゼストがウリドに謝罪して事を収めたが、アリアナとウリドの争いは始まったばかりだった。
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