幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi

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ユリア、旅をする!!

ユリアとチェスターの活躍③

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いきなり現れた屈強な男性にも驚いたが、彼の背中には何故か場違いな幼子が背負われていた。

「あなたは何なんですか?それに⋯そんな幼子を連れて⋯ここからすぐに離れなさい!」

兵士団長がチェスターにここから避難しろと警告する。

「ああ、俺とこいつの事は気にするな!お前達の怪我の方が酷いからお前達こそ避難しろ!」

「そんな小さな子を連れて何ができるんだ!?いいから⋯」

兵士団長が言いかけた時、近くからあの悍ましい鳴き声が聞こえてきた。兵士達は体を硬らせ緊張感が走る。その顔は絶望していて皆死を覚悟していた。

「うるちゃい!」

そんな空気に似つかわしくない可愛らしい声が聞こえてきた。チェスターに背負われたユリアがうるさい鳴き声を聞き耳を塞いでプンスカ怒っていた。

『マンティコアがこんな森にいること事態がおかしいぞ!』

妖精コウが首を傾げているが、そんなコウを見て固まる兵士達。

「あれは何だ!?」

「虫が話しているのか?」

「小人か?」

妖精がいるとは思っていない兵士達が各々に推測する。

『俺は虫じゃないーー!!』

飛び回りながら猛抗議するが、そこへ一歩一歩と近づいてくる禍々しい魔物。

チェスターは剣を構えて不敵な笑みを浮かべ、ユリアはシュッシュっとパンチを繰り出す練習をしていた。だが現れたマンティコアを見た兵士達は思わず後退りしてしまった。血走った目で涎を垂らしながらこちらに歩いてくるマンティコアだが、何と三体もいたのだ。

一体を討伐するのは熟練冒険者でも命懸けなのにそれが三体も現れてしまい、ますます兵士たちの間に絶望感が漂った。

「おお!三体もいるじゃねーか!!お前ら!巻き込まれたくないなら下がっててくれ!」

愛剣を構えながら兵士団長達にそう言うチェスター。そんなチェスターから湧き出る凄まじい魔力に驚愕する兵士団長達と、いつもと違う雰囲気に警戒し始めたマンティコア。

「あんたは一体何者なんだ!?」

「まぁ通りすがりの⋯」

「あにちーー!!」

「おい!」

カッコつけようとしたが、ユリアに邪魔されたチェスターが怒る。幼子にプンスカ怒るチェスターを見て呆れる兵士達だが、マンティコアの一体がこちらに向かってきたのだ。それを素早く捉えたチェスターは屈強な体つきからは想像できないほどのスピードでマンティコアに向かって消えた。聞こえるのはキャハハーという幼子の楽しそうな声だけだった。

そして次の瞬間に兵士達が見たのは、向かってきたマンティコアがいきなり真っ二つになりドスンと倒れるというあり得ない光景だった。マンティコアの皮膚は非常に硬く傷をつけるのも一苦労なのだ。なのに綺麗に真っ二つにされたマンティコアが今目の前にいる現状が理解できない兵士達だが、倒れたマンティコアの後ろに血を滴らせた剣を持つチェスターが立っていた事で現実に引き戻された。

「あんたがやったのか?⋯⋯こんなにあっさりと⋯」

ジェロラル国とスーミレ小国の兵士団長が唖然としていると、残りのマンティコアが何が起こったのか理解する時間も与えないとばかりにチェスターが動き出した。

「あにち!ユリアもやっちゅけりゅ!!」

「分かった。一体はお前が倒せ!」

「あい!!」

いきなりチェスターが止まってこちらに振り返ったので、マンティコアが背負われている幼子に目をやると卑しい笑いを浮かべた。

「おい!その子が狙われてるぞ!?早く倒してくれ!」

「危ない!!」

兵士達が動き出そうとしたが、チェスターが止めた。

「まぁ見てろ」

そう言い放ったチェスターを信じられない目で見ていた兵士達だが、驚くべきものを目にする事になった。

「ていやーー!!」

ユリアがいつものように元気良くパンチを繰り出した。マンティコアはそんなユリアを小馬鹿にするように向かって来るのをやめなかったが、いきなり物凄い強さの何かに当たったと思った瞬間に体が強く吹き飛ばされたのだ。大木にぶつかり倒れたマンティコアの体には大きな風穴が開いており、すでに絶命していた。

開いた口が塞がらない兵士達。チェスターも苦笑いしていた。

「お前、なかなかやるな」

「ていやー!ていやー!」

「おい!もう止めろ!俺の獲物だぞ!?」

パンチを止めないユリアはチェスターに止められるが、すでに遅く残りのマンティコアに向かい繰り出していた後だった。パンチは逃げようとした最後のマンティコアに当たり、悲鳴のような声を出し思いっきり木にぶつかり倒れて動かなくなったのだった。

「ああ!俺の最後の獲物が⋯」

そう言って頭を抱えるチェスターと背中でふんぞり返るユリア。妖精コウはそんなユリアに拍手をしていた。

「嘘だろ⋯あの子は何をしたんだ!?」

「マンティコアを二体も倒したぞ!」

「助かった⋯神が遣わした天使じゃないか!?」

「天使がこんなえげつない倒し方するか!ただのおチビだ!」

「チビじゃにゃい!」

兵士の発言に異議を唱えるチェスターに猛反論するユリアだったが、兵士達は泣きながら喜びを分かち合っていた。

そんな光景を見て嬉しそうに頷くチェスターだったが、次の瞬間に森の入り口からこちらに向かって来る人物達の気配を感じて顔面蒼白になっていく。

「あら?どうしたのかしら?まさかまた逃げるつもり?」

笑顔だが、目が一切笑っていないアネモネが怒り心頭でこちらに歩いて来た。その背後には人化したシロとブルブルと震えているジョジュア、そして頭を抱える邪神セラムがいた。

「アネモネ、こいつがどうしても行きたいと言うから仕方なく連れて来たんだよ!」

「ユリアが悪いの?まさか孫のせいにするつもり?覚悟はできてる?」

手をボキボキと鳴らしながら、父親の前に向かって行くアネモネを誰も止めようとしない。兵士達も喜びを分かち合っていてチェスターの事を見ていない。

「あー!かーしゃん!シロもいりゅー!!」

嬉しそうに手を振るユリアの元へシロが向かい紐を解いた。そしてシロに抱っこされたユリアがふとアネモネを見ると、先程のマンティコアなんて比じゃないくらいの恐ろしさでチェスターを見ていた。

ユリアは妖精コウと共にブルブルと震えながら、チェスターの無事を祈ったのだった。

そしてそんな光景を遠目で見ていた邪神セラムは砂漠地帯にいるはずのマンティコアがこんな森に現れた事に疑問を持っていた。シロも不思議に思っていたが、その原因はすぐにわかる事になるのだった。







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