幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi

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ユリア、旅をする!!

ユリアは旅より食い気です!

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母親のアネモネに抱きつき大泣きしているユリアを父親であるオーウェンや祖父のチェスター、それにシロが励まそうとするが、ユリアの顔を見てまたまた衝撃を受ける。

後ろにいた邪神セラムも、ユリアの顔を見て固まる。

「おちび!その顔は…ブッ!」

チェスターは我慢が出来ずに大笑いしてしまう。そう、ユリアの顔は涙に濡れた事によって塗ったであろう化粧が剥がれてぐちゃぐちゃになっていたのだ。

「すん…すん…あにち…うるちゃいでしゅよ」

泣きながらもチェスターに文句を言うユリアにアネモネは苦笑いしていた。そこへ不思議な服を着た少女が気まずそうにこちらにやって来て、アネモネ達に向かって頭を下げた。

「あの…すみません!可愛いからついお化粧しちゃって…」

この少女が例の徳丸夢だろう。言われていた様な邪悪な気配もなく見た目もごく普通の少女だが、油断は出来ない。

「あなたが徳丸夢さん?私はこの子の母親でアネモネって言います。隣にいるのはこの子の父親で名はオーウェン。後ろにいるのがこの子の友達のシロよ」

「おい!俺も紹介しろよ!」

アネモネが自分を含めて自己紹介をしていく中で、何故か紹介されなかったチェスターが娘であるアネモネに猛抗議する。

「……この人はこの子の祖父でチェスターです」

「あっ!私は徳丸夢と言います!…本当にお祖父さんなんですか!?若くないですか!?それにみんな美男美女過ぎる!」

この世界の事を覚えていない夢にとって、オーウェンと同じ年齢くらいに見えるチェスターが祖父だと聞いて驚いてしまうが、チェスターは悪い気がしないのか嬉しそうだ。

「かーしゃん…おにゃかすいた…おにく…」

「あらあら、お腹が空いたのね。セラム様、幼子がお腹を空かせています。台所はありますか?」

泣きながらもお腹をさすり、空腹をアピールするユリア。アネモネは娘のお腹から聞こえてくる可愛い音に気付いて、勇敢にも後ろいるセラムに意見する。

「ここは神の領域ですから台所などありませんね」

そんなセラムの言葉を聞いたアネモネの顔色が変わった。

「台所がなくてどうやって食べさせるんですか!?この子は神ではありませんからお腹も空きます!食べないと死んでしまいます!」

「ユリアちゃんが可哀想です!ちなみに私もお腹がペコペコですよ!」

アネモネと徳丸夢から責められてあたふたする姿はとても邪神に見えない。ミリーはそんなセラムに驚きつつも必死に庇おうとする。

「おい!セラム様だってユメのために必死だったんだ!」

「お前も同罪だからな!」

だが、妖精コウに怒られてしまい、ミリーはそれ以上は何も言えない。確かにそこまで考えていなかったからだ。

「おにくーー!」

ユリアの心からの叫びに、皆が自然と笑ってしまう。

「ユリア、久々にバーベキューをやるか!」

「キャーー!おにくーー!」

オーウェンのバーベキュー宣言でユリアのテンションは最高潮だ。

「おい、庭はあるだろう?」

「ええ。ですが肉も何もありません」

「それは俺達が持っているから大丈夫だ。案内してくれ」

シロがセラムに庭への案内を頼むと、降ろしてもらったユリアがよちよちとセラムの所へやって来る。

「おにくーー!」嬉しそうに小躍りするユリア。

「……この子は先程からおにくしか言っていませんが大丈夫なのですか?」

本気で心配するセラムの呟きに、笑いが止まらない妖精コウと徳丸夢。

「よし、おちび!肉を食いまくるぞ!」

「おにくーー!」

首を傾げるセラムとミリーの後ろをチェスターに肩車をされながら嬉しそうについて行くユリア。さらにその後ろではシロが徳丸夢を警戒していた。

(本当に邪悪なるものなのか?そんな気配が一切感じられないが…)

シロはセラム達と徳丸夢を警戒しつつ、静かに後を追う。アネモネやオーウェン、チェスターも普段通りに見えるが警戒は怠っていない。

ついたのは小さくて寂れた庭だった。木々は枯れ果て、花は萎れていた。

アネモネは自分の亜空間からバーベキューセット一式を出してテキパキと準備し始めた。そこに徳丸夢も加わりオーウェンと共に肉や野菜を切り、シロはチェスターと共に火の準備をしていた。

そんな中でユリアは妖精コウと共にこの小さな庭を探検していた。自由な行動ばかりする一同を唖然と見ているしかないセラムとミリー。

「おはなしゃんかわいそう…」

萎れた花をユリアが触った瞬間にそれは起こった。触った花が急に光出して同時に地面も揺れ出した。そして周りの枯れた木々も光出して、最終的には庭全体が光り出したのだ。

「ユリア!どこにいるの!」

「おはなしゃんのとこりょーー!」

「俺もいるぞーー!」

アネモネ達がユリアの気配を必死に探していると、ユリアと妖精コウの呑気な声が聞こえて来た。

「これは何事ですか!?」

「分かりませんが、この庭から物凄い聖力を感じます!」

セラムとミリーも何が起こっているか分からずに驚いている。そして光が徐々に収まってくると、そこには信じられない光景が広がっていた。

庭全体に色とりどりの花が咲き乱れ、息を吹き返したような美しい大木がそこにはあった。そして更に驚いたのは咲き乱れる花や大木から物凄い聖力が溢れている事だった。

「一体何が起こったんですか…」

「キャーー!きれいでしゅねーー!」

固まっているセラムの横で嬉しそうに小躍りするユリアの目の前に、あの見覚えのある人物達が立っていた。




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