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4巻
4-2
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†
一方、チェビの様子を見に行ったピピは、巨大な蛇の頭の周りをぱたぱた飛んでいる。
『もう! 何で大暴れしてんのさ! ユリアに言いつけるからね!』
『こいつらは帝国の極悪非道な兵士達ですよ。この近くにあるゴミ処理場に子供やスラムの浮浪者達の死体がありました。こいつらが捨てているのを見ましてね』
それを聞いたピピは暴れるチェビにそれ以上何も言わず、ゴミ処理場にやってきた。酷い悪臭漂うこの寂しい場所で、ピピは聖鳥としての姿に変わる。
それから、一人で行動していたアンデッド王のシリウスを呼び付けると、自分の聖なる炎で人々を弔い、シリウスの浄化で天に導いたのだった。
こうしてゴミ処理場は綺麗になり、後に慰霊碑が建てられることとなる。
ピピとシリウスは、すぐにチェビの元に戻り加勢するのだった。
†
ディパードは、とある国の伯爵家長男として生まれた。
家は裕福で何不自由なく育ったが、お金があっても親からの関心や愛情とは無縁の生活だった。父親は女性関係にだらしなく、殆ど家には帰ってこないし、母親は精神が不安定で部屋に引き篭っていた。
だからなのか、当主である祖父は、優秀で社交性のあるディパードを自分の後継者にと大変厳しく教育した。だが、それは教育という名の虐待で、祖父の思い通りに動かなかったり、結果が出せなかったりした時は激しい折檻を受けた。
そんなある日、ディパードは腹違いの幼い妹に出会う。父親の愛人が面倒を見きれずに屋敷に連れてきたのだ。怒りや憎悪の感情が屋敷中に蠢く中、ディパードは何故かこの妹を愛おしいと思った。家族に愛されず捨てられた彼女を自分と重ねたのだ。
だがその日から妹のフランは、激しい虐待を受け、奴隷のような生活を強いられた。父親はフランにも無関心で、祖父や使用人達はフランをゴミのように扱った。
ディパードはそんな妹を助ける勇気もなく、何も出来ない弱い自分に心底腹が立った。そんな極限な精神状態の時に、突然街で声をかけてきた不気味な少年――それがネロだった。
常にへらへらと笑みを絶やさないが、残忍な素顔をその笑顔の裏に隠していた。
「妹ちゃん、助けてあげようか?」
ディパードはその笑顔に騙された一人だった。頼る人もいなかった彼はついネロの手を取り、そして頷いてしまった。
その夜、伯爵領に突如として魔物の群れが押し寄せてきて、一夜で街は壊滅状態になった。そして伯爵家の生き残りはディパードとフランだけだった。何故か魔物は二人を避けて他の者達を襲ったのだ。
魔物を操ってこの悲劇を起こしたネロの狙いは、ディパードの特殊な力にあった。ディパードは空間を操ることが出来るので、よく屋敷から逃げ出したい時にその力を使っていた。それを知っているのは妹のフランだけだったのに、何故かネロも知っていた。
そしてフランがネロに懐いて離れないため、ディパードは仕方なく行動を共にするようになる。最初は嫌々だったが、何故かネロといると、今まで持てなかった自信が付いて、自分が自分じゃない感覚になった。部下を率いて人を平伏させることに快感すら覚えた。
こうして、ネロ率いる組織はどんどんと巨大化していったのだ。
「だから何なんだ? 俺達に同情しろと?」
話を聞き終えたシロは、冷たい表情のままディパードを見下ろす。
「いや、ちょっと死ぬ前に誰かに聞いてもらいたくてね」
ディパードはそう言って小さく笑った。
「私は聖女よ! あんた達覚悟しなさい! 天罰が下るわよ!」
フランはまだ自分は聖女だと喚いているが、シロとクロノスは相手にせず、ネロの居場所をディパードから聞き出した。どうやら彼は世界ギルド協会とも手を組み、悪行を重ねているらしい。
「父上、ここは僕に任せてネロを捕まえてきてください」
ゼノスは父親であるクロノスにそう言うと、ディパードが逃げないように力を封じる防御魔法を部屋にかけた。
そしてシロとクロノスは、ネロが潜伏しているという世界ギルド協会本部に向かったのである。
†
「それで急いでここまで来たら、ユリアがいて驚いたんだ」
時は戻り、ネロを捕らえた後の世界ギルド協会本部。
シロとクロノスが苦笑いしながらユリアを見る。ユリアは今、一緒に本部に来た妖精コウと、子フェンリルのフェンと遊んでいた。
経緯を聞いて、ユリアの母であるアネモネは頷いた。
「そう。でもこんなに早く鎮圧出来るなんて思っていなかったから、オーウェンとオーランドに急いで報告しないと!」
ユリアの父オーウェンと長兄オーランドはルウズビュード国にいて、ルーブニア兵との戦いの後処理をしている。
シロとクロノスはちんまり組――ユリア、コウ、フェンのことだ――を連れて一度〝古の森〟に帰り、すぐにルウズビュード国に報告に行くことになった。
アネモネは世界ギルド協会本部の後処理をしてから戻ることになったのだが、母親が一緒に来ないことに気付いたユリアがグズり始めた。
「ユリアもここにいりゅの……」
「ユリア、泣くなよ。すぐにアネモネも戻ってくるよ!」
「そうだじょ! カイルたちもしんぱいしてるじょ!」
今にも泣き出しそうなユリアを慰めるコウと人化中のフェン。
「ユリア、母さんすぐに戻るから、お利口さんで待っていてくれる?」
アネモネの優しい問いに、ユリアは目に涙を溜めながら小さく頷いた。そして、ユリアはシロに抱っこされて、フェンはクロノスに肩車されて二人共に嬉しそうだ。コウはユリアの頭に乗り、瞬間移動の準備万端だ。
ネロをここに匿っていた会長デデルはそのまま拘束されたが、ネロはこれからラトニア王国に移送されることになった。ラトニア王国は以前ネロが実効支配していた国で、最大の被害者とも言える国である。
まもなく被害に遭った国々による裁判が始まるだろう。
何にしても、ネロ率いる犯罪組織はこの時をもって完全に壊滅したのだった。
第2話 帰ってきたユリア
こうしてユリアの小さな冒険は終わり、森にある家に帰ることになった。散々怒られたちんまり組は少し元気がなかったが、今は帰る気満々だ。
「おい、ユリア。帰るからこっちにおいで」
シロが嬉しさのあまり小躍りしているユリアを呼ぶと、楽しそうによちよちと歩いてくる。だが、問題はフェンだ。覚えたての人化に夢中で、一向にフェンリルの姿に戻る気配がない。
だが、当の本人があまり気にしていないので、放っておくことにした。
「おうちにかえりゅよーー!」
「『おーー!』」
ユリア達、ちんまり組はクロノスの側に集まると、ここに残ることになったアネモネに元気良く手を振りながら光の中に消えていった。
一方、森にあるユリアの家では大騒ぎになっていた。ユリアが消えたことにすぐに気付いた妖狐の桔梗が気配を探ると、アネモネを追って家を抜け出したことが分かった。すぐにでも後を追いたいが、こちらにもカイルやルウといった子供がいるので中々動けずにいた。
「どうしましょう……ユリアちゃんが危ないわ!」
ユリアの祖母フローリアが頭を抱えている横で、ルイーザがグズり出す。ルイーザは血縁上はユリアの伯母にあたるが、訳あって赤子のままであり、今はユリアの妹分として育てられていた。
「かーしゃま、ユリアはどこにいりゅの?」
いつも一緒だったユリアが急にいなくなり、不安から母であるナタリーにベッタリの男の子、カイル。同じくユリアの友達である男の子、ルウも桔梗から離れない。
「コウの仕業だね! 全くあいつはどうしようもないね!」
転移を使えるコウがユリアを連れ出したのだと桔梗には分かっていた。
コウに怒り心頭の桔梗だったが、ユリアの側にシロとクロノスの気配がしたので、ひとまず安心する。桔梗はフローリア達にシロがユリアの近くにいることを報告して、心配だが戻ってくるのを待つことにした。
だが、食事をしようにも、おちび達がグズっているので、リビングで静かにユリア達が帰るのを待つしかなかった。
そして数時間経った頃、庭の方にユリアの気配と共に眩い光が現れた。フローリア達が急いで光の差す方へ向かうと、そこにはシロに抱っこされたユリアがいた。祖母達に気付き、ユリアは嬉しそうに一生懸命手を振る。
「ユリアちゃん! 大丈夫なの!」
フローリアはユリアに怪我がないか確認している。
「たあ!(ユリア!)」
先程までグズっていたのが嘘のように機嫌が良くなったルイーザは、ユリアに手を伸ばす。
「あーー! みんにゃただいまーー!」
ユリアはよちよちとカイルやルウの元へ歩いていく。
「ユリア! どこにいってたにょ!」
「んーと、わりゅいやちゅをこらちめまちた!」とドヤ顔で言うユリア。
ぷんすかと怒っていたカイルは、ユリアの後ろにいる銀髪の男の子に気付いた。フローリア達も気付いて首を傾げているが、桔梗は男の子の正体に気付いて苦笑いしていた。
「ユリア、だれでしゅかー?」
カイルは眠そうに目を擦っている男の子を見て、首を傾げながらユリアに聞く。ルウもジッと男の子を見ている。
「フェンしゃまでしゅよ!」
「えーー! にゃんで?」
驚くカイルの元へ、眠そうな男の子がトコトコとやってきた。
「おれしゃまはひとかもできるんだじょ!」
「フェンしゅごーーい!」
パチパチ拍手して褒めるカイルに気を良くして、フェンがふんぞり返っている。
そんなおちび達の横では、シロとクロノスがフローリア達にネロのことを説明していた。
無事に事件は解決したが、その後の処理が諸々あるために、クロノスが今からルウズビュード国に報告に行くことになった。シロはユリアが心配なのでここに残ることにした。
クロノスを見送った後、ユリア達は積み木で楽しそうに遊び始めた。人化したフェンは今まで見ていることしか出来なかった積み木で遊べて、とても嬉しそうにしている。
そして、全ての元凶であるコウは急いで逃げようとしたが、フローリアと桔梗に見事に捕まり、長々と説教されて大ダメージを受けていた。
†
ユリアが帰ってきて、他のおちび達も大分落ち着いてきたので、ナタリーとフローリアは夕食の準備を始めた。
王族ながら料理が趣味のフローリアは、台所に立って張り切っていた。卵を割り、絶妙な火加減で作った半熟トロトロのスクランブルエッグをお皿に載せて、オーク肉のベーコンを子供サイズに切って焼いていると、その香ばしい匂いに釣られておちび達が台所に集まってきた。今回は新しく人化したフェンも一緒に立っている。
キュルルと可愛いお腹の音を鳴らしながら横一列に並ぶと、口を開けて待っている。
フローリアはそんなおちび達に苦笑いしながらも、小さいベーコンを各々の口に入れてあげる。美味しそうに頬張る姿はまるで雛鳥だ。
そこへ高速ハイハイでやってきたルイーザは、ユリアの横にドンと座ると口を開ける。
「たあ!(私も!)」
「ふふ。貴女はまだ早いわよ」
そんな愛娘に苦笑いをしながらも、抱っこして宥めるフローリア。
そして彼女に代わり、ナタリーが料理を再開する。貴族の令嬢として生まれ、料理などしたことがない上に、最近まで夫の虐待によって暗い地下に閉じ込められていた彼女は、アネモネやフローリアと一緒に過ごすうちに、料理の楽しさに目覚めた。
何より愛する息子カイルが美味しそうに食べてくれるのがこの上なく嬉しいのだ。
「かーしゃま! おにゃかすいたーー!」
「もうすぐ出来るから手を洗ってきてね?」
「「「ハァーーイ!」」」
「わかったじょ!」
抱きついて甘える息子にナタリーが優しく声をかけると、おちび達とフェンも元気良く返事をする。皆仲良く手を繋ぐと、よちよち歩きながら洗面所に向かっていった。
シロと桔梗がその後ろからさり気なく見守っている。
「おててをバシャバシャ~」
「「バシャバシャ~!」」
「たのしいじょ!」
「あら、可愛いねぇ~」
ユリアの掛け声に合わせて手を洗うカイルとルウを、桔梗も微笑ましそうに見ていた。
綺麗に手を洗ったおちび達はシロに抱っこしてもらい、各々の席に座る。そこには木のプレートが置いてあり、先程のスクランブルエッグとベーコン、それにサラダがセンス良く並んでいた。
更に、皆が取れるように籠に沢山のパンが入っていて、トマトスープが今ナタリーによっておちび達の前に置かれた。
「キャー! おいしそうでしゅね~!」
椅子に座りながら興奮するユリアがズリ落ちないように押さえるシロ。そこへルイーザを抱っこしたフローリアとエプロンを外したナタリーが加わり、皆が揃った。
「さぁ、食べましょう!」
「「「いたらきましゅ!」」」
「たべるじょ!」
手を合わせて元気良く言うと、嬉しそうに食べ始めるおちび達。それを見届けたシロと桔梗も森へ食事をしに出かけた。
そして初めて人化して食べるフェンがフォークを上手く使えず苦戦しているのを見て、ナタリーとフローリアが根気良く丁寧に教える。すると、フェンは意外にも覚えが良いのか、すぐにコツを掴み器用に食べ始めた。
「ユリアちゃん、美味しい?」
「あい! おいちー!」
フローリアが嬉しそうに食べているユリアに話しかけると、元気良く手を挙げて返事をする。
「ふふ、良かったです」
美味しそうに食べているおちび達を見て微笑むナタリー。
だが、ルイーザは不服そうに片手に哺乳瓶を持ちミルクを飲んでいる。自分もユリア達と同じものを食べたいのに食べられない現実を受け入れられないのだ。その姿は可愛い赤子がミルクを飲んでいるというより、酒をあおるやさぐれたおじさんに見えてくる。
「たあ!(早く成長したいわ!)」
そんな愛娘を見て、苦笑いするしかないフローリアは、ここに夫であるオルトスがいなくて良かったと心から思った。まだこの現実を見せるのは酷過ぎるからだ。そんなことを考えながら、ふとおちび達のプレートを見ると見事にサラダだけが残されていた。
「あら、予想通りね。どうしたものかしら~」
「ええ、分かってはいましたが……どうしましょう」
頭を抱えるフローリアとナタリーをよそに、ユリア達はトマトスープを飲んで、今にもごちそうさまの勢いだ。
サラダのみを綺麗に残したおちび達は、何事もなかったかのように、「ごちしょーさまでちた!」 と元気良く手を合わせて椅子から降りようとする。
だが、ここからがフローリアとナタリーの腕の見せ所だ。
「おちびちゃん達、お待ちなさい」
フローリアが仁王立ちしておちび達を見下ろす。ナタリーも一足早く椅子から降りたカイルを先程の位置に戻す。
「かーしゃま、カイルあそびたいでしゅ!」
椅子から降りようと必死に駄々をこねるカイルと、ただ黙って椅子に戻し続けるナタリーの親子の攻防はとてもシュールな光景だ。
ユリアとルウは何を言われるのか気付いていて、ちらっとサラダの方を見る。
「そうよ、サラダよ。サラダも食べないとダメでしょう?」
「うぅ……おにゃかいっぱいでしゅから、あちたたべゆ!」
ユリアはぽっこりお腹を摩りながら、フローリアの反応を窺っていた。ルウも同じ仕草をして大人達の様子を見ている。
「フローリア様、見てください!」
驚くナタリーの声に反応して彼女が指差す方を見ると、フェンが美味しそうにサラダを食べていた。その光景に驚いたのは、フローリア達以上におちび達だ。
「しゃらだおいしいじょ! このタレがいいじょ!」
フェンが絶賛するタレはアネモネ特製の、門外不出の独自のレシピで作られたものだ。一度フローリアがアネモネに作り方を聞いた時、恐ろしい笑みで「知る勇気がございますか?」と言われて、それ以上フローリアは何も言えなかった。
「あら~! フェンちゃん偉いわね~! お野菜食べられるのね!」
「本当ですね! このお野菜は新鮮で美味しいでしょう?」
フローリアとナタリーが大袈裟に褒めていると、ユリアは美味しそうに食べているフェンをジッと見ていた。
「フェンしゃま、おいちいでしゅかー?」
「うまいじょ!」
ユリアの問いかけに、サラダを全部平らげてお腹を摩りながら満面の笑みで答えるフェン。カイルもルウもただ黙ってユリアの様子を窺う。
「ああ、お野菜さんが可哀想だわ~」とフローリアが大袈裟な演技をする。
「たあ! たあたあ!(ユリア、私が食べてあげるわ!)」
「ルイーザ、黙ってミルクを飲んでなさい。……いい加減やさぐれてないでちゃんとお座りなさい」
そう言われてソファーに座らされたルイーザは、深い溜め息を吐きつつ、仕方がないとばかりに再びミルクを飲み始めた。そんな赤子らしくない愛娘に、こちらも深い溜め息を吐く母親のフローリア。
そんな親子の横で、ユリアは意を決してフォークを持つと、野菜を刺して口に運んでいく。その勇姿をカイルとルウが固唾を吞んで見守る。
「やしゃいしゃん、ごめんなしゃい!」
そう言ってもぐもぐと食べ始めたユリアを見て、フローリアとナタリーはホッとする。そんなユリアを見守っていたカイルとルウも、お互いに顔を見合わせて頷くと、フォークを持ち野菜に手を伸ばした。
「「やしゃいしゃん、いただきましゅ!」」
そう言ってもぐもぐと食べ始めた。
アネモネ特製のタレが美味しいのか、おちび達は順調に食べ進め、それを見て安心した二人も椅子に座り食べ始める。フェンは先に食べ終わり、妖精コウと再び積み木で遊び始めた。
「あ~! ユリアもあしょぶの~!」
楽しそうなフェン達を見て、ユリアは急いでサラダを食べ進める。その時、いきなり窓を叩く音がした。皆が驚いてそちらを見ると、ピピがツンツンと嘴で突いていた。
「あ~! ピピだー‼」
『ユリア~! 会いたかったよ~!』
ピピとの再会に喜び手を振るユリア。ナタリーが窓を開けてあげると、美しい真紅の小鳥がユリアの方に一直線に飛んできて、定位置である彼女の頭に止まった。
「ピピ、みんなは~?」
『もうすぐ戻ってくるよ。僕はユリアに会いたくて先に帰ってきたの!』
真紅の小鳥の声は、周りにはただ鳴いているようにしか聞こえない。そんな小鳥と普通に会話をしているユリアを改めて見ると、その不思議な能力の凄さが分かる。しかもこの小鳥の正体は、伝説の不死鳥フェニックスで、魔法大国アーズフィールドの聖鳥なのだ。
「本当にユリアちゃんは凄いわね」
「ええ、でもユリア王女はカイルや私を助けてくれました。こんなに穏やかで幸せな日々を送れているのも王女のお陰です」
ナタリーはそう言いながら、一生懸命サラダを食べている愛しい息子を見て微笑む。
「ふふ、そうね。ユリアちゃんのお陰でルウズビュード国も良い方向へ向かっているし、何より娘を……ルイーザを助けられたことは感謝してもしきれないわ」
「たあ!(アイラブユリアよ!)」
ミルクを持つ手を掲げて叫ぶルイーザを見て、つい笑ってしまうフローリアだった。
一方、チェビの様子を見に行ったピピは、巨大な蛇の頭の周りをぱたぱた飛んでいる。
『もう! 何で大暴れしてんのさ! ユリアに言いつけるからね!』
『こいつらは帝国の極悪非道な兵士達ですよ。この近くにあるゴミ処理場に子供やスラムの浮浪者達の死体がありました。こいつらが捨てているのを見ましてね』
それを聞いたピピは暴れるチェビにそれ以上何も言わず、ゴミ処理場にやってきた。酷い悪臭漂うこの寂しい場所で、ピピは聖鳥としての姿に変わる。
それから、一人で行動していたアンデッド王のシリウスを呼び付けると、自分の聖なる炎で人々を弔い、シリウスの浄化で天に導いたのだった。
こうしてゴミ処理場は綺麗になり、後に慰霊碑が建てられることとなる。
ピピとシリウスは、すぐにチェビの元に戻り加勢するのだった。
†
ディパードは、とある国の伯爵家長男として生まれた。
家は裕福で何不自由なく育ったが、お金があっても親からの関心や愛情とは無縁の生活だった。父親は女性関係にだらしなく、殆ど家には帰ってこないし、母親は精神が不安定で部屋に引き篭っていた。
だからなのか、当主である祖父は、優秀で社交性のあるディパードを自分の後継者にと大変厳しく教育した。だが、それは教育という名の虐待で、祖父の思い通りに動かなかったり、結果が出せなかったりした時は激しい折檻を受けた。
そんなある日、ディパードは腹違いの幼い妹に出会う。父親の愛人が面倒を見きれずに屋敷に連れてきたのだ。怒りや憎悪の感情が屋敷中に蠢く中、ディパードは何故かこの妹を愛おしいと思った。家族に愛されず捨てられた彼女を自分と重ねたのだ。
だがその日から妹のフランは、激しい虐待を受け、奴隷のような生活を強いられた。父親はフランにも無関心で、祖父や使用人達はフランをゴミのように扱った。
ディパードはそんな妹を助ける勇気もなく、何も出来ない弱い自分に心底腹が立った。そんな極限な精神状態の時に、突然街で声をかけてきた不気味な少年――それがネロだった。
常にへらへらと笑みを絶やさないが、残忍な素顔をその笑顔の裏に隠していた。
「妹ちゃん、助けてあげようか?」
ディパードはその笑顔に騙された一人だった。頼る人もいなかった彼はついネロの手を取り、そして頷いてしまった。
その夜、伯爵領に突如として魔物の群れが押し寄せてきて、一夜で街は壊滅状態になった。そして伯爵家の生き残りはディパードとフランだけだった。何故か魔物は二人を避けて他の者達を襲ったのだ。
魔物を操ってこの悲劇を起こしたネロの狙いは、ディパードの特殊な力にあった。ディパードは空間を操ることが出来るので、よく屋敷から逃げ出したい時にその力を使っていた。それを知っているのは妹のフランだけだったのに、何故かネロも知っていた。
そしてフランがネロに懐いて離れないため、ディパードは仕方なく行動を共にするようになる。最初は嫌々だったが、何故かネロといると、今まで持てなかった自信が付いて、自分が自分じゃない感覚になった。部下を率いて人を平伏させることに快感すら覚えた。
こうして、ネロ率いる組織はどんどんと巨大化していったのだ。
「だから何なんだ? 俺達に同情しろと?」
話を聞き終えたシロは、冷たい表情のままディパードを見下ろす。
「いや、ちょっと死ぬ前に誰かに聞いてもらいたくてね」
ディパードはそう言って小さく笑った。
「私は聖女よ! あんた達覚悟しなさい! 天罰が下るわよ!」
フランはまだ自分は聖女だと喚いているが、シロとクロノスは相手にせず、ネロの居場所をディパードから聞き出した。どうやら彼は世界ギルド協会とも手を組み、悪行を重ねているらしい。
「父上、ここは僕に任せてネロを捕まえてきてください」
ゼノスは父親であるクロノスにそう言うと、ディパードが逃げないように力を封じる防御魔法を部屋にかけた。
そしてシロとクロノスは、ネロが潜伏しているという世界ギルド協会本部に向かったのである。
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「それで急いでここまで来たら、ユリアがいて驚いたんだ」
時は戻り、ネロを捕らえた後の世界ギルド協会本部。
シロとクロノスが苦笑いしながらユリアを見る。ユリアは今、一緒に本部に来た妖精コウと、子フェンリルのフェンと遊んでいた。
経緯を聞いて、ユリアの母であるアネモネは頷いた。
「そう。でもこんなに早く鎮圧出来るなんて思っていなかったから、オーウェンとオーランドに急いで報告しないと!」
ユリアの父オーウェンと長兄オーランドはルウズビュード国にいて、ルーブニア兵との戦いの後処理をしている。
シロとクロノスはちんまり組――ユリア、コウ、フェンのことだ――を連れて一度〝古の森〟に帰り、すぐにルウズビュード国に報告に行くことになった。
アネモネは世界ギルド協会本部の後処理をしてから戻ることになったのだが、母親が一緒に来ないことに気付いたユリアがグズり始めた。
「ユリアもここにいりゅの……」
「ユリア、泣くなよ。すぐにアネモネも戻ってくるよ!」
「そうだじょ! カイルたちもしんぱいしてるじょ!」
今にも泣き出しそうなユリアを慰めるコウと人化中のフェン。
「ユリア、母さんすぐに戻るから、お利口さんで待っていてくれる?」
アネモネの優しい問いに、ユリアは目に涙を溜めながら小さく頷いた。そして、ユリアはシロに抱っこされて、フェンはクロノスに肩車されて二人共に嬉しそうだ。コウはユリアの頭に乗り、瞬間移動の準備万端だ。
ネロをここに匿っていた会長デデルはそのまま拘束されたが、ネロはこれからラトニア王国に移送されることになった。ラトニア王国は以前ネロが実効支配していた国で、最大の被害者とも言える国である。
まもなく被害に遭った国々による裁判が始まるだろう。
何にしても、ネロ率いる犯罪組織はこの時をもって完全に壊滅したのだった。
第2話 帰ってきたユリア
こうしてユリアの小さな冒険は終わり、森にある家に帰ることになった。散々怒られたちんまり組は少し元気がなかったが、今は帰る気満々だ。
「おい、ユリア。帰るからこっちにおいで」
シロが嬉しさのあまり小躍りしているユリアを呼ぶと、楽しそうによちよちと歩いてくる。だが、問題はフェンだ。覚えたての人化に夢中で、一向にフェンリルの姿に戻る気配がない。
だが、当の本人があまり気にしていないので、放っておくことにした。
「おうちにかえりゅよーー!」
「『おーー!』」
ユリア達、ちんまり組はクロノスの側に集まると、ここに残ることになったアネモネに元気良く手を振りながら光の中に消えていった。
一方、森にあるユリアの家では大騒ぎになっていた。ユリアが消えたことにすぐに気付いた妖狐の桔梗が気配を探ると、アネモネを追って家を抜け出したことが分かった。すぐにでも後を追いたいが、こちらにもカイルやルウといった子供がいるので中々動けずにいた。
「どうしましょう……ユリアちゃんが危ないわ!」
ユリアの祖母フローリアが頭を抱えている横で、ルイーザがグズり出す。ルイーザは血縁上はユリアの伯母にあたるが、訳あって赤子のままであり、今はユリアの妹分として育てられていた。
「かーしゃま、ユリアはどこにいりゅの?」
いつも一緒だったユリアが急にいなくなり、不安から母であるナタリーにベッタリの男の子、カイル。同じくユリアの友達である男の子、ルウも桔梗から離れない。
「コウの仕業だね! 全くあいつはどうしようもないね!」
転移を使えるコウがユリアを連れ出したのだと桔梗には分かっていた。
コウに怒り心頭の桔梗だったが、ユリアの側にシロとクロノスの気配がしたので、ひとまず安心する。桔梗はフローリア達にシロがユリアの近くにいることを報告して、心配だが戻ってくるのを待つことにした。
だが、食事をしようにも、おちび達がグズっているので、リビングで静かにユリア達が帰るのを待つしかなかった。
そして数時間経った頃、庭の方にユリアの気配と共に眩い光が現れた。フローリア達が急いで光の差す方へ向かうと、そこにはシロに抱っこされたユリアがいた。祖母達に気付き、ユリアは嬉しそうに一生懸命手を振る。
「ユリアちゃん! 大丈夫なの!」
フローリアはユリアに怪我がないか確認している。
「たあ!(ユリア!)」
先程までグズっていたのが嘘のように機嫌が良くなったルイーザは、ユリアに手を伸ばす。
「あーー! みんにゃただいまーー!」
ユリアはよちよちとカイルやルウの元へ歩いていく。
「ユリア! どこにいってたにょ!」
「んーと、わりゅいやちゅをこらちめまちた!」とドヤ顔で言うユリア。
ぷんすかと怒っていたカイルは、ユリアの後ろにいる銀髪の男の子に気付いた。フローリア達も気付いて首を傾げているが、桔梗は男の子の正体に気付いて苦笑いしていた。
「ユリア、だれでしゅかー?」
カイルは眠そうに目を擦っている男の子を見て、首を傾げながらユリアに聞く。ルウもジッと男の子を見ている。
「フェンしゃまでしゅよ!」
「えーー! にゃんで?」
驚くカイルの元へ、眠そうな男の子がトコトコとやってきた。
「おれしゃまはひとかもできるんだじょ!」
「フェンしゅごーーい!」
パチパチ拍手して褒めるカイルに気を良くして、フェンがふんぞり返っている。
そんなおちび達の横では、シロとクロノスがフローリア達にネロのことを説明していた。
無事に事件は解決したが、その後の処理が諸々あるために、クロノスが今からルウズビュード国に報告に行くことになった。シロはユリアが心配なのでここに残ることにした。
クロノスを見送った後、ユリア達は積み木で楽しそうに遊び始めた。人化したフェンは今まで見ていることしか出来なかった積み木で遊べて、とても嬉しそうにしている。
そして、全ての元凶であるコウは急いで逃げようとしたが、フローリアと桔梗に見事に捕まり、長々と説教されて大ダメージを受けていた。
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ユリアが帰ってきて、他のおちび達も大分落ち着いてきたので、ナタリーとフローリアは夕食の準備を始めた。
王族ながら料理が趣味のフローリアは、台所に立って張り切っていた。卵を割り、絶妙な火加減で作った半熟トロトロのスクランブルエッグをお皿に載せて、オーク肉のベーコンを子供サイズに切って焼いていると、その香ばしい匂いに釣られておちび達が台所に集まってきた。今回は新しく人化したフェンも一緒に立っている。
キュルルと可愛いお腹の音を鳴らしながら横一列に並ぶと、口を開けて待っている。
フローリアはそんなおちび達に苦笑いしながらも、小さいベーコンを各々の口に入れてあげる。美味しそうに頬張る姿はまるで雛鳥だ。
そこへ高速ハイハイでやってきたルイーザは、ユリアの横にドンと座ると口を開ける。
「たあ!(私も!)」
「ふふ。貴女はまだ早いわよ」
そんな愛娘に苦笑いをしながらも、抱っこして宥めるフローリア。
そして彼女に代わり、ナタリーが料理を再開する。貴族の令嬢として生まれ、料理などしたことがない上に、最近まで夫の虐待によって暗い地下に閉じ込められていた彼女は、アネモネやフローリアと一緒に過ごすうちに、料理の楽しさに目覚めた。
何より愛する息子カイルが美味しそうに食べてくれるのがこの上なく嬉しいのだ。
「かーしゃま! おにゃかすいたーー!」
「もうすぐ出来るから手を洗ってきてね?」
「「「ハァーーイ!」」」
「わかったじょ!」
抱きついて甘える息子にナタリーが優しく声をかけると、おちび達とフェンも元気良く返事をする。皆仲良く手を繋ぐと、よちよち歩きながら洗面所に向かっていった。
シロと桔梗がその後ろからさり気なく見守っている。
「おててをバシャバシャ~」
「「バシャバシャ~!」」
「たのしいじょ!」
「あら、可愛いねぇ~」
ユリアの掛け声に合わせて手を洗うカイルとルウを、桔梗も微笑ましそうに見ていた。
綺麗に手を洗ったおちび達はシロに抱っこしてもらい、各々の席に座る。そこには木のプレートが置いてあり、先程のスクランブルエッグとベーコン、それにサラダがセンス良く並んでいた。
更に、皆が取れるように籠に沢山のパンが入っていて、トマトスープが今ナタリーによっておちび達の前に置かれた。
「キャー! おいしそうでしゅね~!」
椅子に座りながら興奮するユリアがズリ落ちないように押さえるシロ。そこへルイーザを抱っこしたフローリアとエプロンを外したナタリーが加わり、皆が揃った。
「さぁ、食べましょう!」
「「「いたらきましゅ!」」」
「たべるじょ!」
手を合わせて元気良く言うと、嬉しそうに食べ始めるおちび達。それを見届けたシロと桔梗も森へ食事をしに出かけた。
そして初めて人化して食べるフェンがフォークを上手く使えず苦戦しているのを見て、ナタリーとフローリアが根気良く丁寧に教える。すると、フェンは意外にも覚えが良いのか、すぐにコツを掴み器用に食べ始めた。
「ユリアちゃん、美味しい?」
「あい! おいちー!」
フローリアが嬉しそうに食べているユリアに話しかけると、元気良く手を挙げて返事をする。
「ふふ、良かったです」
美味しそうに食べているおちび達を見て微笑むナタリー。
だが、ルイーザは不服そうに片手に哺乳瓶を持ちミルクを飲んでいる。自分もユリア達と同じものを食べたいのに食べられない現実を受け入れられないのだ。その姿は可愛い赤子がミルクを飲んでいるというより、酒をあおるやさぐれたおじさんに見えてくる。
「たあ!(早く成長したいわ!)」
そんな愛娘を見て、苦笑いするしかないフローリアは、ここに夫であるオルトスがいなくて良かったと心から思った。まだこの現実を見せるのは酷過ぎるからだ。そんなことを考えながら、ふとおちび達のプレートを見ると見事にサラダだけが残されていた。
「あら、予想通りね。どうしたものかしら~」
「ええ、分かってはいましたが……どうしましょう」
頭を抱えるフローリアとナタリーをよそに、ユリア達はトマトスープを飲んで、今にもごちそうさまの勢いだ。
サラダのみを綺麗に残したおちび達は、何事もなかったかのように、「ごちしょーさまでちた!」 と元気良く手を合わせて椅子から降りようとする。
だが、ここからがフローリアとナタリーの腕の見せ所だ。
「おちびちゃん達、お待ちなさい」
フローリアが仁王立ちしておちび達を見下ろす。ナタリーも一足早く椅子から降りたカイルを先程の位置に戻す。
「かーしゃま、カイルあそびたいでしゅ!」
椅子から降りようと必死に駄々をこねるカイルと、ただ黙って椅子に戻し続けるナタリーの親子の攻防はとてもシュールな光景だ。
ユリアとルウは何を言われるのか気付いていて、ちらっとサラダの方を見る。
「そうよ、サラダよ。サラダも食べないとダメでしょう?」
「うぅ……おにゃかいっぱいでしゅから、あちたたべゆ!」
ユリアはぽっこりお腹を摩りながら、フローリアの反応を窺っていた。ルウも同じ仕草をして大人達の様子を見ている。
「フローリア様、見てください!」
驚くナタリーの声に反応して彼女が指差す方を見ると、フェンが美味しそうにサラダを食べていた。その光景に驚いたのは、フローリア達以上におちび達だ。
「しゃらだおいしいじょ! このタレがいいじょ!」
フェンが絶賛するタレはアネモネ特製の、門外不出の独自のレシピで作られたものだ。一度フローリアがアネモネに作り方を聞いた時、恐ろしい笑みで「知る勇気がございますか?」と言われて、それ以上フローリアは何も言えなかった。
「あら~! フェンちゃん偉いわね~! お野菜食べられるのね!」
「本当ですね! このお野菜は新鮮で美味しいでしょう?」
フローリアとナタリーが大袈裟に褒めていると、ユリアは美味しそうに食べているフェンをジッと見ていた。
「フェンしゃま、おいちいでしゅかー?」
「うまいじょ!」
ユリアの問いかけに、サラダを全部平らげてお腹を摩りながら満面の笑みで答えるフェン。カイルもルウもただ黙ってユリアの様子を窺う。
「ああ、お野菜さんが可哀想だわ~」とフローリアが大袈裟な演技をする。
「たあ! たあたあ!(ユリア、私が食べてあげるわ!)」
「ルイーザ、黙ってミルクを飲んでなさい。……いい加減やさぐれてないでちゃんとお座りなさい」
そう言われてソファーに座らされたルイーザは、深い溜め息を吐きつつ、仕方がないとばかりに再びミルクを飲み始めた。そんな赤子らしくない愛娘に、こちらも深い溜め息を吐く母親のフローリア。
そんな親子の横で、ユリアは意を決してフォークを持つと、野菜を刺して口に運んでいく。その勇姿をカイルとルウが固唾を吞んで見守る。
「やしゃいしゃん、ごめんなしゃい!」
そう言ってもぐもぐと食べ始めたユリアを見て、フローリアとナタリーはホッとする。そんなユリアを見守っていたカイルとルウも、お互いに顔を見合わせて頷くと、フォークを持ち野菜に手を伸ばした。
「「やしゃいしゃん、いただきましゅ!」」
そう言ってもぐもぐと食べ始めた。
アネモネ特製のタレが美味しいのか、おちび達は順調に食べ進め、それを見て安心した二人も椅子に座り食べ始める。フェンは先に食べ終わり、妖精コウと再び積み木で遊び始めた。
「あ~! ユリアもあしょぶの~!」
楽しそうなフェン達を見て、ユリアは急いでサラダを食べ進める。その時、いきなり窓を叩く音がした。皆が驚いてそちらを見ると、ピピがツンツンと嘴で突いていた。
「あ~! ピピだー‼」
『ユリア~! 会いたかったよ~!』
ピピとの再会に喜び手を振るユリア。ナタリーが窓を開けてあげると、美しい真紅の小鳥がユリアの方に一直線に飛んできて、定位置である彼女の頭に止まった。
「ピピ、みんなは~?」
『もうすぐ戻ってくるよ。僕はユリアに会いたくて先に帰ってきたの!』
真紅の小鳥の声は、周りにはただ鳴いているようにしか聞こえない。そんな小鳥と普通に会話をしているユリアを改めて見ると、その不思議な能力の凄さが分かる。しかもこの小鳥の正体は、伝説の不死鳥フェニックスで、魔法大国アーズフィールドの聖鳥なのだ。
「本当にユリアちゃんは凄いわね」
「ええ、でもユリア王女はカイルや私を助けてくれました。こんなに穏やかで幸せな日々を送れているのも王女のお陰です」
ナタリーはそう言いながら、一生懸命サラダを食べている愛しい息子を見て微笑む。
「ふふ、そうね。ユリアちゃんのお陰でルウズビュード国も良い方向へ向かっているし、何より娘を……ルイーザを助けられたことは感謝してもしきれないわ」
「たあ!(アイラブユリアよ!)」
ミルクを持つ手を掲げて叫ぶルイーザを見て、つい笑ってしまうフローリアだった。
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