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4巻

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 第1話 ルーブニア帝国との最終対決


 竜人族りゅうじんぞくの国ルウズビュードの王女であるユリアは、〝神のいと〟だ。神の祝福を受けた彼女は魔物と会話することが出来、強大な魔力で多くの奇跡きせきを起こしてきた。
 そんなユリアの身柄みがらを狙う者は後を絶たない。その一人がネロ・マクレーンという男だ。
 犯罪組織のボスであるネロは、一度敗北したものの諦めておらず、今度はルーブニア帝国という軍事国家を利用して、ルウズビュードへの侵攻とユリアの奪取を画策した。
 ユリアの〝友達〟、もとい魔物達は、ルーブニアの兵をあっさり退けると逆襲に転じる。魔物達がルーブニアで暴れている間、ユリアは旅行先の〝いにしえの森〟で留守番をしているはずだったのだが……
 様々な偶然が重なり、ネロがリントロス商業都市にある世界ギルド協会本部に潜伏せんぷくしていることが分かり、更にはユリアもそこへ出動。
 合流したフェンリルのシロや竜王クロノス、そしてユリアの力で、ついにネロを捕らえることに成功したのだった。

         †

 時は少しさかのぼり、ネロを捕らえた日の朝のこと。
 シロと仲間達は認識阻害魔法を発動させ、無事ルーブニア帝国の帝都に侵入していた。メンバーはシロやクロノスといった魔物達と、ユリアの祖父チェスターをはじめとするルウズビュード王室関係者達だ。
 彼らは手筈通り二手に分かれた。
 ルーブニアの帝都は軍事国家だけあって高い塀に囲まれ、その所々に空いた小さな穴の中には兵が立ち、帝都に入ってくる人々を厳しい目でにらみ付けていた。

「感じが悪いな」

 チェスターは吐き捨てるように言うと、侵入に成功した帝都を見渡す。
 こちらは皇宮制圧を請け負ったチームで、チェスターの他は、初代ルウズビュード国王ジェス、ジャイアントグリズリーのクロじいに、地獄じごくの番犬ガルムといった面々だ。魔物組は人化している。
 彼らは皇宮を目指して急いで走り出す。

「それにしても酷い格差だな……反吐へどが出る!」

 道中あちらこちらで見受けられる浮浪者やストリートチルドレン達。彼らは酷くせ細り、道端に倒れている者も多い。中にはユリアくらいの子供もいて、その光景を見たチェスターは怒りをあらわにする。ジェス達も同じ気持ちでこぶしに力が入る。

「戦争に無理矢理駆り出される者も多いんじゃろう。前線で戦わされるのは平民で、特に貧困層の者が多いと見た。あの子達は戦争孤児じゃな……本当にみにくいことをするわい!」

 クロじいも珍しく顔つきが厳しい。ユリアと同じ三歳くらいの女の子が瀕死ひんしの状態で倒れているのを見つけると、そろりと近付いて回復魔法をかける。
 すると、女の子はゆっくりと目を開けて起き上がった。しかし、クロじいは彼女が痩せ細ったままなのが気になる。
 認識阻害の魔法をかけているのでクロじいの姿は見えないはずだが、女の子はニコッと笑う。そんな姿を見て、大人達はますます帝国に対する怒りを募らせる。
 きゅるるるー、と音が鳴る。
 女の子はお腹を擦りながらよろよろと起き上がると、近くにあったゴミ箱に近付いていき、一生懸命手を伸ばし始めた。

「……すまんが、先に行っていてくれるかのう」

 クロじいは自分の認識阻害の魔法を解くと、ゴミ箱に手を伸ばしている女の子の元に向かう。チェスター達はクロじいの意思を尊重して頷くと、皇宮に向かって再び走り出したのだった。
 女の子は近付いてくるクロじいに気付いた。大人は皆怖いものと認識しているこの幼子は、後退りしながらあからさまに警戒する。

「ホホ、元気なのは良いことじゃ」

 クロじいは女の子の頭を優しく撫でる。
 女の子はクロじいの手から温かさを感じ、恐る恐るその手を触ってみる。

「あった……きゃい……うぅ……うわーーーん!」

 女の子はクロじいに抱きついて大声で泣き出した。クロじいはそんな幼子を受け入れ、泣きやむまで優しく見守ったのだった。
 だが周りの浮浪者達は、小汚い格好で泣いている幼子を侮蔑ぶべつを含んだ目で見ている。そして騒ぎを聞きつけたのか兵士が数人やってきた。

「おい、ガキ! うるさいぞ! じいさんも気にするな! こいつらはこうやって同情するように仕向けるんだ!」

 兵士達はクロじいを押しのけると、怖がる女の子を睨み付け、腰から警棒けいぼうを抜いて振り上げた。

「大人がこんな幼子によってたかって……本当に救いようのない国じゃな」

 クロじいはそう言うと、振り向いた兵士を片手で軽々と掴み上げて放り投げた。兵士は鈍い音と共に地面に物凄い勢いでめり込んだ。
 周りの者達は逃げまどい、残りの兵士は驚き急いで警棒を抜こうとしたが、一足先にクロじいがそれぞれの首を掴んで、これまた軽々と持ち上げると地面に叩きつけた。
 それを見ていた女の子は瞳をキラキラと輝かせていた。悪者をこんなにも簡単に倒してしまったクロじいに憧れ、彼のようになりたいと幼心に思ったのだ。

「しゅごーい! ピアもせいぎのみかちゃになりゅの!」

 鼻息荒く宣言する幼子――ピアに驚いたクロじいだが、すぐに笑い出した。

「ハハハ! 正義の味方か! お前ならなれそうじゃな!」
「うん! ちゅよくちてくだしゃい! にーにやねーねをぶった、あいちゅらをたおちゅの!」

 話を聞くと、帝国兵士は、ピアを可愛がり面倒を見てくれていたストリートチルドレン達をゴミとののしり殴り殺したというのだ。その犠牲者達のお墓だという場所に案内されたクロじいは、そこがゴミ捨て場だったことに衝撃を受ける。
 ピアはクロじいの驚きに気付かぬまま、酷い悪臭を放つゴミ捨て場に向けて手を振った。

「にーに、ねーね! あいちゅらをたおちゅからね!」

 クロじいはそんなピアを抱き上げ、強く抱きしめた。

「その前に腹ごしらえじゃな!」
「ピア……おにゃかペコペコ……」

 そんなクロじいとピアの元へ、帝国の兵士達が押し寄せる。二人はゴミ捨て場を離れ、街の中を走り出した。


 その頃、チェスター達は皇宮に到着していたのだが、ストッパーであるクロじいがいないことですぐに暴れ始めた。
 皇宮内に入ったチェスターとジェス、それにガルムは認識阻害魔法を解いた。
 いきなり武器を持って目の前に現れた三人に驚いた兵士達が剣を抜き、近くにいたメイドや従者達は悲鳴をあげて逃げ始めた。

「お前達は何者だ⁉ どうやって入ったんだ!」
「ああ??」

 チェスターはすさまじいオーラをまとい、兵士達に圧をかける。すると、彼らはあまりの恐ろしさに一歩も動けなくなってしまい、それを見てジェスは呆れた。

「おいおい、弱過ぎだろ」

 そんな二人を気にすることなく、ガルムは次々と現れる兵士を冷酷に始末していく。彼は先程の幼い女の子が何処どことなくユリアに似ていたので、いつも以上に怒っていた。

「本来の姿に戻るまでもないな……ここは俺だけで十分だ。お前達は先に進め」

 ガルムはそう言うと、集まってくる兵士達をまた淡々たんたんと始末し始めた。

「ああ、あとは頼むぞ!」

 チェスターはガルムの肩を軽く叩くと先を急ぐために走り出して、そのあとにジェスが続いた。


 同時刻、皇宮の謁見えっけんの間ではレゼル皇帝が貴族達を集めて、〝神の愛し子〟を手に入れた後の話し合いをしていた。

「〝神の愛し子〟が手に入ったら、アーズフィールド国を手に入れたいのう」

 魔法大国アーズフィールドは、ルーブニアでは未発達な魔法を得意とする国なので、唯一手も足も出せないでいた。

「陛下、あの国は資源も技術も豊富です」

 宰相さいしょうは真面目に進言したが、顔にいやしさがにじみ出ている。

「あそこの王も気に入らん! 優秀な人材のみ奴隷どれいとして生かし、王族や他の国民は皆殺しじゃな!」

 レゼル皇帝の言葉に拍手喝采かっさいが起こる。貴族も自分達に利益が回ってくれば他国民がどうなろうがどうでも良いのだ。

「ああ、美しい女も生かしておかねばのう~」

 そう言っていやらしい笑みを浮かべるレゼル皇帝。
 だが急に入口付近が騒がしくなり、重厚なドアが血塗ちまみれの兵士と一緒に吹っ飛んできた。貴族達はパニックになり逃げ惑うが、入口には二人の大柄な男性が立って道をふさいでいた。

「おい、次はアーズフィールド国だと? リカルド~、俺に感謝しろよ!」
「ユリアをそんなことに使おうとするか……地獄を見せてやる」

 ルーブニア帝国の想像以上の残忍ざんにんさに呆れるチェスターと、激昂げきこうするジェス。アーズフィールド国の王リカルドは、チェスターの知己ちきであった。

「誰だ! ここは謁見の間だぞ! こんなことをして、ただで済むと思うでないぞ!」

 宰相がチェスター達に向かってくる。

「ルウズビュード国に先に喧嘩を売ったのはそっちだろ?」

 チェスターの言葉に驚き、貴族達はざわつき始める。

「送り込んだ二万の兵はどうなっているんだ!」
「何故ここにルウズビュード国の者がいるんだ!」
「〝神の愛し子〟はどうした!」
「二万の兵は壊滅したぞ?」

 ジェスが冷たく言い放つと、レゼル皇帝と宰相の顔色がみるみる青ざめていく。

「嘘をつくでない! わしはこのルーブニア帝国皇帝じゃぞ! おい、こいつらを捕らえよ!」

 レゼル皇帝が兵士を呼ぶが、誰一人として一向に現れない。

「ああ、兵士達はもう一人の仲間が一人残らず始末したみたいだな」

 ジェスの言葉に貴族達の動揺はいよいよ激しくなり、挙げ句の果てに二人に向かって命乞いのちごいを始めた。

「チェスター、生け捕りにするのは皇帝や皇族だけで良いのか?」
「……ええ、大丈夫でしょう!」

 チェスターの返事が来るまで間があったのが多少気になったが、怒りがまさっているジェスは、気にするのをやめた。

「おちびには見せられねーな!」
「ああ、そうだな」

 二人はそう言って小さく笑うと、ぶるぶる震える貴族達や宰相、レゼル皇帝の方へ歩いていった。それからしばらく謁見の間では悲鳴や爆発音が響いていたが、ついぞ誰も助けには現れなかった。

         †

 チェスターとジェスの大立ち回りの裏で、ガルムもまた着々と仕事をこなしていた。
 メイドや従者達は逃がし、向かってくる兵士を始末し……それを繰り返しているうちに、ガルムは血腥ちなまぐさい匂いを嗅ぎ付けて、地下まで下りてきた。すると、そこには目を覆いたくなる光景が広がっていた。
 数々の血塗れの拷問ごうもん器具が散らばり、そこから腐敗臭ふはいしゅうがする。その奥には小さな牢屋が並んでいて、一つの牢に何十人もの男達が詰め込まれていた。皆生気がなく痩せ細り、いつ死んでもおかしくない状況だった。
 酷い者は体の一部が欠損していて、治療もされずに瀕死の状態だ。ガルムが近付いて様子を見ていると、彼らはおびえて目をらす。

「人間は本当におろかで残酷な生き物だ」

 ガルムはそうつぶやくと牢の入口を軽々と破壊し始めた。
 すぐに外に出られるぐらいに入口は広がったが、誰も出ようとしない。

「おい、逃がしてやるから出てこい。ここにいる兵士達は俺が全滅させた」

 全滅と聞いて驚いている男達。そして暫くの沈黙のあとに、牢の中にいた一人の男がガルムに恐る恐る問いかけてきた。

「あの……本当にあいつらを全滅させたのですか?」
「ああ、あいつらはユリアを狙った敵だ。容赦はしない」

 ここでガルムは、男達は出たくないのではなくて、怪我けがなどで衰弱すいじゃくして動けないことに気が付いた。

「今、動けるようにしてやる。【パーフェクトヒール】」

 そう唱えた瞬間、男達があわく光り出して、かすり傷や深手は勿論もちろんのこと、欠損部分も綺麗きれいに修復された。自分達に起こった奇跡に驚きつつも、男達は泣きながらガルムに礼を言う。
 落ち着いたタイミングで事情を聞くと、彼らは近隣諸国の兵士達だと分かった。
 話してくれたのは、ルーブニアの隣国セイルの将軍であったライオネル。
 ルーブニアに捕らえられた彼らは、この地下で過酷な状況の中死を待つだけだった。打倒ルーブニア帝国を掲げた数多あまたの同胞達が、ここで無惨むざんに殺されていった。そんな地獄の日々が今終わったのだ。
 ライオネルは急に軽くなった体に慣れないながらも立ち上がり、今自分が生きていることを強く実感して泣き崩れた。そんなライオネルの元に生き残りの捕虜ほりょ達が集まってきて、解放された喜びを分かち合っていた。
 すると、地下入口から足音が聞こえてきた。緊張感が一気に高まり、捕虜達は静まり返る。

「俺の仲間だ」

 ガルムがそう言うと同時に暗闇くらやみから現れたのはチェスターだった。

「こりゃ酷いな……こいつらは?」

 地下の悲惨ひさんな光景とただよう悪臭に顔をゆがめながら、ガルムに説明を求める。そして一通り事情を把握したチェスターは、レゼル皇帝や皇族を拘束したことや、貴族や宰相、兵士達を〝片付けた〟ことを捕虜達に伝えた。

「お前達はこれから自由だ。国に帰ったらルーブニアの現状を報告しておいてくれ。レゼル達は一旦この地下牢に拘束しておく」
「はい! 本当にありがとうございました! このご恩は一生忘れません!」

 ライオネルが深々と頭を下げると、他の捕虜達も一斉に頭を下げる。
 そこへジェスもやってきたが、その手は何かを引きっていた。その何かを見たライオネル達は驚愕きょうがくする。下着姿で髪はボサボサのボロ雑巾ぞうきんのような格好の老人で、よくよく見ると、なんとそれはレゼル皇帝だったのだ。

「他の皇族は眠らせてある。まずはこいつを……ってどうしたんだ?」

 開いた口が塞がらないライオネル達を見て首を傾げるジェスと、苦笑いするチェスターだった。


 一方、帝国兵士達に追われているクロじいはピアと手を繋ぎ歩いていた。

「ピアよ、何が食べたいんじゃ?」
「んーとね……ケーキ! おいちいんだって! ピアたべたいにょ!」

 クロじいに聞かれたピアは元気いっぱいに答える。

「ホホ、そうかそうか」

 祖父と孫のように見える二人が洋菓子店を探していると、後ろから追手の兵士がやってきた。

「いたぞ! あのジジイだ!」

 そんな大勢の兵士達に怯えて、泣きながらクロじいの足にしがみつくピア。だが、クロじいは慌てることなく優しくピアを抱っこする。

「泣くでない。ケーキを食べるんじゃろう? わしにもお腹が減ってる仲間がおるんじゃよ。……其奴そやつに任せるわい」

 歩きながらピアを励ますクロじいの横を、一人の青年が通り過ぎていく。青年は毒々しい紫色の髪をなびかせて、こちらに向かってくる兵士達を見てわらった。

「フフ、ご馳走ですね」

 すると大きな悲鳴が上がり、人々は逃げ惑い大騒ぎになっていく。抱っこされているピアが恐る恐る後ろを見ると、そこには見上げる程に巨大な蛇がいて、兵士を蹂躙じゅうりんしていた。

「うわ~! しゅごーい! おおきいへびしゃんがいましゅよ! あっ、わりゅいちとたちたべられまちた!」

 キラキラした目で大蛇のチェビを見ているピアを見て、驚きつつも大笑いするクロじいであった。

         †

 一方、シロはネロがひきいる犯罪組織を追っていた。居場所は、事前に潜入してもらったガルムらの調査で分かっていたので、あとは壊滅するだけだった。
 こちらにはシロを中心に、クロノス&ゼノス親子や、天虎てんこのラーニャ&ネオ親子、そして不死鳥のピピがいる。チェビもいたはずだが、途中で姿が消えていた。

「おい、あの蛇はどうしたんだ?」

 ふと嫌な予感がしてクロノスがチェビの気配を探っていると、帝都の中心地付近で爆発音と共に人々の悲鳴が上がるのが聞こえてきた。

「……暴れてんな。しかも近くにクロじいの気配もあるぞ?」

 確かにそちらを見ると、中心地から煙が出ていて、巨大な蛇の頭が見えている。
「あいつ、何やってるんだ?」とネオが呆れている。

「関係ない人を食べてなきゃ良いけど……」

 ラーニャの一言で、ユリアの怒った顔が一同の頭をよぎる。

『ユリアにガッカリされちゃうよ! 僕が様子を見てくる!』

 ピピはそう言い残して飛び立っていった。残った面々は心配をしつつも、とある建物の前に到着した。そこは一見普通の酒場に見えるが、客や店の者は見るからにがらが悪い。
 いきなりやってきたシロ達を睨み付け、入口を塞ぐ男達。

「おい、ここは会員制だ。ああ、そこの女だけ置いて消えな!」

 一人の男がラーニャを見てそう言うと、周りにいる男達が下品に笑う。

「あら、私をご指名かい?」

 すると、ラーニャが妖艶ようえんな笑みを浮かべながら男に寄っていく。

「おお、物分かりが良いな! こっち来い! 可愛がってやる!」
「おい、順番だぞ!」
「先に俺だ!」

 その会話を笑顔で聞いていたラーニャは、一人の男の頬を優しく包み込むように触る。そして酒くさい顔に自分の顔を寄せると、急に凶悪な笑みを浮かべ、次の瞬間、男の首を思いっきりひね千切ちぎった。
 噴き出す血しぶきと転がる男の首。

「さぁ、次は誰だい?」

 血塗れのラーニャが男達に問う。男達は仲間の中で一番強い男が無惨にられたことに驚いて腰を抜かしてしまう。

「情けないねぇ、じゃあこちらから行くよ!」

 ラーニャとネオが人化したまま男達を蹂躙していく。そんな男達には見向きもせずに、その横を通り過ぎて先を急ぐシロ達。
 酒が並んだ棚の一つが隠し通路になっていることに気付いたクロノスが棚ごと破壊する。そして薄暗い階段を下りていくと、あることに気付いた。

「おい、ネロの気配が消えたぞ」

 そう言ってクロノスが気配を探るが、近くにはいない。

「まだ奥に人がいるな。そいつに聞いてみるか?」

 シロは奥にある扉に近付くと一瞬で破壊した。そこには見覚えのある男と、その後ろで震えている女がいた。

「何の騒ぎかと思ったら、お前らか。俺達はもうお仕舞いだな」

 色気漂う男――ネロの腹心の部下ディパードは、降参のポーズを取る。

「ただ、俺の首をやるからこいつだけは助けてくれ。ネロの居場所も全て教える。だから頼む」

 そう言って土下座するディパードに驚くシロ達。
 ディパードが助けて欲しいと言ったのは、かつて聖ラズゴーン教会で聖女と呼ばれていた女だ。ネロが教会を拠点に活動していた時に、傀儡かいらいとしてでっち上げた、偽物の聖女なのである。
 ユリアのような特別な存在ではないため、助ける理由が思い当たらなかった。

「この女は偽物の聖女だろ?」
「違うわよ! 私は本物の聖女よ! なのに……何が〝神の愛し子〟よ!」

 クロノスが言うと、女は激しく反論する。
「黙れ、フラン。お前は聖女じゃないんだ」とディパードがさとす。

「嘘よ! 聖女だってネロは言ってくれたわ! 私は神に選ばれたって!」

 だが、フランは認めようとせずに聖女だと叫び続ける。

「洗脳されてるな」

 シロがそう言ってディパードを睨み付ける。
 ディパードはフランをなだめて落ち着かせると、シロ達にこれまでの経緯いきさつを話し始めた。
        

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