幼子は最強のテイマーだと気付いていません!

akechi

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ユリア、新しいお友達に出会う

閑話 ユリアの日常④

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シロとクロじいが荷車に近付いて行き、荷台の薄汚れた布を捲るとぶるぶると震える月狼族であろう獣人が数十人固まっていた。

『俺の言っている事が分かるか?』

目の前に現れたシロを見て驚いた月狼族。フェンリルは狼族の獣人にとっては神であり崇め奉る存在なのだ。

「あ…貴方様が助けて下さったのですか?」

一人の月狼族の男性が恐る恐るシロに話しかけてくる。

『ああ、聞こえているんだな。俺達が助ける前に終わってしまった。』

シロはそう言うと後ろを見るように促す。クロじいの手を借りて荷台を降りた月狼族の人々が後ろを振り向くと、そこには見るも無惨な死体と巨大な狼達、そして巨大な蜘蛛がいた。

「あれは…天狼!それに長まで!あの蜘蛛は…我々を助けて下さったのか!」

「ああ、フェンリル様!ありがとうございます!」

「私達は助かったのね!うぅ…ありがとうございます!」

月狼族の人々は助かった事を素直に喜び、涙を流して魔物達に礼を言う。クロじいは土魔法を器用に使い足枷の鍵を作り出して、次々と重い足枷を外していく。

『ああ、ここにウルという子供の親はいるか?』

シロが喜んでいる月狼族達に聞くと、奥の方から男女が勢い良くやって来た。

「ウルは無事なんですか!」男はどこか緊張気味に聞いてくる。

「ああ、ウルは…無事ですか!」女は祈るように聞いてくる。

『ああ、危なかったが奇跡的に助かって今は元気にお前達を待っているぞ』

シロの説明を聞いて、安堵と喜びで泣き崩れる男女。同じく心配していた他の月狼族の人々もシロ達に改めてお礼を言う。

月狼族の村は破壊されてしまったらしく、皆の住む所がないのが現状だ。取り敢えずウルに会わせる為、クロじいの棲みかに月狼族達と向かう一同。


暫く歩いていると古の森ではあり得ない、子供の楽しそうな声が聞こえてくる。

「ユリアのおうちがいちばんでしゅよー!」

ユリアが泥まみれになりながら家(?)を作っている。

『私でしゅよ!』

赤い蜘蛛も泥まみれで家(?)を作っている。

『『『わあーーい!』』』

天狼の子供達は泥で遊んでいて真っ黒になっている。ネオはそんな子供達をただ見守っていた。

『おい、ネオ!何でユリアがこんな泥まみれなんだ!』

シロが泥まみれのユリアを見て驚き、ネオに詰め寄る。

『ユリアが泥遊びがしたいと言ったから遊ばせていたんだ。』

ネオは欠伸をしながら平然と言う。


そんな中、泥遊びをしているユリア達を見ていたウルが何かを感じ取りそちらに走り出した。

『とうちゃー!かあちゃー!うわーーーん!』

「「ウルーー!」」

やって来たあの男女にウルが嬉しそうに飛び込んだ。感動の再会を他の月狼族の人々や天狼の長、エンペラースパイダーが微笑ましく見ている。

「よかったにぇー!」

ユリアも小躍りして喜んでいると、ウルと共にやって来たウルの両親と月狼族の人々がユリアの前に平伏し始めた。

「この度はウルを助けて頂きましてありがとうございます!」

「「「「ありがとうございます!」」」」

大勢に囲まれて驚いたユリアはシロに張り付いて離れなくなってしまった。

『驚いたみたいだ。この子は人に慣れていないんだ、許してやってくれ』

「「「人にですか?」」」

首をかしげる月狼族の人々であった。


狙われやすい月狼族は話し合いの結果、クロじいの棲みかの近くに住むことになった。クロじいの土魔法で家を造り出し簡単に村が出来てしまった。それに驚いた月狼族だが、喜んで礼を言い村に入っていった。

もう気付けば夕方で、ユリアはウルと別れて皆で家に帰っていく。家の前には心配していたアネモネが仁王立ちして待っていた。ユリア達が泥まみれなのを見て顔が険しくなる。

「かーしゃん~!ただいま~!」

何も分かっていないユリアが泥まみれで手を振る。

『我はこれで失礼します……』

『わ…私もこれにて失礼します』

天狼の長やエンペラースパイダーは子供達を抱えて逃げるように去っていこうとする。

「お待ちなさい!」

アネモネの一言でビクッと止まる最強の魔物達。恐る恐る振り返ると、笑顔で近付いてくるアネモネはまるで地獄の使者のようだ。


仕事を終えて帰ってきたオーウェンが見たのは、家の前でアネモネに説教されているシロとネオ、それに加えて天狼の長やエンペラースパイダーも小さくなりぶるぶる震えている姿だった。通じてないだろうにアネモネが一方的に怒りをぶつけているが、あの蜘蛛を怖がっていた姿が嘘のようだ。

「どうなってるんだ?」

首をかしげるオーウェンは、此方に元気良く手を振るユリアの泥まみれの姿を見て大体察したのだった。





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