上 下
1 / 15
1章 アリアナの大冒険ー幼少期ー

初めまして、アリアナです!

しおりを挟む
「王よ!本当に良いのですか!」

「くどいぞ!この赤子は災いの子だ!赤子にしてこの膨大な魔力はあまりにも危険だ、このまま成長して我が国に危険を及ぼす存在になったら取り返しがつかない!」

側近と思われる男性の腕の中でスヤスヤ眠る可愛らしい赤子は、これから自分が実の親に殺されるとは思ってもいないだろう。王はそんな我が子を見ることもなく側近の腕から引き剥がすとその勢いのまま崖に放り投げた。まるで塵でも捨てるように簡単に終わった。

赤子はそのまま死ぬ運命だったが、そこで奇跡が起こったのだ。

「おいおい、人間は酷い事をするな」

崖を落ちて行く赤子のスピードが急に緩やかになり、そこに浮いていた青年の腕の中にすっぽりと収まった。黄金の髪を靡かせ、瞳もまた綺麗な金色だ。東国で手に入れた東国模様の派手なブロケートをコートにして羽織り、お気に入りの黒の着物を着崩したド派手な格好をしているが絶世の美貌もあってか違和感がない。

赤子は泣くどころか楽しそうに笑っていた。

「はっ!肝が据わってるな!それに人族にしては凄まじい魔力だな!」

この赤子をまた人族に返したらどうなるかは目に見えている。青年が暫く悩んでいると、赤子が青年の指を握ってじっと見つめる。何故かそんな赤子を愛おしいと感じた青年は赤子を大事そうに抱っこすると、浮いたまま移動を始めた。

「大騒ぎになるよな……」

これから起こる騒ぎを想像して溜め息を吐く青年であった。



暫くすると霧が濃くなっている崖と崖の間に小さな集落が見えてきた。青年を出迎えた人々は、腕の中で眠る赤子を見て驚く。その中の一人が前に出て行くと青年に進言する。

「ゼスト様、元の場所に戻して来てください」

厳しい顔をした若き側近リリノイスが苦言を呈する。

「リリノイス、俺はこの赤子を育てる事にした。異論は聞かない。」

ゼストと呼ばれた青年は、大騒ぎする側近達を無視して屋敷に入って行った。

「あらあら~、ゼスト様!人族に手を出したんですか!」

「オウメ、馬鹿を言うな!拾ったんだよ!」

「キャッキャ!」何故か笑う赤子。

「おい、笑うな!」笑う赤子にムキになるゼスト。

オウメと呼ばれた優しそうな老婆はこの屋敷の女中頭であり、歴代の族長に仕えてきた生きる伝説だ。

「この赤子は俺が育てると決めた。」

ゼストは赤子を愛おしそうに見つめる。

「決めたんですか?………結婚もしてないのに」

「一言多いぞ。ああ、決めた。」

オウメは深い溜め息を吐くと、急に厳しい顔つきになる。

「この赤子は人族です。人族は寿命が異常に短いのはご存じですよね?この子もすぐに死ぬでしょう、この子を看取る覚悟はあるのですか?」

オウメの言葉に何も言えなくなり黙ってしまうゼスト。そんなゼストを見た赤子が急に泣き出した。

「おい、どうしたんだ?俺はここにいるだろ?」

泣き出した赤子を見てオロオロするゼスト。

「ゼスト様の不安な気持ちをこの子が感じ取ったんでしょう……はぁ。この赤子も随分と懐いていますね、取り敢えずこの子の名前はあるんですか?」

「もう決めている。【アリアナ】だ。」

その名前を聞いて驚くオウメ。アリアナはゼストの亡くなった母親の名前なのだ。

「おい、お前は今日からアリアナだ!」

「キャッキャ!」

ゼストが赤子に宣言すると、アリアナは嬉しそうに笑ったのだった。




それから三年後。

「おい、オウメ!アリアナを見かけたか?」

調理場で指示を出しているオウメに問いかけるゼスト。

「いいえ、またいなくなったんですか?」

一緒に探そうとするオウメを制止して、ゼストは愛しい娘の微弱な魔力を追った。暫く歩くと、そこには小さな竜達と泥まみれで遊ぶ小さな女の子がいた。漆黒の長い黒髪をポニーテールにして、瞳は神秘的で赤い宝石のように輝いている。父親の影響なのか東国の赤い着物を着て、派手な模様の羽織りを羽織っていた。

「良いでしゅか!殺られる前に殺れでしゅよ!」

『『『あい!』』』

「戦いに卑怯もくそもないでしゅよ!」

『『『あい!』』』

「お前は何を教えているんだ!」

「いだっ!うぅ……殺られる前に殺られたでしゅ……」

ゼストは泥だらけのアリアナに拳骨を落として説教を始めた。小さな竜達は心配そうにアリアナの頭を擦っている。

首根っこを掴まれ、引き摺られて行くアリアナは小さな竜達に手を振っている。

「明日はミル爺に牙をもらいに行きましゅよ!」

『『『はーーい!』』』

小さな竜達は元気良く返事するとパタパタと帰って行った。

「おい、爺様に牙をもらうと聞いたが……気のせいだよな?気のせいだと言ってくれ!」

そう言って頭を抱えるゼスト。それもその筈でミルキルズとはゼストの祖父で竜族の初代族長であり、今は隠居していて竜の姿で過ごしていた。偉大なミルキルズは現族長のゼストでも近寄り難い人物なのだ。

「気のせいじゃないでしゅよ!ミル爺の牙を磨いたお礼に抜けた牙をくれるって!嬉しいでしゅ~!これで最強の武器を作れましゅよ!」

そう言って能天気に小躍りするアリアナ。

「お前って奴は…誰に似たんだ!」

「じじいでしゅよ!」

そう言ってゼストを見るアリアナ。

「じじいって言うな!」

そんな親子を屋敷の入口で微笑ましく迎え入れるオウメだった。














しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

『完結』番に捧げる愛の詩

恋愛 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:256

飯が出る。ただそれだけのスキルが強すぎる件

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:403

私を利用した婚約者は自滅する

恋愛 / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:115

【連載版】婚約破棄ならお早めに

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:80,450pt お気に入り:3,360

僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

BL / 連載中 24h.ポイント:902pt お気に入り:45

処理中です...