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それぞれのプロローグ

シャルロッテ

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 聖フローレンス学園ーーそこでは、一人の男爵位の女生徒を、複数の見目麗しい貴族達が場所を考えず取り合う、というスキャンダルで連日持ちきりであった。禁断の愛! 交差する人間模様! 愛憎! どれもみな、好かれる話題であり、お年頃のご令嬢ご子息様も口では下品だなんだ言いながらも恋の行方を気にしているのだ……かくいう自分も、そので無ければ今頃その恋路を見守る側になっていただろう。
 そう、何を隠そう私はこの国の第一王子であるジルバ様の次期妃になるシャルロッテ・フォーレンその人! ……なのである。そしてそして、不名誉ながら今話題の男爵令嬢、メアリー・フィレンツェのライバル!! と言われているのだ。不名誉ながら。確かに礼儀作法やマナーについて指摘した事はあるけれど、どちらかというと過激なご令嬢をステイさせたりする方が多かったし、メアリー嬢への些細な悪戯を揉み消したり……と、裏方の仕事が多いのだ。ライバルなんてやってる場合じゃない。
 それに、婚約者であるジルバ様に恋慕はあれど、好きな人に好きな人が出来たなら大切にして欲しいと思うのは当然だと思う。好きな人の幸せが幸せ派ですから、私。

 ーーそんな感じで慌ただしい学園生活ももう少しで終わりを告げ、卒業パーティーである。メアリー嬢の心を射止めたのはなんとジルバ様! まぁ、夜色の艶やかな御髪に、星の様な金の瞳を持つこの国の次期国王様……ともなれば女子として当然! 男らしく凛々しいお顔、服越しからでも分かる雄々しいお身体! 声もカッコよくて聴いてるだけで腰が砕けてしまいそうになるくらい……性格はひとまず置いとくとしても素晴らしい人だから、選ばれるのは当然……と、一ジルバ様好きとして胸を張りたいところなのだけれど、やはりメアリー嬢を選ばれたのは乙女的に悲しい。ジルバ様を見るだけで鼻血を出しジルバ様のお声を拝聴するだけで腰が砕けるのは良くないと、必死に訓練した甲斐あって、強靭なメンタルと、表情筋を殺す事に成功したわ!もちろん王妃教育もつつがなく行って、ジルバ様の隣に立つに相応しい淑女になれたと自負しているし。

「私、婚約破棄でもされるのかしら」
「可能性は低いかと……私ならシャルロッテ様を正妃にして、メアリー嬢を愛妾に致しますね。むしろシャルロッテ様で満足出来ない愚王を切り落としたいですわ」
幼い頃から仕えてくれている執事のレナに背中を押され、卒業パーティーへと一歩足を踏み出した。エスコート役であるジルバ様はもうメアリー嬢とくっついているようで、仲の良さが伺える。
「ジルバ様」
背中はシャキッと、なるべくジルバ様のご尊顔を見ないように意識しながらキリッとした声で話しかける。今の私、最高にクールじゃない! やったわ!
「……なんだ。シャルロッテか」
ジルバ様はこちらを向くと思い切り表情を崩される。不愉快だ、というのを抑えきれないその表情すらも愛おしいと感じる私はきっと変なんだろう。
「ええ、ご挨拶を……と思いまして。メアリー嬢も、パーティーを楽しんで下さいね。それではーー?!」
このまま見ていたら顔が赤くなってしまう! 少々早口気味に捲し立ててそのまま地味に壁の花に徹していたい私でしたが腕を掴まれ、グイッと戻されました。何故か、ジルバ様に。
「待て。今後の事についてだが、俺達の婚姻の後、メアリーを俺の愛妾として迎えようと思うんだが、異論はないな?」
「えっ……えぇ。ジルバ様の仰せのままに。それでは私はこれで!」
ジルバ様の腕を振り払うとそのまま私は逃走した。いやあれなんてご褒美なんでしょう! 思わず被っていた猫が外れる所でしたわ!ご飯に関しては名残惜しいですけれど、今日はお腹いっぱいなので帰りますわ!

 それから一カ月後。正式に成人と認められ、ジルバ様との婚姻の儀を執り行う日がやって来た。これはお互いに純白の肌着のような服を着て、切れ味鋭い短剣をお互いの胸に突き立て、死ぬまで一緒ですよ~という事を誓う立派な儀式だ。まあこの後普通の夫婦であれば初夜があるので、薄着で儀式を執り行うのはなのだろう。
「ジルバ様……いらっしゃるかしら?」
儀式中、人を殺しかねない眼光で射抜かれていて死を覚悟していた私です。身体を丹念に洗って、良い匂いのする香も付け(ジルバ様が気に入った逸品らしい)、そして一応淫香の準備もしておく。準備万端です! と気合の入りまくってしまった部屋に自分でも引くけれど、愛するジルバ様に形式だけでも抱かれたいと思うのは仕方ない事だと思うの。

……まあ、結果から言うと、来なかったんですけどね。そうですよね、愛しのメアリー嬢のところに行きますよね……フフ……。
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