上 下
10 / 10
1話目

9.初めての口答え

しおりを挟む
翌日の聖女選定を控えていても緊張はなく、意外にもゆっくりと寝ることができて、目覚めも良かった。

身なりを整えていると、ズカズカといつもの足音がして、扉が開いた。

「ソフィア、力をもらいに来たわ」

堂々と言って除けるミアに白目をむきそうになる。

「いやよ」

初めての私からの拒絶に驚いているのか、ミアはぽかんとした表情を浮かべる。

「何言ってるのソフィア? 今日は聖女選定の日なんだから、大きな力を貸してくれなきゃ」

「この一ヶ月は遮断されて情報もない中、国を助けるために仕方なく貸してたわ。

それにミア、あなたの嫌がらせから逃れるためにね。

でも今日私は自由になるんだから、もうあなたのわがままを聞く必要はないわ」

ミアは驚いたように口を開ける。

そして、ハッとしたように表情を戻す。

「待って。ねえ、ソフィア。あなたそんな顔でみんなの前に出るの? 」

ミアは私の顔を指差して、薄く笑う。

「選定の日は王宮からも、教会からも、それから大学からもいろんなところから人が集まってくるのよ。

ほら、鏡見てみなさいよ」

わたしは目の前の鏡を見つめる。

「こんなんじゃ、誰も聖女だなんて思わないわ。ただの怪物よ。

そんな姿じゃ立てないでしょ? 大人しく代わりに私に任せてくれればいいんだよ」

ミアに怪物と言われた顔は相変わらずにボロボロにただれた皮膚。

痒くて寝ている間にかいてしまったのか、血が少し滲んでいる。

皮膚のぶよぶよは、薬の効果が薄かったのか、今は元に戻っている。

それでもぶつぶつとした紫や赤の湿疹は目立つ。

「いいの、スカーフで隠すわ」

肌が隠せるように着た裾の長いワンピースの上から、更にスカーフを頭からかぶった。

薄い生地だから、顔を覆っていても前が見えるし、目が覆われてしまっても力を使えば透視ができる。

それに。

「ミアのその幼い服装よりも、よっぽど落ち着いているし、魔法使いみたいで気に入ってるわ」

ミアの言葉に気分は心底落ち込んだけど、この子とも今日でおさらばだと思うと、鏡に映る自分の姿すらも少し楽しい気分で見れるようになっていた。

そうよ。異国にはこんな服装の人も多いみたいだし、なんだか神秘的で、いい感じ。

一方で褒美としてもらったのか、自分で買ったのか、どちらかなのかは釈然としないけど、豪勢でフリフリとしたピンクのドレスを着たミアは顔をしかめる。

「ソフィア。そんな生意気なことよく私に言えるわね。

部屋に篭ってたら頭おかしくなっちゃったの?

自分が似合わないから負け惜しみだって、そんなこと誰が見てもわかるわ」

ミアは一度もったいぶったように間を開けてから伝える、

「本当は言わないつもりでいたんだけど、これはね、ダンからもらったの。

未来の可愛らしい聖女にとってもお似合いだって贈られたのよ。

これをきたら、きっと男の子はみんな私に夢中だから心配だよって言われちゃった。

ねえ、ソフィアはダンから何をもらったの? 」

にこにことした表情で、ミアは平気で私の傷をえぐってくる。

人生で一番の贈り物だと思ったくらいに好きだった彼だけど、私の最後の記憶は、気持ちが悪いと顔を歪めて怪物のような表情で私を見るダン。

もちろん、その後に連絡なんてもらっていない。

その間もミアと仲睦まじくやっていたのは、透視しなくても最後の二人の雰囲気から容易にわかってしまう。

それでも、1ヶ月間部屋に引きこもって冷静になれば、あんな男の本性がわかって良かったと思える。

私は息を吐いた。

そして、もう機嫌をとるのはやめた。

「ミア。そのドレスは確かに可愛らしいミアにはぴったりだけど、お遊戯会に参加する服装みたいだわ。

お金を払って着てくれと言われても、私はこんな大切な日には着たくないかな。

だって国を守る『聖女』という意味では、信頼感を得られないと思うの。

人気者投票じゃないのよ、今日は聖女を選ぶ日なの」

今日でお別れだと思うと、もう何でも言えた。

ミアは顔を真っ赤にする。

「よくソフィアの分際でそんな口聞くわね!」

地団駄を踏みそうな姿に、思わず笑ってしまう。

その私の様子にさらに機嫌を悪くするミア。

「今に見てなさい。

あなたの能力なんてなくても、私には力があるの。

聖女であることを証明して、そんな風に言ったこと後悔させてあげるから!」

ミアはそう言って、大きな音を立てて部屋を出て行った。


そして、そのすぐ後に警備の人から名前を呼ばれて、私は選定の場である聖堂のホールへと向かった。
しおりを挟む
感想 32

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(32件)

sarumaro
2023.02.20 sarumaro

続きはないんかなー?

解除
ロスマリス
2020.10.27 ロスマリス

エタりましたね。
こういう風にいいところで
エタる話が多すぎてうんざり
します。

解除
ハリー
2020.09.07 ハリー

ざまぁ〜これからで更新ないですが…このままフェイドアウトじゃないですよね〜?

解除

あなたにおすすめの小説

なりすまされた令嬢 〜健気に働く王室の寵姫〜

瀬乃アンナ
恋愛
国内随一の名門に生まれたセシル。しかし姉は選ばれし子に与えられる瞳を手に入れるために、赤ん坊のセシルを生贄として捨て、成り代わってしまう。順風満帆に人望を手に入れる姉とは別の場所で、奇しくも助けられたセシルは妖精も悪魔をも魅了する不思議な能力に助けられながら、平民として美しく成長する。 ひょんな事件をきっかけに皇族と接することになり、森と動物と育った世間知らずセシルは皇太子から名門貴族まで、素直関わる度に人の興味を惹いては何かと構われ始める。 何に対しても興味を持たなかった皇太子に慌てる周りと、無垢なセシルのお話 小説家になろう様でも掲載しております。 (更新は深夜か土日が多くなるかとおもいます!)

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。 だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。 国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。 「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」 *この作品はなろうでも連載しています。

最後に報われるのは誰でしょう?

ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。 「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。 限界なのはリリアの方だったからだ。 なので彼女は、ある提案をする。 「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。 リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。 「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」 リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。 だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。 そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?

長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。 王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、 「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」 あることないこと言われて、我慢の限界! 絶対にあなたなんかに王子様は渡さない! これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー! *旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。 *小説家になろうでも掲載しています。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。