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1章 始まり
18【ピンチ!パンチ!GOレンチ!!!】
しおりを挟む日向たちは、フェンスから外に出るために二重になっている白い箱の中を通って外に出ると、
先頭を歩いているアーサーは、日向がバリーを助けた住宅街の方には行かず、そのまま右斜め前にある広場のようなところに向かって歩き始めた。
「ここって公園ですか?」
日向が聞くと、アーサーはこちらを降り向かずに頷いた。
「4号棟の方に行けば池がある」と言いながらアーサーは右を指差した。少し遠くに、水辺があるのが見えた。
公園は、地面が一面芝生になっており、太陽をさんさんと浴びて黄緑色に光っていた。
丘のようなところを歩いていると、奥には木々が生えており、ゆらゆらとうごめいているものが見えた。
ーーそう、ゾンビである
日向が気づくと同時に、「静かにしろ」とアーサーはチラッとこちらを見て、目くばせし、先ほどよりもゆっくりと歩いた。
ゾンビはまだ豆粒のように見える。今から撃ったところで当たらないのはわかっていたので、3人とも静かにアーサーの跡をついていった。
すると、奥からさらに1体、2体…と計3体のゾンビがいた。アーサーはそうなることを気づいていたかのように、「やっぱりな」と呟いた。
「ちょうどいい、あそこに3体いるから、それぞれ1体ずつ仕留めろ」
アーサーは私たちに奥のゾンビを指差した。
________________________________________________________________
ゾンビの近くまで歩いてくると、不意にアーサーが立ち止まった
「俺はここで見ている。左から、日向、紫郎、そして1番右の手前にいるゾンビを琥博がたおせ。」
そう言うと、先ほどまで前傾姿勢だったアーサーはスッと背筋を伸ばし、腰に手を当てた。そして、「早く行け」と言うように顎でゾンビの方を指した
紫郎は、自分が倒すゾンビを見た。そのゾンビはよろよろと歩いているが、他のゾンビよりも少しがたいがよく、大きな体をしていた。
右手にはめているグローブで懐から銃を取り出した。
先ほど修理士と話したあと、ヘイデンが着物の中につけるタイプのホルスターを紹介してくれた。紫郎の着物の中には肌着の役割をしている肌襦袢を着ているため、その上にホルスターをつけたことで、懐から取り出しやすくなったのだ。
つけている感じもピッタリとしていて、着物に響きにくく、紫郎は気に入っていた。
銃のハンマーをコックし、真っ直ぐに銃を構えた。
この銃は安全装置がない代わりに、手の腹に当たる部分をぐっと強く握ることで、撃てるようになるらしい。
先ほどヘイデンから教わった銃の撃ち方に習いながら、右手に力を入れじっくりと照準を合わせた。
照準があってきたところで、引き金を引いた。
「「バァーーンッ」」
銃を撃つと、日向の銃よりも深い音が鳴り、何かが爆発するような音に近かった。撃った弾はゾンビの頭横を掠めていった。
思っていたよりも強烈な反動に紫郎も驚いたが、1発目でコツを掴んだ紫郎はもう一度じっくりと狙った。
「「ッバァーーンッッ」」
紫郎の銃から2発目が放たれると、真っ直ぐにゾンビの頭に飛んでいき、見事命中した。
弾が当たったゾンビは前にバッタリと倒れた。
この銃は音も反動も強烈だったが、それがとてもカッコ良く、紫郎は自分の悩みも吹き飛ぶほどの楽しさを覚えた。
_________________________________________________________
アーサーに指示された琥博は、早速右のゾンビの方に歩いていった
「うわぁ…」
ゾンビが50mくらいになる距離にきたが、ゾンビはゆっくりとこちらに歩いてきている。少々グロテスクだが、仕方がない。
「しゃーない、成仏せなあかんで~」
そういうと、琥博はゾンビの方に走っていき、ゼロ距離でゾンビの顔面をレンチでぶっ叩いた。
走ってくる途中でゾンビがこちらに気づいたようだったが、琥博の方が早かった
「おし、これでええかな?」
そう思ってゾンビの顔を見ると、結構グロテスクなことになっていた。だが、どうにもなぐるだけではトドメが刺せないらしく、まだ動いている。。
「あ、なんかごめんな? ん~どうしたらええんやろ」
一回で殺せなかったことに申し訳なくなりながら、琥博が口をとんがらせて考えていると、ハッと閃いた!
「アーサー!」あ、しもた、大声で叫んでしもた
その声を聞いたアーサーはこちらを鬼のような顔面で睨んでいる
「叫ぶんじゃねぇ!」
「ごめんやん~、あ、それより、ナイフかなんか貸してほしんやけど!」
それより と言ったのが悪かったのか、まだこちらを睨んでいる
「何するつもりだ?」
「あんさ、レンチだけやと、ゾンビ死なへんねん。だから、なんか刺せる物ないかなと思って」
と言うと、琥博がまともに考えていることがわかったのか、アーサーは自分のポシェットを探り始めた
「これを使うといい。ちゃんと殺したい時に使うヤツだ。」
そういうと、折りたたんである槍のようなものを差し出した。
これなら確かに頭に突き刺して倒せそうだと思った琥博は
「オッケーサンキュー!」
とお礼を言うと、一目散にゾンビの方に向かって走った。
ゾンビはまだ這ったまま動いているが、明らかに動きが鈍くなっている。
「じゃあな、成仏してな~」
と言いながら、琥博は槍を頭に突き刺した。
_________________________________________________________
全員がそれぞれのノルマを無事達成し、アーサーの元に戻ってきた。
「よし、全員終わったな」
今の感じを見ていると、紫郎の銃声の大きさには流石に驚いたが、それぞれがうまくゾンビに対応していた。
「次はどうするんですか?」
日向がアーサーに聞いてきた。
「そうだな、」
今日はこの広場で出てきたゾンビを倒すだけにしようかと思っていたが、この感じであれば他の場所でも適応しそうだ。
「次はこの奥にある廃墟に行く。ついてこい」
アーサーは廃墟に3人を連れて行くことにした。
_________________________________________________________
歩いている最中も、ゾンビが何体か出てきたが、紫郎が銃の練習をしたいからと、ゾンビをたくさん倒してくれた。
日向は紫郎の天才肌なところを前から知っていたので、初めての銃で2発でゾンビを仕留めたことにさすがだと感心していた。
自分も出来ることならそうなりたいが、生憎そこまで飲み込みが早いわけでもなく、地道に努力しなければならないため、紫郎が羨ましく感じた。
そんなことを考えながら歩いていると、アーサーの言っている『廃墟』のような所にやってきた
木々が青々としており、日差しが入りにくいからか先ほどの公園とは違い、少し湿っぽい場所だった。
家には青緑色をした綺麗な苔が生えており、そこに木々の隙間から漏れ出る日差しがあたり、どこか幻想的でもあった。
ここが湿っぽい理由は、木が多いだけでなく、それぞれの木が家を覆いかぶさるほど大きい大樹となっていたからだった。
「ここはパンデミック前から人が住んでいなかったらしい。」
アーサーにそう言われて、家をよく見てみると、家の中には古いブラウン管のテレビ、レトロなポスターなど、どれも古いものが置いてあった。だが、重さに耐えきれなくなった天井が崩れている家もあり、中に入るのは少々危険そうである。
「次はここでゾンビを倒す」そういうと、アーサーは私たちの方を見て立ち止まった。
「ここはゾンビがよく居る。南区の近くでもあるから、ゾンビが溜まる前に倒さないとならない。」
「だが、ここは家があって全員で行動するのはむしろ危険だ。2組ずつに分けて行動しよう。」
そう言うと、アーサーと紫郎、日向と琥博の2組になり、行動することになった。
「今回は俺が見ていないから、お前らは気をつけて進めよ。あと、銃の2人は特に、仲間を撃たないように気をつけろ。
ある程度したら、無線機で連絡する。」
そう言うと、アーサーと紫郎は早速行ってしまった。
「がんばろな~!」そう琥博が小さめの声で言うので、日向も頷いた。
「あ、そういえば、うちここでゾンビにあってんよ」琥博がそう言った。そういえば彼は初日にフェンスの外までやってきていたのだ。まさかここまできているとは…
「こんなところまで来てたんだね」
「んー、そうやねん。で、ゾンビにびっくりしたら、直感がピーンって働いて、『あっちが俺の住むとこや!』って南区があることがわかったんよ」
「…え?」どういうことだろう?直感がピーン…?
「うち道に迷ったり危ないことあると、直感がピーンて働くねん。」
直感が働く、と言うのは自分にも何度かあったことがある。だが、住むところまでわかるのだろうか?
「んで、フェンス越えたら、直感がまたピーンて来て、3階がうちの住む所やってわかったんよ」
「へ??」
さっきから琥博のわけのわからない話を聞いて日向は困惑した。
「な、なんでそんな住むところまでわかるの?」
と日向が聞くと、「それよく聞かれる~」と本人はいたっていつも通りだと言うような返事をした。
色々と聞きたい日向だったが、角を曲がったところに突然ゾンビが現れた。
日向が急いで銃を構えたが、琥博がゾンビに向かってレンチを振り回したので、琥博を撃ってしまわないように咄嗟に銃を下ろした。
琥博の振り回したレンチがゾンビの頭に当たると、ゾンビは吹き飛ばされるようにして倒れ、ビクビクとしている
すると、持っている縦型のポシェットの中から折り畳み式の槍を取り出し、ゾンビに向けて突き刺した
「成仏するんやで~」
そんなことを言っている…
正直、ハタから見ているとサイコパスのように見える…
もちろん琥博はそんなつもりは一切ないのだろうけれども…
すると、琥博の奥からさらに2体のゾンビが現れた!すぐに銃を構え直したが、この道は狭く、万が一琥博に当たってしまうと危ないので、琥博に任せることにした。
琥博は相変わらずレンチを振り回し、ゾンビをボコボコにぶっ叩いている…ように見える
すると、日向の背負っているリュックについている無線機から音が聞こえてきた。日向は背負っているリュックを前に背負い直し、リュックの上に銃を置き、無線機をポーチから取り出そうとした。
近くで琥博がレンチを振り回す音が聞こえたので、琥博のレンチに当たらないように十字路になっているところまで後退りしながらポーチと格闘していると、
不意に右腕を掴まれた。
紫郎先輩だろうか?それともアーサーさん?
日向は掴まれた瞬間考えた。だってこんなにも近くにいたのであれば、わざわざ無線機を使う必要などないからである。
…そして、なぜこんなにも手が冷たいのであろうか…
日向は気づいた。
ゾンビに腕を掴まれていることを!!
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
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