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第7話: 俺にだけ可愛げがない(魔王視点)
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相変わらず俺の心は落ち着くことがない。
陽太の存在が日常に変化をもたらしているのは間違いないが、その変化が何なのか、どうしてこうも心を乱されるのか、自分でもうまく説明できない。
楽しいという感情だけではない何かが、ある気がしている。
最近の彼は、あのうんざりした顔と苛立った顔をあまりしなくなった。
何か心境の変化でもあったのだろう。
それはいいことなのだが、その代わり目に余る行動が多くなった。
城の獣人たちと親しくしている場面を目にする機会が増えたことだ。
なんでも、暇を持て余していた彼が自分のスキルを発見し、それを使ってフェリスに小さな道具を作ったのがきっかけらしい。
彼のスキルは『自己犠牲』という今まで聞いたこともない変わったスキルで、自身を媒体に彼の知っている異世界の物を作ることができるというものだそうだ。
何も無いところから物を生み出すという力はすごい。だが、その分デメリットも大きく、力を使いすぎて体が小さくなったと聞いた時には肝を冷やした。
それでも彼は何か困っている獣人に手を差し伸べ、その能力でいろいろなものを作っているらしい。
獣人たちが感動し、彼に礼を言う様子を見ていると、なぜか胸の奥がざわつくのを感じた。
俺の許可も得ず、勝手にそんな行動を取るとは…
そう思いながらも、なぜか微妙な違和感を覚える。
この城で「自分の許可なしに」行動する者がいるというだけで気に入らないはずなのに、それ以上に、彼が他の者に笑顔を向け、親しげに話していることが妙に腹立たしく思えてしまうのだ。
ある日の昼下がり、陽太が獣人たちと談笑しているのを見かけ、ついに我慢できずに彼に声をかけた。
「陽太、お前に許可した覚えはないが?」
彼は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに眉をひそめ、面倒そうな顔を見せた。
「またですか、ダルクさん。俺が何か悪いことでもしました?」
その反抗的な態度に、さらに苛立ちが募る。
俺の言葉に従わないどころか、彼はむしろ挑発するような目でこちらを見ているのだ。
「お前が勝手に他の者と親しくする必要がどこにある?スキルも使っているらしいな」
「親しくするって…ただ手伝ったりしてるだけですよ。なんせ暇なんで。それに、俺がスキルを使ったのは彼らが喜んでくれるからで、別にあなたに許可を取るようなことじゃないと思いますけど?」
彼の言葉に、俺の中で何かが弾けたような気がした。
彼が他の者と親しくすることが、なぜこんなにも腹立たしいのか。
それが理解できずにいる自分に、ますます苛立ちが募る。
「お前がそんな風に勝手に行動することが許されるとでも思っているのか?」
「勝手にって…あんた、俺が他の人を手伝っただけで何をそんなに怒ってるんだよ?ちゃんと城から出ずに大人しくしてるんだし、俺がここでどう過ごそうが、俺の自由じゃないか!」
彼の反論が耳に入ると同時に、胸の奥でさらに強いざわめきが走る。
どうしても、彼が他者と仲良くしている姿が気に入らない。
こんな感情を抱くのは初めてだったが、どうやって自分を落ち着ければいいのかもわからないまま、俺はさらに言葉を荒げた。
「俺の城でお前は俺の保護下にある!その意味を理解しているのか?」
「だから、その『保護』っていうのがよくわかんないんだよ!何がしたいのか、ちゃんと言ってくれよ!」
陽太の鋭い言葉が突き刺さり、俺は言葉を失った。
彼がこんなに真っ直ぐな目で俺を見つめ、何かを問いかけてくることに、どう対応していいのか分からなかった。ただ見つめ返すことしかできない。
「まただんまり…ね。あんたが悪い人じゃ無いってのはわかってるつもりだけど、やっぱりこんなに拘束されるのはおかしいだろ!いい加減にしてくれ!」
俺と陽太の激しい言い合いにフェリスが慌ててこちらに向かってくるのが見える。
「どうされたのですか!?」
「ごめんフェリス。やっぱりダルクさんのこと理解できそうにない。もう部屋に戻るね」
「待て!まだ話はーー」
部屋へ戻ろうとする彼を引き止めようと手を伸ばす。
咄嗟に俺の手を避けた彼はいつも見ているうんざり顔でも苛立った顔でもない、初めて見る表情をしていた。
これは悲しみ苦しんでいる表情だ。
「あんたの顔、今は見たくない」
俺はその言葉に何も返せなかった。
陽太の存在が日常に変化をもたらしているのは間違いないが、その変化が何なのか、どうしてこうも心を乱されるのか、自分でもうまく説明できない。
楽しいという感情だけではない何かが、ある気がしている。
最近の彼は、あのうんざりした顔と苛立った顔をあまりしなくなった。
何か心境の変化でもあったのだろう。
それはいいことなのだが、その代わり目に余る行動が多くなった。
城の獣人たちと親しくしている場面を目にする機会が増えたことだ。
なんでも、暇を持て余していた彼が自分のスキルを発見し、それを使ってフェリスに小さな道具を作ったのがきっかけらしい。
彼のスキルは『自己犠牲』という今まで聞いたこともない変わったスキルで、自身を媒体に彼の知っている異世界の物を作ることができるというものだそうだ。
何も無いところから物を生み出すという力はすごい。だが、その分デメリットも大きく、力を使いすぎて体が小さくなったと聞いた時には肝を冷やした。
それでも彼は何か困っている獣人に手を差し伸べ、その能力でいろいろなものを作っているらしい。
獣人たちが感動し、彼に礼を言う様子を見ていると、なぜか胸の奥がざわつくのを感じた。
俺の許可も得ず、勝手にそんな行動を取るとは…
そう思いながらも、なぜか微妙な違和感を覚える。
この城で「自分の許可なしに」行動する者がいるというだけで気に入らないはずなのに、それ以上に、彼が他の者に笑顔を向け、親しげに話していることが妙に腹立たしく思えてしまうのだ。
ある日の昼下がり、陽太が獣人たちと談笑しているのを見かけ、ついに我慢できずに彼に声をかけた。
「陽太、お前に許可した覚えはないが?」
彼は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに眉をひそめ、面倒そうな顔を見せた。
「またですか、ダルクさん。俺が何か悪いことでもしました?」
その反抗的な態度に、さらに苛立ちが募る。
俺の言葉に従わないどころか、彼はむしろ挑発するような目でこちらを見ているのだ。
「お前が勝手に他の者と親しくする必要がどこにある?スキルも使っているらしいな」
「親しくするって…ただ手伝ったりしてるだけですよ。なんせ暇なんで。それに、俺がスキルを使ったのは彼らが喜んでくれるからで、別にあなたに許可を取るようなことじゃないと思いますけど?」
彼の言葉に、俺の中で何かが弾けたような気がした。
彼が他の者と親しくすることが、なぜこんなにも腹立たしいのか。
それが理解できずにいる自分に、ますます苛立ちが募る。
「お前がそんな風に勝手に行動することが許されるとでも思っているのか?」
「勝手にって…あんた、俺が他の人を手伝っただけで何をそんなに怒ってるんだよ?ちゃんと城から出ずに大人しくしてるんだし、俺がここでどう過ごそうが、俺の自由じゃないか!」
彼の反論が耳に入ると同時に、胸の奥でさらに強いざわめきが走る。
どうしても、彼が他者と仲良くしている姿が気に入らない。
こんな感情を抱くのは初めてだったが、どうやって自分を落ち着ければいいのかもわからないまま、俺はさらに言葉を荒げた。
「俺の城でお前は俺の保護下にある!その意味を理解しているのか?」
「だから、その『保護』っていうのがよくわかんないんだよ!何がしたいのか、ちゃんと言ってくれよ!」
陽太の鋭い言葉が突き刺さり、俺は言葉を失った。
彼がこんなに真っ直ぐな目で俺を見つめ、何かを問いかけてくることに、どう対応していいのか分からなかった。ただ見つめ返すことしかできない。
「まただんまり…ね。あんたが悪い人じゃ無いってのはわかってるつもりだけど、やっぱりこんなに拘束されるのはおかしいだろ!いい加減にしてくれ!」
俺と陽太の激しい言い合いにフェリスが慌ててこちらに向かってくるのが見える。
「どうされたのですか!?」
「ごめんフェリス。やっぱりダルクさんのこと理解できそうにない。もう部屋に戻るね」
「待て!まだ話はーー」
部屋へ戻ろうとする彼を引き止めようと手を伸ばす。
咄嗟に俺の手を避けた彼はいつも見ているうんざり顔でも苛立った顔でもない、初めて見る表情をしていた。
これは悲しみ苦しんでいる表情だ。
「あんたの顔、今は見たくない」
俺はその言葉に何も返せなかった。
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