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5話
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油断していたのだと思う。ここにきて初めてエリオットの母親のそばを離れた。
もう完全に治ったような気で、たまには部屋に花を飾って喜んでもらいたいと思い、庭で植物をつんでいた。
突然、部屋の中からすごい音が響いた。何か大きなものが倒れたようなそんな音だった。
嫌な予感がして慌てて母親の部屋に戻ると、濃いもやに包まれた母親が苦しそうな表情で床に倒れていた。
さっき穏やかな笑顔で僕の頭を撫でてくれて、もやだって見ようとしなければ見えないくらいになっていたはずだった。
それが今はもやが部屋を埋め尽くし先の見えない霧のような状態になっている。
いつものよくわからない感覚が母親に命の危機が迫っていることを教えていた。
「僕がそばを離れたから?」
震える手で母親の頬に触れると、温かかさを取り戻しつつあった頬が出会った頃以上に冷たくなっている。急がなければ。
慌てて母親を助けようといつもよりはるかに濃い黒いもやを払い続けていると、体の感覚が次第に鈍くなり、視界がどんどん暗くなっていくのを感じた。
もやを払うごとに、僕の体は重くなり、動くたびに息が苦しくなる。
それでも、少しずつ彼女が安らかな顔になっていく姿を見ると、心が温かくなるのを感じた。
「……どうして……こんなに体が重いんだろう……?」
いつもとは違う感覚で自分の体に何が起こっているのかはわからなかった。
部屋と彼女の周りのもやが綺麗になる頃には、僕の腕や足が黒ずんでいき、透き通り始める。自分の存在そのものが薄れていくような感覚だった。
恐怖が胸に押し寄せてきたものの、彼女の表情がいつも通りの穏やかなものに変わっている姿を確認して、少しだけ安心した。
自分の意思通りに動かなくなった体を支えることができず膝をつく。視界に入った僕の腕は真っ黒と透き通りの斑らにになっていて、黒いところから彼女を苦しめていたもやが出ているようだった。
こんな姿で彼女の近くにいるのはまずいと、体を引きずりながら必死で距離を取る。
黒いもやが彼女にあたらないよう部屋の隅にあった籠の中で丸くなった。
「エリオット早く帰ってきて…お母さんをベットに」
僕はそう呟いて意識を手放した。
それから少しして、ドアが開く音がした。エリオットが部屋に戻ってきたのだ。
部屋で倒れている母親の姿に慌てているようだったが、静かに眠っているのを見て、安堵の表情を浮かべた。
エリオットは母親をそっと抱き上げベットに戻した。
そして何かに気づき、探すようにあたりを見回す。慌てた様子でベットの下やソファなどを探し歩く。彼が何か言っているがやはりわからない。
部屋の隅の籠で丸まる僕に気づいた瞬間、その顔は驚きと恐怖に変わった。
「……僕を探してくれていたんだ……」
かすれた声でそう呼びかけてみたけれど、エリオットには届かないようだった。
彼は信じられないというような目で僕を見つめ、目には今にも涙が浮かびそうだった。
彼はすぐに籠ごと僕を抱き上げると、決意したように家を出て、足早に森の中へと向かっていった。
エリオットの腕の中で、ぼんやりと彼の顔を見上げた。
彼の足取りは力強く、どこに向かっているのかはわからないが、彼が僕を大切に思ってくれていることだけは伝わってきた。
森に足を踏み入れると、冷たい夜の空気が肌に染み、どこからか魔物の気配が漂ってくる。
エリオットは剣を抜き、僕を守るようにしっかりと抱きかかえながら、ゆっくりと進んでいく。
闇の中から次々と魔物が姿を現し、エリオットの進行を阻もうと襲いかかってきたが、彼は一瞬もためらわずに剣を振るい、僕をしっかりと抱きしめたまま戦い続けた。
その姿が頼もしく、同時にどこか儚くて、僕は胸が締めつけられるような気持ちになった。
「エリオット……僕、何もできなくて……ごめんね……」
小さくつぶやいたが、彼はその声に気づくことなく、ただひたすらに森の奥へと進んでいく。彼の額には汗が滲み、魔物の爪で傷ついた体はかすかに震えている。
それでも決して足を止めようとせず、僕を助けようとしてくれる彼の強い想いだけが僕の心に響いていた。
森の奥深くへ進むにつれて、周囲の闇がさらに濃くなり、冷たい風が彼の足元を揺らすように吹きつけている。
それでもエリオットは一歩も引かず、やがて僕が目覚めた不思議な森にある湖にたどり着いた。
湖の水面は月の光を浴びて静かに輝いている。
エリオットは疲れ切った様子で膝をつき、黒く染まった僕の体をそっと湖の水に浸してくれた。必死で何か伝えようとしてくれているのだがわからなかった。
ただ冷たい水が体に触れるたび、まるで黒い汚れが少しずつ洗い流されていくような感覚が広がり、ほんのわずかだけど、体が軽くなっていくのを感じた。
エリオットは黙々と僕の体を洗い続けている。
彼の手はとても優しく、どこか悲しげで、まるで僕が完全に消えてしまうのを恐れているかのようだった。その必死な想いが伝わってきて、僕は涙が出そうになった。
「エリオット……ありがとう……」
かすかな声でそうつぶやいたけれど、彼に届いたかどうかはわからなかった。
彼はただ黙って、僕の体の黒い汚れを洗い流そうとしてくれている。その優しさが心にしみて、僕は自然とエリオットの腕にすがり、少しずつその温もりに身を委ねた。
どれくらいたったのだろう。エリオットが必死で何か叫んでいるような気がする。
でも言葉はわからないし、目も開けられそうにない。
必死の叫びと共にぎゅうっと強く抱きしめられている気がする。体に暖かな液体がぽたりぽたりと落ちてくる。これはエリオットの涙だろうか。
大丈夫だよと伝えたいのに、体は全く動かない。
再度エリオットが何か言っている。問いかけてられているような気がするがやはり言葉がわからない。ただ聞こえていることだけは伝えたいと唯一少し動く首を縦に振った。
口の中に温かい指らしきものが差し込まれると、鉄っぽい味の何かが僕の口の中に落ちてきた。これはエリオットの血?
瞬間、周囲が突然明るくなったような錯覚と温かい力が僕の中に流れ込んでくるのを感じた。
「……え?」
その力はあまりにも優しく、僕の全身を包み込みこんだ。
だるさが一気に消えていく。目を開けると、エリオットの姿がまるで神聖な光の中に浮かび上がるかのように見えた。
僕の体を染めていた黒い汚れは薄れていき、体が少しずつ元の状態に戻っていくのがわかる。光が益々強くなり、眩しくて目が開けていられないほどだった。
どれだけこの光の中にいたのかはわからない。けれど、光が収まったとき、僕はエリオットの膝の上で目を開けていた。
「……今のは一体……?」
目の前のエリオットは、涙を流しながらも嬉しそうに僕の頭を撫でている。
思わず彼の涙を拭おうと手を伸ばすと、白くて綺麗な手が彼の頬に触れた。ただ持ち上げただけでは到底届くはずのない手が、エリオットに触れている。
視界に入ったその手はエリオットの頬と同じくらいの大きさで驚く。
自分の体に目を向けると、そこにはエリオットと同じくらいの大きさになったような体があった。いつもとは違う視点と体の重みが不思議で、戸惑いがこみ上げてくる。
「僕大きくなったの?」
エリオットはそっと僕を抱き寄せ、優しいまなざしで僕の顔を覗き込んだ。
いつもの彼の目とは何かが違う気がする。不思議に思って眺めていると、エリオットは僕を引き寄せた。彼の唇がそっと僕の唇に触れる。
「!?」
思わず胸が高鳴り、ほんの一瞬だけど世界が止まったかのように感じられた。
エリオットは唇を離すと、ほんのり頬を染めて視線を地面に逸らしている。
「(……すまない、思わず……)」
不意に頭の中でエリオットの声が響いた。
「えっ!?今、声が……?」
思わず彼を見つめると、エリオットも驚いた顔で僕を見返している。
「(聞こえるのか?俺の声……)」
「うん、エリオットの声が、頭の中に直接……これって……」
お互いに目を見合わせ、しばらくの間何が起きているのか理解できず、戸惑いと驚きが交錯する。不意に苦笑いをしたエリオットが辛そうに目を伏せる。
「(種族が違うから賭けだったんだが、騎士の力を使ったから……なのかもしれない。君の意見も聞かずに一方的にすまない)」
種族の違い?騎士の力?異世界っぽい聞きなれない単語に疑問は浮かんだが、この雰囲気で聞いていいのかわからず黙る。でも助けてくれたのは間違いなくエリオットだしこれまでも含めお礼を伝えたい。
「……エリオット、何度も助けてくれてありがとう」
ずっと伝えたくても伝えられなかった言葉が、やっと伝えられた。
嬉しくて思わずニヤニヤしているとまたエリオットに抱きしめられる。
小さい時でも大きくなってもやっぱり彼に抱き締められるとホッとする。
「(こちらこそ……君がいてくれたおかげで、母は救われた。ありがとう)」
抱きしめる腕に力が籠る。彼の顔を見上げると、今までで一番嬉しそうな笑顔だった。頑張ってよかったと心から思う。ご褒美のような彼の笑顔と温もりが嬉しくて、僕は彼の胸に顔を埋め、彼から伝わる静かな鼓動に耳を傾けた。
「(こうやって言葉を発さずに心で伝わるの、深く繋がっているようで、なんかいいな)」
改めて念話でこうして会話ができるなんて不思議な気分だ。声を出していないのに、エリオットの感情がそのまま心に流れ込んでくる。照れながらも嬉しそうな彼の気持ちも、今まで以上に温かく伝わってきて、僕も自然と微笑んでしまう。
「(それにしても……君、こんなに大きくなって、俺と同じくらいだな)」
エリオットが少し照れたように笑いかけてくる。
「確かに……なんだか慣れないけど、エリオットと目線が合うの悪くないね。」
じっとエリオットの目を見つめると、彼は驚いたように目をそらし、頬がわずかに赤く染まっているのがわかる。
僕たちはしばらく無言でお互いを見つめ合い、照れながらも心が通じ合っているのを感じた。
静かな夜の湖のほとりで、僕はエリオットの温もりを感じながら、新しい自分と彼との特別な絆を感じる。この瞬間、僕たちはただ互いの存在だけを確かめるように、穏やかで優しい時間を過ごしていた。
もう完全に治ったような気で、たまには部屋に花を飾って喜んでもらいたいと思い、庭で植物をつんでいた。
突然、部屋の中からすごい音が響いた。何か大きなものが倒れたようなそんな音だった。
嫌な予感がして慌てて母親の部屋に戻ると、濃いもやに包まれた母親が苦しそうな表情で床に倒れていた。
さっき穏やかな笑顔で僕の頭を撫でてくれて、もやだって見ようとしなければ見えないくらいになっていたはずだった。
それが今はもやが部屋を埋め尽くし先の見えない霧のような状態になっている。
いつものよくわからない感覚が母親に命の危機が迫っていることを教えていた。
「僕がそばを離れたから?」
震える手で母親の頬に触れると、温かかさを取り戻しつつあった頬が出会った頃以上に冷たくなっている。急がなければ。
慌てて母親を助けようといつもよりはるかに濃い黒いもやを払い続けていると、体の感覚が次第に鈍くなり、視界がどんどん暗くなっていくのを感じた。
もやを払うごとに、僕の体は重くなり、動くたびに息が苦しくなる。
それでも、少しずつ彼女が安らかな顔になっていく姿を見ると、心が温かくなるのを感じた。
「……どうして……こんなに体が重いんだろう……?」
いつもとは違う感覚で自分の体に何が起こっているのかはわからなかった。
部屋と彼女の周りのもやが綺麗になる頃には、僕の腕や足が黒ずんでいき、透き通り始める。自分の存在そのものが薄れていくような感覚だった。
恐怖が胸に押し寄せてきたものの、彼女の表情がいつも通りの穏やかなものに変わっている姿を確認して、少しだけ安心した。
自分の意思通りに動かなくなった体を支えることができず膝をつく。視界に入った僕の腕は真っ黒と透き通りの斑らにになっていて、黒いところから彼女を苦しめていたもやが出ているようだった。
こんな姿で彼女の近くにいるのはまずいと、体を引きずりながら必死で距離を取る。
黒いもやが彼女にあたらないよう部屋の隅にあった籠の中で丸くなった。
「エリオット早く帰ってきて…お母さんをベットに」
僕はそう呟いて意識を手放した。
それから少しして、ドアが開く音がした。エリオットが部屋に戻ってきたのだ。
部屋で倒れている母親の姿に慌てているようだったが、静かに眠っているのを見て、安堵の表情を浮かべた。
エリオットは母親をそっと抱き上げベットに戻した。
そして何かに気づき、探すようにあたりを見回す。慌てた様子でベットの下やソファなどを探し歩く。彼が何か言っているがやはりわからない。
部屋の隅の籠で丸まる僕に気づいた瞬間、その顔は驚きと恐怖に変わった。
「……僕を探してくれていたんだ……」
かすれた声でそう呼びかけてみたけれど、エリオットには届かないようだった。
彼は信じられないというような目で僕を見つめ、目には今にも涙が浮かびそうだった。
彼はすぐに籠ごと僕を抱き上げると、決意したように家を出て、足早に森の中へと向かっていった。
エリオットの腕の中で、ぼんやりと彼の顔を見上げた。
彼の足取りは力強く、どこに向かっているのかはわからないが、彼が僕を大切に思ってくれていることだけは伝わってきた。
森に足を踏み入れると、冷たい夜の空気が肌に染み、どこからか魔物の気配が漂ってくる。
エリオットは剣を抜き、僕を守るようにしっかりと抱きかかえながら、ゆっくりと進んでいく。
闇の中から次々と魔物が姿を現し、エリオットの進行を阻もうと襲いかかってきたが、彼は一瞬もためらわずに剣を振るい、僕をしっかりと抱きしめたまま戦い続けた。
その姿が頼もしく、同時にどこか儚くて、僕は胸が締めつけられるような気持ちになった。
「エリオット……僕、何もできなくて……ごめんね……」
小さくつぶやいたが、彼はその声に気づくことなく、ただひたすらに森の奥へと進んでいく。彼の額には汗が滲み、魔物の爪で傷ついた体はかすかに震えている。
それでも決して足を止めようとせず、僕を助けようとしてくれる彼の強い想いだけが僕の心に響いていた。
森の奥深くへ進むにつれて、周囲の闇がさらに濃くなり、冷たい風が彼の足元を揺らすように吹きつけている。
それでもエリオットは一歩も引かず、やがて僕が目覚めた不思議な森にある湖にたどり着いた。
湖の水面は月の光を浴びて静かに輝いている。
エリオットは疲れ切った様子で膝をつき、黒く染まった僕の体をそっと湖の水に浸してくれた。必死で何か伝えようとしてくれているのだがわからなかった。
ただ冷たい水が体に触れるたび、まるで黒い汚れが少しずつ洗い流されていくような感覚が広がり、ほんのわずかだけど、体が軽くなっていくのを感じた。
エリオットは黙々と僕の体を洗い続けている。
彼の手はとても優しく、どこか悲しげで、まるで僕が完全に消えてしまうのを恐れているかのようだった。その必死な想いが伝わってきて、僕は涙が出そうになった。
「エリオット……ありがとう……」
かすかな声でそうつぶやいたけれど、彼に届いたかどうかはわからなかった。
彼はただ黙って、僕の体の黒い汚れを洗い流そうとしてくれている。その優しさが心にしみて、僕は自然とエリオットの腕にすがり、少しずつその温もりに身を委ねた。
どれくらいたったのだろう。エリオットが必死で何か叫んでいるような気がする。
でも言葉はわからないし、目も開けられそうにない。
必死の叫びと共にぎゅうっと強く抱きしめられている気がする。体に暖かな液体がぽたりぽたりと落ちてくる。これはエリオットの涙だろうか。
大丈夫だよと伝えたいのに、体は全く動かない。
再度エリオットが何か言っている。問いかけてられているような気がするがやはり言葉がわからない。ただ聞こえていることだけは伝えたいと唯一少し動く首を縦に振った。
口の中に温かい指らしきものが差し込まれると、鉄っぽい味の何かが僕の口の中に落ちてきた。これはエリオットの血?
瞬間、周囲が突然明るくなったような錯覚と温かい力が僕の中に流れ込んでくるのを感じた。
「……え?」
その力はあまりにも優しく、僕の全身を包み込みこんだ。
だるさが一気に消えていく。目を開けると、エリオットの姿がまるで神聖な光の中に浮かび上がるかのように見えた。
僕の体を染めていた黒い汚れは薄れていき、体が少しずつ元の状態に戻っていくのがわかる。光が益々強くなり、眩しくて目が開けていられないほどだった。
どれだけこの光の中にいたのかはわからない。けれど、光が収まったとき、僕はエリオットの膝の上で目を開けていた。
「……今のは一体……?」
目の前のエリオットは、涙を流しながらも嬉しそうに僕の頭を撫でている。
思わず彼の涙を拭おうと手を伸ばすと、白くて綺麗な手が彼の頬に触れた。ただ持ち上げただけでは到底届くはずのない手が、エリオットに触れている。
視界に入ったその手はエリオットの頬と同じくらいの大きさで驚く。
自分の体に目を向けると、そこにはエリオットと同じくらいの大きさになったような体があった。いつもとは違う視点と体の重みが不思議で、戸惑いがこみ上げてくる。
「僕大きくなったの?」
エリオットはそっと僕を抱き寄せ、優しいまなざしで僕の顔を覗き込んだ。
いつもの彼の目とは何かが違う気がする。不思議に思って眺めていると、エリオットは僕を引き寄せた。彼の唇がそっと僕の唇に触れる。
「!?」
思わず胸が高鳴り、ほんの一瞬だけど世界が止まったかのように感じられた。
エリオットは唇を離すと、ほんのり頬を染めて視線を地面に逸らしている。
「(……すまない、思わず……)」
不意に頭の中でエリオットの声が響いた。
「えっ!?今、声が……?」
思わず彼を見つめると、エリオットも驚いた顔で僕を見返している。
「(聞こえるのか?俺の声……)」
「うん、エリオットの声が、頭の中に直接……これって……」
お互いに目を見合わせ、しばらくの間何が起きているのか理解できず、戸惑いと驚きが交錯する。不意に苦笑いをしたエリオットが辛そうに目を伏せる。
「(種族が違うから賭けだったんだが、騎士の力を使ったから……なのかもしれない。君の意見も聞かずに一方的にすまない)」
種族の違い?騎士の力?異世界っぽい聞きなれない単語に疑問は浮かんだが、この雰囲気で聞いていいのかわからず黙る。でも助けてくれたのは間違いなくエリオットだしこれまでも含めお礼を伝えたい。
「……エリオット、何度も助けてくれてありがとう」
ずっと伝えたくても伝えられなかった言葉が、やっと伝えられた。
嬉しくて思わずニヤニヤしているとまたエリオットに抱きしめられる。
小さい時でも大きくなってもやっぱり彼に抱き締められるとホッとする。
「(こちらこそ……君がいてくれたおかげで、母は救われた。ありがとう)」
抱きしめる腕に力が籠る。彼の顔を見上げると、今までで一番嬉しそうな笑顔だった。頑張ってよかったと心から思う。ご褒美のような彼の笑顔と温もりが嬉しくて、僕は彼の胸に顔を埋め、彼から伝わる静かな鼓動に耳を傾けた。
「(こうやって言葉を発さずに心で伝わるの、深く繋がっているようで、なんかいいな)」
改めて念話でこうして会話ができるなんて不思議な気分だ。声を出していないのに、エリオットの感情がそのまま心に流れ込んでくる。照れながらも嬉しそうな彼の気持ちも、今まで以上に温かく伝わってきて、僕も自然と微笑んでしまう。
「(それにしても……君、こんなに大きくなって、俺と同じくらいだな)」
エリオットが少し照れたように笑いかけてくる。
「確かに……なんだか慣れないけど、エリオットと目線が合うの悪くないね。」
じっとエリオットの目を見つめると、彼は驚いたように目をそらし、頬がわずかに赤く染まっているのがわかる。
僕たちはしばらく無言でお互いを見つめ合い、照れながらも心が通じ合っているのを感じた。
静かな夜の湖のほとりで、僕はエリオットの温もりを感じながら、新しい自分と彼との特別な絆を感じる。この瞬間、僕たちはただ互いの存在だけを確かめるように、穏やかで優しい時間を過ごしていた。
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