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8話:王城での大騒動と二人の未来
しおりを挟むラビエルが森から戻ると、家の扉に見慣れない手紙が挟まれていた。
封には王城の紋章が刻まれている。手に取って封を開けると、中には直樹の名前と「お祝いの宴」と書かれていた。
どうやら直樹が王城で開発した新薬が高く評価され、その功績を称えるためのパーティが開かれるらしい。
驚きと同時に、少しだけ誇らしい気持ちが湧き上がる。
直樹さんが異世界からの知識を使って、ここで認められたという証。
それを一緒に祝えるなんて、自分にとっても嬉しいことだった。
「正装か……」とつぶやきながら、急いでギルドへ向かい、祝いの品や服装について相談する。
リリカや仲間たちの助けも借りて、素敵な礼装と贈り物を準備した。少し緊張しているのか、心臓がドキドキと高鳴る。
そして迎えた当日、ラビエルは少しでも場に馴染むようにと身なりを整え、王城に向かう。
大きな扉が開かれ、煌びやかな光が溢れる広間に足を踏み入れると、たくさんの人々が集まり、豪華な装飾が施されていた。
そこに、立派な正装をまとい、堂々とした姿で立つ直樹の姿があった。
その背筋が伸び、まるでこの場の主役として自然に馴染んでいるかのように見える。
いつも見ている優しい笑顔とはまた違う、大人びた彼の姿に思わず見惚れてしまった。
「こんなに素敵な人が、俺のそばにいてくれるなんて……」
改めて直樹に対する想いが胸に広がり、少し照れくさくなる。
こんな気持ちでパーティの場にいることが、なんだか夢のように感じられた。
宴も進み、王様が直樹に褒賞を授ける場面がやってくる。
王様が直樹に近づき、「直樹殿、この功績に見合う褒賞として、望むものを一つ叶えよう」と宣言する。
貴族や王族たちが見守る中で、直樹は一度目を閉じ、そして覚悟を決めたように目を開けた。
「では……俺の願いを申し上げます」
彼の声が響く。その表情は真剣そのもので、いつもの穏やかな雰囲気が一変している。
そして、直樹の口から出た言葉に、ラビエルは心臓が止まりそうになる。
「俺はラビエルを嫁にして、ずっと一緒にいたいです。そして、城を出たいと願っています!」
広間に静寂が訪れる。直樹の言葉が頭に響き、その意味を理解するのに少し時間がかかる。
「嫁にして……ずっと一緒に?」顔が真っ赤になり、思わず身を縮めてしまう。
周囲の視線もこちらに向けられ、恥ずかしさで動けなくなってしまった。
しかし、直樹はさらに続けて言う。
「これ以上ラビエルと会えなくなるなら、もう何も手伝いません!」
彼の宣言に王族や貴族たちがざわめき始める。
周りは直樹の強硬な態度に困惑し、どう対応すべきか悩んでいる様子だった。
それでも直樹は譲らず、ラビエルが自分にとってどれほど大切な存在であるかを訴え続ける。
王様も一瞬驚いたようだが、やがて考え込むような表情を浮かべた。
周囲の人々も、直樹の真剣な様子にただならぬ事情を感じ取ったのだろう。王族たちの間で短い相談が交わされた後、ついに王様が結論を下す。
「よかろう。ラビエル殿も直樹殿の心を落ち着けるため、共に王城で過ごすことを許そう」
突然の決定に、ラビエルは目を丸くする。
自分の意志も聞かれず、勝手に決められたことに戸惑いも感じるが、これも直樹のためだと考え直す。しかし、心の奥底では、ずっと一緒にいられることに少しの喜びも湧いているのを感じた。
その後、パーティの場に戻った直樹は、照れながらも自信に満ちた笑みを浮かべ、ラビエルのもとに近づいてきた。
彼は小声で「これでいつでも一緒だね」とささやき、その言葉にラビエルの心は温かく満たされる。
王城での新たな生活が始まってから
王城での生活が始まると、ラビエルは直樹のそばで過ごす時間が自然と増えていった。
彼の膝の上が定位置となり、王族や貴族たちに囲まれた日常にも少しずつ馴染んでいく。
ある日、ラビエルが森の動物たちの世話に出かけようとすると、直樹が心配そうに声をかけてきた。
「ラビエル、君がいないと寂しくて……ここで世話を任せる相手を探せないかな?」
「でも、動物たちも俺の顔を待ってるはずですし……」
そう答えると、直樹が少し困ったように眉を下げる。
そして数日後には、エドガーが城を訪ねてきて、「動物たちの世話は任せてくれ!」と胸を叩いて言い出したのだ。どうやら、ラビエルが森に行かなくても済むようにと直樹が段取りを整えてしまったらしい。
「……俺、直樹さんのそばを離れるのが難しくなってきてるようですね」
そう苦笑いを浮かべるラビエルに、直樹は満足そうに微笑んだ。
それだけではない。ほかの用事で城を出ようとするたびに、直樹が「それは城内でできないか」と提案し、王族たちまでその提案に賛同する始末。
気づけば、何をするにも城内で解決する手はずが整えられていて、ラビエルの周りは直樹の思惑で完全に囲まれているようだった。
「本当に俺、どこにも行けなくなっちゃいましたね……」
ラビエルが呆れたように言うと、直樹は優しく微笑み、彼の手を取りながら言った。
「それでも、君がここで微笑んでくれるなら、それが一番の幸せだ」
その言葉にラビエルは少しだけ頬を染め、内心嬉しく思いながらも、どこか落ち着かない気持ちを抱えたまま、これからも二人で共に歩んでいく日々を静かに思い描くのだった。
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