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6話:初恋の自覚と会いたい気持ち
しおりを挟むここ数日、直樹さんに会えていない。
王城での任務が続いているとは聞いているけれど、いつも隣で笑ってくれたあの優しい顔が見えないことが、こんなにも寂しいなんて……自分でも驚いてしまう。
彼のことを考えれば考えるほど、胸がふわりと温かくなる。
今まで他の誰かに対してこういう感情を抱いたことなんてなかった。
いつも隣にいてくれることが当たり前のように思っていたけれど、こうして会えない日々が続くと、その存在の大きさに気づかされる。
――もしかして、これが「好き」という気持ちなのだろうか。
頭の中でその言葉を思い浮かべた瞬間、顔が熱くなってしまう。
初めての恋というのは、こんなにも胸をざわつかせるものなんだろうか。
少し恥ずかしくなって、思わず頬に触れる。
「……会いたいな、直樹さん」
小さく呟いたその言葉が、静かな森に消えていく。
動物たちがこちらを見上げて心配そうに鳴くが、優しく撫でて「大丈夫だよ」と声をかける。
しかし、その優しい声に反して心は一層、直樹さんに会いたい気持ちでいっぱいになっていた。
どうしても我慢できなくなり、俺は思い切って王城まで足を運ぶことにした。
会えるかどうか分からないけれど、一目だけでも彼の姿を見たい。
もし王城の誰かが許可してくれるなら、少しだけでもいいから声をかけたい。
しかし、王城の門に着くと、衛兵たちが厳しい顔で俺を制止する。「一般人は立ち入り禁止です」と言われ、どうすることもできずに立ち尽くしてしまう。
何か伝えようと試みたが、彼らは容赦なく首を振るばかりで、とうとう引き返すしかなかった。
途方に暮れて森へ戻ると、どこか気持ちが重たくなっていた。
ほんの少しの勇気も、彼に会いたいという想いも、すべて否定されたような虚しさが胸を締め付ける。
その夜、家に帰っても眠れずに窓から外を眺めていると、ふいに足音が聞こえた。
窓を開けると、そこには直樹さんが立っていた。
月明かりに照らされて、少し疲れた表情を浮かべながらも、彼は俺を見上げて微笑んでいた。
「ラビエル、会いに来てくれたんだって?嬉しいよ」
彼が優しく声をかけてくれて、胸がじんと熱くなる。
返事もせずに玄関まで駆け寄り、直樹さんの顔をまじまじと見つめてしまった。
久しぶりに見る彼の顔は、どこか懐かしくて、愛おしさで胸がいっぱいになる。
「ごめんね、急に王城に呼び出されて……忙しくてなかなか会えなくて、寂しい思いをさせてしまったね」
そう言って頭を撫でてくれる直樹さんの手が、暖かくて心地よい。
俺は何も言わずにその手に身をゆだねていると、直樹さんがふと真剣な表情になり、静かに語り始めた。
「ラビエル、君に話したいことがあるんだ。実は、俺の前の世界にいた大事な存在……『チャッピー』について」
チャッピー――その言葉を初めて聞いたとき、どこか胸がざわついた。
彼にとって大切な存在であり、唯一の癒しだったという。
彼は遠い目をしながら、小さなうさぎだったチャッピーの話をしてくれた。
「仕事で疲れた俺をいつも待っていてくれて、何も言わずにそばにいてくれる存在だったんだ。彼に救われていたんだと思う。俺がここに来て、最初に君を見たとき……君がまるでチャッピーの生まれ変わりのように感じてしまった」
直樹さんの声が少し震え、彼の目に微かに涙が浮かぶのを見て、心がぎゅっと締め付けられる。彼がどれだけチャッピーを愛していたのか、その深い思いが伝わってきた。
けれど、心のどこかで、自分に向けられている彼の愛情が本当に「ラビエル」としての自分に向けられているのか、それとも「チャッピー」というかつての存在を重ねているのか……ふとした不安がよぎる。
「……直樹さん、俺はチャッピーじゃありません。でも、俺もあなたのそばにいたいんです」
勇気を振り絞ってそう告げると、直樹さんは驚いた顔をして、そしてすぐに優しい笑顔を浮かべた。
「ごめん、そうだよね……ありがとう、ラビエル」
彼は静かにそう言って、俺の手をそっと握りしめてくれる。
その温もりが心にしみわたり、再び彼のそばで穏やかな時間が流れ始める。
少しの間、無言のまま寄り添っていると、直樹さんがふと俺に向かって柔らかく微笑んだ。
「今度、森に一緒に行かないか?」
彼の何気ない誘いに、胸がふわりと温かくなる。俺の喜びを察したかのように、直樹さんも目を細めて微笑んでくれる。
「君と一緒にいると、不思議と心が癒されるんだ。いつもラビエルがそばにいてくれるから、俺も強くなれる。ありがとう、ラビエル」
その言葉に、心がじんわりと温かく満たされる。
俺にとって直樹さんは、ただ「大切な人」というだけではない。
彼の言葉の一つ一つが、今の自分の支えになっている。彼がいてくれることで、どんな日々も乗り越えられる気がする。
月明かりに照らされる直樹さんの横顔を見つめながら、俺は彼と一緒に歩む未来を、ほんの少しだけ夢見るようになっていた。
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