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プロローグ
しおりを挟む森の奥深く、鳥たちのさえずりと風が木々を揺らす音が心地よく耳に届く中、薬草を一枚一枚、丁寧に摘んでいた。
駆け出しの冒険者としてギルドで学んだ治療の知識を生かし、動物たちに囲まれながら役に立てることを願って、こうして森に足を運ぶのが日課だ。
ふと顔を上げると、森の緑が柔らかく目に優しい光を放っている。
木漏れ日が肌を温め、ふわりと垂れたウサギ耳も、その暖かさを嬉しそうに感じ取っている気がした。
こんな静かな場所で、少しでも誰かの役に立てるようにと努力を重ねる日々は、心を穏やかにさせてくれる。
だけど――この広い世界の中で自分はどう生きるべきなのだろうか、そんな漠然とした思いが胸の片隅に芽生えることもある。
「今日もいい薬草が集まったな」
ひとり呟くと、草むらから小さなウサギがぴょこんと顔を出して、足元にちょこんと近づいてくる。
まるで甘えるように鼻をすんと動かし、そっと擦り寄ってくるその姿に、思わず笑みがこぼれた。
「また来たの?怪我とかはしてないよね」
優しく声をかけ、膝をついて小さなウサギの頭を撫でる。
村にいた頃から、自分がウサギ獣人だからか、動物たちはよくこうして懐いてくれる。
幼い頃は「癒しの存在」として大切に育てられ、村の人々からも守られてきたけれど、その中でふと感じる小さな孤独もあった。
誰かに囲まれ、愛されることは幸せだ。でも、心の奥にあるのは、ただ一人のウサギ獣人としての少しの寂しさ。
「……やっぱり、誰かと一緒に過ごしたいな」
小さなウサギにそっと触れながら、自然とそんな言葉が口をつく。
動物たちは心を温めてくれるけれど、もし人と同じように話し合え、頼り合える存在がそばにいたら、どれほどの安心が得られるだろう。
そんなささやかな願いが、静かに胸の中で膨らんでいくのを感じた。
自分が暮らすグレイス王国は、ウサギ獣人のような動物の特性を持つ種族や魔法生物が共に暮らし、それぞれの能力を尊重し合う文化が根づいている。
けれど街へ出れば、人間が多く、冒険者ギルドで受ける依頼も危険なものばかりだ。
人間の価値観や街のルールにはまだ戸惑うことも多いけれど、それでも冒険者として何か自分にできることを見つけたいという思いが、ここまで自分を導いてくれた。
「さて、そろそろ帰ろうか」
摘んだ薬草をまとめ、肩にかけようとしたとき、小さなリスが肩に飛び乗り、甘えるようにくるくると回ってみせる。自然と心がほっと温かくなる瞬間だ。
「……俺にも、いつか誰かと一緒に歩む日が来るんだろうか」
動物たちが次々と寄り添い、目を細めながら甘えてくるのを感じると、ふと胸の奥で何かが騒ぎ出す。
こんなふうに森の仲間と共に過ごす日々には心から感謝しているし、動物たちの温もりがあれば寂しさは薄れる。
でも、それでも――心の片隅には、確かな温もりとともに少しの寂しさが混ざっているのが分かる。
今日もこうして、森の中でひとり静かな時間を過ごす。
いつか誰かと寄り添える日が訪れるのだろうか。そんなささやかな期待を胸に抱きながら、摘んだ薬草の入った袋を手に、静かに歩き出した。
自分がまだ知らない運命の出会いが、この森の中で待っているとも知らずに――。
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少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
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第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
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