上 下
13 / 14

聖なる獣の傷を癒す

しおりを挟む


「ここにいるらしい」

 カイが手にした星読みの盤を指差しながら、森の奥を見つめていた。
 僕たちは村人の話を頼りに、森の聖域と呼ばれる場所に足を踏み入れていた。

「聖なる獣か……。本当にいるのかな」

 僕は不安と期待を胸に抱えながら、カイの後をついていく。
 森の空気はひんやりとしていて、木々の隙間から差し込む光が神秘的だった。

「いるさ。聖なる獣が姿を現すと、この森全体がその力で輝くと言われている」

 カイはそう言うと、少しだけ振り返って僕に笑いかけた。

「輝く……?なんだかすごそうだね。でも、その獣が傷ついてるなんて、どんな状況なんだろう」

「だから、俺たちで見に行くんだろ」



 しばらく歩くと、森の奥にひっそりとした湖が現れた。
 水面は鏡のように静かで、周囲には白い花が咲き乱れている。その中央に、大きな銀色の獣が横たわっていた。

「……あれが、聖なる獣?」

 僕は息をのむ。獣はまるで月の光でできた彫像のように美しく、体から淡い光が漏れていた。
 ただ、その片翼が折れたように不自然に垂れ下がり、傷が深刻であることが見て取れた。

「おい、大丈夫か?」

 カイが近づいて声をかけると、獣はかすかに頭を持ち上げた。その瞳は悲しげで、どこか諦めに満ちているように見えた。

「ひどい……。でも、どうしてここまで傷ついてしまったんだろう」

 僕はそっと獣の傷を見つめながら、手を差し出した。その瞬間、胸の中で何かが強く共鳴するのを感じた。



「ライナ、いけるか?」

 カイが慎重な声で問いかける。
 僕はうなずき、手のひらに魔法の力を込めた。

「これが僕にできることなら、試してみるよ」

 僕は目を閉じ、調律師としての力を引き出した。獣の傷を包み込むように、柔らかな光を生み出す。

「君はきっと、この森を守る存在なんだよね。だから、こんなところで倒れちゃだめだ」

 そう語りかけながら、力を込めると、傷口が少しずつ閉じていくのがわかった。
 でも、完全に癒すには力が足りなかった。

「くっ……!」

 光が弱まり、僕は膝をつきそうになる。

「ライナ!」

 カイがすぐに支えてくれる。

「大丈夫。もう少し……やらせて」

 僕は震える手で再び魔力を集める。このままじゃ、この獣も、この場所も救えない。


 その時だった。僕の胸元の「絆のルーン」がかすかに光を放った。



「……カイ、君の力を貸して」

 僕はカイを見上げて頼んだ。
 彼は少し驚いたような顔をしたけど、すぐに微笑んでうなずいてくれた。

「もちろんだ。お前の頼みならな」

 カイがそっと手を重ねると、僕たちの絆のルーンが一層強く輝き始めた。
 カイから流れ込む星の力が、僕の魔力を増幅させていく。

「これなら……いける!」

 再び光を放つと、今度は獣の傷が完全に癒えていった。
 折れていた翼も元通りになり、その体全体がまばゆい輝きを取り戻していく。



 獣はゆっくりと立ち上がり、大きな体を伸ばした。その瞳は優しさに満ちていて、僕たちに感謝しているのが伝わってきた。

「良かった……本当に良かった」

 僕がほっと息をつくと、カイが僕の肩に手を置いた。

「お前、やっぱりすごいな。俺でもできないことを簡単にやってのける」

「簡単じゃなかったよ……。でも、カイが力を貸してくれたからできたんだ」

 僕がそう言うと、カイは少し照れくさそうに笑った。

「俺たち、いいチームだな」



 森を抜ける帰り道、僕たちは手をつないで歩いていた。

「ライナ、今回のことで、調律師としての自信がついたんじゃないか?」

「うん。でも、まだまだ成長しなきゃね。もっといろんな人や生き物を助けられるように」

「お前ならできるさ。俺が保証する」

 そう言ってカイが笑うと、僕もつられて笑った。

「これからも、よろしくね、カイ」

「ああ。お前の隣は俺の指定席だからな」

 僕たちは笑いながら、次の冒険に向かって歩き出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...