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雪化粧した山を登り、頂上でホットドリンクを飲む

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「寒っ! こんなに冷えると思ってなかったんだけど!」

 僕は息を吐くたびに白くなる自分の息を見て、思わず肩をすくめた。

 周囲は一面の雪景色で、木々も真っ白に染まっている。雪山の空気は澄んでいるけど、容赦なく冷たい。

「ちゃんと防寒してきただろ。ほら、手袋しっかりつけろよ」

 隣でカイが僕の手を握りながら、手袋の隙間を直してくれる。その温かさに少しだけホッとした。

「ありがと。でもさ、なんでこんな寒い中で山登りしようって話になったんだっけ?」

「お前が『雪山の頂上ってロマンありそうじゃない?』って言ったからだろ」

「僕が? 言ったっけ……?」

 自分の言葉を思い出そうとしながら、カイをチラ見する。でも、カイの顔はいつも通り余裕そうだ。

「まあいいや。登ったらホットドリンク飲むって決めたし、それを楽しみに頑張る!」

 僕は両手をぐっと握りしめて、自分を奮い立たせた。


 雪山の道は意外と険しい。
 足元が滑りやすいし、何より気温が低いから体力がどんどん奪われていく。

「ほら、手つかめよ。滑るぞ」

 カイが差し出してきた手を、僕は素直に握る。大きなその手はやっぱり温かいし、安心感がある。

「こういうの、デートっぽくない?」

 冗談めかして言ってみると、カイは少しだけ目を丸くした後で、笑みを浮かべた。

「そうだな。これもデートだと思えば、悪くない」

「え、ほんとにそう思ってるの?」

 予想外に真面目に返されて、僕はちょっと焦る。

「お前と一緒なら、なんだって楽しいからな」

 その言葉に、胸がじんわりと温かくなった。いやいや、こういう不意打ちの甘さはズルいだろ。


 何とか登り切った頂上は、まさに絶景だった。
 一面に広がる雪化粧の山々、澄み切った青空、そして足元に広がる白い世界――すべてが静かで美しい。

「すごい……登ってよかった」

 僕は自然と笑みがこぼれる。息が切れてるけど、それでも達成感と感動でいっぱいだった。

「ほら、ご褒美だ」

 カイがリュックから取り出したのは、魔法で保温されたホットドリンクのボトル。

「え、これ温かいの?」

「魔法でな。お前が寒がると思って準備しておい。」

 カイが用意してくれたのは、甘い香りのホットチョコレートと、少しスパイシーなホットアップルジンジャーだった。

「ホットチョコか、アップルジンジャーか、どっちがいい?」

「え、迷う……」

 僕が迷っていると、カイはホットチョコを僕に差し出してきた。

「お前はこっちだろう」

 僕がボトルを受け取ると、カイもアップルジンジャーを一口飲んで、「うまい」と満足そうにうなずいた。


「こういうの、いいよね」

 僕はホットチョコの甘さを味わいながら、ふっと呟いた。

「こういうの?」

「なんていうか、特別なことじゃなくても、一緒に過ごせるだけで幸せっていうか」

 カイは僕の言葉に何も言わず、ただ静かに隣で座り込む。
 そして、空を見上げながら「そうだな」とだけ答えた。

「ねえ、カイ」

「ん?」

「次、どこ行こうか?」

 僕が尋ねると、カイは少し考えてから微笑んだ。

「次は……太古の遺跡だな。面白いものが見つかるかもしれない」

「太古の遺跡か。ワクワクするね!」

 その時、カイの視線が僕に向く。

「ライナ」

「なに?」

「これからも、一緒に色んな景色を見ていこう」

 その真っ直ぐな言葉に、僕は思わず顔を赤らめた。

「……もちろんだよ。カイがいるなら、どこでも楽しいし」

 二人で笑い合いながら、僕たちはまた新しい冒険へと心を弾ませた。



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