人類最強の女勇者は……それでもやっぱり恋がしたい！

第3話：敵か味方か？ナンパな男登場

　朝日が森の木々を透かし、足元に散らばる朝露がキラキラと輝いている。
　私たち勇者パーティーは、次の目的地へ向かって静かに森を進んでいた。
　道は細く、両脇に木々が立ち並び、鳥の声と風が葉を揺らす音が耳に心地よい。

「森を抜ければ次の村だな。この辺りは魔物も少ないはずだが…」

　ロイが盾を軽く調整しながら言う。その落ち着いた声に、一瞬緊張が緩む。

「まあ、油断するなよ。いつ何が出てくるか分からないんだからな！」

　シオンが槍を軽く振り回しながら、どこか楽しそうに笑った。

　私は二人の会話を聞きながら、足元の道に目を向ける。

　この先に何が待っているのか。次の村ではどんな人々と出会い、どんな試練が待っているのか。

（でも、なんだか…今日は妙に静かすぎる気がする）

　そう思った瞬間、どこかから軽い口笛が聞こえてきた。

「いやあ、こんなところで君たちに会えるとはね。運命ってやつかな？」

　木陰から軽い声とともに現れたのは、一人の男だった。
　黒いマントを羽織り、漆黒の髪と赤い瞳が印象的なその男は、不敵な笑みを浮かべている。

「誰だ！」

　ロイが即座に盾を構え、シオンも槍を構えて男を睨む。
　私は剣の柄に手をかけ、じっとその男を見据えた。

　男は肩をすくめながら、片手を軽く挙げる。

「まあまあ、そんなに構えないで。僕はダリウス・アザミ。魔族の四天王の一人――と言えば分かるかな？」

　その言葉に、一瞬空気が凍る。
　シオンが勢いよく槍を突き出そうとしたが、ロイが手で制した。

「四天王がここに現れる理由は何だ？」

　ロイの声には警戒心が滲んでいる。

「理由かい？そうだな…ちょっと面白い話をしに来ただけさ」

　ダリウスは笑みを浮かべたまま、私に視線を向けた。

「君が勇者だろう？『人類最強の女勇者』なんて、魔族の間でも噂になってるよ。いやあ、見た目も強さも噂通りだね――というか、見た目は可愛くて噂以上かな？」

「……っ！」

　一瞬、胸の奥がドキッとした。

（な、なにそれ！完全に軽口じゃん！でも、なんか普通の女の子みたいに褒められるのって、嬉し…いやいや、今はそんなこと考えてる場合じゃない！）

「何が目的？」

　冷静を装って私は問いかけた。その声は硬いが、内心では完全に動揺している。

「目的ね…うーん、そうだな。僕を君たちの仲間にしてくれない？」

　そう言って、ふざけたようにダリウスは両手を広げてみせた。

「は？」

　シオンが眉をひそめる。他のメンバーも困惑した表情を浮かべていた。
　魔族が「仲間になりたい」と言い出すなど、普通では考えられないことだ。

「僕も魔王軍の一員とはいえ、いろいろと事情があってね。君たちと行動した方が楽しいかな、って思っただけさ」

　彼の言葉には軽さがあるが、その瞳の奥にはどこか計算めいた光が宿っている。

「冗談じゃない」

　私は剣を少し引き抜き、彼を睨みつけた。

「私たちがあなたを信用する必要なんてどこにもない。むしろ、ここで倒してしまう方が手っ取り早い」

　ダリウスは肩をすくめた。

「まあ、そう言うだろうね。でも、君は分かってるんじゃない？僕が本気で敵対する気なら、こんな風に一人で君たちの前に現れるわけがないって」

　その言葉に私は息をのむ。確かに、彼の行動には明らかに謎が多い。
　敵対しようとするなら、こんな悠長に自己紹介などしないだろう。

「考えておいてくれればいいよ。僕また会いに来るから。それじゃあ、頑張ってね、勇者ちゃん」

　そう言い残し、ダリウスは森の奥へと姿を消した。
　その背中が完全に見えなくなるまで、警戒をとかず私は剣を握り続けていた。

「何だったんだ、あいつは」

　ロイが眉をひそめ、シオンも「ふざけた野郎だな」と吐き捨てた。

「何が目的なんだろうね」

　エリオットも不安そうにあたりを見ている。マキシムは何も言わずあたりを調べているようだった。

　私も問いには答えず、彼の消えた方向をじっと見つめた。

（あの男の言葉は、何かを意図してる。軽いように見えて、絶対裏に何かがある…）

　ふと、彼の最後の言葉が胸に引っかかった。

（「また会いに来る」ね…どういうつもりなのよ）

　剣を鞘に収めながら、私は小さく息を吐いた。
　その胸の奥には、不安と少しだけ混じる奇妙な期待感があった。