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第7話 戸惑いの三角

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 文化祭が終わり、静けさを取り戻した月曜の朝。
 いつもの教室の風景が戻ってきたが、陽翔の胸の中は昨日までとは全く違う気持ちで満ちていた。

 颯真と悠斗――二人との間に生まれた「新しい関係」
 それをどのように表現すればいいのかは分からなかったが、不思議と陽翔は安堵感に包まれていた。
 二人が自分の隣にいてくれる、それだけで十分だと思える。

「おはよ、陽翔」

 教室に入ると、颯真がいつも通り窓際の席で読書をしていた。
 彼が目を上げ、静かに微笑む。陽翔は少しだけドキッとしながらも、それを隠すように軽く手を挙げた。

「おはよ、颯真」

 そのやり取りを見ていた悠斗が、陽翔の後ろから肩を組んできた。

「おいおい、俺には『おはよ』は?」

「うるさいな。おはよ、悠斗」

「よし、いい子」

 軽口を叩き合うその空気は、どこか懐かしくもあり、少しだけぎこちなかった。
 それでも、三人の間に流れる空気は穏やかで、何より心地よかった。


 放課後、陽翔は颯真と悠斗に誘われ、久しぶりに三人でカフェに行くことになった。
 商店街の奥にある小さなカフェは、三人が幼い頃から通い慣れた場所だった。出されたコーヒーの香りに包まれながら、三人はテーブルを囲む。

「文化祭、結構楽しかったよな」

 悠斗がそう言うと、颯真が頷く。

「ああ。でも陽翔が倒れなくて良かった」

「倒れないってば。俺、意外と体力あるんだから」

 陽翔が笑いながら返すと、悠斗が横から突っ込む。

「いやいや、お前の『大丈夫』は信用ならないからな。少しでも無理したらすぐ言えよ」

 そのやり取りに、颯真が静かに口を挟む。

「俺も同じ意見だ。お前が無理してるの、見たくない」

 真剣なその言葉に、陽翔は少し顔を赤くしながら視線をそらした。

「……なんか、二人に囲まれると妙に落ち着かない」

 そう呟く陽翔に、悠斗が意地悪そうに笑う。

「そりゃそうだろ。今お前、俺たちの一番大事なやつだからな」

「……ちょ!ここでそんなの、恥ずかしいだろ」

 陽翔がそう返すと、颯真も口元をわずかに緩めた。

「恥ずかしがる必要はない。俺も悠斗も、本気でそう思ってるんだから」

 二人の視線が重なり、陽翔を挟んで静かな空気が漂う。
 陽翔は何も言えず、ただ熱くなる自分の頬を隠すようにカップを持ち上げた。


 帰り道、三人は夜道を並んで歩いていた。夜風が心地よく、街灯の明かりが彼らの影を長く引き伸ばす。
 陽翔がふと立ち止まると、二人も足を止めた。

「……ねえ、本当にこれでいいの?」

 陽翔が小さく呟くと、悠斗がすぐに答えた。

「何が?」

「俺たち三人で、こんな感じで……変じゃないのかな」

 その言葉に、颯真が一歩前に出て陽翔の目を見つめる。

「陽翔、俺たちが決めたことに自信を持て。誰が何を言おうと、俺たち三人でいることが一番だろう」

 悠斗も同意するように頷いた。

「そうそう。別に他のやつにどうこう言われることじゃねえし。俺たちが楽しいならそれでいい」

 陽翔は二人の言葉を聞いて、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
 二人が自分を大切に思ってくれていること。それを疑う理由なんてどこにもない。

「……ありがとう」

 小さく呟くと、颯真と悠斗は揃って微笑んだ。そして、また三人で並んで歩き始めた。
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