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第6話 絆の三角
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翌朝、陽翔は早めに学校に向かった。
昨夜の後夜祭での出来事が頭から離れず、颯真と悠斗の顔を見るのが怖いような気がしていた。
けれど、彼らを避けることで、何か大事なものを壊してしまう気もしていた。
教室に入ると、既に悠斗が窓際に座っていた。
手にはいつものようにスマホがあり、軽くヘッドホンを首に掛けているが、その目はどこか遠くを見ているようだった。
陽翔が入ってきたことに気づくと、いつものように軽い調子で手を挙げた。
「おはよ、陽翔」
「お、おはよう」
陽翔がぎこちなく返すと、悠斗は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「なんだよ、その顔。まだ昨日の疲れが抜けてない?」
「そんなことないよ」
話を切り上げようとする陽翔に、悠斗はいつになく真剣な表情で続けた。
「なあ、放課後ちょっと話そうぜ」
陽翔が返事をする前に、颯真が教室の扉を開けて入ってきた。
その姿を見た瞬間、教室の空気がわずかに変わった気がした。
颯真は陽翔に視線を向けると、一言だけ言った。
「俺も放課後、お前と話したい」
二人の言葉に、陽翔は胸の奥がざわつくのを感じた。
このままではいけない。
このまま二人を置き去りにするような形で逃げるわけにはいかない。
陽翔は小さく頷き、二人に「放課後話そう」とだけ答えた。
放課後。陽翔は校舎裏の静かな場所で二人を待っていた。
最初に現れたのは悠斗だった。彼はいつもの軽快さを抑えた穏やかな声で口を開いた。
「正直言って、俺は颯真に陽翔を譲るつもりなんてない」
陽翔が目を見開くと、悠斗は笑みを浮かべながら肩をすくめた。
「でもさ、陽翔がどう思ってるか、それが一番大事だろ?」
続いて颯真が現れた。彼の表情は硬く、言葉を選びながら話し始める。
「俺は、陽翔が誰を選んだとしても、それが陽翔の意思ならそれでいい。でも……」
颯真の声がわずかに震えた。
「お前が俺を好きでいる気持ちが、少しでもあるなら、それをはっきり教えてほしい」
陽翔は二人の言葉に挟まれる形で、初めて自分の気持ちと向き合わなければならない状況に立たされた。
「……ごめん、俺、本当にどっちかなんて選べない」
静寂が訪れた。だが、それは陽翔にとっても、二人にとっても心地よいものではなかった。
「悠斗のことも大切だし、颯真のことも大事。どちらかがいなくなるなんて考えられない」
その言葉に、颯真がふっと息を吐いた。
「そりゃ、ズルいな」
悠斗も小さく笑いながら呟く。
「陽翔らしいっちゃらしいけどな」
二人は互いに視線を交わすと、何かを確認するように頷いた。そして悠斗が言葉を続ける。
「じゃあさ、俺たち三人で一緒にいればいいんじゃね?」
「……え?」
陽翔が困惑する中、颯真が静かに頷く。
「お前がどっちも大事だっていうなら、俺も悠斗も、お前を大事にする。それでいいんだろ?」
陽翔は言葉を失った。
そんな形が本当にありえるのか。
それでも、二人の表情にはこれまで以上に穏やかさが浮かんでいた。
その後、三人で一緒に並んで校舎を歩いているとき、陽翔は胸が不思議と軽くなっているのを感じた。
颯真と悠斗が並んで歩く姿を見て、初めて自分が大きな安心感に包まれていることに気づく。
(これでいいんだ。これで、きっと大丈夫)
陽翔は二人を見上げ、小さく微笑んだ。
昨夜の後夜祭での出来事が頭から離れず、颯真と悠斗の顔を見るのが怖いような気がしていた。
けれど、彼らを避けることで、何か大事なものを壊してしまう気もしていた。
教室に入ると、既に悠斗が窓際に座っていた。
手にはいつものようにスマホがあり、軽くヘッドホンを首に掛けているが、その目はどこか遠くを見ているようだった。
陽翔が入ってきたことに気づくと、いつものように軽い調子で手を挙げた。
「おはよ、陽翔」
「お、おはよう」
陽翔がぎこちなく返すと、悠斗は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「なんだよ、その顔。まだ昨日の疲れが抜けてない?」
「そんなことないよ」
話を切り上げようとする陽翔に、悠斗はいつになく真剣な表情で続けた。
「なあ、放課後ちょっと話そうぜ」
陽翔が返事をする前に、颯真が教室の扉を開けて入ってきた。
その姿を見た瞬間、教室の空気がわずかに変わった気がした。
颯真は陽翔に視線を向けると、一言だけ言った。
「俺も放課後、お前と話したい」
二人の言葉に、陽翔は胸の奥がざわつくのを感じた。
このままではいけない。
このまま二人を置き去りにするような形で逃げるわけにはいかない。
陽翔は小さく頷き、二人に「放課後話そう」とだけ答えた。
放課後。陽翔は校舎裏の静かな場所で二人を待っていた。
最初に現れたのは悠斗だった。彼はいつもの軽快さを抑えた穏やかな声で口を開いた。
「正直言って、俺は颯真に陽翔を譲るつもりなんてない」
陽翔が目を見開くと、悠斗は笑みを浮かべながら肩をすくめた。
「でもさ、陽翔がどう思ってるか、それが一番大事だろ?」
続いて颯真が現れた。彼の表情は硬く、言葉を選びながら話し始める。
「俺は、陽翔が誰を選んだとしても、それが陽翔の意思ならそれでいい。でも……」
颯真の声がわずかに震えた。
「お前が俺を好きでいる気持ちが、少しでもあるなら、それをはっきり教えてほしい」
陽翔は二人の言葉に挟まれる形で、初めて自分の気持ちと向き合わなければならない状況に立たされた。
「……ごめん、俺、本当にどっちかなんて選べない」
静寂が訪れた。だが、それは陽翔にとっても、二人にとっても心地よいものではなかった。
「悠斗のことも大切だし、颯真のことも大事。どちらかがいなくなるなんて考えられない」
その言葉に、颯真がふっと息を吐いた。
「そりゃ、ズルいな」
悠斗も小さく笑いながら呟く。
「陽翔らしいっちゃらしいけどな」
二人は互いに視線を交わすと、何かを確認するように頷いた。そして悠斗が言葉を続ける。
「じゃあさ、俺たち三人で一緒にいればいいんじゃね?」
「……え?」
陽翔が困惑する中、颯真が静かに頷く。
「お前がどっちも大事だっていうなら、俺も悠斗も、お前を大事にする。それでいいんだろ?」
陽翔は言葉を失った。
そんな形が本当にありえるのか。
それでも、二人の表情にはこれまで以上に穏やかさが浮かんでいた。
その後、三人で一緒に並んで校舎を歩いているとき、陽翔は胸が不思議と軽くなっているのを感じた。
颯真と悠斗が並んで歩く姿を見て、初めて自分が大きな安心感に包まれていることに気づく。
(これでいいんだ。これで、きっと大丈夫)
陽翔は二人を見上げ、小さく微笑んだ。
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