上 下
3 / 17

3.異人さんに詰め寄られて

しおりを挟む
 俺のいた現代日本の一般的な感覚では、アニメもしくはサムライかぶれのコスプレ欧米人と見なされるだろう。俺はそれなりにアニメ好きだし、コスチュームプレイを理由に見下したりしないけど……それにしても奇抜な格好だ。
 その赤毛金髪サムライは、なかなかに足が速く、また足腰も丈夫なようで、上りの斜面を力強く、ぐいぐい登ってきた。灰色の着物は少々は抱けており、足元に目を移すと、黒い袴からは足袋のような履き物が覗いている。皮製なのか、茶色っぽくて、丈のごく短いブーツのようにも見えた。
 なんて風に、寝間着姿で裸足の俺がサムライの格好をした西洋人を観察する様を、客観的に想像すると非常に滑稽に思えてきた。現時点で優先すべきは、自分の置かれた状況を知ることと安全の確保だろう。
「あの、怪しく見えるかもしれませんが、僕は決して怪しい者ではありません」
 先に正直に言っておくと、俺は内弁慶なところがあって、人と話をするときの一人称は“僕”になってしまう。相手が怖そうだから“僕”、弱そうだったら“俺”という風に使い分けるのではなく、常に“僕”なのだ。
 と、喋り掛けたはいいが、言葉が通じるかどうかの問題を忘れていた。事実、相手は立ち止まることなく、ずんずん近付いてくる。花畑や道なんかほぼほぼ無視して、真っ直ぐに。
 こりゃあ身の安全の確保どころではない。あっという間に距離を詰められた。赤毛金髪サムライが警備員か何かで、侵入者の殺害許可を得ているんだとしたら、もう終わった。思わず、両目をつむる。
 すると。
「おぬし、見慣れぬ顔立ちになりをしておるが、言葉は話せるのか」
 意外と優しい調子の声に、片目だけ開け、それから残りの目も開ける。
 近い。
 十五センチもないぐらいの近距離でぴたっと止まった赤毛金髪サムライは、俺の理解できる言語を喋っていた。しかも話す内容から判断するに、日本語を喋ってくれているのではなく、お互いが元々の言語を使っているにもかかわらず、互いに理解できている、そんなように推測できる。
 俺は相手が大小二本を左に差しているのを横目で確かめつつ、とりあえず自己紹介だなと判断した。面を起こし、上の方にある相手の顔を真摯に見た。
「あー、僕の名前は、吉村研吾郎よしむらけんごろうと言います」
「自分はマッシブ・チャールストン。名前のことはどうでもよい。おぬしはここの者か?」
 自己紹介は省略されてしまった。足取りと同じで、ぐいぐい来る人だ。俺よりも頭一つ分ぐらい大きい、けど、恐怖はあまり感じない。
「いえ、違います。何て言えば信じてもらえるのか、迷子みたいなものでして」
「何と? では――」
 何か言い掛けたまま、空を見上げるチャールストン。後ろを振り返り、左上方を見据える。つられて俺も視線をやる。
「あ?」
 俺とチャールストン、ほとんど同時に声を上げていた。
 人の形をした物体一つが空を飛んで、こちらに向かってきている。そんなに速度はないようだけど、じきに姿がはっきりした。
「あー! 警報がしたので飛んできてみたら、やっぱり! あなた達何やってるの!」
 女言葉で大声を張り上げたそれは、トンボみたいな半透明の羽根を持つ少女だった。

 はい、ここは異世界ということで確定。

 つづく
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

誰が悪役令嬢ですって? ~ 転身同体

崎田毅駿
恋愛
 “私”安生悠子は、学生時代に憧れた藤塚弘史と思い掛けぬデートをして、知らぬ間に浮かれたいたんだろう。よせばいいのに、二十代半ばにもなって公園の出入り口にある車止めのポールに乗った。その結果、すっ転んで頭を強打し、気を失ってしまった。  次に目が覚めると、当然ながら身体の節々が痛い。だけど、それよりも気になるのはなんだか周りの様子が全然違うんですけど! 真実や原因は分からないが、信じがたいことに、自分が第三巻まで読んだ小説の物語世界の登場人物に転生してしまったらしい?  一体誰に転生したのか。最悪なのは、小説のヒロインたるリーヌ・ロイロットを何かにつけて嫌い、婚約を破棄させて男を奪い、蹴落とそうとし続けたいわいゆる悪役令嬢ノアル・シェイクフリードだ。が、どうやら“今”この物語世界の時間は、第四巻以降と思われる。三巻のラスト近くでノアルは落命しているので、ノアルに転生は絶対にあり得ない。少しほっとする“私”だったけれども、痛む身体を引きずってようやく見付けた鏡で確かめた“今”の自身の顔は、何故かノアル・シェイクフリードその人だった。  混乱のあまり、「どうして悪役令嬢なんかに?」と短く叫ぶ“私”安生。その次の瞬間、別の声が頭の中に聞こえてきた。「誰が悪役令嬢ですって?」  混乱の拍車が掛かる“私”だけれども、自分がノアル・シェイクフリードの身体に入り込んでいたのが紛れもない事実のよう。しかもノアルもまだ意識があると来ては、一体何が起きてこうなった?

職能呪術娘は今日も淡々とガチャする

崎田毅駿
ファンタジー
ガウロニア国のある重要な職務を担うラルコ。彼女は、自分達のいる世界とは異なる別世界から人間を一日につき一人、召喚する能力を有しどういていた。召喚された人間は何らかの特殊能力が身に付く定めにあり、遅くとも一両日中に能力が発現する。 現状、近隣諸国でのいざこざが飛び火して、今や大陸のあちらこちらで小さな戦が頻発している。決して大国とは言い難いガウロニアも、幾度か交戦しては敵軍をどうにか退けているが、苦戦続きで劣勢に回ることも増えている。故に戦闘に役立つ者を求め、ラルコの能力に希望を託すも、なかなか思うようなのが来ない。とにかく引きまくるしかないのだが、それにも問題はあるわけで。

江戸の検屍ばか

崎田毅駿
歴史・時代
江戸時代半ばに、中国から日本に一冊の法医学書が入って来た。『無冤録述』と訳題の付いたその書物の知識・知見に、奉行所同心の堀馬佐鹿は魅了され、瞬く間に身に付けた。今や江戸で一、二を争う検屍の名手として、その名前から検屍馬鹿と言われるほど。そんな堀馬は人の死が絡む事件をいかにして解き明かしていくのか。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

新人神様のまったり天界生活

源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。 「異世界で勇者をやってほしい」 「お断りします」 「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」 「・・・え?」 神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!? 新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる! ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。 果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。 一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。 まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!

ベッド×ベット

崎田毅駿
ファンタジー
何だか知らないけれども目が覚めたら、これまでと違う世界にいました。現地の方達に尋ねると、自分みたいな人は多くはないが珍しくもないそうで、元の世界に帰る方法はちゃんと分かっていると言います。ああ、よかったと安心したのはいいのですが、話によると、帰れる方法を知っているのは王様とその一族だけとかで、しかもその王様は大のギャンブル好き。帰る方法を教えてもらうには、王様にギャンブルで勝たなければならないみたいです。どうしよう。

忍び零右衛門の誉れ

崎田毅駿
歴史・時代
言語学者のクラステフは、夜中に海軍の人間に呼び出されるという希有な体験をした。連れて来られたのは密航者などを収容する施設。商船の船底に潜んでいた異国人男性を取り調べようにも、言語がまったく通じないという。クラステフは知識を動員して、男とコミュニケーションを取ることに成功。その結果、男は日本という国から来た忍者だと分かった。

神の威を借る狐

崎田毅駿
ライト文芸
大学一年の春、“僕”と桜は出逢った。少しずつステップを上がって、やがて結ばれる、それは運命だと思っていたが、親や親戚からは結婚を強く反対されてしまう。やむを得ず、駆け落ちのような形を取ったが、後悔はなかった。そうして暮らしが安定してきた頃、自分達の子供がほしいとの思いが高まり、僕らはお医者さんを訪ねた。そうする必要があった。

処理中です...