10 / 13
10.夢のお告げに導かれ
しおりを挟む
(何、これ?)
純子の目の前に、白い、大きな物がありました。とても近くにあるので、何なのか、さっぱり分かりません。
純子は、その白い物を遠ざけようと、ぐっと押してみました。でも、びくともしません。両手で力一杯、一生懸命に押しても、同じです。
(あ、そうか。私が下がればいいんだ)
簡単な解決方法を思い付くと、純子はすぐに実行しました。そろりそろり、後ろ向きに下がります。
ところが、下がっても、下がっても、なかなか、白い物の全体は見えません。どうにか、白い物がいくつもあって、それらが組み合わさっているとだけ分かりました。
かなりの距離を歩いて、やっと、純子は全体像を見ることに成功しました。
「あ!」
白い物の正体を知ったとき、そんな驚きの声が、勝手にこぼれます。それほどの感動を与えてくれるのは……。
「恐竜の化石! すごい!」
それは首長竜の化石でした。何という名前か分かりませんが、長い首に、大きな前びれ、カメのような胴体は、首長竜に違いありません。
(おじいちゃん、首長竜とか海竜は、恐竜じゃないって言ってたっけ。恐竜の仲間なんだって。でも、首長竜だって、立派な恐竜だと思うわ)
そんな言葉を心でつぶやきながら、純子は再び、化石へと近付きました。手でなでてあげたくなったのです。
あと少しで手が届こうかというとき――。
「あ、あっ」
首長竜の左前びれに、ひびが入ったのです。あわてて、純子は駆け寄りました。そっと両手で、ひび割れた部分を包みます。
でも、でも……。
ぱらぱらと音を立て、純子の手から、細かくくだけた骨がこぼれ落ちました。
「……」
言葉をなくし、首長竜を見上げる純子。
次の瞬間、化石全体に、ひびが入り始めました。細かな粉があちこちから降ってきて、純子の肩にもかかります。もう、どうすることもできません。
純子は泣きそうになりながら、何とかその場を離れました。
そして、崩壊。
首長竜の化石は、今や、粉々に砕け散って、元あった場所に、うず高い山を作っていました。
「首長竜が……死んじゃった」
ぼう然。次に、自分の身体が痛みを受けたように、純子の気持ちは、張り裂けそうになっていきます。
「いやあっ!」
身体を起こすと、真っ暗な部屋の中にいるんだと、純子は気付きました。
目は覚めました。そう、夢だったのです。
「夢……」
胸の前で掛けぶとんの端っこを握りしめながら、純子はぽつりとつぶやきます。
「夢で……よかった」
安心できたせいでしょう。深いため息をつくと共に、純子の右目からは一粒、涙がこぼれていました。こぼれた涙は、ふとんの布に、小さな染みを作ります。
(嫌な夢……。どうして、あんな悪い夢を見たの?)
純子は、自分に腹が立ってきました。好きな化石の夢を見るのはいい。だけど、それが壊れるところなんて、見たくない。
(もしかして……正夢?)
よくない想像が、純子の頭に浮かんでしまいました。いくら彼女自身が打ち消そうとしても、それは勝手に、どんどん悪い方へと広がっていきます。まるで、大雨の前の黒雲のように。
「いけない!」
一声、短く叫ぶと、純子はベッドから飛び降りました。そして、そのあとは、音を立てないように、準備を始めました。
何の準備?
(あそこに行ってみないと……)
そうです。この夜中、純子は秘密の場所に行こうと決めたのです。
着替えてから、純子は懐中電灯を探しました。部屋の明かりをつけては、お母さんやお父さんに気付かれるかもしれないので、暗いまま探します。机の隅っこに、懐中電灯はありました。
「電池、よし、と」
ほんの一瞬、試しにスイッチを入れてみると、ちゃんと明るい光が出ました。
懐中電灯をしっかりと両手で握り、純子は部屋を、そっと抜け出しました。
思ったより、夜道は暗くありませんでした。懐中電灯はもちろんのこと、外灯がある上に、天には自然の明かりがあるからです。空に輝く星々は、都会の夜空とは比べものになりません。銀色にきらめく星に、手が届きそうなぐらい。
純子は、後ろの方を、ずっと気にしています。両親のことも気になりますし、誰かにつけられているのでは、という恐怖心もあるかもしれません。
秘密の場所は、昼間よりも、ずっと遠くにあるような気がしてきます。歩いても歩いても、見慣れた光景は目の前に現れません。
実際、いつもより時間がかかって、純子は目的の場所にたどり着きました。転ばないよう、慎重に坂を歩き、とげとげの針金で囲われた土地の手前に来ました。
がさっ!
不意に、そんな音が。
全身を震わせた純子は、声を上げそうになりました。けれど、何とか声を飲み込んで、しゃがみ込みます。
立入禁止になっている土地の中に、誰かいるらしいのです。でも、暗くて誰なのかは、分かりません。かといって、懐中電灯を向けては、こちらのことを気付かれてしまうでしょう。気付かれてはいけないと、純子はじっと闇を見つめました。
星のおかげで、ぼんやりと、人影が浮かんできました。何かの道具を持って、地面を掘り起こしているみたいです。さっきの音も、地面を掘る音だったのでしょう。
(……太田……さんだ)
純子の目の前に、白い、大きな物がありました。とても近くにあるので、何なのか、さっぱり分かりません。
純子は、その白い物を遠ざけようと、ぐっと押してみました。でも、びくともしません。両手で力一杯、一生懸命に押しても、同じです。
(あ、そうか。私が下がればいいんだ)
簡単な解決方法を思い付くと、純子はすぐに実行しました。そろりそろり、後ろ向きに下がります。
ところが、下がっても、下がっても、なかなか、白い物の全体は見えません。どうにか、白い物がいくつもあって、それらが組み合わさっているとだけ分かりました。
かなりの距離を歩いて、やっと、純子は全体像を見ることに成功しました。
「あ!」
白い物の正体を知ったとき、そんな驚きの声が、勝手にこぼれます。それほどの感動を与えてくれるのは……。
「恐竜の化石! すごい!」
それは首長竜の化石でした。何という名前か分かりませんが、長い首に、大きな前びれ、カメのような胴体は、首長竜に違いありません。
(おじいちゃん、首長竜とか海竜は、恐竜じゃないって言ってたっけ。恐竜の仲間なんだって。でも、首長竜だって、立派な恐竜だと思うわ)
そんな言葉を心でつぶやきながら、純子は再び、化石へと近付きました。手でなでてあげたくなったのです。
あと少しで手が届こうかというとき――。
「あ、あっ」
首長竜の左前びれに、ひびが入ったのです。あわてて、純子は駆け寄りました。そっと両手で、ひび割れた部分を包みます。
でも、でも……。
ぱらぱらと音を立て、純子の手から、細かくくだけた骨がこぼれ落ちました。
「……」
言葉をなくし、首長竜を見上げる純子。
次の瞬間、化石全体に、ひびが入り始めました。細かな粉があちこちから降ってきて、純子の肩にもかかります。もう、どうすることもできません。
純子は泣きそうになりながら、何とかその場を離れました。
そして、崩壊。
首長竜の化石は、今や、粉々に砕け散って、元あった場所に、うず高い山を作っていました。
「首長竜が……死んじゃった」
ぼう然。次に、自分の身体が痛みを受けたように、純子の気持ちは、張り裂けそうになっていきます。
「いやあっ!」
身体を起こすと、真っ暗な部屋の中にいるんだと、純子は気付きました。
目は覚めました。そう、夢だったのです。
「夢……」
胸の前で掛けぶとんの端っこを握りしめながら、純子はぽつりとつぶやきます。
「夢で……よかった」
安心できたせいでしょう。深いため息をつくと共に、純子の右目からは一粒、涙がこぼれていました。こぼれた涙は、ふとんの布に、小さな染みを作ります。
(嫌な夢……。どうして、あんな悪い夢を見たの?)
純子は、自分に腹が立ってきました。好きな化石の夢を見るのはいい。だけど、それが壊れるところなんて、見たくない。
(もしかして……正夢?)
よくない想像が、純子の頭に浮かんでしまいました。いくら彼女自身が打ち消そうとしても、それは勝手に、どんどん悪い方へと広がっていきます。まるで、大雨の前の黒雲のように。
「いけない!」
一声、短く叫ぶと、純子はベッドから飛び降りました。そして、そのあとは、音を立てないように、準備を始めました。
何の準備?
(あそこに行ってみないと……)
そうです。この夜中、純子は秘密の場所に行こうと決めたのです。
着替えてから、純子は懐中電灯を探しました。部屋の明かりをつけては、お母さんやお父さんに気付かれるかもしれないので、暗いまま探します。机の隅っこに、懐中電灯はありました。
「電池、よし、と」
ほんの一瞬、試しにスイッチを入れてみると、ちゃんと明るい光が出ました。
懐中電灯をしっかりと両手で握り、純子は部屋を、そっと抜け出しました。
思ったより、夜道は暗くありませんでした。懐中電灯はもちろんのこと、外灯がある上に、天には自然の明かりがあるからです。空に輝く星々は、都会の夜空とは比べものになりません。銀色にきらめく星に、手が届きそうなぐらい。
純子は、後ろの方を、ずっと気にしています。両親のことも気になりますし、誰かにつけられているのでは、という恐怖心もあるかもしれません。
秘密の場所は、昼間よりも、ずっと遠くにあるような気がしてきます。歩いても歩いても、見慣れた光景は目の前に現れません。
実際、いつもより時間がかかって、純子は目的の場所にたどり着きました。転ばないよう、慎重に坂を歩き、とげとげの針金で囲われた土地の手前に来ました。
がさっ!
不意に、そんな音が。
全身を震わせた純子は、声を上げそうになりました。けれど、何とか声を飲み込んで、しゃがみ込みます。
立入禁止になっている土地の中に、誰かいるらしいのです。でも、暗くて誰なのかは、分かりません。かといって、懐中電灯を向けては、こちらのことを気付かれてしまうでしょう。気付かれてはいけないと、純子はじっと闇を見つめました。
星のおかげで、ぼんやりと、人影が浮かんできました。何かの道具を持って、地面を掘り起こしているみたいです。さっきの音も、地面を掘る音だったのでしょう。
(……太田……さんだ)
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
ゼロになるレイナ
崎田毅駿
児童書・童話
お向かいの空き家に母娘二人が越してきた。僕・ジョエルはその女の子に一目惚れした。彼女の名はレイナといって、同じ小学校に転校してきて、同じクラスになった。近所のよしみもあって男子と女子の割には親しい友達になれた。けれども約一年後、レイナは消えてしまう。僕はそのとき、彼女の家にいたというのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
彼女がラッキー過ぎて困ってしまう
崎田毅駿
児童書・童話
“僕”が昔、小学生の頃に付き合い始めた女の子の話。小学生最後の夏休みに、豪華客船による旅に行く幸運に恵まれた柏原水純は、さらなる幸運に恵まれて、芸能の仕事をするようになるんだけれども、ある出来事のせいで僕と彼女の仲が……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
湯本の医者と悪戯河童
関シラズ
児童書・童話
赤岩村の医者・湯本開斎は雨降る晩に、出立橋の上で河童に襲われるが……
*
群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/children_book.png?id=95b13a1c459348cd18a1)
ぼくの家族は…内緒だよ!!
まりぃべる
児童書・童話
うちの家族は、ふつうとちょっと違うんだって。ぼくには良く分からないけど、友だちや知らない人がいるところでは力を隠さなきゃならないんだ。本気で走ってはダメとか、ジャンプも手を抜け、とかいろいろ守らないといけない約束がある。面倒だけど、約束破ったら引っ越さないといけないって言われてるから面倒だけど仕方なく守ってる。
それでね、十二月なんて一年で一番忙しくなるからぼく、いやなんだけど。
そんなぼくの話、聞いてくれる?
☆まりぃべるの世界観です。楽しんでもらえたら嬉しいです。
宝石アモル
緋村燐
児童書・童話
明護要芽は石が好きな小学五年生。
可愛いけれど石オタクなせいで恋愛とは程遠い生活を送っている。
ある日、イケメン転校生が落とした虹色の石に触ってから石の声が聞こえるようになっちゃって!?
宝石に呪い!?
闇の組織!?
呪いを祓うために手伝えってどういうこと!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる