化石の鳴き声

崎田毅駿

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6.本物だ

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 純子はその日の午後、おじいちゃんを秘密の場所に案内しました。まだまだ元気いっぱいですから、少しぐらいの荷物をかついでいても、おじいちゃんは平気で坂を、どんどんと行きます。
「よろしくお願いしまーっす!」
 男の子達からの歓迎の言葉。中森君が、他の男子に言っておいてくれたのです。
 おじいちゃんは、驚いたような顔をして、
「ああ、こちらこそ、よろしく。おお、みんな、元気そうな顔をしておる」
 と言いました。
 純子はおじちゃんのことをみんなに紹介し、男の子達は順番に、自己紹介をしました。
 おじいちゃんは、顔と名前を覚えるためでしょう、何度か口の中でもごもごと繰り返し言っています。
 それから、おもむろに、おじいちゃんは川上君の方を向きました。
「さて、さっそくだけど、その化石を見せてもらおうかな」
「はい。これです」
 川上君は、ビニール袋を前に差し出しました。今日は、ポケットじゃなく、そのビニールに入れてきたようです。
「手に取っていいかね?」
 おじいちゃんの言葉に、川上君はだまってうなずきました。
 おじいちゃんがビニール袋に手を入れ、中の物を取り出します。中の物は、新聞紙にくるまれていました。クッションの役目をさせるつもりなのでしょう、何重にも新聞紙は重ねてあります。
「ずいぶん、ていねいにつつんでいるねえ。おっ、ようやく出てきた」
 おじいちゃんが声を上げました。そして、しんちょうに、現れたアンモナイトの化石を取り上げました。
「……」
 だまっています。
 おじいちゃんが何か言うのを期待して、純子を始めとしたみんなも、やっぱりだまっています。
「これは……」
 と、おじいちゃんが、何かを言いかけました。みんな、身を乗り出すようにします。
 けれど、おじいちゃんは、そのまま何も言いません。いい加減、待ちくたびれてしまいました。
「どうなの、おじいちゃん?」
 しびれを切らした純子は、少し早口になっています。
 おじいちゃんは、やっとみんながいるのを思い出したような顔をしています。
「ああ、すまんすまん。見とれてしまっていた。すばらしい化石だよ、これは」
「そんなにすごいの?」
 純子も男の子達も、いっせいに声を上げました。その五組の目は、どれも輝いてさえいます。
「そうだとも。純ちゃん達が考えていた通り、このアンモナイトに着いている穴は、恐竜の歯型に、まず間違いない」
 おじいちゃんが言い終わると同時に、わっと歓声が起こりました。みんな、ここが秘密の場所だということを忘れたかのような騒ぎっぷりです。
「すごい! 川やんの言った通りだ」
 木下君にそう言われて、当の川上君は、またいつかみたいに、照れた様子を見せるのでした。
 それを横目で見ながら、中森君が片手をあげるような感じで、おじいちゃんに聞きました。
「恐竜って、どんな種類なんでしょう?」
「そこまでは、私には分からんよ」
 と、笑うおじいちゃん。そしてさらに続けて、口を開きます。
「さて、みんな、聞いておくれ。当然、恐竜の化石を探したいんだろうね?」
「もちろん!」
 声をそろえて、元気よく、返事。でも、これからおじいちゃんのする話を知っている純子は、だまっていました。
 おじいちゃんは、困ったような表情をしています。やがて、おだやかな笑みをたたえながら、始めました。
「化石に興味を持つのはいい。とてもいいことだよ。でも、君たちだけでやらないでくれないか」
「どうして?」
 すぐに、そんな声が飛びます。
 純子はその間、男の子達に白い目で見られるんじゃないかという気がしてきて、うつむいてしまいました。
 おじいちゃんは、前に純子にしたのと同じ説明を、皆に聞かせます。その言い方が上手なのでしょう。最初はぶぅぶぅと文句を言っていた男の子達も、いつの間にか、素直に聞き入っているのです。
「分かりました。自分たちだけじゃ無理だし、大人の人に手伝ってもらいます」
 川上君が言いました。
 大人にも手伝ってもらう、というところがおかしかったのでしょうか。おじいちゃんは苦笑しながら、それでも満足そうに、大きくうなずきました。
「みんな、いい子だ。私が責任を持って、専門家の人に連絡させてもらうよ。その前に、このアンモナイトがどこにあったのかを、聞かせてもらえるかな」
 おじちゃんのお願いに対し、川上君が指さして答えようとしたそのときです。
 坂の上の方の茂みが、がさがさと音を立てました。みんなが見上げる間もなく、大声がふってきたのです。
「こら! 何をしている!」
 男の人でした。よく年齢の分からない外見で、おしゃれな感じの眼鏡をしているせいか、偉そうな印象です。その男の人は、ざざざっと、土煙を立てながら、坂を下りてきました。
「あんたが、責任者かね?」
 男の人は、純子のおじいちゃんへと詰め寄っていきます。
「そうです」
 おじいちゃんは言い切りました。
 純子達は、ただただ見守るだけしかできません。
「私は石原と申します。あなたは……?」
「誰の許可を得たんだね? この土地に入ってはだめだ」
 男の人は、おじいちゃんの質問には答えず、怒鳴り散らし続けています。
「ほう、では、あなたがこの土地の所有者でしたか?」
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