化石の鳴き声

崎田毅駿

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1.男子たちの集まり

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 まっくらな夜の闇。
 自然が、いっぱい残るこのあたりには、闇の持つ恐さも、まだまだ残っているのかもしれません。
「何をするんだ!」
 闇の中に突然、大人の男の声がしました。
 次の瞬間、かたい物同士のぶつかり合う音が。と同時に、さっき叫んだ人の影はくずれて、その場にうずくまってしまいます。
「何をするんだ、だと?」
 もう一人の大人が、ひとりごとのように言っています。手には大きなスコップがにぎられているのが分かりました。
「分かり切っているだろう。俺にとって、おまえは邪魔なんだよ」
 もちろん、倒れた男の人は、何も言い返しません。したくてもできないのです。
 しばらくじっと立っていた大人の方は、やがて次の行動を始めました。

           *           *

 学校からの帰り道、純子じゅんこはいつもの方向を見ました。
(今日もやってる)
 そう思いながら、純子は一歩、坂へと足をふみ出します。
 坂は最初、下って、すぐに上り坂になります。そこを越えたところに、男の子達が何人か集まって、騒いでいるのです。
 お父さんの仕事の都合で、夏休みに入るちょっと前に、純子はここへ引っ越してきました。友達があまりできない内に、休みになってしまったので、退屈してしまうことが多くなります。
 今日、学校へ行ったのは、登校日だったからです。みんな、うれしそうにはしゃいでいますが、純子はほんの二、三人ほどの話し相手しかいません。それでも楽しいことは楽しいのですが、みんなのはしゃぎぶりと比べると、何だかさみしくなってしまいます。
 登校日はお昼前に終わったのですが、純子は友達と遊んでいました。帰ってしまったら、また長い間、会えないからです。
 友達が帰らないといけない時間になったので、仕方なく、純子も帰るのです。そしてその途中で、純子はいつもの騒ぎ声を耳にし、つい、気になってしまいました。
 普通だったら、男の子の中、それも話をしたことない男子ばかりの輪の中へ、一人で入っていくなんて、考えもしないでしょう。だけど、このときの純子は、そのまま家に帰るのを嫌がる気持ちが強く、寄り道する気になったのです。
 すこし息をはあはあさせて、やっと坂を上りきったその先――。男の子達は何をしているのでしょう。
 小さな岩にかくれるようにして、純子はそっとのぞいてみました。すると、同じクラスの男子が四人ほど集まって、土いじりをしている光景が、目に入ってきたのです。
(なーんだ。どろ遊びじゃない)
 と、がっかりした純子でしたが、少しおかしいことに気付きました。
 男子四人がいじっている土は、別にどろっぽくありません。砂場の砂という感じでもなく、ただの土なのです。何かを作って遊ぶのは、無理みたいに思えました。
(ミミズとか、虫の幼虫とかをとっているのかな)
 そう考え、目をじっとこらす純子。でも、そういった様子も見られませんでした。男の子達は木の枝やら小さなスコップやらで、しきりに土を掘り返してます。そしてときどき手を止めて、掘り出した石ころをじっと観察するのです。
(何を掘っているのかしら?)
 気になってたまりません。純子はもっとよく見ようと、小岩の影から上半身を出しました。
 そのとき、動かした足が石に当たって、いくつかがころころと転がり出してしまったのです。
 あっ、と思いましたが、純子には、もう止めることはできません。ゆるやかな坂を転がった石の一つが、男子の一人の足下に当たって止まりました。
 何だ? そんな風に、男の子は足元を見ています。石が転がってきたのだと分かると、次に、どこから転がってきたのかを調べるように、目をきょろきょろさせました。
 純子はすぐに頭を引っ込めようとしました。けれども……。
「誰? そこにいるんだろ?」
 どうやら、間に合わなかったようです。
 一人が騒ぎ出したせいで、他の三人も騒ぎ始めました。
 純子は少し考えてから、何も悪いことしてたんじゃないんだし、と思うことにしました。このままかくれていて、男子に見つけられるよりも、自分から出て行った方がいい。そう決めたのです。
「……ごめんなさい。邪魔しちゃった」
 岩影から顔を出すと、歩き回っていた四人の男子は、ぴたりと止まりました。
「何だ、転校生か」
 四人の内の一人、身体の小さな、気の強そうなのが言いました。
「そんな言い方、すんなよ。えーっと、石原いしはらさんだよね?」
 今度の男の子は、やさしい口調です。最初に石ころに気付いた、ちょっと格好のいい子。確か、中森明弘なかもりあきひろ君だ――純子はその名前を覚えていました。
「う、うん!」
 とりあえず、勢いだけで、元気よく返事。
「何をしてるの?」
「え? えっと」
 聞かれても、答えられません。ただ、覗いていただけなんですから。
 中森君が、何だかおかしそうな顔をして言いました。
「とにかく、こっちに来なよ。話しにくいや」
 純子は、スカートがまくれ上がらないように注意しながら、そろそろと最後の坂を下りました。
 が、油断大敵と言います。あと少しというところで、突き出た岩の先に、つまずいてしまったのです。
 危なく転びそうになったとき、右腕の上の方を、ぎゅっと強くつかまれました。顔を上げると、中森君がいつの間にかそばまで来てくれていて、助けてくれたんだと分かりました。
「あ、ありがとう」
「ドジだなあ」
 そんな言葉を口にしたのは、もちろん、中森君ではありません。彼の後ろにいた、三人目の男子です。
「そんなこと言うなよ。転校してきたばっかりで、山道を歩き慣れていないんだよね」
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