23 / 24
マジックは魔法たり得るか
しおりを挟む
テストを無事に終えた私は、書類上も正式に登録され、晴れて一般市民と同じ異界人として認識された。これにより、帰れるようになるまでの身分は保障されるとのことで、ありがたい。もちろん、ビッツを始めとするクレイン家の皆さんが私の身元を引き受けてくれたからというのが大きい。
一方、私の魔法がどのように登録されたのかは、私自身にも分からない。あの巡査部長が見たまま、感じたままを記述するという。多分、カードマジックを魔法の発露だと信じたはずだけど。
「では登録のお祝いに、今日はお昼ご飯、外食に繰り出すよ」
「そんな無駄遣いは……こっちはまだ働き口も見付けられていないのに」
期限は定められていないが、なるべく早めに仕事を見付けるようにと警察から言われている。食い扶持が得られず、犯罪に走る異界人がこれまでもたまにいたらしい。
「当分の間は大丈夫だよ。うちはうちで、おまえさんを預かっている間、補助金がもらえるんだ。もちろん、異界人のために使うのが原則だよ」
「でも」
「そんなに心配なら、ちょっと遊技場を覗いていこっか。おまえさんの能力があれば、割と簡単に稼げるんじゃないかしら」
ビッツは街並みを見上げ、くるっと向きを転換した。これまで歩いて来た方へしばらく逆戻りし、途中で斜め右の枝道に入り込む。
道を一本は一だだけで、若干、大衆的で下品な雰囲気に変わる。ただ、嫌な感じはしない。着こなしがだらしなかったり、巨漢・強面のオンパレードだったり、化粧の濃い人の割合が増えたりと、猥雑なのだが、治安はそんなに悪くはなさそう。警察署が近くにあるせいだろうか。何たって、今は昼間で明るいし。
「こういうとこ、初めて?」
ビッツに聞かれて、私は少しだけ考えてからうなずいた。元いた世界で繁華街に子供だけで行ったことはないし、今いる異世界でなら何もかもが初めて。二重の意味で初めてだ。
「なーんにも不安がることはないよ。健全な遊び場だから」
ビッツについて行って、やって来たのは店の入り口に大きな鏡を配した、緑色の建物だった。平屋建てで、ドアの隙間からは長いカウンターがあるのがちらと覗けた。農協の相談窓口を何故か連想した。
「この鏡は、これから賭け事をする前に、今一度冷静になって己を見つめ直してごらん、ていう確認のために置いてあるんだって。一種の戒めかな」
「……そういえば、このネコ耳、取ってくれないの?」
鏡に映った姿を見て、ネコ耳カチューシャを付けっ放しだということを思い出した。
「それは無理。登録が済んでもそのままだよ」
だめなのね。嫌な予感はしていたけれども、一般人と異界人とを明確に区別するためと言っていたからしょうがないか。私自身は、この世界に混じっていると、かなり個性的な外見だと感じてるんだけどな。
「それよか、入った入った」
「えーっと、もしかしなくてもだろうけど、ここはギャンブル場で、いきなりお金を賭けて稼いでみろと?」
背中を押されるのを踏ん張って、最終確認を取る。
「そう、だよっ。ただまあ、最初で緊張するだろうから、なしなしルールでやってみたらいいよ」
「なしなしというのは?」
「賞金なし、魔法なし。いわゆるアマチュア戦だね。魔法を使うアマチュア戦は、そのまんまアマチュア魔法戦と呼ぶの」
「魔法なしねえ」
マジックのテクニックを魔法だと思わせたい私からすれば、ここは魔法ありのゲームを試してみたい気がするんだけど、まあその辺はアマチュア戦を始めたあとでも変更が利くだろう、きっと。
「よし、やってみる」
私は踏ん張るのをやめて、二人して雪崩れ込むように店内に入った。
あとは銀行よろしく、同じ番号が二つ書かれた、板チョコ二欠け分のような木札を取って、ラインに沿って半分に割り、片方を受付に出す。もう片方が割り符ということらしい。それを持って、椅子に座って待つ。他に待っている人は一人だけで、その人もすぐに呼ばれた。程なくして地声によるアナウンスが。
「十五番の札をお持ちのお客様、三番窓口までお越しください」
念のため、ビッツに目で確認を取ってから、これまた二人一緒に三番窓口に向かった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう?」
多分三十絡みの女性が言った。さすがに中にいる人は銀行員ぽくはなく、明るい赤の制服を着ていた。
「こっちの子がやってみたいって。初めてだから、アマチュア戦で」
ビッツが私の方を指差し、てきぱきと伝える。私自身は愛想笑いを浮かべるくらいしかしていない。ネコ耳を出しっ放しなのが気になったが、隠すと怪しまれそうなのでやめておこう。
「では会員証をお作りします」
お。異界人が会員証なんて作れるのね。身分が保障されているとはいえ、ギャンブルのような行為にもちゃんと効果が及んでいる。むしろこの世界のこの国では、ギャンブルこそがあらゆる物事の上に来るのかもしれない。
つづく
一方、私の魔法がどのように登録されたのかは、私自身にも分からない。あの巡査部長が見たまま、感じたままを記述するという。多分、カードマジックを魔法の発露だと信じたはずだけど。
「では登録のお祝いに、今日はお昼ご飯、外食に繰り出すよ」
「そんな無駄遣いは……こっちはまだ働き口も見付けられていないのに」
期限は定められていないが、なるべく早めに仕事を見付けるようにと警察から言われている。食い扶持が得られず、犯罪に走る異界人がこれまでもたまにいたらしい。
「当分の間は大丈夫だよ。うちはうちで、おまえさんを預かっている間、補助金がもらえるんだ。もちろん、異界人のために使うのが原則だよ」
「でも」
「そんなに心配なら、ちょっと遊技場を覗いていこっか。おまえさんの能力があれば、割と簡単に稼げるんじゃないかしら」
ビッツは街並みを見上げ、くるっと向きを転換した。これまで歩いて来た方へしばらく逆戻りし、途中で斜め右の枝道に入り込む。
道を一本は一だだけで、若干、大衆的で下品な雰囲気に変わる。ただ、嫌な感じはしない。着こなしがだらしなかったり、巨漢・強面のオンパレードだったり、化粧の濃い人の割合が増えたりと、猥雑なのだが、治安はそんなに悪くはなさそう。警察署が近くにあるせいだろうか。何たって、今は昼間で明るいし。
「こういうとこ、初めて?」
ビッツに聞かれて、私は少しだけ考えてからうなずいた。元いた世界で繁華街に子供だけで行ったことはないし、今いる異世界でなら何もかもが初めて。二重の意味で初めてだ。
「なーんにも不安がることはないよ。健全な遊び場だから」
ビッツについて行って、やって来たのは店の入り口に大きな鏡を配した、緑色の建物だった。平屋建てで、ドアの隙間からは長いカウンターがあるのがちらと覗けた。農協の相談窓口を何故か連想した。
「この鏡は、これから賭け事をする前に、今一度冷静になって己を見つめ直してごらん、ていう確認のために置いてあるんだって。一種の戒めかな」
「……そういえば、このネコ耳、取ってくれないの?」
鏡に映った姿を見て、ネコ耳カチューシャを付けっ放しだということを思い出した。
「それは無理。登録が済んでもそのままだよ」
だめなのね。嫌な予感はしていたけれども、一般人と異界人とを明確に区別するためと言っていたからしょうがないか。私自身は、この世界に混じっていると、かなり個性的な外見だと感じてるんだけどな。
「それよか、入った入った」
「えーっと、もしかしなくてもだろうけど、ここはギャンブル場で、いきなりお金を賭けて稼いでみろと?」
背中を押されるのを踏ん張って、最終確認を取る。
「そう、だよっ。ただまあ、最初で緊張するだろうから、なしなしルールでやってみたらいいよ」
「なしなしというのは?」
「賞金なし、魔法なし。いわゆるアマチュア戦だね。魔法を使うアマチュア戦は、そのまんまアマチュア魔法戦と呼ぶの」
「魔法なしねえ」
マジックのテクニックを魔法だと思わせたい私からすれば、ここは魔法ありのゲームを試してみたい気がするんだけど、まあその辺はアマチュア戦を始めたあとでも変更が利くだろう、きっと。
「よし、やってみる」
私は踏ん張るのをやめて、二人して雪崩れ込むように店内に入った。
あとは銀行よろしく、同じ番号が二つ書かれた、板チョコ二欠け分のような木札を取って、ラインに沿って半分に割り、片方を受付に出す。もう片方が割り符ということらしい。それを持って、椅子に座って待つ。他に待っている人は一人だけで、その人もすぐに呼ばれた。程なくして地声によるアナウンスが。
「十五番の札をお持ちのお客様、三番窓口までお越しください」
念のため、ビッツに目で確認を取ってから、これまた二人一緒に三番窓口に向かった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう?」
多分三十絡みの女性が言った。さすがに中にいる人は銀行員ぽくはなく、明るい赤の制服を着ていた。
「こっちの子がやってみたいって。初めてだから、アマチュア戦で」
ビッツが私の方を指差し、てきぱきと伝える。私自身は愛想笑いを浮かべるくらいしかしていない。ネコ耳を出しっ放しなのが気になったが、隠すと怪しまれそうなのでやめておこう。
「では会員証をお作りします」
お。異界人が会員証なんて作れるのね。身分が保障されているとはいえ、ギャンブルのような行為にもちゃんと効果が及んでいる。むしろこの世界のこの国では、ギャンブルこそがあらゆる物事の上に来るのかもしれない。
つづく
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
コイカケ
崎田毅駿
大衆娯楽
いわゆる財閥の一つ、神田部家の娘・静流の婚約者候補を決める、八名参加のトーナメントが開催されることになった。戦いはギャンブル。神田部家はその歴史において、重要な場面では博打で勝利を収めて、大きくなり、発展を遂げてきた背景がある。故に次期当主とも言える静流の結婚相手は、ギャンブルに強くなければならないというのだ。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
アベルとフランク ~ 魔玉を巡る奇譚 ~
崎田毅駿
ファンタジー
科学者のエフ・アベルは、一から人間を造り出そうとしていた。人の手によらぬ異界の物の力を利して。そしてそれは成った。
数年後、街では夜な夜な、女性をターゲットにした猟奇的な殺人が発生し、市民を恐怖させ、警察も解決の糸口を掴めず翻弄されていた。“刻み屋ニック”と呼ばれるようになった殺人鬼を追って、アベルが動き出す。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
江戸の検屍ばか
崎田毅駿
歴史・時代
江戸時代半ばに、中国から日本に一冊の法医学書が入って来た。『無冤録述』と訳題の付いたその書物の知識・知見に、奉行所同心の堀馬佐鹿は魅了され、瞬く間に身に付けた。今や江戸で一、二を争う検屍の名手として、その名前から検屍馬鹿と言われるほど。そんな堀馬は人の死が絡む事件をいかにして解き明かしていくのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる