ベッド×ベット

崎田毅駿

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マジックは魔法たり得るか

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 テストを無事に終えた私は、書類上も正式に登録され、晴れて一般市民と同じ異界人として認識された。これにより、帰れるようになるまでの身分は保障されるとのことで、ありがたい。もちろん、ビッツを始めとするクレイン家の皆さんが私の身元を引き受けてくれたからというのが大きい。
 一方、私の魔法がどのように登録されたのかは、私自身にも分からない。あの巡査部長が見たまま、感じたままを記述するという。多分、カードマジックを魔法の発露だと信じたはずだけど。
「では登録のお祝いに、今日はお昼ご飯、外食に繰り出すよ」
「そんな無駄遣いは……こっちはまだ働き口も見付けられていないのに」
 期限は定められていないが、なるべく早めに仕事を見付けるようにと警察から言われている。食い扶持が得られず、犯罪に走る異界人がこれまでもたまにいたらしい。
「当分の間は大丈夫だよ。うちはうちで、おまえさんを預かっている間、補助金がもらえるんだ。もちろん、異界人のために使うのが原則だよ」
「でも」
「そんなに心配なら、ちょっと遊技場を覗いていこっか。おまえさんの能力があれば、割と簡単に稼げるんじゃないかしら」
 ビッツは街並みを見上げ、くるっと向きを転換した。これまで歩いて来た方へしばらく逆戻りし、途中で斜め右の枝道に入り込む。
 道を一本は一だだけで、若干、大衆的で下品な雰囲気に変わる。ただ、嫌な感じはしない。着こなしがだらしなかったり、巨漢・強面のオンパレードだったり、化粧の濃い人の割合が増えたりと、猥雑なのだが、治安はそんなに悪くはなさそう。警察署が近くにあるせいだろうか。何たって、今は昼間で明るいし。
「こういうとこ、初めて?」
 ビッツに聞かれて、私は少しだけ考えてからうなずいた。元いた世界で繁華街に子供だけで行ったことはないし、今いる異世界でなら何もかもが初めて。二重の意味で初めてだ。
「なーんにも不安がることはないよ。健全な遊び場だから」
 ビッツについて行って、やって来たのは店の入り口に大きな鏡を配した、緑色の建物だった。平屋建てで、ドアの隙間からは長いカウンターがあるのがちらと覗けた。農協の相談窓口を何故か連想した。
「この鏡は、これから賭け事をする前に、今一度冷静になって己を見つめ直してごらん、ていう確認のために置いてあるんだって。一種の戒めかな」
「……そういえば、このネコ耳、取ってくれないの?」
 鏡に映った姿を見て、ネコ耳カチューシャを付けっ放しだということを思い出した。
「それは無理。登録が済んでもそのままだよ」
 だめなのね。嫌な予感はしていたけれども、一般人と異界人とを明確に区別するためと言っていたからしょうがないか。私自身は、この世界に混じっていると、かなり個性的な外見だと感じてるんだけどな。
「それよか、入った入った」
「えーっと、もしかしなくてもだろうけど、ここはギャンブル場で、いきなりお金を賭けて稼いでみろと?」
 背中を押されるのを踏ん張って、最終確認を取る。
「そう、だよっ。ただまあ、最初で緊張するだろうから、なしなしルールでやってみたらいいよ」
「なしなしというのは?」
「賞金なし、魔法なし。いわゆるアマチュア戦だね。魔法を使うアマチュア戦は、そのまんまアマチュア魔法戦と呼ぶの」
「魔法なしねえ」
 マジックのテクニックを魔法だと思わせたい私からすれば、ここは魔法ありのゲームを試してみたい気がするんだけど、まあその辺はアマチュア戦を始めたあとでも変更が利くだろう、きっと。
「よし、やってみる」
 私は踏ん張るのをやめて、二人して雪崩れ込むように店内に入った。
 あとは銀行よろしく、同じ番号が二つ書かれた、板チョコ二欠け分のような木札を取って、ラインに沿って半分に割り、片方を受付に出す。もう片方が割り符ということらしい。それを持って、椅子に座って待つ。他に待っている人は一人だけで、その人もすぐに呼ばれた。程なくして地声によるアナウンスが。
「十五番の札をお持ちのお客様、三番窓口までお越しください」
 念のため、ビッツに目で確認を取ってから、これまた二人一緒に三番窓口に向かった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう?」
 多分三十絡みの女性が言った。さすがに中にいる人は銀行員ぽくはなく、明るい赤の制服を着ていた。
「こっちの子がやってみたいって。初めてだから、アマチュア戦で」
 ビッツが私の方を指差し、てきぱきと伝える。私自身は愛想笑いを浮かべるくらいしかしていない。ネコ耳を出しっ放しなのが気になったが、隠すと怪しまれそうなのでやめておこう。
「では会員証をお作りします」
 お。異界人が会員証なんて作れるのね。身分が保障されているとはいえ、ギャンブルのような行為にもちゃんと効果が及んでいる。むしろこの世界のこの国では、ギャンブルこそがあらゆる物事の上に来るのかもしれない。

 つづく
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