ベッド×ベット

崎田毅駿

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一宿一飯それ以上

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 替えてもらおうと、ウサ耳カチューシャに手をやって、引き剥がそうとしたが離れない。
「あ、ごめん。それ、一旦くっつけたら、その日はずっと同じ物を使うことになるから」
「な、何の目的で?」
「途中でころころ変えられたり、外せたりしたら、折角の目印の意味がなくなるでしょ。別に敵味方を区別する物じゃなくて、おまえさんという存在を皆に知ってもらうためさ」
「……友好的な目的なら、仕方がないなあ」
 この辺で降りておこう。今後、ギャンブルしなきゃいけない場面に多々出くわすんだとしたら、引き際を見極めるのも大事。練習をしておかなくては。

 いよいよ外に出る段になって、着ている物がパジャマだという事実が気になってしまった。朝食の前のサイコロ勝負で、履き物以外に着る物も賭けておけばよかったかな。
「へー、それ寝間着なの?」
 わけを話すと、ビッツは意外そうな反応を示した。見開いた目でしげしげと見つめ、布地に直に触る。
「全然、見えないね。立派に普通の服だよ。うちらの寝間着なんて、男女問わずに、頭からすっぽり被る物でさ。袖さえない形が多いんだ」
「じゃ、この格好でもおかしくない?」
「まあ、ちょーっと柔らかすぎる気はするけれども、別に野山に出掛けようってんじゃないし、平気でしょ」
「あ、見た目の話を聞いてるんだけど……」
「デザインは、そんなにおかしくないよ。これ知らないのもいるけど、全部けものなんだよね?」
 パジャマの柄は薄い青地に、色んな動物を小さめのイラストにして、ドット模様みたいに、全体にプリントしてある。
「あー、でも、どちらにせよ衣服はいるよね。こっちの世界にどれだけ滞在することになるのか分からないけど、服も下着も一組だけっていうのはあり得ない」
 言われるまでもなく、薄々理解していた。こっちの世界、少なくともこのトレスソンというところでは、お金による経済活動が行われているのだろう。だから、お金さえあれば必要な物は揃う。だが、どうやってお金を得るかが問題。
「ないときは、ギャンブルで勝ち取るのが王の認めたルール」
 ああ、やっぱり。
「身を持ち崩しかねないような大博打はだめなんだけどさ。生活に多大な悪影響を及ぼさない範囲でなら、双方納得して見合った賭け代を賭け、勝負することは日常的に行われているんだよ」
「……そういえば、というか、すっかり忘れていて恥ずかしい限りなんだけど、お世話になりっぱなしで……ありがとうございました」
「あら、急に堅苦しくなっちゃったよ。どうしたの?」
「え、いや、その、警察にこれから行くということは、もうお別れなんだなと思って。だったら、ビッツにだけじゃなく、おじさんとおばさんにもちゃんとお礼を言わないと」
「いやいやいやいや。ばかにされちゃ困るよ」
 半ば怒った口ぶりのビッツが眉根を寄せる。その両手が腕をきつく掴んできた。
「本当にお別れするときは、盛大にやるよ。こんな素っ気なく済ませるもんか。それにね、両親はおまえさんが気に入ったんだ。そう言ってたろ?」
「言ってたけど、あれはギャンブル……」
「違う。それだけじゃない。度胸や観察力はもちろん含めるけれども、全部ひっくるめて気に入ったと言ったのさ。だから、警察に届けを出したら、ここに戻って来る。三食付くし、昼寝までは付いてないが、夜は屋根の下で寝られる。ま、まあ、おまえさんさえよければ、だけど。警察の施設にいた方が、仲間――そっちの世界から来た人に巡り会える可能性がわずかでも高いだろうから」
 喋る内に気恥ずかしくなったのか、目の下辺りを赤くして、早口になるビッツ。
「分かった。じゃ、ありがたくいさせてもらう。もちろん家のことや仕事もあれば、手伝うよ」
「お給金はすぐには出ないと思うよ」
「とんでもない。逆にご飯を食べさせてもらえるだけで、物凄く感謝してる」
 自然と笑みがこぼれた。真面目な話、このクレイン一家の人と出会っていなかったら、どうなっていたのやら。想像するとちょっと怖くて、だからこそ現状にちょっと涙が出た。

 つづく
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