夏の十三

 ときは一九九〇年代。まだ携帯電話の類はほとんど普及していなかった頃のこと。
 中学生のアキは誕生日を迎えて、十三歳になった。アキの父親は再婚で、だからアキと母との間に血のつながりはない。しかしそんなことは関係なく、普段から家族仲はすこぶるよかった。
 夏休み半ば、アキは両親や仲のよい友達と一緒に、キャンプ登山に出掛けた。子供にはちょっときつい山だったが、それでも楽しさが勝る。よい思い出作りになりそうな予感が膨らんでいく。
 だが、ある出来事が影を差した。二棟が並んで建つ宿泊用の山小屋に辿り着いてみると、その内の一つで、窓ガラスが何箇所も割られた上、内部が荒らされていたのだ。すぐ近くにあるもう一軒が無事である点から推して、別荘荒らしが何を間違えたか、金目の物があると思い込んで侵入したのかもしれない。碌な獲物がなく、そのまま引き返したのだろう……。
 とにもかくにも、このまま荒らされた山小屋を使うのは不便が生じるだろうし、何より不用心だ。一泊を予定していた七人とアキ達は合流し、無事だったもう一つの山小屋で一晩を過ごすことになった。
 知らない大人達との交流は、中学生のアキ達にとって刺激的なものだと言えた。この分なら、山を下りて帰った後もつながりが続くかもしれない。多少高揚したまま、楽しいひとときが過ぎていく。が、日がとっぷりと暮れ、辺りが暗闇に包まれるに従って、山は急速にその姿を変えた。山は、殺人鬼を囲っていたのだ。
 夜だというのにメタリック調のサングラスを掛けた、血に飢えた殺人鬼。手にした斧と、建築資材の長細い鉄の棒を使い、一人また一人と、確実に命を奪っていく。
 異変に気付き、残る人々はてんでに逃げ出した。そのような事態にも殺人鬼は委細かまわず、執拗に探し回り、仕留めては首を刎ねていく……。

 スプラッターホラーの皮を被った本格ミステリ。
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