17 / 18
17.血のつながり
しおりを挟む太陽の位置からだいたいの方角を想定し、東に向かう。校舎内を走ると目立つし、教師から注意される恐れが高いため、岸本は校舎の外を突っ走った。それはそれで目立つらしく、たまに「東沢君、全力疾走なんて珍しい~」と女子の声が上がるのを聞いた。
(この身体を借りている彼は、それなりに女子にもてるのかな? 付き合っている女子がいて、その人と出くわしたら間に合わない恐れがあるかも)
そこまで心配しなくてもよかった。中庭はそんなに広いわけではなく、じきに東の端まで辿り着いた。
思惑通り、校舎の影にたたずむセーラー服姿の女子生徒二人を見付けた。岸本は膝に手をつくと呼吸を整える。
(男子の方はまだ来てないのかな。だとしたら間に合った。しかし……女子二人も顔が見えないな。いや、見えても吾妻さんの顔ではないんだっけ。でも、もう一人は中学生時代のおばあちゃんなんだから、吾妻さんにちょっとでも似ている方がおばあちゃんだろう)
などと考える内に面倒になってきた。息の乱れは収まり、これなら充分に声を出せる。
「吾妻さん!」
本来の名で呼べば、何ごとかと振り返るだろう。その読み通り、女子は二人とも振り向いた。おばあちゃんも今は吾妻姓なのだから当然だ。
「――岸本君?」
狐を連想させる細面で目も細い方の女子が、岸本の名前を口にした。
「え、分かるの? ということは君が吾妻さん? 僕は確かに岸本だけど」
「ほんとに? う、うん、何となく分かった。って、どうしてここに?」
「あの手紙を読んだら、心配で、いや、危ないと思ったから、僕も願い事を叶えてもらった。吾妻さんとその家族を守れる力を得たいって。そうしたらここへ来ることができたんだ」
「私達を助けるために?」
「うん。実際に時間を遡って来られたってことは、君がピンチになっているか、その寸前なんじゃないかと」
岸本は張り切って話を続けようとしたのだが、ここで思わぬ横やりが吾妻のおばあちゃん――榊原純子が口を開いたのだ。
「あの、確認だけれども、こちらの方は見た目は東沢君だけれども、中身はよくお家に来ていた岸本君?」
「あ、はい、そうです。小学生のときです。覚えてもらえているなんて」
「それはもう、この子の話にしょっちゅう出て来ますからね。忘れようがありません」
「おばあちゃん!」
沖田史香の姿をした吾妻が悲鳴のような調子で短く叫び、割って入る。
「それ、あんまり言っちゃだめっ」
「それよ。あなたがそんな態度では、人のこと言えないでしょう」
「うー、確かにそうなんだけどさあ。い、今はおばあちゃん、じゃなくて、榊原さんのことに集中しなくちゃ」
早口でそこまで言って、吾妻は岸本へと振り返った。
「ねっ?」
「う、うん、そうだね……」
「話、続けて。急がないと、柏葉君がもうすぐ来るんだって」
「そう、そのことなんだ。恐らく僕の想像が当たってると思う。吾妻さんは全然想像もしてなかったみたいだけど、これからおばあちゃんが告白されて、それにOKを出したら、過去が変わるんだよ?」
「うん? それが当たり前でしょ。そのために来たんだから」
「影響の広がりってのを考えなきゃ。もし仮に、その、何て言ったっけ、相手の男子生徒」
「柏葉君?」
「その柏葉君とおばあちゃんが告白を経て、ずっとうまく行って、将来結婚するなんていう流れになったら大変だ」
これで分かるだろ、と言わんばかりに二人を見る岸本。しかし相変わらず、吾妻とそのおばあちゃんの反応は鈍い。
「おっかしいいな、僕の言い方、そんなにまずいのか? ショックを与えたくないから、直接的な表現は避けてたんだけど」
「いいよ、言って」
「でもおばあちゃんが退院したばかりだって聞いたよ」
「それなら大丈夫ですよ」
胸を張り、最上級の笑顔を見せる榊原純子。岸本は思わず、見とれた。
(さすが吾妻さんのおばあちゃん。若いときは雰囲気がよく似ている)
顔が赤らんでいるような気がしてならない。岸本は顔を手のひらでごしごしとこすった。
「今は気持ちだけでなく、身体の方も若いですからね。ショックなことでも受け止められます」
「そ、それもそうですね。じゃあ、はっきり言います。あなたと柏葉さんが結婚されたとしたら、そのあと生まれてくる子供が変わってくるんじゃありませんか」
「……」
おばあちゃんと吾妻がお互いに顔を見合わせた。岸本は言葉を補足する。
「おばあちゃんが吾妻さんのお父さんとお母さん、どちらのお母さんなのかは存じ上げませんが、いずれにしてもお子さんが変わってくるということは、その後の人生というか運命というか、とにかく何もかもが変わってくるわけで、この場合、吾妻さんは生まれてこない未来が待っている可能性が高くなる……」
そこまで話すと、聞き手の二人に変化が現れたのが見て取れた。
おばあちゃんも吾妻も俯いて、肩や背中を小刻みに震わせている。
(やろうとしていたことの結果が引き起こす恐ろしさに気付いて、震えている?)
即座にそう解釈した岸本だった。が、それは次の瞬間には誤りだったと思い知らされることに。
「あははは!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
観察者たち
崎田毅駿
ライト文芸
夏休みの半ば、中学一年生の女子・盛川真麻が行方不明となり、やがて遺体となって発見される。程なくして、彼女が直近に電話していた、幼馴染みで同じ学校の同級生男子・保志朝郎もまた行方が分からなくなっていることが判明。一体何が起こったのか?
――事件からおよそ二年が経過し、探偵の流次郎のもとを一人の男性が訪ねる。盛川真麻の父親だった。彼の依頼は、子供に浴びせられた誹謗中傷をどうにかして晴らして欲しい、というものだった。
集めましょ、個性の欠片たち
崎田毅駿
ライト文芸
とある中学を中心に、あれやこれやの出来事を綴っていきます。1.「まずいはきまずいはずなのに」:中学では調理部に入りたかったのに、なかったため断念した篠宮理恵。二年生になり、有名なシェフの息子がクラスに転校して来た。彼の力を借りれば一から調理部を起ち上げられるかも? 2.「罪な罰」:人気男性タレントが大病を患ったことを告白。その芸能ニュースの話題でクラスの女子は朝から持ちきり。男子の一人が悪ぶってちょっと口を挟んだところ、普段は大人しくて目立たない女子が、いきなり彼を平手打ち! 一体何が?
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
彼女がラッキー過ぎて困ってしまう
崎田毅駿
児童書・童話
“僕”が昔、小学生の頃に付き合い始めた女の子の話。小学生最後の夏休みに、豪華客船による旅に行く幸運に恵まれた柏原水純は、さらなる幸運に恵まれて、芸能の仕事をするようになるんだけれども、ある出来事のせいで僕と彼女の仲が……。
化石の鳴き声
崎田毅駿
児童書・童話
小学四年生の純子は、転校して来てまだ間がない。友達たくさんできる前に夏休みに突入し、少し退屈気味。登校日に久しぶりに会えた友達と遊んだあと、帰る途中、クラスの男子数人が何か夢中になっているのを見掛け、気になった。好奇心に負けて覗いてみると、彼らは化石を探しているという。前から化石に興味のあった純子は、男子達と一緒に探すようになる。長い夏休みの楽しみができた、と思ったら、いつの間にか事件に巻き込まれることに!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる