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9.不本意ながら競ってほしい

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 放課後、図書室に向かった。
 とんでもない状況にあっても、とりあえずは彼――江上君にも会っておかないと。江上君とは会話を交わしたことも少ないので、本当は保子や理梨香に着いて来てもらいたい心境だったけど、フェアでないような気がしたから、やっぱり一人にした。
 図書室の戸をそろりと開け、中に入る。
 少し背伸び気味に、江上君を探す。
 あれ? 記憶にある顔がない。
 焦っていると、背中に声をかけられた。
「島川さん」
「はいっ?」
 大声を出しそうになって、両手で口を覆う。
 振り返ると、江上君がいた。でも、眼鏡をしていない……。
「あ、江上君」
「僕のこと、覚えてくれていたんですか」
 びっくり目をしている江上君。久しぶりに話す彼は、丁寧語を使ってきた。
「もちろん、覚えてるわよ。一年のときは同じクラスだったじゃない」
「よかった。覚えてくれていて」
「あの、眼鏡はどうしたの? コンタクトにしたの?」
「はい。素顔の方が格好よく見えると言われ、変えてみたんですが」
 眼鏡をしているときも充分、ルックスよかったけど、今の江上君はさらに三割増しだ。取っつきにくい印象は薄れ、人なつっこい笑みを浮かべている。
「おかしい?」
「ううん。今の方がいい」
「よかった。そ、それで……返事は……」
 一転して、おずおずとした態度になる彼。一年生のときには見られなかった、江上君の別の面。
 私、思わず、オーケーを出してしまいそうになった。首を振って、舞い上がりかけの気持ちを元に戻す。
「それがね、おかしなことになってて……」
 事情を説明する。考えてみると、告白してきてくれた人に今の事情を話すのは、江上君が初めてなんだ。
「島川さん」
 説明し終わると、何故か江上君は悲しそうに眉を下げた。
「断るのだったら、はっきり言ってください」
「ち、違うわ。本当のことよ」
 慌てて両手を振る。
「信じにくい話かもしれない。私自身、そうだから。でも、本当。江上君さえよければ、これから他の三人にあってほしいんだけど」
「え?」
「勝手を言うようだけれど、私、四人みんなと付き合ってみたい。その上で、決めたい訳。だから、江上君達にも事情を知ってもらって、それでもいいっていう約束がほしいの」
「……分かりました」
 大きくうなずく江上君。前髪が揺れた。
「僕はかまいません」

 先に話しておいた江上君はともかく、他の三人は変な顔してる。無理ない。
「部活の途中で席を外してくれなんて言うから、何事かと思ったら」
 先輩、怒ってる?
「普通なら、二年生の連中に担がれたと判断するところだ」
「何も知らねえって」
 幸村は先輩にも、いつもの調子で口を利いてる。何てことするのよぅ。
「こっちだって、『狐につままれた』状態だぜ」
「あの朝、島川さんの様子がおかしいと思ったら、君がそんなことを言ってた訳だ」
 佐々木君までも、いつもより言葉遣いが荒れている。みんなをご対面させるのは、やっぱりまずかったかしら……。
「あのなあ、佐々木。俺だっていい迷惑。折角、いいチャンスだと思って打ち明けたのに、ちっともうまくない」
「そっくり、同じ台詞を返す」
「二年のくせに、ませてるんだよ、おまえら」
 収拾がつかなくなる前に、止めなきゃ。
「やめてよ。喧嘩する人、嫌いだから」
 恥ずかしいのを我慢して言ってみたこの台詞、効果あったみたい。全員、静かになった。
 調子に乗って、続ける。
「偶然で、こういうことになったんですけど、私の気持ちは、とにかくみんなのこと、先輩のこと、よく知りたい。だから、順番に付き合ってみたいんです。そういうやり方が嫌な人は、外れてください」
 ちょっと変わった空気が流れる。
 ……ほっ。誰も出て行かなかった。
 安堵する反面、みんな本気なんだと感じ取れて、緊張。安易に決められない。
「早速、決めようじゃないか。明日は誰だ?」
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