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「ほう。一体どのような成果がありましたか?」
「あー、またまたすまないが、成果と言わずに甲斐と言ったのにはわけがある。カンクン・ジゼットに関する情報はさほど集まらなかったが、別口の犯罪についての噂話なんかがちらほらと集まったって意味さ」
「何ともはや……残念なことです」
「全然てことでもないんだ。カンクン・ジゼットなる通称を知っている者は、複数名いた。十人に一人いるかいないかのレベルではあるが、裏社会ではそこそこ知られているようなんだ。しかし、カンクン・ジゼットの動きをその目で見た経験のある者となると、がくんと減る。使い手となると、ゼロだった」
「南海の暗殺術とやらを使える人がそこかしこにいるとは、期待しちゃいません。いや、あのような輩が複数名いるとしたら、期待どころではなく、悪夢と言うべきでしょう」
「確かに。でもな、希少性に焦点を当てるのなら、レイモンド、君の術だってたいしたものだろうぜ」
レイモンドの術――忍びの技のことを言われて、当人は苦笑をなした。なるほど、希少性なら一番かもしれぬ。忍術の根底にあるのは、生き残りの術であり、武術もしくは暗殺術に特化した流派に比すれば、後れを取るところもあるのは認めねばならない現実だ。もちろん、忍術も“武”としてよい線を行っている自負はあるが、以前見せつけられたカンクン・ジゼットの動きを思うと、まともにやり合うのは避ける方が賢明だという結論しかない。少なくとも今は。
「実力だってたいしたものだ。学生連中が君に習った秘技だのコツだのを覚えて、応用しているのを見ると、忍術は非常に有効だ」
「私についてはもういいでしょう。カンクン・ジゼットを見た経験のある人達の話を知りたいですね」
「おう、そうだと思って、一番詳しく知っていると豪語する奴に会えるよう、段取りを付けておいた」
「手回しがよいのは、さすがです。助かります」
お辞儀をしたレイモンド。モントレッティは微かに照れ、「お世辞の言い合いみたいで、調子が狂うな」と呟いた。
「まあ何だ。調整待ちだが、近い内に会って話が聞けるだろう。そいつは受刑者なので、こちらから出向かねばならないが」
「そのぐらい、手間でも何でもない。それで、モントレッティ、あなた自身も当然、多少は証言を聞き出しているのでしょう?」
「ああ。信憑性に難がありそうなのは除いて、複数が証言した事柄は二つだけだ。まず、武器、波剣についてだが、その材質はほぼ金属。布のような部分も特殊な技術で切り出した薄い金属らしい」
「あれが金属。信じられないなめらかさ、しなやかさを有していた」
「なので制作できるのは、その加工技術を身に付けた職人のみという。あるいは南の海に浮かぶある島の一部族だけに伝わる技法だという言い方もあったな。ま、これはほぼ同じ意味合いだと推測できる。
それから二つ目。これは朗報と言えるかもしれないぞ。波剣に毒物が塗られることは、まずないというんだ」
「ははあ。だとすると、皮一枚切らせるような避け方をしても、ひとまず、いきなり命を落とすことはないと。朗報というより、何ていうか、不幸中の幸いみたいな感じがします。それにしても何故、毒を塗布せぬのが当たり前のようになったのか……」
「答えた輩はさっきも言ったように使い手ではないから、理由は知らなかった。想像と噂をまじえて総合的に勘案すると、波剣の威力が強大で毒に頼る必要がないということ、また、制御に難が生じる場合があるため、毒を塗るのを避けるということも言われているようだ」
「前者はともかく、後者の理由付けには興味を惹かれますね。カンクン・ジゼットの練達者ともなれば、波剣を操るのは自由自在にできるものと思っていましたが、ときと場合によっては操作に難渋すると。それすなわち誤って自らの身体を傷つける恐れがあるということなのでしょう。毒を塗布していれば、自分自身の命を落としかねません」
「そんなところだろうな。にしても、制御に難が生じる場合ってのは、一体どんな場合なのやら」
「あー、またまたすまないが、成果と言わずに甲斐と言ったのにはわけがある。カンクン・ジゼットに関する情報はさほど集まらなかったが、別口の犯罪についての噂話なんかがちらほらと集まったって意味さ」
「何ともはや……残念なことです」
「全然てことでもないんだ。カンクン・ジゼットなる通称を知っている者は、複数名いた。十人に一人いるかいないかのレベルではあるが、裏社会ではそこそこ知られているようなんだ。しかし、カンクン・ジゼットの動きをその目で見た経験のある者となると、がくんと減る。使い手となると、ゼロだった」
「南海の暗殺術とやらを使える人がそこかしこにいるとは、期待しちゃいません。いや、あのような輩が複数名いるとしたら、期待どころではなく、悪夢と言うべきでしょう」
「確かに。でもな、希少性に焦点を当てるのなら、レイモンド、君の術だってたいしたものだろうぜ」
レイモンドの術――忍びの技のことを言われて、当人は苦笑をなした。なるほど、希少性なら一番かもしれぬ。忍術の根底にあるのは、生き残りの術であり、武術もしくは暗殺術に特化した流派に比すれば、後れを取るところもあるのは認めねばならない現実だ。もちろん、忍術も“武”としてよい線を行っている自負はあるが、以前見せつけられたカンクン・ジゼットの動きを思うと、まともにやり合うのは避ける方が賢明だという結論しかない。少なくとも今は。
「実力だってたいしたものだ。学生連中が君に習った秘技だのコツだのを覚えて、応用しているのを見ると、忍術は非常に有効だ」
「私についてはもういいでしょう。カンクン・ジゼットを見た経験のある人達の話を知りたいですね」
「おう、そうだと思って、一番詳しく知っていると豪語する奴に会えるよう、段取りを付けておいた」
「手回しがよいのは、さすがです。助かります」
お辞儀をしたレイモンド。モントレッティは微かに照れ、「お世辞の言い合いみたいで、調子が狂うな」と呟いた。
「まあ何だ。調整待ちだが、近い内に会って話が聞けるだろう。そいつは受刑者なので、こちらから出向かねばならないが」
「そのぐらい、手間でも何でもない。それで、モントレッティ、あなた自身も当然、多少は証言を聞き出しているのでしょう?」
「ああ。信憑性に難がありそうなのは除いて、複数が証言した事柄は二つだけだ。まず、武器、波剣についてだが、その材質はほぼ金属。布のような部分も特殊な技術で切り出した薄い金属らしい」
「あれが金属。信じられないなめらかさ、しなやかさを有していた」
「なので制作できるのは、その加工技術を身に付けた職人のみという。あるいは南の海に浮かぶある島の一部族だけに伝わる技法だという言い方もあったな。ま、これはほぼ同じ意味合いだと推測できる。
それから二つ目。これは朗報と言えるかもしれないぞ。波剣に毒物が塗られることは、まずないというんだ」
「ははあ。だとすると、皮一枚切らせるような避け方をしても、ひとまず、いきなり命を落とすことはないと。朗報というより、何ていうか、不幸中の幸いみたいな感じがします。それにしても何故、毒を塗布せぬのが当たり前のようになったのか……」
「答えた輩はさっきも言ったように使い手ではないから、理由は知らなかった。想像と噂をまじえて総合的に勘案すると、波剣の威力が強大で毒に頼る必要がないということ、また、制御に難が生じる場合があるため、毒を塗るのを避けるということも言われているようだ」
「前者はともかく、後者の理由付けには興味を惹かれますね。カンクン・ジゼットの練達者ともなれば、波剣を操るのは自由自在にできるものと思っていましたが、ときと場合によっては操作に難渋すると。それすなわち誤って自らの身体を傷つける恐れがあるということなのでしょう。毒を塗布していれば、自分自身の命を落としかねません」
「そんなところだろうな。にしても、制御に難が生じる場合ってのは、一体どんな場合なのやら」
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